上 下
11 / 50
ジェラートよりも甘いキス

1

しおりを挟む
 店のオーナーは片桐啓一と名乗り、アンジェロだけでなく千晶のことも笑顔で歓迎してくれた。

「いや、驚きました。来日したばかりのアンジェロが、こんなすてきな女性を連れてくるなんて」

 千晶は店の二階に併設されたカフェに通され、ジェラートと一緒にエスプレッソを振る舞われていた。順も出されたオレンジジュースをおいしそうに飲んでいる。
 このスペースはまだオープンしていないので、広い店内にいるのは千晶たちだけだ。それがなんだか申しわけなく思えてしかたないのだが、

「アンジェロ、オレンジは何ていうの?」
「アランチアだよ」
「じゃあ、オレンジジュースは?」
「アランチャータ」

 アンジェロと順はすっかりくつろいでいる。
 そんな二人を眺める片桐もなんだかうれしそうだ。

「こいつ、意外と気難しいでしょ? 仲良くしていただいて、本当にありがとうございます」
「いえ、そういうわけでは……あの、本当にたまたまなんです」

 妙な誤解をされたら、またアンジェロが気を悪くするかもしれない。
 しかし千晶が否定しても、啓一は「まあまあ」とニコニコしていた。

「俺、イタリアにいた時にこいつのご両親にすごくお世話になりまして……アンジェロは弟みたいなもんなんです。せっかくいらしたんだから、どうぞゆっくりしていってください」
「どうもありがとうございます。ジェラートもエスプレッソもすごくおいしいです。でも、こちらのカフェって、まだオープン前ですよね。お邪魔しちゃってすみません」
「いえいえ、かまいませんよ。ちょうど今夜は開店祝いのパーティーで使いますし」

 千晶たちがいるカフェはかわいらしいアイスクリームショップとは違って、上品で落ち着いた雰囲気だった。
 中央に大きなグリーンが飾られ、テラコッタの床には、しゃれたアイアンの椅子やターコイズブルーのソファがゆったりと配置されている。奥には大きなグラウンドピアノも見えた。
 ここでなら、確かに時間を忘れてくつろぐことができそうだ。

「実は今晩アンジェロがピアノを弾いてくれるんだけど、もしよかったら――」
「待って!」

 それまで黙ってジェラートを食べていたアンジェロが啓一を遮り、いきなり立ち上がった。

「あの――」

 千晶があっけに取られていると、「三嶋さん」と呼びかけられた。

「よかったら、僕と一緒に出てくれませんか?」
「えっ?」
「今夜の、ここのパーティーに」

 アンジェロは千晶を見つめながら答えを待っている。どうやら本気で誘ってくれているらしい。

(パーティーって、あのアンジェロ・デルツィーノと一緒に? しかも彼の演奏つき? だけど……どうして私?)

 アンジェロのことがますますわからなくなった。
 健診の時はあんなに不機嫌だったし、今日も偶然顔を合わせただけなのだ。しかも彼と順はずいぶん仲がよくなったようだが、千晶とはほとんど話していないのに――。
 千晶は驚き過ぎて声も出なかったが、代わりに反応したのが順だった。

「パーティー? いいよ! わあい、楽しそう!」
「ち、ちょっと順!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

おっさんの異世界建国記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:971

 異世界転生した飼育員はワニチートでスローライフを送りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:201

風の魔導師はおとなしくしてくれない

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:402

会長の親衛隊隊長になったので一生懸命猫を被ろうと思います。

BL / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:684

冷徹社長の容赦ないご愛執

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:198

女神の箱庭は私が救う【改編版】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:334pt お気に入り:35

盤上に咲くイオス

BL / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:174

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,195pt お気に入り:1,341

好きになってしまいました

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:727

処理中です...