ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori

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31話 エリオンを探せ

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 ヤルゲルトが最後にエリオンを見たのは、フィーゲル領と王領にまたがった森の中だそうだ。
王都とフィーゲル領は馬で4日ほどの距離で、領境を抜ける為に禁足地である森に入りこみ、そのまま追っ手を撒くつもりだったようだ。しかし、領境から3日歩き、もうすぐ森を抜けるというところで捉まり、争いになったという。彼らもよくそこまで追いかけてきたものだ。特に何もしていないというのに、何故なのだろうか?

 まあいい、まずは森の捜索だ。ここからは馬を下りて曳いて歩く。
王領の側から森番に断り、鑑札を貰って入り込む。彼に聞いたが、最近この森で騒ぎがあったという話はないそうだ。だよなー、ここは広い。俺は捜索を始めて10分もしないで後悔した。この広い森をどうやって探せばいいのだろう?

「とりあえず道があるところをしらみつぶしに歩いて探しましょう。フィーゲルの私兵に襲撃されるかもしれないことを考えると、纏まって行くのが最善だと思います、時間はかかりますがやむ終えません。

オリバー殿、道を知っている貴方に先導してもらいたい」

 オリバーが吃驚する、そうだよね、森歩きの経験が皆無の彼に先導もそしてどの道を行くか選ぶことも無理だ。
まさかのノープランの行き当たりばったりで森に入ったとか、教官そんなことありませんよね?

 俺は黙ってポーチから森番小屋を中心とした半径10キロメートルの簡易地図をだす。

「さすがです、王子が指揮官で良かったです。
ここからは森に慣れているサガードが先導、私が実働部隊の長として、指揮を取りますので任せてください」

 教官はおおらかに笑っているが、いつ俺が指揮官になった、聞いていないぞ、そんなこと。

「ははは、そんなこと、王子がおられたら自動的に貴方が指揮官になるのは決まっているではないですか。
軍法にそう記されています。
そうであるから、今までも近衛騎士たちは貴方に従っていたと思いますが」

 あれ?俺が間違っていた?王位継承権2位はこんなことでも有効?
なんだか、色々と押し付けられている感が半端ではないが、司法、立法、行政のすべてを貴族が担うのが王政と言うものだ。ましてや王族は、ということだな・・・しかたがない。

「失礼、軍として行動したことがないので、疎くて申し訳ないです」

 俺はしぶしぶ列の真ん中を歩く、周りに3人の側近、時々エリオンの名を呼び進んでいく。

 捜索もこれで6日目、地図も7枚目、だんだんフィーゲル領に近づいてきた。この森は南北に30キロほどの距離があり、そのうち5キロがフィーゲルの所領だ。もう20キロは北に進んでいる、すでに声はひそやかにして、こちらの動きも静かにしている。

 「・・・王子!」

 左斜めからかすかに声が聞こえる。みんなが、さっと振り向く。
よくは判らないが獣道がある。それを20メートルも進むと潅木が茂っていた。

「王子・・・」

 エリオンが潅木の陰に倒れている。怪我でもしているのか服は黒く汚れが付いていて、息も絶え絶えだ。 

「全員、周囲の警戒だ。オリバーたちはこちらへ」

 オリバーたちに周りを囲ませると、薬珠を取り出しエリオンの口に放り込む。これで安心だ。
服を着替えさせようと前を開けると、脇腹に抉れたような傷があった・・・あったが、忽ち塞がって、跡形もなくなった。熱かった身体も平熱に戻っていく。

 俺は何事もなかったように、服を着替えさせることにした。
誰の服が着れるだろうか?順番に側近たちを眺め回す。
ゴードンは駄目、ヤルゲルトも駄目。オリバーは大きすぎ・・・俺は背丈は同じだが、幅が・・・無念。
大は小をかねるというし、オリバーに服を出させよう。

 オリバーが着替えをやってくれた。毛布に包んで、これで一安心。
さてどうしようか。もう時間だ。昼食にしよう。

 途中からはフィーゲルの私兵を警戒して、火は使っていない。
パンにハムとチーズだ。飲み物はオレンジ水。

 野宿なのにオレンジ水が飲めるとはと騎士たちはよろこんでいた。フハハハハ、いいとも、いいとも、幾らでも飲みたまえ、俺は惜しまないぞ。

「ヤルゲルト、私兵は何人いたんだ」

「6,7人だと思います」

 そうか、どうしようかな・・・ここまで強行軍で7日、森に入って6日。いいかげん疲れも溜まっているころだ。
ここは一日ゆっくり休んで、あるかもしれない襲撃にそなえたほうが、この体格のいい男を馬に乗せて動くよりいいだろう。逃げながら戦うのはきついし、こいつが寝ていると、護衛対象が4人になって、攻撃する騎士の数が減らされる。教官も同じ判断を下した。

「ここで一日休みを取る。各自体を休めてくれ、夕食は期待してくれて良いぞ」

 夕食には熱いシチューをだした。焼きたてのパンもある。肉を焼くのはさすがに匂いで獣が寄ってきそうなので止めた。

「王子、これはどうなさったのですか」

「これは屋敷の料理人に作りたてを甕に入れさせたものです。
まだ、幾つもあります。あとはデザートに果物とクリームを挟んだガレットも用意してます」

「よく、あの忙しい中、ご指示なさいましたね」

 教官はあきれ顔をしているようだが、気にしない。
俺の側近たちは当たり前のように食べているし、騎士たちは喜んでいる。
疲れた体に甘いものはいいんだ。俺が出来る上司で君たちもうれしかろう、感謝していいんだぞ。

 翌朝も似たようなものを朝食に出し、そして昼、エリオンが目を覚ました。
こいつも俺を見て、はらはらと涙を流した。そして自分の体をさわって不思議そうにしている。

「今は場所が悪い、時間もないことだし、後にしよう。
端的に聞く、ヤルゲルトと分かれてからどうなった?」

 オレンジ水を出してやる。それをごくごくと飲むと、泣き顔のまま、エリオンは話し始めた。

「ヤルデルトと分かれた後、私は3人の兵士に追いかけられました。
傷を負い、出血も酷かったので時間は掛かりましたが、なんとか森の出口にたどり着いたのです。そこを出てあちらこちら歩いていると村があり、これで助かったと思ったのですが、隠れて覗いてみると・・・フィーゲル領のようでした。通りがかった農民がセリーヌ様がと言っていたので、このままでは不味いと思い再び森に入りました。マジックポーチに食料を沢山持っていたので助かりましたが、かなり彷徨っていた気がします。兵士と争っていた時の傷がたたり体力をなくして、距離をかせげなかったのです。身体に力が入らず木に登って方角を測ることも出来ず・・・
 
 そして・・・あたりをふらついていると木を切る音が聞こえてきました。
きこりがいるのかと思い、道を聞こうと近寄っていったのですが、何か様子がおかしいので、黙ってそこを去りました。
そのころには傷が化膿したらしく、傷は塞がっていたのですが熱で朦朧としていました。とりあえず遠くに行こうと・・・そこから離れました。
ここなら大丈夫と思えるところまできたので、なんとか潅木の茂みに体を隠し・・・でもだんだん動けなくなって・・・もう駄目かと思いました」

 そして俺に頭を下げるエリオン。

「そこで何を見たんだ、木を切って彼らは何をしていた?」

「ただ木を切って運び出していただけです。
でも、範囲がおかしいのです。見渡す限り、空き地になっていました。切り株だらけのかなり広い土地です」

「開墾していたとか?」

 いやいや自分で言っておいてなんだが、それはないな。
王領を開拓するなんて、なんなんだよ。明確な反逆罪じゃないか。

「いえ、森の中で距離が図りにくくはあったのですが、2,3キロは木が切り倒されていましたが開墾した様子はありませんでした」

 これは行ってみるしかないな、昼はじゃが芋のスープだ。消化に良さそうだろ。
しかし、エリオンは俺の心遣いを知ることもなく、がつがつとあれこれ食べている。
元気になったんだね、よかったよ・・・

 エリオンと俺、オリバーと教官と森ならこの人、サガードさん、このメンバーで動く。ゴードンはここでお休みだ。空き地までの距離はさほどなかった。熱のある身体で動いたので、実際より距離を感じたのだろう。

 背を低くして、そっと覗く。確かに広い範囲が更地になっている。
その向こうに道が出来ているような気がする。目のいいサガードさんに確かめると、道だという、幅もそれなりにありそうだ。ここに2時間も張り付いている間に2回、枝を落とした木が運ばれていく。掛け声を掛けながら運ぶから、丸分かりだ。見るべきものは見た。後は逃げるだけだ。

 もう3時近いが、まだ動ける。地図を持っている俺たちは強行軍を重ねて、次の日の夕方には森を出ていた。

「王子、あれはどうなさるおつもりですか」

「どうにもしません。証拠隠滅は難しいだろうし、今追い詰めるのは得策ではありません。
それにエリオンたちが追いかけられた理由も分かりました。

知られないように領境の森から逃げようとして、逆に森を見張っていた兵士に見つかったのでしょう。
あの森に入るなど、侯爵の弱みをつつく最悪の行為ですから」

 教官もうなずく。

「その前に彼らは育ちが良過ぎます。
目的もなく長期滞在していた彼らは悪目立ちしていただろうし、間者として問いただそうとした矢先にあの場所に踏み込んだのです。彼らもあせったことでしょう」

「この件は保留です。それよりも石鹸を売ります。売って、売って、売りまくらなければ」

 時間がない、俺たちは7,8年は遅れている。俺は拳をぎゅっと握り締めた。   

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