駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ

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第一章 異世界スローライフ開始

第二話 異世界の神様

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 フレッド王都の街門をくぐったときは、もう日が沈んでいた。
 それでも表通りは、人々の笑い声や叫び声が聞こえ、時にはイザコザらしき怒鳴り声も飛んできたりしている。たくさんの屋台が並んでおり、男女問わず酒に酔ってご機嫌な姿があちこちで見かけられた。

「あー、帰ってきたなぁ。随分と懐かしく感じるや」

 数ヶ月ぶりの王都に嬉しそうな声を出すミナヅキの隣では、アヤメが物珍しそうに見渡している。

「まさに中世ヨーロッパの街並みって感じね。明かりも全部、カンテラとか松明とかじゃない?」
「あぁ。ちなみに乗り物も、基本的に馬車と船だけだ」
「電気関係は殆ど発達してないってことかしら?」
「そんな感じだ。最初は戸惑う部分も多いだろうが、すぐに慣れるよ」

 ミナヅキはゆっくりと歩き出した。

「まずは、取り急ぎ必要な物を買おう。ついでに屋台でなんか食おうぜ」
「あ、うん……」

 アヤメも慌ててついていく。あからさまに文化の違う町並みに、それとなく興味も湧き始めていた。
 表通りを歩き、まだ開いている服屋を発見。そこで最低限の着替え――主に下着類を見繕い、購入する。
 衣類関係も種類に大きな違いは殆どなかった。多少なり素材の違いは見受けられたが、殆どそれだけとも言える。本当はもう少しゆっくり店内を見たいとアヤメは思っていたのだが、残念ながら閉店時間とのことで、やむなく店を後にする。
 そして二人は、表通りの屋台へ足を運ぶ。
 数分後――広場の簡易テーブル席の一角にて、アヤメは途轍もなく幸せそうな笑顔を浮かべていた。

「異世界の食べ物って、殆ど現代の日本と変わらないのね。なんか安心したわ」

 屋台で購入した串刺しソーセージや温かいスープを堪能するアヤメに、ミナヅキは苦笑を浮かべる。

「どうでもいいけど、屋台の全メニューを制覇しようとか思ってないよな? 別にしたいんならしても良いが」

 そう言いながらミナヅキは、テーブルに置かれたたくさんの屋台の食べ物に視線を落とす。殆ど片っ端から目に留まったモノを買った感じだ。その中にミナヅキが買いたいと思って買ったモノは一つもない。

「しょ、しょーがないじゃない! 今日はお昼もロクに食べてないんだから!」
「あー分かった分かった。良いから好きなだけ食いな」
「もぅ……」

 むくれながらも、三本目のソーセージの串焼きにアヤメが手を伸ばした、その時であった。

「さぁ見よ! 世界一の魔導師になる、この俺様の魔法を!」

 近くからそんな声が聞こえた。振り向いてみると、ローブを着た青年が両手に炎を生み出している。
 まるでお手玉のように、手と手の間を輝く炎が飛び交う。そしてそれを思いっきり空に投げると、炎はポンッと弾け、小さな花火のように散って消えた。
 ショーの閉幕――そう言わんばかりに青年が礼をしたその瞬間、ギャラリーから盛大な拍手が送られた。青年が両手を挙げながら笑顔を振りまいていき、そのままどこかへ去っていく。
 盛り上がりの熱が冷めないその光景を、アヤメは呆けた表情で眺めていた。

「魔法もちゃんとあるのね」
「驚いたか?」
「えぇ、それにやっと実感できた気もするわ。ホントに地球じゃないんだって」
「それはなによりだ」

 ミナヅキは小さく笑いながら、樽型のジョッキの中身をあおった。


 ◇ ◇ ◇


 裏路地の宿屋に入ったミナヅキたち。購入した衣類の袋をドサッと置き、アヤメがベッドに勢いよく飛び込んだ。

「あー、なんか今日はいろんなことがあったわー」

 うつ伏せで寝っ転がるアヤメは、間延びした声を出す。スカートが派手にめくれてしまっているが、気にする素振りすらみせない。
 ちなみに二人一部屋で取っているため、この場にはミナヅキもいる。顔を赤らめてこそいないが、ゲンナリとした表情でため息をついていた。

「お前さぁ、男の俺がいるってのに、ちと無防備過ぎやしないか?」

 明らかな文句であったが、アヤメは全く動じず、うつ伏せのまま振り向くことすらせずに答える。

「別に良いじゃない。旦那様なんだから恥ずかしがる理由もないでしょ?」
「いや、そーゆー問題じゃ……ん?」

 ミナヅキは言いかけた口を止め、首を傾げる。何か聞き慣れない単語が聞こえたような気がした。
 一方のアヤメも、ミナヅキが言葉を止めてしまったことに疑問を持ち、身を起こしながら怪訝そうな表情を浮かべた。

「……何よ? そんなボケッとしちゃって」
「いや、その旦那様ってのは?」
「公園で言ったじゃない。私の全部をアンタにあげるって」

 それを聞いて、ミナヅキは数時間前のことを思い出す。勢いで叫んだアヤメの言葉が脳裏にハッキリと蘇ってきた。

「あーそういや確かにそんなこと言ってたな……え、あれってマジで俺と結婚するつもりで言ってたの?」
「むしろ他にどんな意味があるのよ」

 本気で驚いているミナヅキに、アヤメは呆れ果てた視線を送る。『私の全部をあげる』という言い回しに、それ以上のイヤらしい意味が込められていると思われかねないのだが、幸か不幸か二人とも全く気づいていない。
 そして更に思い浮かべたことがあり、アヤメは半開きの目で睨む。

「まさかとは思うけど、もうアンタって既に他の女と結婚してるとか?」
「いや、してないし彼女すらいたこともないが」

 やや引き気味にミナヅキが答えると、アヤメは打って変わってこの上なく嬉しそうな笑みを浮かべる。

「だったら何の問題もないわね。言っておくけど私、もうアンタのこと一生逃がすつもりなんて全くないから!」

 アヤメはどこまでも強い目をしていた。彼女がどこまでも本気であるということがよく分かる。
 下手な誤魔化しなど通用しない。ここでハッキリ答えなければ、アヤメは地の果てまで追いかける勢いで迫ってくるに違いない。
 特に根拠はなかったが、ミナヅキはそう思えてならなかった。なんだかんだで幼なじみという関係は、伊達ではなかったようである。

「まぁでも、こうして連れてきた俺の責任もあるしなぁ……分かったよ」
「私と結婚してくれるの?」
「あぁ」

 ミナヅキはアヤメの隣に座り、しっかりと顔を見ながら軽く頭を下げる。

「変な形だけど、末永くよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ喜んで♪」

 アヤメは満面の笑みを浮かべ、ミナヅキに飛びついてきた。両腕で優しく受け止めたその瞬間、アヤメは頬を赤く染めながら見上げ、再びニッコリと笑う。

(コイツ、マジで美人だったんだな)

 近くでしっかり見たことで、ミナヅキは改めて思い知らされた気がした。
 あくまで昔から知っている同い年のお嬢様でしかなかった。
 自分とは住んでいる世界が違い過ぎる。いつかは離れ離れになるに違いない。そう思い込んで、一定の距離を取っていたのだと、今更ながら気づいた。
 そんな彼女がこうして目の前にいる。絶対離れてやるもんかと言わんばかりに、ギュッと服の胸元を掴んでくるその仕草が、とても可愛く見える。こんな日が実際に来るだなんて、全く想像すらしていなかった。
 有り体に言えば新しい発見だ。彼女に対する発見が、これから先もたくさん降り注いでくるのだろうか。
 そんなことをミナヅキが考えていた、その時だった。

「まーた、随分と変則的なプロポーズだねぇ。ミナヅキらしいかもだけどさ」

 突如聞こえてきた声に二人が驚きながら振り向くと、そこにはさっきまでいなかったハズの第三者が立っていた。
 見た目は小学生ぐらいの男の子。可愛らしい顔立ちをしており、年上の女性から狙われかねないほどだ。
 しかしその雰囲気はとても怪しい。アヤメは警戒しながら男の子を凝視する。
 するとミナヅキが、目を見開きながら叫んだ。

「ユリス……ユリスじゃないか!」
「やぁ、ミナヅキ。やっとこの世界に移住してくれて、ボクは嬉しいよ♪」

 どうやら二人は知り合いのようだと、アヤメはすぐに思った。
 しかしこの状況が全く理解できないことも確かであり、早くどっちか説明してくれないかなぁと、呆然とした表情で思うのだった。
 その時、男の子はアヤメに向かって明るい笑みとともに見上げてくる。

「初めまして。ボクはユリス。ミナヅキとは十年来の仲良しさんでっす♪」
「はぁ、こちらこそ初めまして、アヤメと申します」

 手を差し出して自己紹介をしてくるユリスに、アヤメは戸惑いつつも握手を交わした。するとユリスはこれまた嬉しそうにその手をギュッと握る。やはり無邪気な小さい子供としか思えない。
 しかし、人を見た目で全てを判断してはいけない。小さい頃から幾度となく言われてきたことだ。
 特にこのユリスという少年らしき人物は、底が知れない気がする。特に根拠があるワケではないが、気を抜いてはいけないことは確かだ。
 そんなことをアヤメが考えていると、ユリスが更に爆弾を仕掛けてくる。

「ちなみに、この世界を司る神の一人でもあるんだよ」

 笑顔であっさり打ち明けたユリスに、アヤメはポカンと口を開けた。

「……カミサマ?」
「うん、そう。神様」

 戸惑いながらも問い返すアヤメに、ユリスは笑顔で答える。それを見ていたミナヅキも、どこか引きつった表情を浮かべていた。

「おいおいユリス、そんな簡単に秘密を明かしちまって良かったのか?」
「別に構わないさ。いずれはちゃんと話さなきゃいけないことだもん。ましてやミナヅキの奥さんなんだから、尚更だよ」
「っ!?」

 ユリスの言葉に、アヤメがビクッと大きな反応を見せた。

「きゅ、急にそんなこと……あ、いやいや、確かにプロポーズは成立したんだし、私がミナヅキの奥さんになったことは確定なワケで、つまりこの子の言ったことは紛れもない真実になるからして……うへへ、そっかそっか真実かぁ、私ミナヅキの奥さんなのよねぇ。いやぁこりゃ参ったなぁ、うへへへへ♪」

 体をクネクネと揺らしつつ、アヤメは見るからにだらしのない笑顔を見せる。

「慌てたり喜んだり賑やかなおねーさんだね」
「あぁ、俺もビックリしてるよ」

 サラリとスルーするかのように言い放つユリスの隣で、ミナヅキは呆れを込めたジト目でアヤメを見ていた。
 このまま放っておいても良い気はするが、折角話そうとしていたことをお預けするのもどうかと思い、ミナヅキはトリップしているアヤメに声をかける。

「おーいアヤメ。俺がこの世界に来るようになった経緯、聞かなくて良いのか?」
「……はっ! そうよ、すっかり忘れてたわ。早く教えてちょうだい!」
「復活してくれてなによりだ。とにかく話すぞ?」

 ミナヅキはサラリと流しつつ進めていく。これ以上ムダにツッコミを入れたら、話が逸れたまま戻ってこれなくなるような気がしたからだ。
 ミナヅキは、ボンヤリと光るランプの明かりに視線を向けながら語り出す。

「あれはそう……俺が五歳の時だったな――」

 事の始まりは、猫を追いかけて薄暗い路地に入ったことだった。
 気がついたら見知らぬ森の中。太陽の光も殆ど見えない薄暗さがとても怖くて、大声で泣き出していた。
 するとどこからか、声が聞こえてきた。泣かないで――と。
 見上げると、その男の子は立っていたのだ。男の子は幼いミナヅキの手を引いて歩き出し、森の外へと抜け出した。
 そこは青空が広がる、とても広い平原だった。
 犬や猫とは違う、見たことがない生き物がたくさんいた。
 幼いミナヅキは遊んだ。男の子と時間を忘れて、とことん遊んでいた。気がついたら笑っていた。口を大きく開けて、その声をどこまでも遠くへ飛ばす勢いで笑い続けた。
 そして気がついたら、路地裏の行き止まりに立っていた。
 にゃあ、と声がした。振り向いてみると猫がいた。そしてその猫は走り出した。ミナヅキが追いかけて突き当たりを曲がると、猫はどこにもいなかった。
 ――絶対、またいつか会おうね。
 後ろからそんな声が聞こえたような気がした。
 咄嗟に振り向いてみたが、そこには誰もいない、ただの行き止まりの路地があるだけであった。

「これが俺の、一番最初の異世界体験さ。その時の男の子がコイツね」

 ミナヅキが促すと、ユリスはボクでーすと言わんばかりに、笑顔で手を挙げる。

「で、次のターニングポイントは、俺が小学校に上がってからのことだった――」

 不思議な出来事があった。それを誰に言っても信じてくれなかった。夢を見たのだと思われ、くだらないことを言うなと叱られた。
 ミナヅキも自然と口に出さないようになり、いつしかその出来事を忘れた。
 そして時が流れ、小学校一年生の夏休み。
 誰もいない薄暗い自宅。そこに一人でいたとき、突如目の前が光り出し、一人の男の子が降り立った。その子は確かに見覚えがあった。
 ――やっと、また会えたね。
 その言葉にミナヅキは泣いた。
 夢じゃなかった。ずっと会いたかった。もう離すもんかと、必死にその男の子に抱き着きながら。

「その時ボクは、初めてユリスと名乗ったんだ。そしてミナヅキと、正式な友達になったんだよ」
「あぁ。ユリスに力を貸してもらって、異世界と地球を行き来できるようになったんだよな」
「もっとも違う世界同士だから、簡単でもなかったけどね。地球の神様と粘り強く交渉して、ようやくミナヅキの学校が長期休暇の間だけ許可が下りたんだ」

 ユリスの言葉に、アヤメは目を丸くする。

「……神様って、地球にもいるの?」
「いるよフツーに。まぁ、年がら年中、高みの見物しかしてないけどね。これはどこの神様でも似たようなモノさ」

 ユリスが苦笑しながら言うと、アヤメは感心するように長い息を吐いた。そしてミナヅキの話が再開する。

「それから俺は、休みの度にこの世界へ来るようになって、中学に入ると同時に、冒険者ギルドにも登録したんだ。色々やってるうちに、いつかこの世界でずっと過ごしたい気持ちになって……今に至る感じだな」
「なるほどねぇ」

 ミナヅキが話に区切りをつけると、アヤメが軽く驚いた表情で頷いた。
 まさか自分の身近にいた人物が、ずっとラノベやアニメのような展開を体験してきていたとは。アヤメは感心せずにはいられなかった。
 とりあえず経緯については理解できたが、アヤメはどうにも一つだけ疑問に思えてならないことがあった。

「ところで今の話を聞く限りだと……アンタはこの十数年、ごく普通に異世界と地球を行き来してたってことになるわよね?」
「そうなるな」
「よく親御さんが許したわね。それだけ理解のある方々ってことなのかしら?」

 まさか二つ返事で了承したワケではないだろう。実際に自分の息子が異世界へ移住するとなれば、親としてそれ相応の反応があったハズだ。
 アヤメがそう思っていると、ミナヅキが思い出したような素振りを見せる。

「そういや、言ったことなかったっけか。ウチの親、ずっと前から殆ど家に帰ってきたことないんだよ」
「えっ、そうだったの? 初耳だわ……お仕事の都合か何かで?」

 驚きの表情を浮かべながら、アヤメは身を乗り出すような姿勢で尋ねる。それに対してミナヅキは、涼しげな表情で首を横に振った。

「ううん。愛人のところへ転がり込んでる。両親揃ってな」
「……なんですって?」

 あっけらかんと話すミナヅキに、アヤメは表情を引きつらせる。あまりにも突拍子の無さすぎる展開に、頭の整理が追い付かない。
 ミナヅキも、まぁそーゆー反応になるだろうなと言わんばかりに肩をすくめる。

「言葉のままだ。流石に両親ともフツーに働いてはいるが、帰る家はそれぞれ愛人のところ。もはやその愛人の家が、本当の自分の家みたくなってたな、あれは」
「い、いやいや、ちょっと待ちなさいって……」

 どこまでも軽いノリで話すミナヅキに、アヤメは戸惑わずにいられない。

「愛人って……またとんでもないセリフをぶつけてきたわね」
「だってそれ以外に言いようがねぇもん。確か最後に顔合わせたのが、俺が小学校卒業するぐらいだったかな」
「いや、それもう立派な家庭崩壊じゃないの……今の今まで知らなかったわ」

 アヤメは全くワケが分からなかったが、恐らくミナヅキの言っていることが本当であることは理解した。いや、無理やりにでもそう思うことに決めたといったほうが正しいだろう。
 これまでアヤメは、ミナヅキがごく普通の学生として、のんびり気ままに暮らしているようにしか見えなかった。
 定期的に公園で会った際、様子がおかしかったことは一度もなかったハズだ。
 これは一体どういうことなのだろうか。色々と疑問は尽きないが、ひとまず浮かんだ内容を、アヤメはミナヅキに問いただしてみることにした。

「よく今まで普通に生活できてたわね? 学費とか、家の支払いとかは?」
「フツーに両親の口座から引き落とされてたっぽいんだけど……」
「そうなんだ。まぁ考えてみたら、流石にそれぐらいはしてるわよね。ネグレクトでうるさく言われることは避けたいだろうし」

 軽く考察してみたアヤメは、そこでふと思う。

(まぁ、そもそもガチでずっと家に帰らないほど放ったらかしてたんなら、それがもう既にネグレクトな気もするけどね)

 むしろよく発覚しなかったモノだと驚きたくなる。アヤメが苦笑しながらひっそりと考えている目の前では――

「いやぁ……それはどうだろうな?」

 ミナヅキが納得いかないと言わんばかりに首をかしげていた。

「最後に会ったとき、超ウザそうな目で言われたんだよな。お前如きに払う金は一銭もない。抵抗しても絶対に自分たちが勝つから、お前が誰を味方につけようがムダに終わるだけだぞ――ってさ」
「……色々とツッコみたいところはあるけど、少なくともミナヅキのためにお金を出すとは、到底思えないわね」
「ちなみに両親揃って、殆ど同じことを俺に言ってきたよ」
「ボクだったらその時点で切り捨ててるね」
「だよなぁ」

 ユリスの言葉にミナヅキは頷く中、アヤメはひっそりと思う。

(なんか……今の『切り捨ててる』の言葉に、別の意味が含まれてそうな気がしたけど、まぁそれについては考えないほうが良さそうね)

 アヤメは軽く首を左右に振り、改めてミナヅキに視線を向ける。

(まぁ、少なくともこれで、ミナヅキが私みたく家出同然でこっちの世界に来たワケではない――ということだけは分かったわね)

 そもそもアヤメは、この世界に来る少し前から疑問には思っていた。
 自分を連れて誰もいない公園を出たミナヅキは、そのまま近所の雑木林の中へ入っていき、気づいたら異世界へ来ていた。ドラゴンの大移動に遭遇したのもちょうどその時である。
 つまりミナヅキは自宅に戻らないまま、この異世界へ来たということになる。
 本人曰く、移住する準備はあらかじめ済ませておいたらしいが、それでも両親に最後の挨拶すらしないというのはどうなのだろうか。
 そう疑問に思いながらも、アヤメは言うに言えなかった。自身の経緯から、凄まじく説得力に欠けることは分かっていたからだ。
 ならばせめて、ミナヅキの口から話してもらおう。アヤメが尋ねたのはそういう思いもあったからなのだ。

(見事に予想は覆されたわね。まぁ、本当の理由もビックリだったけど)

 ひとまず疑問の一つは片付いたということで、アヤメはもう一つの疑問について少し考える。
 そして彼女の中に、一つの予想が浮かんだ。

「ねぇ、私ちょっと思ったんだけど……」

 アヤメがもの言いたげな目で、ミナヅキの隣に座るユリスを見る。

「ユリス……あなたが何か仕組んだんじゃないの?」


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