9 / 39
融氷
団欒
しおりを挟む
しばらく経った休日の午後。
陸のアパートに両手いっぱいの野菜を抱えた母と父、そしてゆめが遊びに来た。
「ほら畑の野菜。使ってちょうだい」
母が紙袋を差し出すと、陸はぶっきらぼうに悪いなと受け取る。
テーブルにはハルが作ったビーフシチューと付け合せのパン、陸が不器用にレタスを割いたサラダ。
和食中心の篠原家には新鮮で、特にゆめには大喜びのメニューだった。
「わー!シチューだ!やったー!」
「なぁ、ゆめ、お父さんはパンをこうして浸して食べてもいいのか?」
「好きにしなよお父さーん」
「ふふ、美味しいわね」
笑い声とともに食卓がにぎわう。
――
食後、ゆめが突然思い出したように顔を上げた。
「そういえばね、私“夢華”って名前なんだけど、“ゆめ”って二文字にしてるのはハルに憧れてるからなの!」
ハルは目を瞬かせ、胸があたたかくなる。
「じゃあさぁ、ハルの本当の名前ってなに?!お兄ちゃんに誓ってタゴンムヨウだから教えてっ!!」
瞳をきらきらさせて身を乗り出す。
「おい、ゆめ、」
そもそも他言無用の意味が違うと陸が制止するも、ハルは小さく首を振った。
「前回ご挨拶させてもらった時に言うべきだったわ。ごめんなさいね、」
息を整え、静かに告げる。
「“春虎”。木崎 春虎と言います。それが、私の本当の名前」
「かっこいいーー!!可愛くてかっこいいの反則だよ!ねぇお母さん!!」
ゆめが大声を上げると、両親が微笑みながら頷く。
胸がじんと熱くなる中、陸が真っ直ぐな眼差しで言った。
「おふくろも親父も、ゆめもみんなハルと一緒にこれからも関わっていきたいんだ。改めて言わせてほしい、ハルはいつも俺の隣で笑っていてくれ」
「ありがとう。えぇ、隣にいさせて…」
ぶわっと涙が込み上げ、ハルは震える声で返す。
すると横からゆめが勢いよく立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って!?お兄ちゃん今の!!それ、プロポーズじゃん!?!?やば!!!」
「おい、ゆめ…」
陸が再び制止するが、妹は耳まで真っ赤にしながら大はしゃぎでまるで兄の言葉は届いていない。
「いいじゃん!私のお兄ちゃん、ついに結婚宣言だよ!?おめでとーー!」
母はそうねと微笑み、父は賑やかになるなぁと喜ぶ。
「な…、俺はそういう意味でっ…いや、しかし、また改めて…」
陸は顔を赤くしながら口ごもる。
心地のいい家族団欒のぬくもりに、ハルの心は芯まであたためられた。
陸のアパートに両手いっぱいの野菜を抱えた母と父、そしてゆめが遊びに来た。
「ほら畑の野菜。使ってちょうだい」
母が紙袋を差し出すと、陸はぶっきらぼうに悪いなと受け取る。
テーブルにはハルが作ったビーフシチューと付け合せのパン、陸が不器用にレタスを割いたサラダ。
和食中心の篠原家には新鮮で、特にゆめには大喜びのメニューだった。
「わー!シチューだ!やったー!」
「なぁ、ゆめ、お父さんはパンをこうして浸して食べてもいいのか?」
「好きにしなよお父さーん」
「ふふ、美味しいわね」
笑い声とともに食卓がにぎわう。
――
食後、ゆめが突然思い出したように顔を上げた。
「そういえばね、私“夢華”って名前なんだけど、“ゆめ”って二文字にしてるのはハルに憧れてるからなの!」
ハルは目を瞬かせ、胸があたたかくなる。
「じゃあさぁ、ハルの本当の名前ってなに?!お兄ちゃんに誓ってタゴンムヨウだから教えてっ!!」
瞳をきらきらさせて身を乗り出す。
「おい、ゆめ、」
そもそも他言無用の意味が違うと陸が制止するも、ハルは小さく首を振った。
「前回ご挨拶させてもらった時に言うべきだったわ。ごめんなさいね、」
息を整え、静かに告げる。
「“春虎”。木崎 春虎と言います。それが、私の本当の名前」
「かっこいいーー!!可愛くてかっこいいの反則だよ!ねぇお母さん!!」
ゆめが大声を上げると、両親が微笑みながら頷く。
胸がじんと熱くなる中、陸が真っ直ぐな眼差しで言った。
「おふくろも親父も、ゆめもみんなハルと一緒にこれからも関わっていきたいんだ。改めて言わせてほしい、ハルはいつも俺の隣で笑っていてくれ」
「ありがとう。えぇ、隣にいさせて…」
ぶわっと涙が込み上げ、ハルは震える声で返す。
すると横からゆめが勢いよく立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って!?お兄ちゃん今の!!それ、プロポーズじゃん!?!?やば!!!」
「おい、ゆめ…」
陸が再び制止するが、妹は耳まで真っ赤にしながら大はしゃぎでまるで兄の言葉は届いていない。
「いいじゃん!私のお兄ちゃん、ついに結婚宣言だよ!?おめでとーー!」
母はそうねと微笑み、父は賑やかになるなぁと喜ぶ。
「な…、俺はそういう意味でっ…いや、しかし、また改めて…」
陸は顔を赤くしながら口ごもる。
心地のいい家族団欒のぬくもりに、ハルの心は芯まであたためられた。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる