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愉悦の果てに

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 蝋燭の明かりが揺らめく寝室に、あえかな嬌声と淫靡な水音が響く。

 簡素な寝台の上では一糸まとわぬ姿のアマーリエに、半裸のリナルドが覆いかぶさっていた。

「あっ! あ、あ」

 雨のように落ちてくる接吻と、絶え間なく施される巧みな愛撫――リナルドはどこまでも優しく、アマーリアは全身を桜色に染めながら震えていた。

 恥ずかしくてしかたないのに、快感を追わずにいられない。
 嫁ぐ日のために房事について教えられてはいたが、初めて知る行為は想像をはるかに超えていた。

 リナルドの指や唇は信じられないようなところに触れ、優しく探り、未知の扉を次々と開いていった。何かされるたびに、両脚の間にある秘められた場所が疼いて、とろりと蜜を零す。

 アマーリアは怯えながらも愉悦に酔いしれた。

「だめぇ……そんな」

 自分の声とは思えないような鼻にかかった喘ぎ声。

 しかしいくら訴えても、リナルドは甘い攻撃をやめてはくれない。

「望んだのは……あなたです、アマーリア様」

 ただ囁かれるだけでも妖しい刺激を感じてしまうのに、ふいに右胸の頂に口づけられた。唇で肉粒を挟まれ、舌先で突かれて、閉じた目蓋の裏で白い光が弾けた。

「やうっ!」
「かわいらしい方だ、本当に」

 性戯に不慣れで生硬な身体を気遣ってくれているのだろう。
 リナルドは決して急がず、丁寧にアマーリアを追い上げる。

(わたくしはずっと……こうしてほしかったのだわ)

 リナルドと肌を合わせたのは、ある目的を果たすためだ。

 それなのに快楽の渦に巻き込まれ、そのまま押し流されそうになる。何年も一緒に過ごすうちに、アマーリアは献身的な従者に心惹かれるようになっていたのだから。

 いつからリナルドの姿を目で追うようになったのだろう? 

 旅の途中、森で襲ってきた獣を切り捨ててくれた時? 
 それともまったくの初心者であるアマーリアに、根気よく剣術を教えてくれた時だろうか?
 いや、もしかしたら初めて会った日に、もう恋に落ちていたのかもしれない。

 リナルドは常に一番重い荷物を持ち、誰より先に起きて、床につくのは最後だ。口数は多くないが、心が折れそうになった時は必ず隣で励ましてくれた。

 けれども彼への想いが深まるにつれ、アマーリアの胸にはある疑惑が芽生え、その暗い影は日ごとに大きくなっていった。こうして抱かれている今でさえも。

「リナルド、待って……お願いだから」

 さんざん喘がされ、掠れ始めた声で、アマーリアは懸命に訴えた。

「わたくしに……あなたのすべてを見せて……どうか今宵の思い出に」
「かしこまりました」

 リナルドには睦言のように聞こえたかもしれないが、狙いは別にあった。
 アマーリアは彼の身体に刻まれているかもしれない標を探そうとしていたのだ。

 本当はそんなことをしたくなかった。きっと何も見つからない、リナルドに裏の顔などあるはずがない――何度もそう思い込もうとしてきたけれど。

 ほどなく蝋燭の明かりが、軍神のように鍛え上げられた肉体と、その中心で息づく欲望を照らし出した。

「お許しください、アマーリア様。俺は……あなたをお慕いしておりました。従者の身でありながら、もう何年間も」
「うれしいわ、リナルド」

 両脚を割り開かれ、熱杭に穿たれて、アマーリアは泣きながら呟く。
 その言葉に嘘はなかったが、もはや幸福な未来を夢見ることはできなかった。

 耳の奥で、母から聞かされた子守歌が鳴り響いていたのだ。

 ――二つの頭を持つ獅子が、近づかないよう守ってる

 リナルドの下腹部、ちょうど臍の右下あたりに双頭の獅子の刺青が彫られていることを、アマーリアははっきり確認してしまったのだから。
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