ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori

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1話 ディルク・バルツアーの優雅な生活

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 俺の名はディルク・バルツアー、バルツアー伯爵家の次男だ。
 通常伯爵家の次男と言えば、領政の手伝いをするものだが、頭の良い親類縁者が山のようにいるので俺は遠慮させてもらった。子供のころから騎士に憧れていたのだ。幸いにも弟がいるので、こいつに兄上の手伝いを押し付けようと考えていたのだが、あにはからんや、こいつは俺よりも脳筋だった。俺は違う。ペンよりも剣が好きなだけの健康な男子だ。

  兄上は頭を抱えていた。気心の知れた弟をこき使おうと目論んでいたようだが、俺は知らない。俺と弟の2人で強硬に主張したので2人とも王宮騎士団に入れるようになった。父上が今は叔父たちもいるし、そのうち戻ってくると兄上に告げている。騎士見習いの従士の鍛錬はきびしく、2/3は途中で止めて戻ってくる。止める人数が多いので、戻ってくるのはそれ程不名誉ともならず、バルツアー領では良い訓練を受けさせてもらったという受け止め方だ。彼らがそこそこ強くなって戻り、バルツアー騎士団で中堅を勤めているのもその評判を後押ししている。

 「遅くとも22歳には一人は戻ってくるだろうから、気が済むまでやらせておけばよい」

  父上聞こえています。騎士団は10年いても見習いから騎士に上がれなければ退団せざる終えない。だがなめてもらっては困る、俺たちは無事騎士になって、父上から<よくやった>との言葉をもぎ取って見せる。そのときの父上の渋い顔が見ものだ。

  そして4年、13歳で騎士見習いとなった俺は騎士に叙任された。忙しいので知らせは手紙で送ったが、父上と兄上の渋い顔が見えるようだ。海千山千の叔父上たちに囲まれている兄上は気の毒だと思うが、子供のころからの夢なので、これだけは譲れない。弟も俺の叙任を聞いて張り切っているようなので、多分兄上の希望はかなわないだろう。

  ただ1つ残念なのはこの宿舎から出られないことだ。王宮にある騎士団宿舎は鍛錬所まで徒歩3分という素晴らしい立地のうえ、建物が立派だ。ここは見習い希望が増えた時に、急遽建てたらしく、床はぎしぎしするし、ドアは力を入れて殴ったら、穴が開く。これは酒に酔ったときに罰ゲームをさせられた奴が実行したので、間違いない。ここに初めて入ったときに言われるのが、この建物を貴族の令嬢のごとく扱えということだった。床を踏み抜いた後もいくつかある。いい加減、王家もここを建て直してくれないだろうか。

  話がそれたが王宮の宿舎は今満杯らしい。独身者はほぼ全員が宿舎住まいをしているらしいので、彼らのうちの誰かが結婚しないと、空きがでない。騎士はもてると聞いていたのに、何故結婚しないのだろう?不思議だ。

  そういうわけで休みの日である今日も今日とて、俺はこのぼろい宿舎でごろごろしている。そろそろ腹が減ったな。俺は起き上がると、向かいにあるカフェテラスに行くことにした。ここの宿舎の飯は量はあるけれど、まずい。たまには美味しいものが食べたいじゃないか。

  しかし、俺は宿舎から出て向かいのテラスを見て、固まった。なんだ、あの美青年は!男が男を美青年というのは気色悪いが、それを超えて綺麗だ。髪は茶色で瞳も茶色、ごく普通の色を持っているだけなのに目立つ。テラスのテーブルについて、遠くを見ているだけなのに、その美しい姿に目が離せない。通りすがりの人間は横目で見ながら通りすぎていくし、店内の人間も彼を気にしているようだ。

  しばらく固まっていたが、直ぐ側のテーブルに知り合いがいるのに気が付いた。ちょっと探りをいれるか。俺は素知らぬ顔をして、近衛騎士になった先輩のエックハルト・アイブリンガーに近づいた。

 「いつ王都に戻ってこられたのですか。お会いできて嬉しいです」

  先輩は迷惑そうな顔を隠しもしない、これはもしや、あの彼の護衛をしているのか?それでも先輩は返事をしてくれた。

 「元気だったか」

 「はい、でもせっかく騎士になったのに、いまだこの宿舎から出られません」

  俺は彼のことが気になるのでこのまま話を続ける。

 「いまはここの宿舎にいるのか、不便だろう」

 「えぇ、ここからだと騎士団の演習場までは少し距離がありますから。でもあちらは今いっぱいなのです。
 団長が結婚を推奨するくらいには」

 「それは、便利なんだから誰も出て行かないだろう」

 「そうなんですよ、向こうは徒歩3分ですから」

   彼がこちらを見る、うるさかったかな。でも先輩はうなずいている。彼が何かを伝え、それに先輩がうなずいたようだ。主従で以心伝心の関係とか、うらやましいな。そして先輩はいきなり立ち上がると、俺の肩をがっしと掴んだ。

 「騎士団の宿舎の見学に行こう」

 「はっ?いまさらですか?」

  先輩だってこの宿舎にずっと住んでいたじゃないか、訳がわからない。

  でも例の彼が立ち上がって出て行こうとすると、彼のお供の男も動き、その後を先輩も追いかけていく。そして、それ以外の店の客と外にいた人間のうち何名かがさりげなく動いている。あれ、護衛の数が多い。彼はお偉いさん?きょろきょろしていると、

 「早くしろよ」

  先輩にすばやく命令された。慌てて追いかけて、彼がたどり着く前に宿舎の門扉を開ける。ぼろい建物のぼろい門扉はさびてぎしぎしとした音をたてて開いた。
  それにしても彼は誰なんだろう?先輩がとっとと裏庭を目指すので俺もついていった。
 表はそれ程ではないが、裏庭は広い。自主練習のために用意されているんだ。

 「いまは、あまり使われていないのです。訓練所から戻るとへとへとになって、そんな体力は残っていません」

  俺の答えに彼は満足そうにうなずいている。

 「ここも建て直すとの話が何回も出ているのですが・・・」

 「あぁ、私のときにもあったな」

  先輩の言うとおり、ここは昔からぼろいらしい。

   内部に入ると、そこはいっそうぼろさが目立ち、俺は彼がぎしぎしいう廊下をいつ踏み抜くかとはらはらした。お偉いさんに怪我をさせたらどうなるのだろう?

 「ここはあまり予算が掛けられていないようだが・・・」

  彼の質問に、先輩は、

 「はい、一時、貴族の子弟の入団希望者が(これは次男、三男、四男・・・etc)急に増えた時に、急いで建てられたものです。その後も希望者が減るのは騎士団でしごかれた後で、入団希望自体は減らないので、そのまま使用しております。騎士になる人数はさほど変わらないので、今は従騎士たちの宿舎になっています」

  と答え、そして、後ろにいる俺を見やる。

 「この男も騎士になりましたので、本来なら移ることが出来るのですが、結婚して王宮の宿舎を出て行くものがいなかったようで。たまにはこういった計算違いも出てきます」

 「それではここに店を建てよう。敷地が広いから宿舎の建て直しも出来る。よかったな」

 「それは従騎士たちが喜ぶことでしょう。出来たら部屋にクローゼットもつけていただくと嬉しく思います」

 「君は後輩思いだね、構わないとも、他にも希望があったら言って欲しい。
 君の子弟も使うかもしれないからね」

  ここでさらっと自身の希望を差し込む先輩は肝が太い。そして俺を置いてどんどんと建て直しの計画は進められていく。騎士団の宿舎の建て替えを平然と決める彼は本当に何者だろう。

  宿舎は彼の魔法であっという間に作りあげられ、見かけはレンガ造りの立派な建物となった。残りの内装は職人たちが作っていく。半年かかると聞いている。

  その前にぼろぼろの鉄柵は黒光りするしゃれた模様の入ったものに変わり、10メートルほどの広々としたテラスには木と花が植えられた。平民用と貴族用に店を建てるのも早かった。すべて彼が魔法で作り上げたものだ。俺たちの宿舎も作って欲しいものだが、先輩に聞いたら、民間にお金を流す必要もあるのだと言われた。よくわからないが、駄目なら仕方がない。その後宿舎は無駄に広い、3階建てのものとなり、使われない部屋の掃除に当番が文句を言うようになった。
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