透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
190 / 252
第六章 神獣カーバンクル

190 サリアと封印されし魔物の秘密

しおりを挟む


「あの、マスター?」

 なんとも言えない空気が流れる中、ラティがマキトに話しかける。

「サリアって確か……マスターのお母さんの名前では?」
「あぁ。そういえばそんな名前だったっけな」

 どこか他人事のようにマキトは言う。実際のところ、未だ母親がいるという事実にピンと来ていなかった。
 父親は皆で墓参りをしたということもあり、確かにいたのだと納得している。しかし母親の場合は、単にユグラシアの口から語られたのみであり、母親がいたという痕跡が何一つ存在していない。
 果たして今も生きているのか――それとも既にこの世にいないのか。
 そのいずれも、マキトは自然な形で考えたことがなかった。
 現に今も久々に名前が出たにもかかわらず、マキトは正直言って、母親に対して考える気は全くなかった。
 目の前の喋る生き物の存在が、気になって仕方がないからだ。

「そんなことより……ん? どうかしたか?」

 コイツって魔物なのか――そう尋ねようとしたマキトは、生き物が目をパチクリとさせながら見上げてきていることに気づいた。
 すると生き物が、興味深そうにマキトに近づいてくる。

「なぁなぁ、お前の母親は、サリアってゆーのか?」
「あ、あぁ……」
「オヤジさんの名前は?」
「えっと、確かリオ……とか言ってたと思う」
「やっぱりだぜ! オマエ、あの二人の息子だったのかよ!」

 急に嬉しそうな笑顔を浮かべてきた生き物に、マキトは改めて戸惑ってしまう。しかし生き物は、それに構うことなくマキトに話しかける。

「ところでオマエ――そういやまだ、オマエの名前聞いてなかったな」
「えっ? あぁ、そうだったか」

 まだ自己紹介していなかったことに気づき、マキトは苦笑する。

「俺はマキト。魔物使いだ。こっちは、俺がテイムした魔物たちさ」
「妖精のラティなのです。どうかよろしくなのです」
「キュウ、キュウキュウキューッ♪」
『ぼくはふぉれおだよー。どうかよろしくねー』
「ラティにフォレオに、それからロップルっていうのかー。ヨロシクだぜ♪」

 三匹の簡単な自己紹介に、生き物も嬉しそうに頷く。そしてマキトは、隣に立つ少女の頭に軽くポンと手を乗せた。

「あと、コイツはノーラだ」
「ん。よろしく。マキトのお嫁さん候補だから、そのつもりで」
「そういうことだから……いやいや、ちょっと待って!」

 つい反射的に頷いてしまったところで、変な言葉が放たれたことに気づいた。これには流石のマキトも、慌てる様子を見せてしまう。

「なんだよ、そのお嫁さん候補ってのは?」
「ん。ちょっとした冗談。でも家族みたいなモノ。だからそれほど大差ない」
「いや、フツーにあると思うんだが」

 マキトがすかさずツッコミを入れる。しかしノーラは、なんてことなさげにすました笑顔を浮かべ、生き物のほうに視線を戻す。

「そんなことより、あなたがどんな魔物なのかを教えてほしい」
「えらくキレイに流してくれたな。まぁ、いいけど」

 これ以上のツッコミは不毛だとマキトは思った。生き物の正体を知りたいという気持ちも強かったため、今はとりあえず置いておくことにしたのだった。
 生き物も特に今の話題に興味はなかったため、気にすることなく質問に答える。

「カーバンクル」
「えっ?」
「オレのことを皆はそう呼んでたぜ。ちなみにラティたちと同じ魔物だ」
「へぇー、カーバンクルか。今更だけど喋れるんだな」
「おうよっ! オレにかかれば、これぐらいどうってことないぜ!」
「はは、そっかそっか」

 またどこかで聞いたような言葉だなぁと思いつつ、マキトはケタケタと笑う。その隣でノーラが神妙な表情をしていた。

「……カーバンクル?」

 小さな声で呟かれたその言葉に、マキトは気づいた。どうかしたのだろうかと視線を向けたその時――

「しっかし驚いたぜ」

 カーバンクルが興味深そうな声を出してきた。反射的に振り向いた瞬間、マキトの足元に小さな衝撃が走る。
 視線を下げると、カーバンクルがキラキラした笑顔で抱き着いていた。

「まさかマキトがサリアの息子だったとはな。どーりでなんか似てると思ったぜ」

 ニカッと笑うカーバンクルに対し、マキトは目を丸くする。

「そっくりってことか?」
「顔はどっちかってーとオヤジさんに似てる。でも雰囲気はサリアのほうだな」
「雰囲気?」
「おう。サリアはスゲーんだぜ! 精霊と仲良くなれる能力があるんだ」

 自分のことのように、えっへんと胸を張るカーバンクル。対するマキトは、軽く口を開けて呆けた様子を見せていた。

「そんな力があるのか……魔物使いとは違うのか?」
「さーな。少なくともオレは、サリアが自分で自分を魔物使いって言ってるのを、一度も聞いた記憶はねーぞ」
「そっか」

 あまり大きな反応ではないが、マキトが素直に驚いていることは間違いない。それを感じたカーバンクルは得意げな笑みを浮かべるが、すぐさまそれは疑問の表情に切り替わる。

「……てゆーか、マキトは何で知らねーんだよ? サリアの息子なんだろ? 母ちゃんから何も聞いてねーのか?」
「あ、いや……」

 実にごもっともな質問に、マキトは言葉を詰まらせる。どう答えたものかと数秒ほど考えるが、結局のところ率直な回答以外、何も浮かんでこなかった。

「実は俺、会ったことがないんだ。母親のことを知ったのも、つい最近でさ」
「そうだったのか。でも、それならそれで、一体何があったってんだ?」
「あぁ。俺もその時のことは全く覚えてないんだけど――」

 カーバンクルに尋ねられたマキトは、サラリと説明を開始する。特に隠しておく理由もなかったため、大丈夫だろうと思ったのだ。
 もっともマキトの場合は、これは魔物が相手だからこそとも言えるのだろうが。

「俺はずっと、この世界とは全然違う別の世界で暮らしてたんだ」

 それから突然、目が覚めたらこの世界に来ていたこと。アリシアというハーフエルフのお姉さんに助けられたこと、そしてラティたちと出会ったことなど――これまでの経緯を簡単に話す。
 カーバンクルは、その話の全てを興味津々で聞いていた。
 目をキラキラと輝かせており、一字一句聞き逃してたまるかと、そう言わんばかりの姿勢であった。

「――なるほどなぁ、そーゆーことだったのか」

 粗方聞き終えたカーバンクルは、納得という名の深い頷きを示す。

「おかしいとは思ってたぜ。母ちゃんであるサリアに会ったことがねぇなんてよ」
「まぁ、普通ならあり得ないことだわな」
「……悪かったな。変なことを聞いちまったみたいで」
「いいよ、別に」

 申し訳なさそうな表情を見せるカーバンクルの頭を、マキトは苦笑しながら優しく撫でる。カーバンクルはその心地良さに、思わず表情を綻ばせていた。

「あー、この感じ……リオのにーちゃんに撫でられてる時のことを思い出すぜ」
「そりゃなによりなことで」

 父親と比べられているような言い分だったが、マキトは不思議と嫌な気持ちになることはなかった。
 むしろ、魔物使いの父の血をそれだけ受け継いでいることが改めて分かり、胸の奥がじんわりと温かくなってくる感じさえする。
 それが一体何を意味するのか、マキトはまだ理解できていなかったが。

「はぁ、にしてもよぉ――」

 心地良さそうな表情から一転、カーバンクルは残念そうにため息をついた。

「折角こうして目が覚めたってのになぁ……サリアの居場所は分からねーのか?」
「分かってたらとっくに教えてるよ」
「だよなぁ。まぁ、分かんねーのはしょーがねーか」

 開き直った素振りは見せたが、カーバンクルはやはり残念そうであった。
 それだけサリアに会いたいのだろうということは、流石のマキトも分からないわけではなかった。

「それにしても、まさかカーバンクルに会えるとは思わなかった」

 ずっと黙って聞いていたノーラが、ここで口を開いてきた。まるでタイミングを計っていたかのように、どこか力強さも感じられる。

「これはとても凄いこと。普通じゃ絶対にあり得ない」
「そうなのか?」
「ん」

 問いかけるマキトに、ノーラは大きく頷いた。

「カーバンクルは霊獣よりも珍しい、カミサマを司る魔物――『神獣』だから」

 その事実を聞かされたマキトたちは、改めて目を見開きながら視線を向ける。カーバンクルはきょとんとしながら、首を傾げているばかりだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...