透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

038 隠れ里の戦いの終わり

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 しばらくそのまま呆けていたマキトだったが、アリシアの存在に気づく。

「……アリシア? えっと、ここは……」

 周囲を見渡すうちに、段々とマキトの頭もスーッと冴えていく。そしてどんな状況だったの顔を思い出した。

「そうだ……アイツらの魔法にやられ、たのか?」

 疑問形になったのは、体が全然痛くないからである。あちこち触っても、痛みや不快感は全く感じなかった。
 そして、しっかり抱きかかえているフェアリーシップも――

「キュウ?」

 全くなんともなさそうな様子で、目を覚ますのだった。

「ポヨーッ!!」
「うわっ」

 スライムが大喜びしながらマキトに飛びついた。マキトが驚きながらもなんとか受け止めると、その胸元でスライムがひんやりした体をスリスリと擦り付ける。

「ポヨポヨポヨー、ポヨー♪」
「ははっ、どうしたんだ? 俺を心配してくれていたのか?」
「ポヨ♪」
「そうかそうか。ありがとうなー」
「キューゥ♪」

 スライムの頭を撫でながら、マキトとフェアリーシップが笑みを浮かべる。アリシアは唖然としながら、その姿を見ていた。

「ど、どうなってるの、これ?」

 一番確認したい疑問が自然と口から漏れ出た。それに対して、長老スライムに思い当たる節があった。

「ふむ……もしかしたら、フェアリーシップの能力が発動したのやもしれん」
「フェアリーシップの能力?」
「そうじゃ。元々、魔法とは違う特殊能力を持っている霊獣でな。攻撃、回復、防御のどれかに特化していることが多いんじゃよ」
「え、それじゃあ――」

 長老スライムの言わんとしていることが、ようやくアリシアにも分かってきた。

「あのフェアリーシップには、回復……もしくは防御に特化した能力が?」
「確証はないがな。しかしそうでもなければ、説明がつかんのじゃ」
「まぁ、そうですよね……」

 アリシアもそのとおりだとは思った。そして驚いてもいた。見た目とは裏腹に凄い能力を持っているのだと。
 曲がりなりにも霊獣ということだろうか。まるで魔法を通り越した未知の力ではないかと、アリシアはそう思えてならなかった。

「何はともあれ、危機は去った」

 長老スライムが安心したように大きな息を吐いた。

「ラティもよくやってくれた。目が覚めたら褒めてやらねばならんな」
「えぇ。でもあの人たち、また何かの手段を使って、ここを攻めてくるんじゃ?」

 今回はあくまで撃退しただけに過ぎない。諦めがいいとも思えないし、必ずリベンジを果たしに来るだろうと、アリシアは考えていた。
 しかし長老スライムは、どこか余裕そうに笑みを浮かべていた。

「ホッホッホッ、その心配は無用じゃよ。ちゃーんと手は打ってあるわい」
「えっ?」

 アリシアはきょとんとしながら視線を向けるが、長老スライムは思わせぶりな笑みを浮かべているだけであった。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ、はぁ、くそっ! 何でこんなことになっちまうんだ!?」

 全力で走りながらブルースが悪態づく。
 ラティの凄まじい攻撃を受け、恐怖も相まって、体力は限界であった。既に遮る魔物たちの姿もなく、静かな森に戻ってはいたのだが、もはやそれを認識するだけの余裕もない。
 ようやく表の広場に辿り着いた。しかしそこは誰もおらず、がらんとしていた。
 ブルースたちは思わずそこで立ち止まる。
 予想外だった。てっきり自分たちを逃がさないよう、魔物の大群が立ち向かってくると思っていたのだ。作戦も何もない。鍛冶場の馬鹿力で切り抜けてやると。

「ぜぇ、ぜぇ……おいブルース、誰もいないなら……こ、好都合だぞ」

 膝に手をつきながらダリルが告げる。息も絶え絶えであり、もはや前に進むことしか考えられなくなっていた。
 それは他のメンバーも同じであり、心の中で同意する。

「そ、そうだな……行くぞ!」

 ブルースもすぐに頷いた。正直な話、彼も冷静さを完全に失っていた。
 故に気づかなかった――魔物たちの策略に嵌っていたことに。

「つり橋だ! あそこを渡れば逃げ切れるぞ!」

 ようやくゴールが見えてきた――そう思いながらブルースが叫ぶ。
 既に気合いだけで足を動かしている状態であり、もはや駆け足にすらなっていない状況であった。
 広場に辿り着いた際に立ち止まったため、余計に疲労がこみ上げたのである。
 結果的に四人の足取りは、更に重いものと化していた。

「ハハッ、俺たち全員、マヌケな姿にも程があるな」
「全くだぜ。誰かに見られたら、笑いもんもいいところだぞ」

 素早い動きを売りにしているエルトンは、四人の中でも保っているほうだった。しかしダリルは、完全によたよたとふらついており、まともに歩けるかどうかすら心配になるほどであった。
 そしてそれは、ドナも同じであった。

「で、でも……誰もいないのが……せめてもの救いよ。場所的に、助かったわ」

 ある意味、たくましいと言えなくもないかもしれない。
 この状況においても、自分たちの姿を第三者に見られた時のことを想定し、変なところで安堵しているのだから。
 しかしそれも、自分たちが完全に逃げ切れたと思い込んでいるからこそである。
 その考えがまだ早すぎることに気づかないのは、果たして幸せなのか、それとも不幸というべきなのか。

「――ピィッ!」

 不意に、鳴き声が聞こえた。
 ブルースたちはビクッとしながら、四人揃ってつり橋の上で立ち止まり、周囲を見渡してみる。
 しかし、どこにも怪しい姿は見られず、ブルースは目を閉じながら苦笑する。

「なんだよ。気のせい――」

 ぶちっ――という音に、ブルースの言葉は遮られてしまった。
 明らかに、何かが物理的に『切れた』音だった。同時に体が宙に浮かび上がったような感覚に陥った。
 恐る恐る目を開けてみると――それは断じて気のせいではなかった。

「う、うわあああぁぁーーーっ!!」

 つり橋のロープが切られ、真っ逆さまに落ちてゆく。
 もはや成す術もなく、ただ重力に従って、深い谷底へと飲み込まれてゆく。
 ――どぼぉんっ!
 遠くのほうで、そんな音が聞こえた。
 ブルースたち四人の声は、それを皮切りに全く聞こえなくなった。

「ピィ……ピキィーッ♪」

 ガササッ、と音を立てながら、木の上を移動する姿があった。
 赤色のスライムと水色のスライムたちが、まるで遊びを済ませたかのように楽しそうな笑顔を浮かべ、ぴょんぴょんと飛び跳ねていった。

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