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アイスクリームショップのショパンさん
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「あ、お面!」
長い待ち時間を紛らわすためだろう。ショップのスタッフらしいかわいい女の子が、並んでいる子どもたちにお面を配っていた。
「やった!」
「ありがと!」
ハロウィン用のオレンジのカボチャや黒猫のお面をもらって、子どもたちが歓声を上げていたが――。
「見て、ちあちゃん。あの人、大人なのにお面もらってる」
順がおかしそうに呟いた。ひとりおいて、前に並んでいた長身の男性が白いゴーストのお面をもらっていたのだ。
「変なの! 子どもじゃないのに」
「だめよ。そんなこと言っちゃ」
しかし順の声が聞こえたのか、その男性が振り向いた。
「えっ?」
瞬間、千晶は大きく息を呑んだ。
(う……そ)
特徴あるアッシュブラウンのくせ毛、お面がうれしいのか少しほころびかけている形のいい唇。
やはり勘違いではない。
先日のように黒いサングラスをかけていて目元は見えなかったが、そこにいたのはまぎれもなくアンジェロ・潤・デルツィーノだったのだ。
味気ない検査着姿でもかなりめだっていたが、私服姿のアンジェロは高級ブランドの広告から抜け出してきたかのように見えた。
ベビーブルーの薄手のニットと細身のデニム――何気ない格好なのに、ビレッジでよく見かけるおしゃれな人たちにも負けていない……というか、むしろ完勝している。なにしろみんながチラチラと彼に視線を向けているのだから。
だが千晶はすぐに目をそらした。健診センターの看護師のことなど、彼がいちいち覚えているわけがない。だいたい途中からはあんなに不愛想だったのだから、忘れていてもらう方がいい。
ところが次の瞬間、信じられないことが起きた。
「……三嶋さん?」
アンジェロが名字を呼んだのだ。
「三嶋さんですよね、メディカルプラザの?」
「えっ? あ、ああ、はい」
反射的に返事はしたものの、千晶はそのまま固まってしまった。
(何で?)
アンジェロはサングラスを外して、まっすぐな視線を向けてきた。やはり千晶を覚えていたらしい。しかも名字まで。
「僕のこと、わかりますか?」
「はい、アンジェロ……デルツィーノさんですね」
紅茶色の瞳には、うろたえきった自分の顔が映っている。
まさか一昨日の対応がそこまで気に障ったのだろうか? まだ怒っていて、病院にクレームを入れられたらどうしよう? もはや悪い予感しかしなかった。
「ちあちゃん、この人ってお友だち?」
アンジェロと千晶を交互に見やり、順が不思議そうに訊いてきたのだ。
するとそれが聞こえらしく、二人の間に並んでいた上品な老婦人が振り返った。
「あなたたち、お友だち同士なの? だったら、どうぞお先に」
「あ、い、いえ、大丈夫ですから」
「あら、いいのよ。遠慮なさらないで。あなた、お子さんも一緒なんですもの。さあ、どうぞどうぞ」
「……どうもありがとうございます」
親切な申し出を頑固に断るのも気が引ける。千晶はしかたなく順と共にアンジェロのすぐ後ろに移動した。
長い待ち時間を紛らわすためだろう。ショップのスタッフらしいかわいい女の子が、並んでいる子どもたちにお面を配っていた。
「やった!」
「ありがと!」
ハロウィン用のオレンジのカボチャや黒猫のお面をもらって、子どもたちが歓声を上げていたが――。
「見て、ちあちゃん。あの人、大人なのにお面もらってる」
順がおかしそうに呟いた。ひとりおいて、前に並んでいた長身の男性が白いゴーストのお面をもらっていたのだ。
「変なの! 子どもじゃないのに」
「だめよ。そんなこと言っちゃ」
しかし順の声が聞こえたのか、その男性が振り向いた。
「えっ?」
瞬間、千晶は大きく息を呑んだ。
(う……そ)
特徴あるアッシュブラウンのくせ毛、お面がうれしいのか少しほころびかけている形のいい唇。
やはり勘違いではない。
先日のように黒いサングラスをかけていて目元は見えなかったが、そこにいたのはまぎれもなくアンジェロ・潤・デルツィーノだったのだ。
味気ない検査着姿でもかなりめだっていたが、私服姿のアンジェロは高級ブランドの広告から抜け出してきたかのように見えた。
ベビーブルーの薄手のニットと細身のデニム――何気ない格好なのに、ビレッジでよく見かけるおしゃれな人たちにも負けていない……というか、むしろ完勝している。なにしろみんながチラチラと彼に視線を向けているのだから。
だが千晶はすぐに目をそらした。健診センターの看護師のことなど、彼がいちいち覚えているわけがない。だいたい途中からはあんなに不愛想だったのだから、忘れていてもらう方がいい。
ところが次の瞬間、信じられないことが起きた。
「……三嶋さん?」
アンジェロが名字を呼んだのだ。
「三嶋さんですよね、メディカルプラザの?」
「えっ? あ、ああ、はい」
反射的に返事はしたものの、千晶はそのまま固まってしまった。
(何で?)
アンジェロはサングラスを外して、まっすぐな視線を向けてきた。やはり千晶を覚えていたらしい。しかも名字まで。
「僕のこと、わかりますか?」
「はい、アンジェロ……デルツィーノさんですね」
紅茶色の瞳には、うろたえきった自分の顔が映っている。
まさか一昨日の対応がそこまで気に障ったのだろうか? まだ怒っていて、病院にクレームを入れられたらどうしよう? もはや悪い予感しかしなかった。
「ちあちゃん、この人ってお友だち?」
アンジェロと千晶を交互に見やり、順が不思議そうに訊いてきたのだ。
するとそれが聞こえらしく、二人の間に並んでいた上品な老婦人が振り返った。
「あなたたち、お友だち同士なの? だったら、どうぞお先に」
「あ、い、いえ、大丈夫ですから」
「あら、いいのよ。遠慮なさらないで。あなた、お子さんも一緒なんですもの。さあ、どうぞどうぞ」
「……どうもありがとうございます」
親切な申し出を頑固に断るのも気が引ける。千晶はしかたなく順と共にアンジェロのすぐ後ろに移動した。
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