【完結】わるいこと

さか様

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明也は自室のベッドに腰掛けたまま、ほとんど動かずにスマートフォンを見つめていた。

画面に表示されているのは、地図アプリ。
小さな点が、ホテルの名前の上で止まっている。

ずっと、同じ場所を指す。

「……は?」

声は、誰に向けたものでもない。

は、外で済ませていればそれでよかった。
公園の陰でも、路地裏でも、空き家でも。
今まで、そうしてきた。

なのに、ホテル。
わざわざ金を払って、部屋を取って。

誰と?

考えるな、と思うほど、想像は勝手に具体的になる。

ベッド、シャワー。
知らない男の声。
ユイが従っている様子。
赤らめた頬、絡む腕、甘いフェロモン。

明也は舌打ちした。

「……調子乗ってんじゃねえよ」

明也はスマートフォンを強く握りしめる。
指先が、白くなる。

ユイは、呼べば来る。それが当然だった。

なのに今は、知らない場所で、知らない誰かの隣にいる。

(この間の…男か?)

通りすがりの男、神崎 鷹臣といったか。
ユイのポケットに入っていた名刺は目障りだったから破いて捨ててやった。

その男といるかもしれない。
その考えだけで、胸の奥がざわつく。
怒りと、別の熱が混ざる。

明也は、画面から目を離さないまま、部屋の灯りを落とした。

夜の間、GPSは動かなかった。
そして、明也の想像も止まらなかった。

どう触れられているか。
どんな顔をしているか。
相手の名前を呼んでイく姿。

それを考えるたび、自身の昂ぶりを扱く手が止まらなかった。
明也の呼吸は荒くなり、シーツにできた皺が増えていく。

「くそユイ…Ωのくせに、」

独り言のような声が、何度か漏れた。
名前を呼ぶ声。

「俺のだけで…啼けよ」

命令するような口調。

やがて、怒りにも似た欲望を吐き出すと部屋は静かになった。

画面の光だけが、まだ点を映している。

明也は、しばらくそのまま動かなかった。
汗の残る体で、天井を見上げる。

「……ふざけんな」

それが、夜の終わりだった。

――

朝になっても、点は動かなかった。

苛立ちだけが募る。

しばらくして、ようやく画面が切り替わる。
ホテルから、別の場所へ。

カフェ。

「……は?ヤることヤッたら帰れよ。
カフェ行ってんじゃねぇよ」

また想像する。Ωのくせに。
薄汚く抱かれて、普通の顔して誰かの横を歩いて、カフェに入る。

明也は、すぐに画面を操作した。

着信。
未送信。
既読にならないメッセージ。

指は止まらない。

《どこにいる》
《誰と》
《何してる》
《迎えに行く》
《返事しろ》

短い文が、立て続けに送られていく。
返事が来ないことが、さらに苛立ちを煽る。

「……いい身分だな」

明也は立ち上がり、上着を掴んだ。

カフェの名前を確認する。
距離。時間。

点は、まだそこにある。

明也は家を出た。
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