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週末。
カーテンの隙間から、休日特有のやわらかい空気。
目覚ましは鳴らない。
街の音も、平日よりずっと遠い。
ユイはすでに起きていて、ベッドの端に腰を掛けていた。
いつもより少しだけ背筋が伸びている。
鷹臣が目を覚ます気配に気づくと、ゆっくり振り返った。
「……たかおみさん、おはよう」
声は小さい。
いつもの甘えている感じが、今日はない。
「おはよう。まだ早いけど、もう起きたんだ」
「うん……」
ユイはそう言って、視線を落とす。
最近、休みの日だけ見せる少し距離を取る癖だった。
鷹臣のスマホが突然鳴った。
連絡元を確認し、眉を寄せる。
「…はい、わかりました」
急ぎの連絡。
今日でなくていいはずの、休日出勤だった。
「……ごめん。少しだけ、仕事行ってくるね」
一瞬、ユイの指がシーツを掴む。
でも、顔は上げない。
「ん、いってらっしゃい」
引き止めないし、不満も言わない。
(少し調子悪いのかな…?大丈夫かな、)
「夕方には戻るから」
「……うん」
玄関の音がして、家は静かになった。
――
一緒に過ごすはずだった日。
ユイはリビングに戻り、ソファに座る。
テレビをつけても面白い番組はなかった。
休日の昼下がりの光が、床にゆっくり移動していく。
(……また、)
気づいたときには、胸の奥が熱を持っていた。
理由は分かっている。
分かっているから、目を逸らしたくなる。
そこに触れるたび、鷹臣への後ろめたさがどんどん増えていく気がした。
行為が終わったあと、ユイは自分の手を見つめた。
そこに残った白濁は、意味を持たないものだと知っている。
(…でちゃった……わるいこと、また…)
そう思うのに、嫌な気持ちだけじゃなかったことが、余計に混乱を深くした。
(ほんとうに……えっちしたら、どうなるんだろ)
考えたところで力が抜けて、ユイはそのまま眠ってしまった。
――
「……ユイ?」
夕方、鷹臣が帰宅する。
呼びかけに、ユイの身体がびくりと跳ねた。
目を開けた瞬間、反射的に身体を丸め、股を抑える。
耳まで赤い。
脱げたズボン、汗で張り付いた髪、濃いユイの匂い。
鷹臣は、その様子を一瞬で理解した。
言葉を選ぶように、少し間を置く。
「……あー…大丈夫。それは、悪いことじゃないよ」
声は低く、落ち着いている。
ソファに座り動けないユイに目線を合わせゆっくりと話す。
「でも……今度からは、場所、トイレとか……」
なるべく逆撫でしないように、それとなく教えようとした、その時――
「たかおみさん、ゆいと、えっち、しよう?」
鷹臣の気遣いを遮ったユイの声は、思ったよりも大きかった。
しっかりと目が合い、鷹臣は完全に言葉を失う。
「……どうして、」
「ゆいね、ひとりで…さきにえっちしちゃったの。
しかも、なんかいも…。
わるいことなのに……でも……たかおみさんのこと、すきで……」
言葉は思考に追いつかず、ユイの口からばらばらに落ちた。
「……待って」
鷹臣は深く息を吸う。
「……俺も、好きだよ。
あ…でもちょっと、待って…」
(言ってしまった…)
何のために深呼吸をしたのか、まだ言うつもりのない言葉が口を衝いて出てしまった。
ユイは目を見開いた。
「……すき?」
「……うん」
認めた瞬間、鷹臣の中で抑えていたものが静かに形を持つ。
それは欲情というより、αとして“繋ぎたい”“確かめたい”という本能に近い衝動だった。
「……大切にしたくて。まだ言うつもりなくて…
でも、キス、していい?」
鷹臣の喉が鳴った。
言っていることと、やろうとしていることがめちゃくちゃだとは自覚していた。
それでも――ユイが短く頷くと、鷹臣はそっと口付けをした。
深くはしないつもりだったが、離れがたい。
久しぶりの口付けだったが、互いの気持ちを知ってからは初めてだった。
「ん、っ…はぁ、」
絡む舌が止まらない。
「……ここ、好き?」
不意に唇を離した鷹臣の声が、熱を帯びる。
ユイの首元に、そっと触れながら熱を辿った。
「…どこ、触った?…ここは?」
胸、腹、控えめに持ち上がるユイの昂ぶり。
優しく、宥めるように触れていく。
「っ…、」
ユイは声が出せず、ただされるがままだった。
「……ここも?」
手がズボン越しに後ろに回ると、ユイの肩はピクリと動いた。
「…ぁ、そこ……」
手から伝わる熱に、後ろがまた濡れるのをユイは感じた。
「ユイ、可愛い、」
(……まずい)
そう思っているのに、触れる手と唇は止められなかった。
「……たかおみさんのも……」
ユイの手が、ためらいがちに伸びる。
「…えっ……っ、」
互い昂ぶりに手を伸ばし合いながら、自然に距離は縮まった。
呼吸が乱れ、視線を合わせられなくなり、そのまま鷹臣はソファに寝転ぶユイに覆いかぶさった。
互いに額を擦り寄せ、また口付けて、シャツを捲り、触れる。
首筋に唇を寄せて吸い付けば、ユイの皮膚に赤い花が咲いた。
ふたりの息遣い、体温、水音、ソファの軋む音。
兜合わせの状態で、鷹臣の大きな手がユイの小さな手ごと、昂ぶりを包み込んだ。
「あ、ぁ、っ…ん、」
何度か扱くとユイはソファの縁を掴み、体を仰け反らせて達した。
その姿を見とどけた鷹臣も、ほぼ同時に果てた。
(…全然、止まれなかった……)
「…ユイ、ごめ、」
鷹臣は慌てて体を起こし、ユイの顔をのぞき込んだ。
「ん、」
呼吸がまだ乱れたままのユイは、潤んだ瞳で鷹臣を見つめる。
唇を少し尖らせて目を細め――満足そうな顔をしていた。
「きもち、よかった…」
ユイが何気なく脚を開くと、後ろがさっきより濡れているのが見えた。
鷹臣は咄嗟に目を逸らす。
(今日はこれ以上は…)
鷹臣は自分の本能を一蹴して、ユイの身体を綺麗に整えた。
――
沈黙の中夕食と入浴を済ませ、ソファに並んで座る。
「……なんか、あれだね、」
久々の発音。鷹臣が呟く。
ユイは首を傾げる。
「……へん?」
「……うん。ユイ、大丈夫?」
ぎこちない言葉はなかなかうまく続かない。
代わりに鷹臣は、そっとユイの頭を撫でた。
「……つぎは?」
どうやらユイは違うようだった。
鷹臣が黙っていたから、自分もそうしていたといった具合に、次の予定を訊く。
その瞳はほんの少しの期待を孕んでいた。
「……その、ちゃんと、明日…?とか…」
(俺は、なんの予告をして…)
そうして夜は、静かに更けていった。
カーテンの隙間から、休日特有のやわらかい空気。
目覚ましは鳴らない。
街の音も、平日よりずっと遠い。
ユイはすでに起きていて、ベッドの端に腰を掛けていた。
いつもより少しだけ背筋が伸びている。
鷹臣が目を覚ます気配に気づくと、ゆっくり振り返った。
「……たかおみさん、おはよう」
声は小さい。
いつもの甘えている感じが、今日はない。
「おはよう。まだ早いけど、もう起きたんだ」
「うん……」
ユイはそう言って、視線を落とす。
最近、休みの日だけ見せる少し距離を取る癖だった。
鷹臣のスマホが突然鳴った。
連絡元を確認し、眉を寄せる。
「…はい、わかりました」
急ぎの連絡。
今日でなくていいはずの、休日出勤だった。
「……ごめん。少しだけ、仕事行ってくるね」
一瞬、ユイの指がシーツを掴む。
でも、顔は上げない。
「ん、いってらっしゃい」
引き止めないし、不満も言わない。
(少し調子悪いのかな…?大丈夫かな、)
「夕方には戻るから」
「……うん」
玄関の音がして、家は静かになった。
――
一緒に過ごすはずだった日。
ユイはリビングに戻り、ソファに座る。
テレビをつけても面白い番組はなかった。
休日の昼下がりの光が、床にゆっくり移動していく。
(……また、)
気づいたときには、胸の奥が熱を持っていた。
理由は分かっている。
分かっているから、目を逸らしたくなる。
そこに触れるたび、鷹臣への後ろめたさがどんどん増えていく気がした。
行為が終わったあと、ユイは自分の手を見つめた。
そこに残った白濁は、意味を持たないものだと知っている。
(…でちゃった……わるいこと、また…)
そう思うのに、嫌な気持ちだけじゃなかったことが、余計に混乱を深くした。
(ほんとうに……えっちしたら、どうなるんだろ)
考えたところで力が抜けて、ユイはそのまま眠ってしまった。
――
「……ユイ?」
夕方、鷹臣が帰宅する。
呼びかけに、ユイの身体がびくりと跳ねた。
目を開けた瞬間、反射的に身体を丸め、股を抑える。
耳まで赤い。
脱げたズボン、汗で張り付いた髪、濃いユイの匂い。
鷹臣は、その様子を一瞬で理解した。
言葉を選ぶように、少し間を置く。
「……あー…大丈夫。それは、悪いことじゃないよ」
声は低く、落ち着いている。
ソファに座り動けないユイに目線を合わせゆっくりと話す。
「でも……今度からは、場所、トイレとか……」
なるべく逆撫でしないように、それとなく教えようとした、その時――
「たかおみさん、ゆいと、えっち、しよう?」
鷹臣の気遣いを遮ったユイの声は、思ったよりも大きかった。
しっかりと目が合い、鷹臣は完全に言葉を失う。
「……どうして、」
「ゆいね、ひとりで…さきにえっちしちゃったの。
しかも、なんかいも…。
わるいことなのに……でも……たかおみさんのこと、すきで……」
言葉は思考に追いつかず、ユイの口からばらばらに落ちた。
「……待って」
鷹臣は深く息を吸う。
「……俺も、好きだよ。
あ…でもちょっと、待って…」
(言ってしまった…)
何のために深呼吸をしたのか、まだ言うつもりのない言葉が口を衝いて出てしまった。
ユイは目を見開いた。
「……すき?」
「……うん」
認めた瞬間、鷹臣の中で抑えていたものが静かに形を持つ。
それは欲情というより、αとして“繋ぎたい”“確かめたい”という本能に近い衝動だった。
「……大切にしたくて。まだ言うつもりなくて…
でも、キス、していい?」
鷹臣の喉が鳴った。
言っていることと、やろうとしていることがめちゃくちゃだとは自覚していた。
それでも――ユイが短く頷くと、鷹臣はそっと口付けをした。
深くはしないつもりだったが、離れがたい。
久しぶりの口付けだったが、互いの気持ちを知ってからは初めてだった。
「ん、っ…はぁ、」
絡む舌が止まらない。
「……ここ、好き?」
不意に唇を離した鷹臣の声が、熱を帯びる。
ユイの首元に、そっと触れながら熱を辿った。
「…どこ、触った?…ここは?」
胸、腹、控えめに持ち上がるユイの昂ぶり。
優しく、宥めるように触れていく。
「っ…、」
ユイは声が出せず、ただされるがままだった。
「……ここも?」
手がズボン越しに後ろに回ると、ユイの肩はピクリと動いた。
「…ぁ、そこ……」
手から伝わる熱に、後ろがまた濡れるのをユイは感じた。
「ユイ、可愛い、」
(……まずい)
そう思っているのに、触れる手と唇は止められなかった。
「……たかおみさんのも……」
ユイの手が、ためらいがちに伸びる。
「…えっ……っ、」
互い昂ぶりに手を伸ばし合いながら、自然に距離は縮まった。
呼吸が乱れ、視線を合わせられなくなり、そのまま鷹臣はソファに寝転ぶユイに覆いかぶさった。
互いに額を擦り寄せ、また口付けて、シャツを捲り、触れる。
首筋に唇を寄せて吸い付けば、ユイの皮膚に赤い花が咲いた。
ふたりの息遣い、体温、水音、ソファの軋む音。
兜合わせの状態で、鷹臣の大きな手がユイの小さな手ごと、昂ぶりを包み込んだ。
「あ、ぁ、っ…ん、」
何度か扱くとユイはソファの縁を掴み、体を仰け反らせて達した。
その姿を見とどけた鷹臣も、ほぼ同時に果てた。
(…全然、止まれなかった……)
「…ユイ、ごめ、」
鷹臣は慌てて体を起こし、ユイの顔をのぞき込んだ。
「ん、」
呼吸がまだ乱れたままのユイは、潤んだ瞳で鷹臣を見つめる。
唇を少し尖らせて目を細め――満足そうな顔をしていた。
「きもち、よかった…」
ユイが何気なく脚を開くと、後ろがさっきより濡れているのが見えた。
鷹臣は咄嗟に目を逸らす。
(今日はこれ以上は…)
鷹臣は自分の本能を一蹴して、ユイの身体を綺麗に整えた。
――
沈黙の中夕食と入浴を済ませ、ソファに並んで座る。
「……なんか、あれだね、」
久々の発音。鷹臣が呟く。
ユイは首を傾げる。
「……へん?」
「……うん。ユイ、大丈夫?」
ぎこちない言葉はなかなかうまく続かない。
代わりに鷹臣は、そっとユイの頭を撫でた。
「……つぎは?」
どうやらユイは違うようだった。
鷹臣が黙っていたから、自分もそうしていたといった具合に、次の予定を訊く。
その瞳はほんの少しの期待を孕んでいた。
「……その、ちゃんと、明日…?とか…」
(俺は、なんの予告をして…)
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