127 / 252
第四章 本当の親子
127 柵の向こうの狼さん
しおりを挟む「わあぁーーいっ♪」
「キュウッ!」
『まてまてーっ』
広い中庭を魔物たちが楽しそうに走り回っている。その後ろからマキトたちは、のんびりと散歩しながら見渡していた。
「庭っていうより、まるで公園だな」
「ん。ブランコとかあっても不思議じゃない」
苦笑するマキトにノーラも頷く。
「ノーラ的には巨大なグルグル回る滑り台があってもいいと思う。ついでに皆が遊べるように改良すればなお良し」
「うん。それってもう完全に公園だよね」
後ろからてくてくと付いていくアリシアも、思わず笑みを零してしまう。こうして三人プラス魔物たちと、のんびり散歩をするというのは、久しぶりというより殆ど初めてといってもいいような気がした。
(考えてみたら、ノーラと出会ってすぐだったもんね。私の留学が決定したのは)
ヴァルフェミオンへ行くことを決めてからは、それはもうバタバタしていた。準備に手間取っていたというのもあるが、やはり初めて森から出るという緊張を抑えきれないというのが大きかった。
この数ヶ月で少しは順応したとは思っているが、やはり故郷の森が恋しくなる時もたまにある。
弟や妹、そして可愛いペットのような存在と一緒に過ごすことも含めて。
だからこそアリシアは、今回の一時帰省を楽しみにしていた。
しかし――
(なんかもう、完全に水を差されちゃった感じだよねぇ、全く……)
もはやその原因は、言うまでもないだろう。今回の問題が飛び込んできてから、ひたすら気が重くなり続けている。
この屋敷に訪れたのも、メイベルが願い出てきたからこそだ。留学先で日頃からお世話になっている親友の実家に泊まりに行く――アリシアからすれば、本当にそれ以上でもそれ以下でもなかった。
故に、気合い入りまくりなセアラの様子が、余計に面倒だと感じてしまう。
セアラの気持ちも分からなくはない。十何年も後悔し続け、ようやくまたとないチャンスが訪れたのだ。必死さの一つや二つが出るのも普通に頷ける。
しかしそれでも、アリシアは思わずにはいられなかった。
(今頃になって名乗り出てこられてもなぁ。正直どうすればいいんだか)
言葉で表せばとてもシンプルな悩み。しかし考えても答えが出ず、思考の道が尽く袋小路に辿り着いてしまう。
自然と視線が地面の石畳に向けられる。そして再びため息が漏れ出ようとした、まさにその時であった。
「そういえば、今日一晩ここに泊まるってことだけどさ」
突如放たれた声に、アリシアが我に返る。視線を動かすと、マキトがさっぱりとした表情で振り向いてきていた。
「晩ご飯もここで食べるってことだよな?」
「え? あぁ、うん。そうなるね」
答えるアリシアは明らかな戸惑いを帯びていたが、幸いにもマキトはそれを気にも留めることはなかった。
「どんなご飯が出るんだろ? 豪華なご馳走だってメイベルは言ってたけど」
「ん。夜が楽しみ」
「だな」
ノーラとマキトが、二人揃ってワクワクした様子を見せる。その様子がどこまでも微笑ましく思えてならず、アリシアも自然と笑みを浮かべてしまう。
今は余計なことを考えるのは止めよう。この楽しい時間を大切にするのだ。
アリシアがそう思っていた時――
「マスターッ!」
ラティが慌てて飛んできた。いつの間にか魔物たちは先のほうまで駆け出してしまっており、ロップルやフォレオの姿は見えない。
妙な予感がしつつ、マキトが尋ねる。
「どうした? なんかあったのか?」
「向こうに狼さんがいるのです」
「狼?」
意味が分からず首を傾げるも、とりあえずその場所へ向かってみる。ラティに連れられて辿り着いたそこは、庭の端っこであった。
ロップルとフォレオが柵から少し離れた位置に立っている。
その視線の先――すなわち柵の外側には、一匹の大きな狼がいた。
「……確かに狼だな」
「ん。なかなかに大きくてふさふさ」
呆然とするマキトに、ノーラもコクリと頷く。
「あれは間違いなく魔物。首輪がついてるから誰かのもの」
「へぇー、そっか」
マキトが狼の姿をまじまじと見つめると、確かに首輪が見えた。それ自体は別に不思議とは思わないが、問題はどうしてここにいるかである。
「この屋敷のペットなのかな?」
「どうだろうねぇ。メイベルからそんな話は聞いたこともないけど……」
首を傾げるアリシアを尻目に、マキトは歩き出す。そしてジッと佇んでいる狼に近づいていった。
「マキト?」
呼び止めようとするアリシアの声にも反応することなく、マキトは狼の前でゆっくりとしゃがむ。
そしてそのまま互いに視線を交わし合い――
「ウォフッ」
狼が一鳴きし、マキトの前に頭を差し出すように近づけてくる。毛並みふさふさな頭をマキトはゆっくりと撫でまわす。
「――ハハッ。結構人懐っこいな、コイツ」
「ウォフ、ウォフッ」
その鳴き声は、なんとなく喜んでいるようであった。魔物たちやノーラ、そしてアリシアが、その光景に呆然とする。
「はは……相変わらずなんだね、マキトってば」
誰かのペットらしき魔物でさえも手懐けてしまうマキト。数ヶ月ぶりでもそれは健在なのだと、アリシアは改めて思い知る。
狼は撫でられながらも鳴き声を出す。まるで何かを話しているかのようであり、ラティがふんふんと頷いていた。
「狼さん……様子を見に来た、とか言ってるのです」
「――ウォフッ!?」
聞き取った内容をそのまま呟くラティに、狼が反応する。そしてマキトからパッと飛び退くように離れ、そのまま踵を返して走り去ってしまう。
「あ! おい、ちょっと!」
マキトが手を伸ばしながら声をかけるも、狼は林の中へと姿を消す。そのまま戻ってくる様子はなかった。
「……行っちゃったのです」
「何だったんだろ?」
立ち上がりながら、ラティと一緒に狼が消えた林を見つめる。あからさまに妙な感じはするが、今はそれ以外に分かることはない。
そこに――
「あ、いたいた。おーい、みんなー!」
メイベルがマキトたちを見つけ、手を振りながら駆けてきた。
「美味しいクッキーと紅茶の準備ができたってさ。皆で食べようよ!」
「クッキーっ!?」
ラティが即座に反応し、表情を輝かせる。
「わーい、おやつなのですー!」
「キュウキュウーッ♪」
『おやつー♪』
ロップルとフォレオもつられて喜ぶ。もう既に狼のことは、記憶から吹き飛んでしまっているようであった。
改めてチラッと林のほうに視線を向けてみるが、やはり狼はいなかった。
(ま、別にそんな気にすることでもないか)
そう結論付けたマキトは、今度こそ林から完全に視線を逸らす。そしてアリシアや魔物たちとともに、メイベルに連れられて屋敷に戻っていくのだった。
――がさっ!
林の陰から狼がのそっと姿を見せる。隠れながらマキトたちが去りゆく姿を、鳴き声一つ出さずに見つめていた。
狼はそのまま踵を返し、今度こそ林の奥へと姿を消していった――
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる