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序章

#10 喪失した理由

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 侍女の中には、ソフィア様を哀れみ、その息をかけられなくても自らの意思で、自分達が慕うソフィア様を苦しめる――側妃リーディアとその子らを憎んでいた者もいた。
「――ソフィア様は、母上を嫉妬し……湧き上がる憎しみにより、俺達双子を何度も殺そうとしていた。しかし、指示した使用人達は、誰一人として暗殺に成功する者はおらず、ソフィア様の思い通りにはならなかった……。あんな子供の一人や二人、何故殺せないのかと苛立ち、余計に憎しみを募らせていったソフィア様は、ついに、自らの手を血に染める覚悟を決めてしまった……」
「……その結果、ミグ様達を亡き者にするために手を出した闇魔法で、スペルミスをして、自分自身を闇へ葬ってしまうことになるとは、皮肉な話だな……。闇魔法は、見様見真似で容易く扱えるものではない危険な魔法だというのに……」
「……あぁ。もし、指示した者達により俺達を殺せていたとしても、その憎しみが消え失せていたとは思えないけど、何ひとつ憎しみを消すこともできないまま、ソフィア様はこの世を去ることになってしまった――それは、言ってみれば無念の死だ。それに加え、“側妃が正妃になる”なんて噂まで囁かれて、もし本当にそうなったら、ソフィア様が浮かばれない――と、ソフィア様の無念を少しでも晴らして差し上げたいと……その意志を継ぐように、行動に出る者達が現れたんだ。全てはソフィア様のために……」
「もしそうなったら――ということは、噂が本当になってその機会が容易ではなくなる前に……か」
「……そう。侍女の業務内容に、『入浴当番』――というのがある。入浴時、体とか髪とか顔とか洗うの、ぜーんぶ当番の侍女が担当するんだけど、それだけじゃなくて、入浴時間の管理から、体拭くのも、スキンケアなどのお手入れも、着替えも――あ、そうだ。言うの忘れてた。着替える前に、二人がかりで香油でトリートメントマッサージまで……」
「な、なんと……さ、さすがはお姫様と王子様って感じだな……」
「ん? あはは、ごめん。これはレティだけ。この当番が義務付けられいるのはお姫様だけ。……こう言っちゃ何だけど、お姫様なんて聞こえはいいかもしれないけど、実際は道具だろ……? きっと、常日頃から……綺麗に磨き上げてその価値を高め、ここぞという時に最強の交渉道具にするつもりなんだろう。それに……さ、実は二代くらいずっと男しか生まれてなくて、久しぶりの女児の誕生だったからな……余計にだろうな。ま、それはともかく、事件っていうのは、その事件のあった日に、入浴当番に当たった侍女達が起こしてしまったものだ。入浴当番は二名体制で、主犯格の侍女と、その共犯の侍女の二名が、レティを連れていった……そして――」

 大体の予想はできてはいたものの、意を決したようにミグが話した内容は、耳を疑いたくなるものだった。

「――い、今…………何て…………? 嘘……だろ……? そ、そんな……拷問のようなことを…………⁉︎」

 そのリュシファーの問いに、嘘であったらどんなに良かったか――と、ミグは唇を噛み締めて顔を背けた。
 レティシアの髪と体を洗い終え、入浴させるところまでは問題なく、入浴当番の業務をこなした二人は、入浴中のレティシアに対して、突然、犯行を開始させた――。

 突然、レティシアの頭を湯に沈めたのである。

 当然、次第にもがき苦しみ始めたレティシアを、頃合いまで沈め、侍女は一度引き上げた。激しくむせ込みながら、苦しそうに呼吸を整えようとするレティシアを嘲笑いながら、その呼吸が全く整い切ってなどいない内に再び沈め、そして引き上げ、再び沈め――というのを、二人は何度繰り返したのだろうか。レティシアが沈められるたび、湯船の水面がバシャバシャと音を立てながら、激しく揺れていたという。レティシアも、精一杯抵抗していたのだ。
「……意識を失わせないギリギリの所で引き上げられては、ろくな呼吸もさせて貰えず、また沈められ……次第にレティも限界が近付いてきた。意識が遠退き始めたんだ……だんだんと抵抗が弱くなってきて……。見張り役だった共犯の侍女も、そろそろ引き上げないと、まずいのではないかと思ったそうだ。でも、もう遅かった……。水面をバシャバシャと揺らしていた音は静かになり、水飛沫もなくなって、レティは、動かなくなった……」
 実は、共犯の侍女は、ソフィア様の事を思うと、この犯罪に加担したい気持ちはあったが、現実的にはそんな事したらマズイことくらい理解しているから、一度断っていた。
『――いい? 何も殺すわけではないわ。少し苦しませるだけ……。今のレティシア様はお人形さんみたいなものじゃない。お人形は喋らないの。告げ口なんてされないからバレることはないわ。苦しくても苦しいとすら言わないかも……だから大丈夫』
 そう主犯格の侍女に説得されたのであった。
 しかし、実際に犯行に及び、レティシアが抵抗を見せ、言葉にはしないものの、しっかりと苦しんでいるその姿を目の当たりにした今、レティシアを“人形”だとはちっとも思えず、後悔していた――。しかし、今更止めるようになど、口にできず、ただ、ただ、早く、こんな事やめてあげて欲しいと思いながら、見張りをしていた共犯の侍女は、一瞬、何が起きているのかわからなくなり、思考が停止したそうだ。
「……少し苦しませるだけだと思っていた共犯の侍女は、主犯の侍女がここまでやってしまうとは、全く思っていなかったんだ。さぁっと顔から血の気が失せただろうね……」
 レティシアが動きを止めたということが、どういうことかを考えた時に、ついに一瞬にして事態を理解した共犯の侍女は、慌てて駆け寄った。
 主犯格の侍女を払いのけて、レティシアを引き上げると、必死に声をかけた。しかし、反応はなかった。
 
『そ、そんな……! きゃ、きゃああああああっ! 姫様!? 姫さまぁぁ!』

 侍女は、非常用のベルを鳴らした――。
 そして、一生懸命にレティシアの蘇生に尽力した。
 やっと事態の深刻さと、自分達の犯した罪の重さと、その先に待つ現実が、一気に共犯の侍女を襲い、身体が勝手にそうしていたという。
 その必死の努力の甲斐あってか、執事が駆け付ける頃には、レティシアは水を吐き、げほげほと咽せ込んでくれた。
 共犯の侍女は、汗だくになりながらも安堵すると、レティシアの背中を優しく摩って、泣き崩れながら、何度も何度も許される事のない謝罪を繰り返した。
 しかし、それも束の間、一人の執事が駆け付けて浴室に入室したので、びくっとして侍女はレティシアから離れた。
 ひどくむせ込み、激しく呼吸を繰り返して苦しそうなレティシアと、ひたすら謝罪を繰り返す共犯の侍女と、一点を見つめたまま笑みを浮かべながら、ぶつぶつと何か言っている主犯格の侍女――。
『な……何が……! くっ……』
 驚愕した執事がその光景を見るなり、大体の事を理解してすぐに最優先にすべきレティシアの元へ駆け寄った。
 身体をバスローブで包み抱き上げると、侍女二人を睨み付け、声を荒げた。
『――入室を許可する! この者達をひっ捕えろ!』
 その瞬間――。

『『『『『――ははっ!』』』』』

 浴室なだれ込むように浴室に入ってきた兵達――。
 兵に取り囲まれ、突き付けられるその剣と槍――。突き付けられたその現実に、共犯の侍女は息を呑んで顔を青褪めさせた。
 共犯の侍女は、何か弁明のひと言でも言ってくれないのかと、主犯格の侍女に視線を向けたが、その時、何も救いなど得られないことを悟り、肩を落とすこととなった。――主犯格の侍女は、ちらりと共犯の侍女を見ると、にやっと口元を満足気に緩ませた後、再び、呆然と一点を見つめては、ずっとぶつぶつと何かを呟いているだけになってしまった。

 騙されていた――――。

 完全に精神が壊れた主犯の侍女と――、主犯の侍女に騙され、共犯にさせられてしまった侍女――。
 二人はあっという間に捕らえられることとなり、レティシアは、執事によりすぐに医師のもとへと運ばれ、事なきを得たのであった。
 レティシアは、魔法訓練の事故以降、確かに怯えた時以外言葉を発しなくなり、とてもこのような仕打ちを受けたとしても、それを誰かに伝えられる術を持っていなかったため、標的とするには絶好の相手だっただろう。
 とはいえ、眠っている他の感情も意識も、ちゃんと心のどこかに存在している筈だ。
 
「――絶対に許せないと思った……。皆、多分誰もがそう思ってたと思う。主犯格の侍女は死刑。そして、共犯の侍女も同罪になるから同様にと、思ったんだけど……一度死刑が宣告されたものの、途中で変更になって随分と寛大な処置になった……俺は、今でも納得していない」
「寛大な処置……?」
「……一応、主犯格の侍女も共犯の侍女も、どちらもレティに与えた苦しみを、自分達も味合わせられるという――擬似再現刑も処された。当然、二人とも必死に助けを求めながら、レティよりもっと長時間、死なせないギリギリの所で繰り返せるようにして、刑を受けさせられたそうだ。その後、いつ来るのかわからない死刑の執行日を待つだけの日々を、牢の中で待つことになった。主犯の侍女は、精神がある意味正気に戻り、死刑の日をかなり怯えて過ごすようになったらしい。そして、共犯の侍女は、牢の中から何度も、レティへの謝罪を泣きながら懇願していたそうだ。レティへのお目通りなど、叶うはずもないけどな……。しかし、共犯の侍女だけは、突然牢から出され、父上の元へと連れていかれたかと思うと、解雇と国外追放を言い渡された……」
「そ、それだけ……?」
「――刑の変更理由は、母上の希望だ……。共犯の侍女が、咄嗟にレティシアの蘇生に尽力していなければ、今頃はレティが手遅れになっていたと、医師も言っていた。そうならずに済んだのは、この侍女のおかげでもある。酌量の余地を与えてあげて欲しいと…………」

 だから今も、その侍女がどこかの地で、ひっそりと暮らしているかと思うと――と続けたミグは、夜空を見上げたまま息を吐いた。

「ミグ様……」
 リュシファーは何とも言えない気持ちになった。


 ――かくして、このことはこの国に大改革を起こすきっかけとなった……にも関わらず、その背景についての一切は、闇に葬られるように、国王の命により、幾重にも箝口令が敷かれることとなる。

『今回起きたこれらの全件については、一切口外することを固く禁ず――』

 ――――……


「……父上は、使用人全員を尋問して、処罰するか残らせるかの判断を、全て母上に決めさせた――。自白する者、偽る者、本当に加担していない者……それらの判断の最終確認として、レティと俺も呼ばれた。この頃、レティは優しい侍女、怖い侍女、優しい執事、怖い執事はちゃんとわかってたからな……。怖い方の者に対峙したら、俺の後ろに隠れる程度には回復していたから、嘘を述べた者を判別するには、適任? その反応も使って、城に残留させた者、罪に問われた者、辞めさせられた者、軽い罰で済んだ者、今でも牢にいる者、そして死罪とされた者――大掛かりに大掃除が行われたんだ。そして、大改革」

 国王は宣言した――。
『――お前達が我が愛するリーディア及びその子らを、妾や妾の子と蔑んで来た事実も全て知っている。もっと早くに行動を起こしていれば……このような事は起きなかっただろう。皆がどんなに反対しようとも、私は愛する女性と愛する子供達を守りたいのだ……。このような悲劇を招くような一夫多妻制度は、廃止しようと思う……! 従って、この国に側妃という存在は、もうこの国には存在しない……! 来年、喪が明けたと同時に、『一夫多妻制の廃止』、そして、このリーディアを側妃ではなく『正妃』とする!』
 その国王の言葉に圧倒され、誰もしばらく言葉を発しなかった――。
 しかし、実際に二人が命を狙われていた事実と、今回もレティシアが殺されかけたばかりのこのタイミングでは、最早、誰もそれに意を唱えられる者はいなかった。
 拍手喝采が巻き起こり、皆、歓声を上げて賛同したのであった。そして、その国王の宣言通り、翌年、側妃リーディアは正妃となった――。

 ――――……


「――それで、レティのあの魔法訓練の事故のことも、その時代に含まれるだろう? だから、一斉に大掃除もしたし、新しく入って来る者達には関係のない話だし、その時代のことは、もう思い出さなくて良い。蒸し返す事も禁じる。だから、此度、残留することとなった者達も、誰も報復なども恐れなくて良いって言ってさ……」
「それで、色々と箝口令が敷かれたのか……」
「あぁ。それに、夕食前にも言ったけど、レティは、次第に元通りになっていって、数ヶ月後、ある程度ふつーに喋れるようになったことで、魔法訓練の事故を含むその時までの記憶が一部なかったことがわかった。つまり、あんなひどい目に遭わされ、自分が殺されかけた事実も、そんな大掃除が行われたことも、大改革が起こったことも……当然何も知らないようだった。母上が正妃になってから、部屋も今の部屋に移動したんだけど、前は二人でひとつの部屋で過ごしてたから、そういうことはちゃんと理解はしていたけど。どこか大事な部分が抜け落ちている感じで……。でも、考えようによっては、レティがあんなひどい目に遭ったことを覚えていないのは、むしろ好都合じゃないかと皆、少し喜んでもいたんだ」
「――いや、待て……それは…………」
「……さすが。リュシファーは気付いたよな……。このことに対して医師も、顔を曇らせて衝撃の事実を俺達に告げたよ……。『――魔法訓練の事故の時も、極度の恐怖心が精神を壊しました。この事件のことを覚えていないのも、それは、きっと脳の防衛本能でしょう。それらに耐えられるだけの強さが、姫様にはなかった。だから、それを守るため、脳が記憶を失わせている。決して、お喜びになれることではありません』って……」
「……やはりな……おそらく、記憶していたらバカ姫は、耐えられない程に――怖かったんだ……本当に……元々恐怖で精神を壊した状態にあったのに、さらに恐怖を上塗りしたんだ。何て事を…………くそ……」
「……断片的な記憶ひとつが引き金となって、連鎖的に何を思い出すかわからないから、魔法訓練の事故のことを思い出させたあの教育係の行いに対して、父上が激怒したのもそのせいなんだ。何ともなくて良かったけどな……これが全容。長々と暗い話聞かせてごめんな。本当は、知らなくても……いい話だ」
 ミグは話を終えると、深く息を吐いた。その表情は、どこか切なげであった。
「……いや、そんな事はないっ。知れて良かった……」
「そう……?」
 そう言ったミグが、塔上の格子に手をかけ、どこか儚げな横顔で遠くの空を見つめている。吹く風がサラサラとミグの髪を静かに揺らす。
「あぁ、本当に……」
「……それなら、良かった。……俺さ……もう、二度とあんなレティ、見たくないんだ。今後、何があっても俺が守ってやるって……そう思って、自分なりに陰でめちゃくちゃ努力して来たつもり……。俺達は双子、このままレティが、魔法使ったりする事ができなくても、あいつができないことは、俺ができればいい――って思ってさ……」
 ミグのその目の端に、涙が溢れているのを、リュシファーは見て見ぬふりをした。多分、まだ言葉は続く。今は黙っていようと、リュシファーはミグの言葉を静かに待った。
「……でも、俺だけじゃ、レティを何とかしてやれないって……思うんだ。守ってはやれるけど、何とかしてやれるのは……リュシファー、お前なんじゃないかって……。だから……」
 ミグは、リュシファーの方に向き直ると、頭を下げた。
「レティを……頼む……」
「ミグ様……頭を……上げてくれ。俺に……どこまでの事ができるかは、わからんが……、言われなくとも、自分の意志で、できるだけの事をしようと、思っている……。さっきの話を聞いて、本心からそう思った……。すまんな……。話の途中でも、頭の中でお前達に土下座して謝っていたんだが……。正直、怒られるのを承知で白状すると、自分の愚かさを悔いていた……」
「え? 何言ってるんだ。リュシファーは、あのレティをよく手懐けてると思うし、よくやってくれてるじゃん」
「い、いやそれは、たまたま良い交渉材料を拾ったからであって……いや、そんなことはいい。ここの仕事の話を頂いた時、内心、そんなぬるま湯に浸かって来た王子や王女の勉強やお守りなど……何故この俺が? とか思ってた。それでも、一応わざわざ一国の宰相殿が、陛下直々の書状を持って来られたわけだしな。考えても見れば、一国の王室の教育現場の経歴ができるのは悪くないし、何より給料は破格だったからな……。ま、仕方ないから教えてやるかくらいの……超上から目線で引き受けたんだ。……しかし、お前達は、ちっともぬるま湯になんて浸かってきてはいないと、さっき知って……知らなかったとはいえ、す……すまなかった……!」
 リュシファーは、本当に土下座して謝罪したが、頭上から噴き出したミグの笑い声が聞こえてきた。
「ぶっ……! あはははは! あーもう顔上げて。俺ほんと、リュシファーのそーゆーとこ好きなんだけど、フツー言うー? いいよいいよ。気にしないで。そー思って当然だと、思うから」
 ミグはリュシファーが、他の教育係のように一切畏まったりしないところに、好感を持っていた。
 顔はゆっくり上げるも、申し訳ない気持ちが済まず、リュシファーは異次元空間から、ある物を取り出してミグに捧げる。
「……めちゃくちゃ反省してる。……許してくれとは言わないが、一応コレを渡しておこう――」
 そう言ってリュシファーは、指輪をミグに渡した――。
「え、プロポーズでも……? きゃ⭐︎」
 ミグはふざけて照れたフリをしている。
(こいつは……はぁ……やれやれ)
「違う……はぁ……。俺の助けが必要な時、これを使えば俺に助けを呼べる。……高位魔術師様を呼べるなんて、そんな機会そうそうないぞ」
「えっ、マジ……⁉︎ 貰っていいの⁉︎」
 この指輪には、対となる指輪があり、リュシファーがそれを持っている。渡されたこの指輪に、ミグが唇を付け、強くリュシファーを呼ぶように念じれば、リュシファーは指輪の持ち主のいる場所を、すぐに感知することができる。そして、その指輪の持ち主の所まで、転移することができるため、すぐに駆け付けてやることが可能なアイテムだ。
「……ただし、俺が『行かない』という選択肢も取れることを、忘れるな……? 俺の力が必要ではないような、くだらんことにやたらと呼び出すようなら――という意味だ。安心しろ……今後、何があるかはわからないし、一応、呼び出しにはなるべく……いやちゃんと、応えるつもりだ」
「わ、わかった」
 レティシアには、詫びるような理由も説明することができない以上、こんな物渡したら『突然何それ。……何でそんな物くれるの?』とでも言われそうなので、リュシファーは機会を見て渡すしかないと、ミグに説明しておいた。

「――じゃ、遠慮なく貰っておく。もしピンチに陥ったら使わせて貰う」

 ――ミグは、『高位魔術師召喚リング』を手に入れた!

「あぁ、遠慮なく――。そうだ。少し気掛かりな事があるんだが、バカ姫が使ったという魔法なんだが、炎を纏った二匹の龍と言ったよな? それ……あった。これだ――」
 思い出したかのようにリュシファーは、一冊の本を異次元空間から出した。



 ――『高位召喚系統魔法Ⅳ火の書』



「この中にバカ姫が使ったと思われる魔法が載っている。これは、エル学――あ、エルフィード王立学院でも上級生になってから、そして、習う前にもその資格があるか、試験も行われてから習う……危険取扱レベルの高い魔法だ」
「!」
 リュシファーが、冗談を言っている様子はない。
 ミグもそれをわかっていながら尋ねた。
「――あ、あの魔法って高等魔法なの――!?」
「……あくまでも特徴を聞く限りだがな。んー。何なら、確認のために使ってみてやってもいいが――」
 リュシファーが手を上げそうになった所を、ミグは物凄く慌てて下ろさせた。
「い――やいやいや! こんなとこで、あんなの簡単に使うとか無理無理無理っ!」
「ぶふっ、はっはっは。いやー……。はー、ごめん。冗談だ。言ったろ? 危険取扱レベルの高い魔法だと。こーんなとこで使ったら、俺も免許剥脱される」
「……なーんだー。はあー。焦――ったー。今、使うって言われて思い知ったけど、あれ、めちゃくちゃ恐ろしかったからね。心臓ドキドキしてるし。まあそれで? 高等魔法の何て魔法なの?」
「俺が知る限り、それは火炎龍ドラゴンフレイズ……召喚要素を持つ火の魔法で、火炎をその身に纏った龍を二匹召喚し、対象物を燃やし尽くす高等魔法」
「――ドラゴン……フレイズ……」
「ただ、詠唱呪文を知る筈もない幼い少女が、そんなものをどうやって……おまけに詠唱無し……。ちょっと考えにくい……。でも、特徴を聞く限り、間違いないと思うんだよなぁ。対象物が木で幸いだ……とにかく、魔力資質がどうのと疑う余地もなく、どちらにせよバカ姫の魔力は高い筈だ。ただ、幼かったから……精神力的な部分が、火炎龍ドラゴンフレイズを使う段階には足りていなかったという可能性を考えていた……。そんな物を使ってしまったのも、魔力の高さ故に経験する弊害……魔力暴走。……バカ姫が感じて来た怖さも、こう言っては何だが、試練――のような乗り越える必要があるものだ」
「……試練……」
「その時点で、良き師について制御について訓練していれば良かったが、今の今まで何もしていなくて、魔法すら使ってこなかったとなると、少し厄介だがな…………ふーむ」
 ミグとリュシファーは、しばしレティシアについて議論し、やはり、このままその資質を眠らせておくには、確実に勿体ないことだと結論付けた。

 そして、ミグとリュシファーは、レティシア魔法克服計画を、夜遅くまで練ったのであった――。

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