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結の星痕
狼煙
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天帝との接見から数日後、十年近く風の王国を覆っていた巨大な風が忽然と消滅した事に世界がざわつき、直後、各国で風の王国復国の通達が成された事により大騒ぎとなった。
その後、最初に行われたのはグルミウム王国の整備だった。
各国から、アウラの仲間を筆頭にした先発隊がそれに当たり、見る見るうちに昔の景観を取り戻していった。
次に行われたのは住宅地の開拓と、主に土の天地に眠るグルミウム国民の慰霊碑の設置。
慰霊碑は、首都からやや南東にある丘に巨大な風車が建てられた。
そして今日は、土の天地から風の王国へと魂を移す為の抜入魂の儀式が執り行われ、生き残ったグルミウムの民や、サーペンらの使者等、多くの人々が参列した。
ただ、アウラはそれに主として参加はせず、一人王家の墓から見守っていた。
「よろしかったのですか?このような大事な日に、こんな所に来てしまって」
すぐ近くでエラルドが囁く。
「何言ってるの?こんな時だからこそ、ここにいるんだよ。父様達も、もちろんエルも、あの事件の犠牲者なんだから」
「ですが、王家の慰霊の儀は、日を改めて行われるのでは?」
「そうだけど、だってそれじゃエルをこうやって弔えないじゃない?」
アウラは腰に提げていたエラルドの形見である腰刀を取り外し、両親の形見と共に王家の墓へと埋葬していく。
「……本当に、これで良いのでしょうか」
「うん。本当はこの刀は、ルクバットの渡すべきなんだけど、あいつも良いって了承してくれたし」
「そんな事を言っているのではありません!私のような者が、王家の墓に入るなんて、あってはならない事ですよ?」
ほんの少しだけ、怒り口調のエラルド。
しかし彼女の言葉を遮ったのは、アウラではない。
「本当に、貴女もなかなかどうして、往生際が悪い人ですね」
くすくすと笑いを漏らしながらエラルドの横に現れたのは、彼女の師、アルマク。
「いい加減諦めなさい。死者が現世の理に、口を挟むものではありませんよ」
「創世歴時代を生きた貴女がそれを言いますか?……まったくもう」
ようやく諦めがついたのか、エラルドはとても大きな溜め息をつく。
「ありがとう、二人とも」
アウラは墓石にそれぞれの名前を刻み込み、墓前に花束と杯を並べ、立ち上がって空を見上げる。
「……いよいよ、ですね」
エラルドが、ほんの少しだけ声を堅くして呟く。
「うん。あとは、各地に散らばったグルミウム国民達をここに移して、上手く軌道に乗せられれば、全て元に戻る」
「十年、ですか……。長いようで短い、とても濃い時間でしたね。……戴冠の儀は、いつ執り行うつもりなのですか?」
「それなんだけど、あの日と同じ日にちにしようと思ってるんだ」
「あの日……ヴァーユ王の戴冠の儀と、同じ日、という事ですか?」
アルマクの質問に、こくりと頷く。
「あの日、風の王国は死んで、この国の時は止まった。だから、同じ日から始める事で、また新しい時間を刻んでいけると思うんだ」
「なるほど。……確かに、良い案ですね」
「それはとても素敵ですが……。アウラ様、一つ気がかりがあるのですが」
黙って聞いていたエラルドがそう質問を切り出す。
「王の座に着くにあたって、今のアウラ様には守護聖霊がついていませんよね?その問題を、どう解決なさるおつもりなんですか?アルマク様もご存知無いようですが、何か妙案がおありなんです?」
それは、知るべき者には何度も指摘され、その度にはぐらかしてきた言葉。
アウラは静かに笑って、二人に向き直る。
「そうだね……。そろそろ話しておかないといけないね。二人には、協力してもらいたい事もあるし」
そして、アウラは語り出す。
胸に秘め続けてきた、意志を。堅い決意を……。
「……なるほど」
「そんな……」
全てを語り終えた後、アルマクは特に顔色を変えなかったが、エラルドは呆けたような、絶望したような声を漏らした。
「分かりました。それが貴女の、選んだ答えなのですね?」
「うん。……アルマクは、あまり驚いてないみたいだね」
「いいえ、多少なりとも驚いていますよ。ただ、想像出来た候補の一つでしたから」
「そっか。協力は、してくれるかな?」
「勿論。貴女がそれを望むのであれば。そうでしょう?エラルド」
「……いいえ」
賛成するアルマクに対して、エラルドから出てきた答えは、否定。そして抗議。
「私は、私はこのような結果など受け入れられません!これではあまりにも……」
「黙りなさい!」
エラルドの抗議を一切に断ち切る、鋭い声。
「これは我らの……貴女の王が、苦しみの中から導き出した答え。それを否定する事など、盾である我等には許されぬ事」
そう諭すアルマクの声は、若干震えている。
「ありがとう、アルマク。エル?そんなに悲しまないで」
アウラは跪いて、エラルドの顔を覗き込む。
彼女は、泣いていた。
「アウラ様……。私は、このような事は望んでおりません。ただ私は、貴女とルクバットが幸せならばそれだけで良いのです」
「エル。私は十分幸せだよ?今も、勿論これからも」
エラルドがゆっくりと顔を上げる。
「私の旅は、復讐から始まった。なのに、その旅が終わった今、とても幸せな気持ちに溢れているんだ。大切な人達と出会って、守りたい物も見つけて。こんな気持ちになれるなんて思ってもいなかった。だから、この先に続く未来も、私の幸せの先にある物なんだよ?」
「アウラ様……」
暫く嗚咽を漏らした後、エラルドは何かを決意したように涙を拭い、そして尋ねた。
「一つだけ、お聞かせ下さい。あの子は、ルクバットは貴女の、翼になれましたか?」
アウラは、その質問に答える為に、最高の笑顔を向ける。
「うん。ルクバットは私にとって、とても大切な翼だ。それと同時に、止まり木でもあるよ。これからも、ずっとね」
その答えで、エラルドも吹っ切れたようだ。
「そうですか……。分かりました」
そして同時に、エラルドとアルマクがアウラにかしづく。
「全て、貴女の御心のままに。アウラ女王陛下」
「ありがとう、私の素敵な盾達。……それじゃ、始めようか」
この日を境に、アウラは仲間達の前から姿を消した。
その後、最初に行われたのはグルミウム王国の整備だった。
各国から、アウラの仲間を筆頭にした先発隊がそれに当たり、見る見るうちに昔の景観を取り戻していった。
次に行われたのは住宅地の開拓と、主に土の天地に眠るグルミウム国民の慰霊碑の設置。
慰霊碑は、首都からやや南東にある丘に巨大な風車が建てられた。
そして今日は、土の天地から風の王国へと魂を移す為の抜入魂の儀式が執り行われ、生き残ったグルミウムの民や、サーペンらの使者等、多くの人々が参列した。
ただ、アウラはそれに主として参加はせず、一人王家の墓から見守っていた。
「よろしかったのですか?このような大事な日に、こんな所に来てしまって」
すぐ近くでエラルドが囁く。
「何言ってるの?こんな時だからこそ、ここにいるんだよ。父様達も、もちろんエルも、あの事件の犠牲者なんだから」
「ですが、王家の慰霊の儀は、日を改めて行われるのでは?」
「そうだけど、だってそれじゃエルをこうやって弔えないじゃない?」
アウラは腰に提げていたエラルドの形見である腰刀を取り外し、両親の形見と共に王家の墓へと埋葬していく。
「……本当に、これで良いのでしょうか」
「うん。本当はこの刀は、ルクバットの渡すべきなんだけど、あいつも良いって了承してくれたし」
「そんな事を言っているのではありません!私のような者が、王家の墓に入るなんて、あってはならない事ですよ?」
ほんの少しだけ、怒り口調のエラルド。
しかし彼女の言葉を遮ったのは、アウラではない。
「本当に、貴女もなかなかどうして、往生際が悪い人ですね」
くすくすと笑いを漏らしながらエラルドの横に現れたのは、彼女の師、アルマク。
「いい加減諦めなさい。死者が現世の理に、口を挟むものではありませんよ」
「創世歴時代を生きた貴女がそれを言いますか?……まったくもう」
ようやく諦めがついたのか、エラルドはとても大きな溜め息をつく。
「ありがとう、二人とも」
アウラは墓石にそれぞれの名前を刻み込み、墓前に花束と杯を並べ、立ち上がって空を見上げる。
「……いよいよ、ですね」
エラルドが、ほんの少しだけ声を堅くして呟く。
「うん。あとは、各地に散らばったグルミウム国民達をここに移して、上手く軌道に乗せられれば、全て元に戻る」
「十年、ですか……。長いようで短い、とても濃い時間でしたね。……戴冠の儀は、いつ執り行うつもりなのですか?」
「それなんだけど、あの日と同じ日にちにしようと思ってるんだ」
「あの日……ヴァーユ王の戴冠の儀と、同じ日、という事ですか?」
アルマクの質問に、こくりと頷く。
「あの日、風の王国は死んで、この国の時は止まった。だから、同じ日から始める事で、また新しい時間を刻んでいけると思うんだ」
「なるほど。……確かに、良い案ですね」
「それはとても素敵ですが……。アウラ様、一つ気がかりがあるのですが」
黙って聞いていたエラルドがそう質問を切り出す。
「王の座に着くにあたって、今のアウラ様には守護聖霊がついていませんよね?その問題を、どう解決なさるおつもりなんですか?アルマク様もご存知無いようですが、何か妙案がおありなんです?」
それは、知るべき者には何度も指摘され、その度にはぐらかしてきた言葉。
アウラは静かに笑って、二人に向き直る。
「そうだね……。そろそろ話しておかないといけないね。二人には、協力してもらいたい事もあるし」
そして、アウラは語り出す。
胸に秘め続けてきた、意志を。堅い決意を……。
「……なるほど」
「そんな……」
全てを語り終えた後、アルマクは特に顔色を変えなかったが、エラルドは呆けたような、絶望したような声を漏らした。
「分かりました。それが貴女の、選んだ答えなのですね?」
「うん。……アルマクは、あまり驚いてないみたいだね」
「いいえ、多少なりとも驚いていますよ。ただ、想像出来た候補の一つでしたから」
「そっか。協力は、してくれるかな?」
「勿論。貴女がそれを望むのであれば。そうでしょう?エラルド」
「……いいえ」
賛成するアルマクに対して、エラルドから出てきた答えは、否定。そして抗議。
「私は、私はこのような結果など受け入れられません!これではあまりにも……」
「黙りなさい!」
エラルドの抗議を一切に断ち切る、鋭い声。
「これは我らの……貴女の王が、苦しみの中から導き出した答え。それを否定する事など、盾である我等には許されぬ事」
そう諭すアルマクの声は、若干震えている。
「ありがとう、アルマク。エル?そんなに悲しまないで」
アウラは跪いて、エラルドの顔を覗き込む。
彼女は、泣いていた。
「アウラ様……。私は、このような事は望んでおりません。ただ私は、貴女とルクバットが幸せならばそれだけで良いのです」
「エル。私は十分幸せだよ?今も、勿論これからも」
エラルドがゆっくりと顔を上げる。
「私の旅は、復讐から始まった。なのに、その旅が終わった今、とても幸せな気持ちに溢れているんだ。大切な人達と出会って、守りたい物も見つけて。こんな気持ちになれるなんて思ってもいなかった。だから、この先に続く未来も、私の幸せの先にある物なんだよ?」
「アウラ様……」
暫く嗚咽を漏らした後、エラルドは何かを決意したように涙を拭い、そして尋ねた。
「一つだけ、お聞かせ下さい。あの子は、ルクバットは貴女の、翼になれましたか?」
アウラは、その質問に答える為に、最高の笑顔を向ける。
「うん。ルクバットは私にとって、とても大切な翼だ。それと同時に、止まり木でもあるよ。これからも、ずっとね」
その答えで、エラルドも吹っ切れたようだ。
「そうですか……。分かりました」
そして同時に、エラルドとアルマクがアウラにかしづく。
「全て、貴女の御心のままに。アウラ女王陛下」
「ありがとう、私の素敵な盾達。……それじゃ、始めようか」
この日を境に、アウラは仲間達の前から姿を消した。
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表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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