透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

126 執務室でのやり取り

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「アリシア、よく来てくれたわね!」

 執務室に入るなり、セアラがアリシアに抱き着いてきた。その笑顔から、とても嬉しく思っていることがよく分かる。
 しかしアリシアからすれば、その突然の行動に、ただ戸惑うばかりであった。

「ど、どうも……お邪魔します」
「そんな他人行儀にならなくていいのよ? 自分の家だと思って、のんびりして」

 セアラはそう言うが、アリシアの心は複雑だった。そんなこと言われてもなぁ、というのが正直なところである。
 あくまで友達の――率直に言ってしまえば『他人』の家でしかないのに、我が家の如くのんびりするなんて、無茶ぶりもいいところではないかと。
 正直、アリシアはどうすればいいか分からなかった。
 できれば無理やりにでも抱き着いてくる彼女を引き剥がしたいところだったが、そこまでするのもなぁと思えてくる。

「…………」

 アリシアは浮かない表情とともに目を逸らした。『受け入れませんよ』というサインを出しているつもりなのだ。
 それは少なからず伝わったのだろう――セアラも少し悲しそうな笑みとともに、抱き着く腕をスッと緩め、ゆっくりと離れた。
 そんな相容れない実の母親と娘の姿に、メイベルは軽く苦笑する。

(まーた見事なまでに、気持ちがすれ違って……いや、それ以前の問題かな)

 どちらの心境も分からなくはない。だからこそ、メイベルはどちらの味方に付くつもりもなかった。
 あくまで中立の立場を貫き通す――ちゃんとその目で経緯を見届けるためにも、そうするのが一番だと彼女は思っていた。

「ほらほら、お母さん。気持ちは分からなくもないけど、少しは落ち着いて」

 小さなため息をつきながら、メイベルは二人の間に入る。

「ユグラシア様たちもいらしてるんだから、ね?」
「あっ、そ、そうね。私としたことが……」

 苦笑を浮かべているユグラシアの存在にようやく気付いたセアラは、顔を赤くして軽く慌てふためく。
 流石に今のは、当主として実によろしくない姿だった――己の行動を恥じ、そしてコホンと咳ばらいをしながら、セアラは姿勢を正す。
 そしてすぐさま、すました笑みを浮かべ、ユグラシアに向き直る。

「ようこそおいでくださいました。今日は我が家でごゆっくりお過ごしください」
「こちらこそ。盛大な歓迎をしてくださって、光栄に思いますわ」

 ユグラシアも穏やかな笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。

「流石は魔導師の名家というだけのことはありますね。執事さんとメイドさんの仕事熱心な姿は、感服しましたわ」
「いえ、今回が少し大げさ過ぎるんです。いつもは――」

 二人の和やかな対話が続く。そんな姿をマキトやノーラ、そして魔物たちは、後ろで黙って見ていることしかできなかった。
 その表情は、軒並み『浮かない』という言葉がピッタリなほどであった。
 要するに退屈なのである。いつまでこうしていればいいんだと、尋ねていいのなら尋ねたいほどに。

(うーん、マキト君たち、なんだかつまらなさそうだなぁ……)

 その様子にメイベルが気づいた。如何にも退屈そうな彼らの姿を、このまま放っておくことはできない。

(あっ、そうだ!)

 メイベルは明るい笑みを浮かべ、マキトたちの元へ近づいていった。

「ねぇマキト君。良かったらウチの庭で、魔物ちゃんたちを遊ばせてみない?」

 その提案にマキトたちが揃って目を見開く。食いついてくれたと、心の中でしめしめと思いながら、メイベルは続ける。

「ここにいても退屈なだけでしょ? 今日は天気もいいし、芝生の上とかも自由に走り回ってくれていいからさ」
「それはいいわね!」

 セアラもナイスアイディアと言わんばかりに、明るい声で賛同する。

「使用人たちにも私から話しておくから、遠慮しなくて大丈夫よ」
「えっと……」

 そう言われたマキトは、戸惑いながら周囲に視線を動かす。ユグラシアとアリシアも好きにしていいと言わんばかりに、ニッコリと笑顔を浮かべていた。
 とどのつまり、マキト自身の判断に委ねられた形だ。
 すると――

「マキト、早くいこ」
「わたしも行きたいのです」
「キュウ♪」
『ぼくもぼくも!』

 ノーラがマキトの腕を引っ張り、ラティたち魔物もこぞって声を上げる。
 更に――

「ねぇ。私も一緒に行っていいかな?」

 アリシアも軽く手を上げながら参戦してきたのだった。

「久々に魔物ちゃんたちと遊びたいし、この子たちの付き添いも兼ねる感じで」
「……うん。じゃあお願いね、アリシア」

 セアラが何か言う前に、メイベルが先に頷きながら言った。

「爺やたちには私から話しておくから、心配しないで」
「ありがとうメイベル」

 アリシアがニッコリと笑いかける。そんな彼女をセアラがどこか切なそうに見つめていたが、本人はそれに気づくことはなかった。
 そしてノーラが、改めてマキトの腕を両手でギュッと掴む。

「なら決まり。早速いこ」

 そしてそのまま引っ張る形で、ノーラは動き出す。小さな体のどこにそんな力があるんだと言わんばかりに、マキトはノーラに引っ張られるがまま動き出した。

「わ、分かった。分かったから引っ張るなっての!」
「時間は待ってくれない。だからこのまま」
「なんだよ、もー!」

 一切の聞く耳を持たないノーラは、マキトを引っ張って執務室の扉を開ける。魔物たちもそれに滑り込む形で部屋から退出し、最後にアリシアが開かれた扉に手をかけながら、笑顔で振り向いた。

「じゃあ行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」

 手を振るメイベルに笑顔を向け、アリシアも退出していった。パタンと扉が閉められた数秒後、室内にため息をつく声が響き渡る。

「アリシア……やっぱり私を避けているみたい」
「いや、そんな急に仲良くなれるほうが無理ってもんだから」

 大きく肩を落とすセアラに、メイベルが呆れたような笑みを向ける。

「むしろこうして遊びに来てくれただけ、まだマシだと思わないと」
「そ、そうね……」

 娘に宥められるも、まだ落ち込みから回復しきれないセアラ。そんな母娘二人の様子を、ユグラシアは穏やかな笑みを浮かべ、無言で見守っていたのだった。

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