5 / 41
5
しおりを挟む
「たかおみさん、おはよう」
鷹臣が目を覚ましたのは、やけに楽しそうなユイの声と、部屋の空気が妙ににぎやかだったからだ。
「ねえ、みて」
高揚した声が、朝の静けさを割る。
ウィン
ウィンウィン…
一定の間隔で聞こえるモーター音。
目を開けた鷹臣は、一瞬、自分がどこにいるのかを思い出すのに時間がかかった。
ラブホテル。
昨夜のユイの姿。
眠ったまま、朝を迎えた。
「おはよ…
って、何?」
声を出し、上体を起こした瞬間、視界が固まった。
部屋の隅。
自販機の扉が、すべて開いている。
小さな透明の扉が、いくつも開け放たれ、床には箱や袋が並べられていた。
規則正しく鳴っていた音の正体は、床に転がるバイブの音だった。
「これ、うごくよ」
ユイはしゃがみ込み、バイブを拾う。
手にしているのは、細長いものと、太く大きいもの。
ウィン。
「……えーっと、止めようか、それ」
鷹臣は、即座に言った。
「どうして?」
ユイは不思議そうに首を傾げる。
悪意はない。ただ、面白いものを見つけた顔だ。
「ボタンおすと、ぶるぶるする」
「朝だから、やめとこ」
「……あさ?」
言葉の意味を確かめるように、ユイは目を瞬かせる。
鷹臣は自分の顔をパシンと一回叩き、物が散らばった床を見る。
カップ麺が二つ、お菓子の袋がいくつか、ローションのボトル――倒れて中身が少しこぼれている。
完全にひっくり返されたおもちゃ箱だった。
鷹臣は、額に手を当てて息を吐く。
「全部、出したのか」
「うん。おしたら、パカってあいたよ」
誇らしげに言う。
ユイは、鷹臣のほうを見て、にこっと笑った。
手にはバイブを持ったまま。
可愛らしい姿に似つかわしくない、アンバランスな見た目にドキドキする。
見てはいけないものを見ている感覚だった。
少し下半身が反応して心の中で舌打ちする。
「これと、これ。
…もってるよ。リュックに、はいってる。
たかおみさん、ゆいとつかう?」
ユイからすれば、何気ない報告だった。
鷹臣の胸が、わずかに沈む。
(知ってる、見たから…)
とはもちろん言えない。
コンドームに避妊薬、抑制剤、めちゃくちゃだった。
管理はされていない、常識と非常識が混ざり合って“持たされているもの”。
「あー、いや、使わない…」
平然を装う。
ユイは、それ以上気にせず、床に積まれたカップ麺を指差した。
「おなかすいたね!よるたべなかった」
切り替えが早い。
言われて自覚する空腹感。飲み会に行こうと胃を空けていたから、尚更だった。
「……たしかに」
鷹臣は、しゃがんで散らばったものを一つずつ拾い上げる。
ついでにユイの手からバイブも回収して、スイッチを切る。
音が消えるたび、部屋が静かになる。
「ユイ」
「なに?」
「ここは、遊ぶ場所じゃない」
ユイは少し考えてから、聞き返す。
「……わるいこと?」
鷹臣も少し考えてから、頷いた。
「場合によっては」
「そっか」
ユイは床にちらばったものを、そっと脇に寄せた。
理解は完全じゃない。
でも、言われたら止める、という反応はできる。
「じゃあ……これは?」
その中でユイは、ポテトチップスの袋を持ち上げる。
「それは、いいよ」
短く答えると、ユイは嬉しそうに袋を開けた。
パリ、という音。
ごきげんな鼻歌。
鷹臣は、残ったものをゴミ箱に入れて見えないようにした。
ユイはベッドに座り、ポテトチップスを食べながら、無邪気に足を揺らしている。
夜もなかなかだったが、朝からこれもつらいものがある。
鷹臣は冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を開けて、ぐいっと飲み干した。
鷹臣が目を覚ましたのは、やけに楽しそうなユイの声と、部屋の空気が妙ににぎやかだったからだ。
「ねえ、みて」
高揚した声が、朝の静けさを割る。
ウィン
ウィンウィン…
一定の間隔で聞こえるモーター音。
目を開けた鷹臣は、一瞬、自分がどこにいるのかを思い出すのに時間がかかった。
ラブホテル。
昨夜のユイの姿。
眠ったまま、朝を迎えた。
「おはよ…
って、何?」
声を出し、上体を起こした瞬間、視界が固まった。
部屋の隅。
自販機の扉が、すべて開いている。
小さな透明の扉が、いくつも開け放たれ、床には箱や袋が並べられていた。
規則正しく鳴っていた音の正体は、床に転がるバイブの音だった。
「これ、うごくよ」
ユイはしゃがみ込み、バイブを拾う。
手にしているのは、細長いものと、太く大きいもの。
ウィン。
「……えーっと、止めようか、それ」
鷹臣は、即座に言った。
「どうして?」
ユイは不思議そうに首を傾げる。
悪意はない。ただ、面白いものを見つけた顔だ。
「ボタンおすと、ぶるぶるする」
「朝だから、やめとこ」
「……あさ?」
言葉の意味を確かめるように、ユイは目を瞬かせる。
鷹臣は自分の顔をパシンと一回叩き、物が散らばった床を見る。
カップ麺が二つ、お菓子の袋がいくつか、ローションのボトル――倒れて中身が少しこぼれている。
完全にひっくり返されたおもちゃ箱だった。
鷹臣は、額に手を当てて息を吐く。
「全部、出したのか」
「うん。おしたら、パカってあいたよ」
誇らしげに言う。
ユイは、鷹臣のほうを見て、にこっと笑った。
手にはバイブを持ったまま。
可愛らしい姿に似つかわしくない、アンバランスな見た目にドキドキする。
見てはいけないものを見ている感覚だった。
少し下半身が反応して心の中で舌打ちする。
「これと、これ。
…もってるよ。リュックに、はいってる。
たかおみさん、ゆいとつかう?」
ユイからすれば、何気ない報告だった。
鷹臣の胸が、わずかに沈む。
(知ってる、見たから…)
とはもちろん言えない。
コンドームに避妊薬、抑制剤、めちゃくちゃだった。
管理はされていない、常識と非常識が混ざり合って“持たされているもの”。
「あー、いや、使わない…」
平然を装う。
ユイは、それ以上気にせず、床に積まれたカップ麺を指差した。
「おなかすいたね!よるたべなかった」
切り替えが早い。
言われて自覚する空腹感。飲み会に行こうと胃を空けていたから、尚更だった。
「……たしかに」
鷹臣は、しゃがんで散らばったものを一つずつ拾い上げる。
ついでにユイの手からバイブも回収して、スイッチを切る。
音が消えるたび、部屋が静かになる。
「ユイ」
「なに?」
「ここは、遊ぶ場所じゃない」
ユイは少し考えてから、聞き返す。
「……わるいこと?」
鷹臣も少し考えてから、頷いた。
「場合によっては」
「そっか」
ユイは床にちらばったものを、そっと脇に寄せた。
理解は完全じゃない。
でも、言われたら止める、という反応はできる。
「じゃあ……これは?」
その中でユイは、ポテトチップスの袋を持ち上げる。
「それは、いいよ」
短く答えると、ユイは嬉しそうに袋を開けた。
パリ、という音。
ごきげんな鼻歌。
鷹臣は、残ったものをゴミ箱に入れて見えないようにした。
ユイはベッドに座り、ポテトチップスを食べながら、無邪気に足を揺らしている。
夜もなかなかだったが、朝からこれもつらいものがある。
鷹臣は冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を開けて、ぐいっと飲み干した。
17
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
さかなのみるゆめ
ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる