ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori

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29話 女神の痕跡 2 

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 ゴードンが一番気にかけていることを質問する。

 「それでエリオンは?君は何故ここへ?」

  そうだよね、満足して令嬢ウォッチングをしていたのなら、ここに来る必要はない。
ヤルゲルトも急に口が重くなる。

 「それが・・・4,5ヶ月も経ったらなんだか回りがキナ臭くなって・・・
 エリオンがろくに冒険者活動をしていない我々は不審に思われ始めているかもしれないと。
我々余所者は領境のそばにあるフィーゲルの領都から出られないので、あまり仕事がないのです。
それでも令嬢を見ていたくてがんばっていたのですが、とうとう宿に乗り込まれて。
なんとか逃げ出し死に物狂いで街から抜け出し、兵の来ない森へ逃げ込んだときには2人共ぼろぼろでした。
しかし、フィーゲルの私兵は領を出ても追いかけてきて・・・途中ではぐれました。

エリオンが常々何かあったらジルベスター様のことろへ行け!と言っていたので・・・なんとかここまで」


 「ヤルゲルト、君は怪我を・・・」

 「はい、肩に矢傷と太腿を槍が掠りましたので、動きが困難になりました」


  俺たちは顔を見合わせた。なんなんだこれは?おかしくないか?
まあいい、俺はブレスレットから薬珠を出すと、水と共に差し出した。

 「少しは楽になる、これを飲んで眠るように」
  
  ヤルゲルトは大人しくうなずいて、薬を飲んだ。
あれだな、俺だって、いつも強圧的な言葉で薬を飲ませるわけではない。それにうそは言ってないぞ。

  
  手も付けられていない酒は俺たちで飲むことにした。
それに薬珠を飲んだからには、身体が痛くなることもないだろう、ヤルゲルトはほっておこう。




「これはどういうことだろうね」

 俺の言葉が空しく聞こえる。だって訳が分からない。

「魅了では?」

「男爵令嬢に続いて彼女まで?」

「ありえないと言えない所が辛いね」

「あれほどまでに敵対していた人間を好きになるものでしょうか?」

「そうだね、少し前までは罵っていたのに。
ありえない・・・やはり、これはなんらかの力が働いていると思った方が自然だね。

それとせっかく令嬢が魅了した人間を私兵がなんで殺そうとする?
ここも矛盾点だ。
令嬢は魅了の力が発現したのを知らないのかもしれない」

「ひとつ分かることがあります。
侯爵令嬢を見かけたら、可及的速やかに逃げるです。

私は父に言われていた言葉を思い出しました。
まだ幼児のころ、大きな犬に向かっていこうとした私の首根っこを掴んで言ったものです、逃げるのが正しいこともあるんだよと」

「君のあまりの無謀さをとがめるべきか、あの団長が意外と沈着冷静で攻撃的でないことを讃えるべきか、迷うところだね、まあ人知の及ばない力だ、ふつうはそれが最善だ」

 俺は親指を立てて、にかっと笑う。

「言い忘れていたけれど神の最初の手紙にあった。俺たちだけは大丈夫だそうだ。

それにフィーゲル領のことが分かったのは助かった。
かなり守りを固めていた様だが、これは思わぬ手柄だね」

「ヤルゲルトの話だけでお分かりになったと・・・」

「多分ね、それで聞きたいことが出来たのだけれど、牛馬の出産に人が手を貸してはいけないというのは聞いたことがあるかな?」

 2人共首を傾げている。宮廷貴族の2人に聞いた俺が馬鹿だった。
よくは知らないが、馬の出産は特に人の手がいるのではなかったか?
もしそうなら、世話を受けていない家畜の出生率が低くなるのも仕方がない、逆子とかあるし、昔見た馬の出産動画は大変そうだった。
それにノーフォーク農業、石鹸、学校・・・転生者確定で魅了の力をあのときに授かった?

 翌日、目を覚ましたヤルゲルトは泣かなかった、助かる、野郎の涙を見たいとは思わないからな。
本人曰く、侯爵令嬢に心引かれたときから、男爵令嬢のことはまるで気にならなくなったそうだ。
ロマンチックな言い方をすれば、彼女の記憶は霧の彼方にあるように、定かでなくなったそうだ。そして週に一度でも侯爵令嬢の姿をみれば幸せな気持ちになれたそうだ。
俺たちが書き記した記録を見せても、ぴんとこないようで、そういえばそんなこともあったなと言うだけの彼に、ゴードンは憮然とした表情をしていた。

 ゴードンとオリバーは男爵令嬢の記憶に、もしかしたら今でも苦しめられているのかもしれない。

 俺たち3人とは大分内容が違うが、ヤルデルトにも自分史を書かせた。
侯爵令嬢に対してはストーカーではあったが、そんな言葉はこの世界にない。なので、淡い思いを彼女に抱いていたとしか思っていない。それはそれで自己肯定ができ、まあ、幸せな時間だったで済んでいる。

 でも、やっていることは完璧にストーカーだぞ。

 男爵令嬢に関しては、当然そうもいかず頭を抱えていた。
そうだろう、そうだろう、一人だけ黒歴史から抜けようとするのは許さないからな。

 結局、3日ほどオリバーとゴードンと共に、そうやって過ごさせ体力の回復を待った。
薬珠を飲んだ翌朝には、健康体と言ってもいい状態になっていたようだが、気持ちが追いつかないかもしれないので休養は必要だ。
尚、薬珠で傷が治ったのは最重要機密にも等しいので、たとえ教官にも言わないように口止めした。

 その間に、こちらは大詰めに入った石鹸の販売計画を進めた。
本来なら、買えるだけの数の石鹸を即金で買い取ってもらい、残りは様子を見てと思っていたのだが、そうもいかなくなった。エリオンを探しに行かなくては。
 初めての試みだからと言い訳をつけて、前金は貰ったが、委託販売の形を取り、大量の石鹸を商人たちに押し付けた。
俺はいなくなるのだから、後から欲しいと言われても困るだろう。

 慌しかったが、3日ですべての話をつけ、エリオンを最後に見たという場所へ石鹸販売を名目に出発する。
マルコリアに紹介状を書いてもらい、全員馬に乗る。俺たちはマジックポーチを持っているので、いつでもどこでも出かけられて便利だ。


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