透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第六章 神獣カーバンクル

204 箱庭に等しい環境だったようです

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 魔力スポットの広場にマキトたちは来ていた。楽しいランチタイムを終え、ラティたちはそれぞれ行動を開始する。
 泉の水で遊んだり、魔力スポットの魔力をたっぷりと浴びたりする。
 まさに森で行っていたことと同じ光景が繰り広げられていた。
 カーバンクルも興味があるとかで、ラティたちと一緒に真似をしている。純粋に魔力を浴びるだけでも気持ちがいいらしく、ちょっとした日光浴ならぬ魔力浴を楽しむのだった。

「楽しんでるもんだなぁ」
「ん。それだけ世の中が平和な証拠」

 マキトとノーラが、少し離れた木陰に並んで座っている。いつもならノーラも魔物たちに混じって遊んでいるところだが、今回はそうではないようだった。

「一緒に遊ばなくていいのか?」
「ん。ちょっと休憩する」
「そっか」
「あと……」
「ん?」

 マキトが軽く首を傾げると、ノーラがまっすぐな視線とともに見上げてきた。

「少し、マキトとお話がしたかったから」
「……俺と?」
「ん」

 若干の戸惑いを込め、マキトが自分で自分を指さすと、ノーラが頷く。心なしか気持ちが強く表れている感じであった。

「さっき、カーバンクルと話していたのが聞こえた」
「ん? さっきって……」
「マキトが前に住んでた世界のこと」
「……あぁ」

 しばしのタイムラグの後、マキトは思い出す。山の広場から魔力スポットに移動してくる途中で、確かにカーバンクルと軽く話していたことを。

「なんだよ、その話が気になってたのか?」
「ん。だからこうして聞いてる」
「あぁ、まぁ、そうか」

 納得しながらマキトは苦笑する。確かにそうでもなければ、ノーラが聞いてくることもないかと、改めて思ったのだった。
 心の中で気を取り直しつつ、マキトは視線を前に向ける。

「――といってもなぁ。話せることなんて、そう多くはないんだけど」
「話せるところだけでいい。どんな場所に住んでたのかとか……」
「まぁ、そんなんで良ければ」

 そもそも隠しておきたいものは何もなかったりする。ただ単にマキト自身、前の世界についても知らないことだらけなため、いざ説明するとなると微妙に不安がこみ上げてくるだけであった。
 しかし、それでも別にいいのだろう。
 ノーラは純粋に、マキトの見てきた世界を、マキトの口から聞きたいだけだ。
 それが正解か不正解かは、さほど重要ではない。そもそも審議について確認のしようもないのだから、尚更である。

「まずは、どんなところに住んでいたかだけど……」
「うんうん」
「山の中にある『施設』って呼んでいたところに住んでたんだ」
「施設?」

 そのワードを聞いたノーラは、コテンと首を傾げた。

「……親のいない子供たちが集まって暮らしてるみたいな?」
「いや、多分違う。子供は俺しかいなかったし」
「じゃあ、どんな施設?」
「それが俺にもよく分からないんだよな」
「なにそれ」

 早くも意味不明であり、ノーラは珍しく困ったような表情を見せる。どことなく申し訳ない気持ちに駆られてしまい、マキトは苦笑を浮かべた。

「どうも何かを研究してたみたいなんだけど……そこらへん全く教えてもらったことがないんだわ」
「聞いてみたりはしなかったの?」
「小さい頃、一回だけな。お前には関係ない、って言われただけだったよ」

 マキトからすれば、単なる思い出話の一つに過ぎず、懐かしいなぁと思う程度でしかない。しかしノーラからすれば、苛立つには十分過ぎるようだった。

「……なんか腹立つ。マキトは酷いとか思わなかったの?」
「まぁ、最初からそんな感じだったからな」
「最初からって……アリシアとユグラシアみたいに、家族とか……」
「そんなのいなかったよ」

 恐る恐る尋ねるノーラに、マキトはキッパリと答える。

「一緒に遊んでくれたこともなかったし、メシだって運ばれてきたのを一人でモシャモシャ食べるだけ。文字の読み書きとかを教えてくれる人はいたけど、あくまで教える役目だからってだけだった」
「じゃあ……ホントに家族みたいなの、一人もいなかった?」
「あぁ。ユグさんやアリシアが初めてだったよ。あんなに俺に笑顔向けて、なんてことない話とかしてくるなんてさ」
「遊び相手は、もしかして犬や猫とかの動物だけ?」
「せーかい。魔物のいない世界だから、本当にそんな感じだったよ」

 つまりマキトは、本当に『家族』というのがどういうものなのかを、殆ど何も知らずに育ってきたということだ。
 ちなみに、彼は学校の類にも行ったことがない。
 施設の大人たちから、最低限の文字の読み書きや言葉の知識、数字の計算などは教わっていたが、それ以上のことは何も教わらなかったことも改めて明かした。

「さっきも言ったけど、子供は俺しかいなかったから、友達もいなかった。まぁ、それは今でも変わってないけどな」

 ニシシッとマキトが笑うと、ノーラが覗き込むようにして見上げてくる。

「……ノーラは友達じゃない?」
「どっちかってゆーと、妹とかそんな感じな気がしてる」
「お嫁さんじゃなくて?」
「それは流石に違う」
「むぅ」

 軽く頬を膨らませてくるノーラだったが、マキトは華麗にスルーした。

「まぁでも、それについては全然気にしたこともなかったけどな。それよりも、動物たちと遊んでるほうが楽しかったし」
「ん。それは今でも変わってない。動物が魔物に切り替わっただけ」
「だろ? あとは、図鑑とか本とか読んでたかなぁ」
「どんなの?」
「まずは動物関係だな。あと、植物や木の実の図鑑を見るのも好きだったな。なんか知らないけどキャンプの本もあってさ。焚き火の仕方とかテントの張り方とかを何回も読んだよ。釣った魚の捌き方とかも載ってたんだぜ?」
「……どーりでサバイバルに馴染むのが早いと思った」

 興味があることに対する熱意が凄い――それがマキトの大きな特徴なのは、ノーラもよく知っていることである。
 それらを繰り返し読んでいるうちに、色々と覚えてしまったのだろう。
 ディオンなどにコツを教わってはどんどん身に着け、吸収する。その根底にあるものが、今になってノーラは少しだけ分かったような気がした。

「ちなみに、マキトが地球の日本を殆ど知らないというのは、どれくらい?」
「どれくらいって……本当に殆どじゃないかなぁ」

 当時のことを思い出しながら、マキトは空を仰いだ。

「何せ俺、施設から外に出たことなかったし」
「……なかったの?」
「うん。だから俺、本当に何も知らないんだよ。外にはどんな街があって、どんな景色が広がっているのかもな」

 まさに世界そのものを知らないも同然ということを示していた。流石のノーラも衝撃を受けたらしく、素直に驚きを示している。

「小さい頃、外の世界がどんな感じなのかが気になって、施設から抜け出そうとしてみたことがあったんだよ。でも、高い崖や柵に囲まれていて、どうすることもできなかったんだよな」
「正面からこっそり出るのは?」

 ノーラが尋ねると、マキトは目を閉じながら、首を左右に振った。

「あちこちに見張りがいて無理だったよ。隠れる場所もなかったし、もう諦めるしかなかったな」
「叱られたりした?」
「いや。気が済んだなら自分の部屋に帰りなさい、としか言われなかったよ」
「その人たちの目的とかは?」
「さぁな」

 目を閉じてフッと笑いながら、マキトは肩をすくめる。

「今となっちゃ、別にどーでもいいさ。大人たちが何をしたかったのか、どうして俺があの施設にいたのか……もう興味なんてないよ」
「――ん。それでこそマキトらしい」

 ノーラはニッコリと笑う。そして視線を魔力スポットのほうに向けてみた。ちょうどラティたちが、カーバンクルを交えて、泉の水をかけ合って楽しそうに遊んでいるところであった。
 その光景を微笑ましく思いつつ、ノーラは言う。

「ある意味マキトは、ノーラと似てる。ノーラもいつの間にか、ユグラシアの神殿で暮らしてた」
「そういや、なんかそんなこと言ってたよな」

 昨日、魔力スポットを目指して空を飛んでいた際に話していたことを思い出し、マキトは小さく笑った。

「確かに俺たち、なんか割と似てる部分あるかも」
「――ん。何も知らないまま大きくなってしまったのは、確かに似ている」
「何も知らないか……言えてるな」

 簡単に言えば、子供が『子供』のまま大きくなってしまった――それが今のマキトとノーラという二人なのだ。
 普通なら自然に身につくであろう『建前』や『協調性』も、彼らにはない。
 故に無邪気で正直という名の『残酷さ』が目立つのも、ある意味仕方がないと言えてしまうだろう。
 当の二人も、そこまで理解しているわけではない。
 しかしながら流石に、このままでいいとも言えないことぐらいは、分かっているつもりではあった。

「だから、いっぱい色んなことを知っていく。ノーラはこれからも、マキトとずっとそうしていきたい」
「ノーラ……」

 強い意志の込められた笑みに、マキトは思わず目を見開く。だがすぐに、本当にそのとおりだと認識した。
 そして、それを示すかのように――

「あぁ、そうだな」

 マキトもしっかりと、大きく頷きを返すのだった。

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