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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
237 アリシアたちの脱出
しおりを挟む「――そうか。我が学園の地下でそんなことが起こっていようとは」
伸ばした顎髭をいじりながら、ヴァルフェミオンの学園長が重々しい声を出す。真夜中にもかかわらず、学園長と教頭は起きており、なおかつ職務用のローブに身を包んでいた。
その理由は、現在の騒ぎに大きく関係している。
「ウォーレスが動いたという情報を得たから気になってはいたのだが、よりにもよって森の賢者様を巻き込むとは……」
「学園長。いくら理事が相手でも、今回ばかりは見過ごせませぬぞ!」
「分かっている。私も黙っているつもりはない」
教頭の言葉に学園長が神妙な表情で頷く。今までは理事という立場に負けて強く出られないでいたが、流石にそうも言ってられないと思った。
曲がりなりにも魔法学園のトップらしい言葉に、目の前にいる者たちは驚いた。
(学園長も教頭も言うなぁ~)
(理事が相手だから尻込みするかと思ってた……)
メイベルもアリシアも、思わず口を開けてしまう。
(よくよく思い返してみれば、メイベルの転送魔法で私たちが戻った時から、なんか様子が違ってたような気もするし……)
約数十分前のことをアリシアは思い出す。
あの話し合いの後、メイベルの転送魔法でアリシアとディオンは、地下施設から脱出してきた。
そこではディオンの連れを名乗る少女、リスティが待っていた。
彼女がオランジェ王国の王女である事実にも驚いたが、それ以上にマキトたちの知り合いであることに、アリシアは絶句した。
ホント、私の知らない間に、一体何があったんだろう――と。
アリシアたちが戻ってきたのは、転移される前の部屋である応接室であった。そしてそこにはリスティの他に、学園長と教頭も待機していたのだった。
リスティから粗方の事情は聞いていたらしく、アリシアとメイベルが転移されてきたことについては、軽く驚かれるのみで、割と冷静な態度だった。
そして、ディオンから事のあらましが伝えられて、今に至る。
「今は森の賢者と私の知人たちが、地下でウォーレスを追っております。皆、私が信じる優秀な者たちですので、夜が明けるまでには解決できるよう、我々は全力を尽くす所存です」
「おぉ、なんとも心強い言葉だ。是非ともよろしく頼む」
ディオンの語りに学園長が深々と頭を下げる。やはりディオンの名はそれほど凄いのだなぁと、アリシアは思わず呑気なことを考えてしまっていた。
「ところでディオン殿。彼女たちのことだが――」
「アリシアとメイベルの二人は、寮に戻しても大丈夫かと思います。ウォーレスの野望がほぼ潰えた今、特に狙われる心配はないでしょうし」
「ふむ。その根拠は何かね?」
教頭が覗き込むようにしてディオンに尋ねる。下手なことを言って、大事に繋がってしまって困る――そう言いたいのだ。
それはディオンも分かっており、狼狽えることなく胸を張る。
「もし、今も彼女たちが狙われているのだとすれば、こうして無事に戻ってこれること自体が不思議でなりません。ウォーレスは彼女たちを置いて、さっさと我々の前から姿を消しました」
「そうか……確かにこうしてのんびり話せている点も、立派な証明になりそうだ」
教頭が腕を組みながら頷き、まだ真っ暗な窓の外のほうに視線を向ける。
「見てのとおり、地上は至って静かなものだ。本当に騒ぎが起きているのは、地下だけということが言えるだろう」
「ですね。それでも念には念を入れるに越したことはありませんが」
「私も含めてしばらく寮の周辺を見回ろうと思います」
「おぉ、リスティ殿。本当に感謝する」
「仕事ですから」
ニッコリと笑顔で答えるリスティに軽く頭を下げた学園長は、改めてアリシアたちのほうに視線を向ける。
「メイベル、そしてアリシア。今回の件はウォーレス理事が巻き起こしたこと私たちは何も関与していないことを信じてほしい」
「はい。私もそうであってほしいと思っています」
凛とした声でメイベルが答え、アリシアも続けて頷いた。その反応に学園長と教頭が嬉しそうに笑う。
「そう言ってくれて感謝する。それはそれとして――メイベル君」
「はい?」
「キミには一つ、宿題を与えよう」
「――しゅく、だい?」
「そうだ」
呆然としながら問い返すメイベルに、学園長がニッコリと笑顔を浮かべる。
途轍もなく嫌な予感が過ぎり、表情が引きつってくる。そんなメイベルの様子など構うことなく、学園長は優しい声で告げた。
「お姉さんを助け出せたことは喜ばしく思うが、寮を勝手に抜け出したペナルティはちゃんと受けてもらうよ。魔法運用における戦略のレポートを三十枚、近日中に提出するように」
「えぇっ、そんなあぁーっ!?」
頭を抱えながら叫ぶメイベル。しかし学園長の笑顔が、もはや逃れることはできないことを示していた。
「優秀なキミならば、遅くても次の放課後までには仕上げられるだろう。アリシア君もフォローしてやってくれたまえ」
「あ、はい。元気が出るポーションを差し出すくらいしか……」
「ハハッ、それで十分だろう。妹君のことを、しっかり支えてあげなさい」
学園長は愉快そうに笑いながら、ディオンに視線を向け、今後の対策についての話し合いを始めてしまう。
アリシアは項垂れるメイベルの肩に、ポンと優しく手を置いた。
「まぁ、その、メイベル? この程度で済んだことを幸運に思っておこうよ」
「アリシア君の言うとおりだぞ? キミたちの働きに免じてくださった、学園長のお心遣いを、ありがたく受け取っておきなさい」
「――はぁい」
教頭から追い打ちを喰らってしまったが、メイベルにはもはやダメージなど感じられなかった。
少し可哀想にも見えるが、これはもう仕方のない話――そう思いながら、アリシアはメイベルを連れて応接室を後にする。
リスティも付き添い、彼女たちは女子寮を目指して歩いていく。
やはり周りはどこまでも静かであり、これだけ見れば何事もない夜そのものだ。とても地下で大騒ぎが起きているとは思えない。
(マキトたち、大丈夫かな?)
今頃、思いっきり大暴れしているであろう少年少女と魔物たちに、アリシアは想いを馳せるのだった。
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