ホントの恋を教えてください。(旧題:恋をさけんであなたの前で)

沢渡奈々子

文字の大きさ
30 / 41
番外編

番外編3「水科家の人々」8話

 咲が用意してくれたブライダル用のビスチェコルセットを素肌に着け、その上から衣装を着たのだが――依里佳も驚くほど、身体にフィットしていた。
 本人を直接採寸したわけではないのに、ここまでちょうどよく作ることが出来るなんて、さすがプロであると感心するしかなかった。
「全部出来るまで鏡はおあずけです」
 部屋の姿見にカバーをかぶせてから、咲は依里佳にケープをつけた。メイクに入るためだ。そしてメイクアップアーティストを咲の部屋に招き入れるや否や、
「うわぁ……きれいな方ですねぇ……! どうして芸能人じゃないんですか?」
 と、彼女は目を丸くしていた。
 沢山の芸能人を手がけている槇原怜子まきはられいこという女性で、よくそんな売れっ子を個人的に拘束出来たものだと、依里佳は感心した。
「ミズシナさんからお願いされちゃ断れませんよぉ。キャンペーンガールのメイクもほぼ毎年担当させてもらってますしねぇ」
 メイク道具を広げながら、怜子が笑う。
「兄の婚約者なんで、きれいにしてあげてくださいね」
「はい、それはもう、腕によりをかけますよ! ……でも、元々がきれいだから、あまり手をかけなくてもよさそう。そんなに時間はかからないと思います」
 咲が用意した東雲エリカの画像を見ながら、怜子は依里佳の化粧を一旦落とし、それから改めて化粧下地を塗っていった。
「ふわぁ……肌もきれいですねぇ……、実に羨ましいです」
 丁寧にメイクを施しながら、怜子が依里佳の顔を矯めつ眇めつ眺める。
「結構規則正しい生活を送っているんで、多分そのせいかと」
 あはは、と依里佳は苦笑してみせる。
 二十分ほどでメイクは仕上がり、髪はワックスとスプレーでよりエリカらしくする。そして最後に怜子はコサージュを依里佳の左耳の上にピンで固定した。
「――出来ました!」
 出来に相当自信があるのだろう、怜子は満足げにケープを外した。
「……っ、」
 咲は感激したように身悶え、そして、
「お姉様! ささ、こちらへ!」
 と、アンティーク調の白い姿見の前へと依里佳を促した。鏡のカバーをはずすと――
「……わ、すごい!」
 確かに依里佳がいた。それなのに、普段と違うメイクを施されたせいか、別人にも見えた。鏡の中にいたのは【蓮見依里佳】でありながら、【東雲エリカ】でもあった。
 アイドルの衣装も、
(恥ずかしい、けど……意外と似合ってる気がする……)
 と、自分で思ってしまった。それが少しだけ悔しい。
「お姉様っ、あたしは今猛烈に感動してます!! エリカ様が次元を一つ超えてしまった歴史的瞬間を目撃してる……!!」
 咲がその瞳を大いに輝かせて依里佳の周りをピョンピョンと飛び回っていた。
「大げさだよ、咲ちゃん」
「何言ってるんですか! ここまで二次元のキャラを体現した人、今まで見たことないです! 見た目はもう、東雲エリカ様ですよっ。出来ることなら、エリカ様の決め台詞『私のためだけに働きなさい……下僕』って、言ってほしいくらいですっ」
「そ、それはちょっと……」
「しっかし、惜しいなぁ……芸能界にいないのが」
 怜子が口惜しそうに首を傾げる。
「怜子さん、誓約書の内容はちゃんと守ってくださいね? じゃないとあたし、兄に殺されちゃいますから」
「それはちゃんと分かってます。私もまだまだ仕事を失いたくないので」
「じゃ、お姉様、スタジオに移動しましょ?」
 咲は手袋をつけた依里佳の手を引いて、部屋の扉を開けた。
 階下に降り、即席スタジオと化した南向きのデンにそのまま案内する。ドアを開けると――
「わぁ……きれい……すごいね、咲ちゃん……」
 部屋の窓際には見るからに高級品と分かる金華山織のクラシックソファが置かれている。ソファの左右や後ろにはバラや百合や胡蝶蘭など、ゴージャスな花々が配置されており、豪奢な空間が出来上がっていた。
 対して、反対の壁側にはちょっとしたステージのようなものが作られていた。バックは紺色、そこに様々な色のライトがキラキラしており、金色の音符のオブジェがところどころに飾られている。アイドルのライブ会場然とした様相を呈していて。
 窓際と壁際では、まったく趣を異にしていた。
「こっちのソファは、もう一着の衣装で使いますから」
 咲が窓側を指差した。
「え……これだけじゃなくてまだあるの?」
「そうですよ~。エリカ様の限定SSR星四のロココ調ドレスもあるんです! ほら、あそこにかけてあるでしょお?」
 咲に示された方向を見ると、そこにはトルソーが置いてあり、アイドル衣装と同じくコバルトブルーを基調とした中世ヨーロッパ風ドレスがかけられていた。ゴージャスでボリュームもあるドレスは、やはりどこを取っても上等で、本当にこのまま舞踏会に着ていけるであろうクオリティだった。
 女子にとっては一度は身に着けてみたいものの一つではあるが……。
「これ……ほんとに作ったの?」
「そうですよ? ミズシナの人に作ってもらったんですっ」
「高かったでしょう……?」
「えへへー、そう思うでしょう? でも材料費自体はかなり安かったんです。ほら、何せ私はミズシナの社長の娘、ですから。社長価格? で手に入るんで。その代わり、作ってくれた社員の皆さんには報酬を弾みましたからねっ」
 カメラマンさん呼びますね──そう言って咲はドアを開けた。
 いの一番に入ってきたのは、
「えりか! すっごくかわいいね! おひめさまみたい!」
 翔が現れるなり、笑顔満開で叔母を褒めちぎった。依里佳の元に駆け寄り、衣装をペタペタと楽しそうに触っている。
「あ、ありがと……」
 翔に褒められるのはまんざらでもない依里佳。照れながら、まとわりつく甥っ子の頭を撫でた。
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。