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そのまま就労支援施設には行かなかった。
明也が代わりに電話して、風邪を引いて休むということになった。
連れてこられた明也の隠れ家は、風が通らない。
厚いカーテンと、閉め切られた窓。
外の音は遠く、世界から切り離されたみたいだった。
ユイは背中を押され、体勢を崩す。
足元が安定せず、そのまま解けた靴紐を踏んづけて床に転がった。
「さっきの人、もう一回、教えてくれる?
意味、わからなかったからさ」
明也の声は、いつも通り穏やかだった。
ユイは瞬きをする。
「…あっくんおこってる?」
「は?なんでそう思う?」
なだめるようで、逃げ道を塞ぐ調子。
問いかけの形をしているが、答えは決まっている。
ユイは首を振る。
言葉より先に、喉が鳴った。
「……わるいこと、しないの」
「だからそれ、急に何?」
ため息が落ちる。
指が、ユイの服を掴み直す。
布が引かれ、縫い目が軋む。
「Ωなんだからさ、使われるのって当たり前でしょ?」
その言葉は、説明みたいに使われた。
理由でも、言い訳でもなく、そういうものだと決めつけるための言葉。
明也に服を捲くられ、唇を落とされる。
首筋に吸い付かれ、舐められて、乳首を噛まれる。
「あ、だめなのに…」
ユイの唇から漏れる、声だけの抵抗。
繰り返される感覚は悪いものじゃないのを身体は知っていた。
「ほら、力抜いて」
明也の声が近い。
息がかかる距離で舌打ちされる。
ユイは反射的に肩をすくめた。
そう、身体が勝手に覚えている。
逆らうと、痛い目に遭う。
「……や、」
声は細く、カーテンに吸われた。
「聞こえない」
返事は短い。
苛立ちも、焦りもない。ただ、従わせるために吐き捨てられる。
「まだ騒ぐならさ、他のお友だち、呼ぼうか?」
明也のその言葉で、ユイの喉が詰まった。
呼ばれる顔が、いくつも浮かぶ。
ユイは必死に言葉を探す。
「いや」「こわい」「やめて」
全部、前に言ったことはあったかもしれない。
でも、全部、役に立たなかった気もする。
忘れてしまった。
下着をずらされ、後ろに明也の昂りが無遠慮に押し入る。
バラバラのリズムで身体が揺さぶられるたび、視界がぶれる。
いつものことだった。
ぼやけた視界で天井のシミを数えて、あそこに顔がある、猫がいる、とやり過ごした。
いつものこと、そうしているうちにだんだん気持ちよくなって、終わる。
「もっと、ちゃんと脚開けよ」
明也に言われ、ユイの脚が、無意識に力を失う。
膝が震え、体重が預けられる。
それを、明也は逃さない。
「ほら」
短い言葉で、促す。
水音と肉のぶつかる音。服の裾を握る。
「あ、ぁ、ねぇ、痛いよ…あっくん、い、たい、」
ユイは唇を噛み、首を振る。
「うるさ…黙るか可愛い声で啼けよ」
泣きそうになるのを、必死にこらえる。
泣くと、終わらない。
今日はいつもより明也の力が強くて、昂ぶりも大きくて、ユイの穴は耐えられなかった。
ぐち、という音とともに後ろを引き裂かれる痛みにユイは目を剥いた。
「ぃや!いたい!!」
やっと出た声は、悲鳴に近かった。
次の瞬間、明也の舌打ちと平手打ちが頬を直撃した。
音と衝撃。
視界の端が白くなる。
「だから、声」
明也の声は低い。
叱るようで、感情がない。
ユイは両手で顔を覆い肩で息をした。
口の中に、鉄の味がする。
「いや…いや…」
「Ωなんだからさ…」
ユイの拒絶を上書きするみたいに同じ言葉を使う。
触れられる感覚に、体が強張る。
逃げたいのに、動けない。
拒んだ記憶だけが、増えていった。
明也は当然のようにユイの中に欲を吐き出し、重さが離れた。
「……あー、血出てるわ。クソ萎えた。もういい」
区切りは、明也が決める。
足音が遠ざかる。
ドアが閉まる音。
部屋に、静けさが戻る。
ユイは、しばらく放心した。
服を直す力がまだ戻らない。
胸の奥で、"わるいこと"という言葉が、静かに沈んでいく。
太ももの内側を、明也の残滓がゆっくり伝った。
皮膚に残る感触。
ユイは一瞬だけ、それを不思議に思った。
(なんで、)
この部屋で。
同じように、何度も同じことをされてきた。
なのに今日は、違った。
さっき公園で渡された名刺が、頭に浮かぶ。
わるいこと、しないひと。
思い出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
どうしてだろう、とユイは考える。
Ωだから、普通。
そう言われてきたのに。
温かさと一緒に、目の奥がじんと痛くなる。
――かなしい。
その言葉だけは、はっきり浮かんだ。
ユイは立ち上がり、乱れた服を引っ張って直す。
うまくいかない。
手がまだ震えている。
でも、大丈夫。
ユイはいつもどおり笑った。
「明日は、パンやさん行かなきゃ」
明也が代わりに電話して、風邪を引いて休むということになった。
連れてこられた明也の隠れ家は、風が通らない。
厚いカーテンと、閉め切られた窓。
外の音は遠く、世界から切り離されたみたいだった。
ユイは背中を押され、体勢を崩す。
足元が安定せず、そのまま解けた靴紐を踏んづけて床に転がった。
「さっきの人、もう一回、教えてくれる?
意味、わからなかったからさ」
明也の声は、いつも通り穏やかだった。
ユイは瞬きをする。
「…あっくんおこってる?」
「は?なんでそう思う?」
なだめるようで、逃げ道を塞ぐ調子。
問いかけの形をしているが、答えは決まっている。
ユイは首を振る。
言葉より先に、喉が鳴った。
「……わるいこと、しないの」
「だからそれ、急に何?」
ため息が落ちる。
指が、ユイの服を掴み直す。
布が引かれ、縫い目が軋む。
「Ωなんだからさ、使われるのって当たり前でしょ?」
その言葉は、説明みたいに使われた。
理由でも、言い訳でもなく、そういうものだと決めつけるための言葉。
明也に服を捲くられ、唇を落とされる。
首筋に吸い付かれ、舐められて、乳首を噛まれる。
「あ、だめなのに…」
ユイの唇から漏れる、声だけの抵抗。
繰り返される感覚は悪いものじゃないのを身体は知っていた。
「ほら、力抜いて」
明也の声が近い。
息がかかる距離で舌打ちされる。
ユイは反射的に肩をすくめた。
そう、身体が勝手に覚えている。
逆らうと、痛い目に遭う。
「……や、」
声は細く、カーテンに吸われた。
「聞こえない」
返事は短い。
苛立ちも、焦りもない。ただ、従わせるために吐き捨てられる。
「まだ騒ぐならさ、他のお友だち、呼ぼうか?」
明也のその言葉で、ユイの喉が詰まった。
呼ばれる顔が、いくつも浮かぶ。
ユイは必死に言葉を探す。
「いや」「こわい」「やめて」
全部、前に言ったことはあったかもしれない。
でも、全部、役に立たなかった気もする。
忘れてしまった。
下着をずらされ、後ろに明也の昂りが無遠慮に押し入る。
バラバラのリズムで身体が揺さぶられるたび、視界がぶれる。
いつものことだった。
ぼやけた視界で天井のシミを数えて、あそこに顔がある、猫がいる、とやり過ごした。
いつものこと、そうしているうちにだんだん気持ちよくなって、終わる。
「もっと、ちゃんと脚開けよ」
明也に言われ、ユイの脚が、無意識に力を失う。
膝が震え、体重が預けられる。
それを、明也は逃さない。
「ほら」
短い言葉で、促す。
水音と肉のぶつかる音。服の裾を握る。
「あ、ぁ、ねぇ、痛いよ…あっくん、い、たい、」
ユイは唇を噛み、首を振る。
「うるさ…黙るか可愛い声で啼けよ」
泣きそうになるのを、必死にこらえる。
泣くと、終わらない。
今日はいつもより明也の力が強くて、昂ぶりも大きくて、ユイの穴は耐えられなかった。
ぐち、という音とともに後ろを引き裂かれる痛みにユイは目を剥いた。
「ぃや!いたい!!」
やっと出た声は、悲鳴に近かった。
次の瞬間、明也の舌打ちと平手打ちが頬を直撃した。
音と衝撃。
視界の端が白くなる。
「だから、声」
明也の声は低い。
叱るようで、感情がない。
ユイは両手で顔を覆い肩で息をした。
口の中に、鉄の味がする。
「いや…いや…」
「Ωなんだからさ…」
ユイの拒絶を上書きするみたいに同じ言葉を使う。
触れられる感覚に、体が強張る。
逃げたいのに、動けない。
拒んだ記憶だけが、増えていった。
明也は当然のようにユイの中に欲を吐き出し、重さが離れた。
「……あー、血出てるわ。クソ萎えた。もういい」
区切りは、明也が決める。
足音が遠ざかる。
ドアが閉まる音。
部屋に、静けさが戻る。
ユイは、しばらく放心した。
服を直す力がまだ戻らない。
胸の奥で、"わるいこと"という言葉が、静かに沈んでいく。
太ももの内側を、明也の残滓がゆっくり伝った。
皮膚に残る感触。
ユイは一瞬だけ、それを不思議に思った。
(なんで、)
この部屋で。
同じように、何度も同じことをされてきた。
なのに今日は、違った。
さっき公園で渡された名刺が、頭に浮かぶ。
わるいこと、しないひと。
思い出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
どうしてだろう、とユイは考える。
Ωだから、普通。
そう言われてきたのに。
温かさと一緒に、目の奥がじんと痛くなる。
――かなしい。
その言葉だけは、はっきり浮かんだ。
ユイは立ち上がり、乱れた服を引っ張って直す。
うまくいかない。
手がまだ震えている。
でも、大丈夫。
ユイはいつもどおり笑った。
「明日は、パンやさん行かなきゃ」
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