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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
236 二手に分かれて動き出す
しおりを挟む「ここからは、二手に分かれて動きましょう」
そう提案してきたのはディオンだった。その場にいた皆が驚くことなく、真剣な表情で彼の言葉に耳を貸している。
「メイベルはアリシアと、転移魔法で学園に戻るんだ。俺もこの件を学園長に報告するため、キミたちに同行する」
「俺とエステルは、ここに残らせてもらうぜ。ちょいと野暮用があるんでな」
「分かった」
ネルソンの進言にディオンが頷く。元々想定していたため、特に驚きもない。
「ワシもここに残るぞ」
するとクラーレも、一歩前に出ながら宣言する。
「マキトたちのことが気になるからな。老いぼれとなった今でも、それなりの魔法は使えるぞい」
「私もサポートとして残ります。神を司る竜がここにいると分かった以上、見過ごすわけにはいきませんから」
「――分かりました。キミたちもそれでいいな?」
ディオンに視線を向けられたアリシアとメイベルが、互いに顔を見合わせる。
「マキトたちのことは気になるけど……こればかりは仕方がないよね」
「うん。足手まといになるのがオチだろうし」
本当は自分たちも残りたい気持ちでいっぱいだった。しかしどう考えても、今の自分たちの実力では、周りに迷惑をかけるだけだと言わざるを得ない。
二人もそこのところは、ちゃんとわきまえているのだった。
そして改めて、真剣な表情でユグラシアを見上げる。
「お母さん、マキトたちのことをお願いします」
「ユグラシア様。私の代わりに、おじい様にきつくお灸をすえてもらえますか?」
「えぇ。この森の賢者ユグラシアに、任せてちょうだい!」
拳を胸にあてながら、堂々と笑顔を見せるユグラシア。その姿は神々しい賢者というよりも、一人の母親というイメージのほうが強い。
それでいながら全く違和感がないため、尚更不思議でもあった。
「母は強し……いつの時代でも、そして誰であろうと、変わらんモノよのう」
クラーレが微笑ましそうに頷く。三羽烏も同じような気持ちで、フッと小さな笑みを浮かべていた。
するとここで、アリシアがはたと思い出す。
「――そうだ! あの、良かったらこれを持っていってください」
アリシアが身に付けているポーチから小瓶を取り出し、クラーレに手渡す。
「私が調合した魔力ポーションです。飲めば魔力が回復しますよ」
「おぉ、これはかたじけない。ありがたく使わせてもらおう」
クラーレはニッコリと笑いながら受け取った。そしてアリシアは、ネルソンたちにもそれぞれ普通のポーションと魔力ポーションを渡していく。
早速ネルソンたちは、もらったポーションをグイッと飲み干すのだった。
すると――
「おっ、そこらのポーションよりもよっぽど美味いな!」
空となった小瓶を見つめながら、ネルソンが軽く感激する。
「しかも疲れが一気に吹き飛んでいきやがる! こりゃいい代物だぜ!」
「あぁ。見事なもんだ」
「この魔力ポーションも凄いですよ。是非我が国でも研究させたいくらいです!」
ディオンに続いて、エステルも驚きを隠せない。こんな素晴らしいものを、一人の学生から受け取れるとは思わなかった。
(魔力を持つ錬金術師ですか……ウワサで聞いたことがありますが……)
エステルも宮廷魔導師として、そしてOBとして、ヴァルフェミオンでの話を耳にすることは多い。魔力を持つ錬金術師がスカウトされて入学した話も、それとなく噂で聞いたことがあった。
こればかりは流石に信じられなかった。魔法学園に錬金術師など、畑違いもいいところではないかと。
少しばかり気になって情報を集めてみると、本当だということが分かった。
魔力があるだけで入学できれば苦労などしない――流石にその時は、ヴァルフェミオンの意図がまるで読めなかったことをエステルは思い出す。
(アリシアさんはメイベルさんと姉妹だと言ってましたね。ウォーレスが一枚噛んでいる可能性は、十分にあるでしょう。しかし――)
それとこの魔力ポーションの出来栄えは、決してイコールではないと、エステルは思っていた。
彼女の能力を知っていて利用しようとしていたのか、それとも何か別の目的があったのか――それは分からないが、エステル個人としても、かなり興味深く思っていることは確かであった。
(まぁ、それは後でじっくりと考えることにしましょう。今はそれどころではありませんからね)
エステルは気持ちを切り替え、空になった瓶をポケットにしまう。ここが敵地であるとはいえ、流石にポイ捨てするほど落ちぶれてはいない。
「回復は十分ですか、ネルソン?」
「おうよ。嬢ちゃんのポーションのおかげだぜ! ありがとうな」
「いえ、お役に立ててなによりです」
ニカッと笑うネルソンに、アリシアも嬉しそうな笑顔で返す。そんな姉の表情を見ることができて、メイベルも明るく笑っていた。
「――どうやら準備は整ったようじゃな」
ここまでのやり取りを黙って見ていたクラーレが、ニヤッと笑いながら言う。
「さぁ、事は一刻を争う。そろそろワシらも動き出そうぞ!」
クラーレの力強い掛け声に、一同が力強く頷いた。
「アリシア、ディオンさん。私に掴まってください!」
「分かったわ!」
「了解!」
アリシアとディオンがそれぞれ肩に掴まるのを感じ取り、メイベルは目を閉じて魔法の詠唱を開始する。
三人の足元に魔法陣が展開され、ゆっくりと眩く光り出していく。
そして数秒後――三人の姿は瞬く間に消えた。
「ほぅ。ああも簡単に、転移魔法を使ってみせるか」
クラーレが蓄えている髭をいじりながら、ほんの数秒前までメイベルたちが立っていた場所をまじまじと見つめる。
「あのメイベルとかいう子も、なかなかやりおるわい」
「えぇ。将来が楽しみな魔導師の一人ですね」
ユグラシアもにこやかに頷き、そして改めて表情を引き締める。視線の先は、開け放たれた扉であった。
「それじゃあ、私たちも行きましょう!」
「はい!」
「うっす!」
エステルとネルソンが気合いの込められた返事をし、先頭を切って進み出す。後を続くユグラシアとクラーレも、目つきが明らかに変わっていた。
(――こうして暴れに行くのは久々じゃな。全く血が騒いでならんわい♪)
若かりし頃を思い出し、クラーレは思わずほくそ笑む。その姿はまるで、走りたくて仕方がない少年のような雰囲気であった。
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