従者は惜しみない愛を捧げる―――流浪の落ち延び姫と双頭の獅子

麻倉とわ

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誘い

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 それから四年の月日が流れた。

 屈強だったルキノが病で亡くなり、他の使用人たちも離れていく中、最後まで残ってくれたのがエンマとリナルドだ。

 しかしガルディニの探索がやむことはなく、アマーリアたちは執拗に追われ続けてきた。もし妃のカタリーネに子どもが授からなかった場合、妹を代わりにするつもりだったからだろう。

「でも、お世継は無事に生まれたわ」

 アマーリアは上がり続ける花火を見やり、小さくため息をついた。

 王子の誕生によって、状況は大きく変わったのだ。
 予備の駒だったはずのアマーリアは今、王家の血を引いているがゆえに、現国王にとっては邪魔な存在となった。
 いずれ誰かと契って出産すれば、その子がかつぎ上げられ、後継者争いが起きるかもしれないのだから。

 相手の出方も、これまでとはまったく変わってくるだろう。
 追跡はいっそう厳しくなるはずだし、もしつかまれば間違いなく殺される。先々の安寧を乱すかもしれない芽を摘むために。

 とうとう覚悟を決める時が来たのだ。

「長く、つらい旅……そう言いましたね?」
「申しました」
「では、リナルド。どうかわたくしを助けてください」

 アマーリアは背筋を伸ばし、跪くリナルドの方へと歩き出した。

「それは……もちろんでございます」

 主の言葉が意外だったのだろう。リナルドが怪訝そうな表情で立ち上がる。

 アマ―リアは忠実な従者の前に立つと、おずおずとその手を取った。

「まだ時間があるのなら、わたくしに思い出をください。これから何があっても、乗り越えられるように」
「思い出?」
「お願いです、リナルド。わたくしの純潔を散らしてください」

 瞬間、傷痕の残る白い頬に朱が差した。

 今、互いの顔は息がかかりそうなほど近くにあった。

 たとえば剣術の稽古で、勢い余ったアマーリアがリナルドの上に倒れ込んだことがある。そんな時でさえ落ち着き払っていた彼が、凍りついたように動けずにいた。

 だがアマ―リアが右手を伸ばし、頬の傷にそっと触れると、リナルドは弾かれたように後ろに下がった。

「アマーリア様、お戯れはおやめください。俺のような卑しい者が、王女様に触れていいわけありません。第一、控えの間には侍女のエンマもおりますし」
「いいえ、エンマはいません。今日の夕方、暇を出しましたから」
「アマーリア様」
「今この屋敷にいるのは、わたくしとあなただけです。そして願いをかなえてほしい相手も……あなただけ」

 その誘いがどれほどはしたないものか、アマーリアもよくわかっていた。

 それでももう始めてしまったのだ。アマーリアが正しい道を選ぶためにも最後まで進むしかなかった。

「リナルド、わたくしは――」

 再び近づいて頬を撫でようとすると、リナルドはその手をそっとつかんだ。

「後悔なさいますよ」

 アマーリアを映す緑の瞳は悩ましげに揺れている。

 けれど常に敬意と忠心に溢れた彼の視線に、ごくたまに濃厚な欲望の色が混じることに、アマーリアはずいぶん前から気づいていたのだった。
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