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番外編
番外編3「水科家の人々」9話
「あらぁ……依里佳ちゃん、すっかりアイドルしちゃってぇ」
陽子がニヤニヤしながら翔の後に続いた。
「からかわないでよ、陽子ちゃん」
「咲ちゃん、私のスマホで何枚か撮っていい? 主人に頼まれたの」
陽子がバッグからスマートフォンを取り出した。どうやら今日の計画は陽子のみならず、俊輔もすでに把握済みのようだ。
(お兄ちゃんも陽子ちゃんも、知ってて私に内緒にしてるんだからもう……っ)
依里佳が陽子にそう目で訴えると、陽子は目の前に手を掲げ「ごめん」と、口を動かした。
「いいですよぉ。蓮見家と水科家の人たちには撮影制限かけませんから」
「――ちょっと待て咲、水科家の人間には制限かけろよ」
篤樹が慌てて飛び込んで来た。ここに来た時はカジュアルな服装だったのに、何故か今はスーツを身に着けている。
「篤樹……どうしてスーツなんて着てるの?」
依里佳が尋ねると、篤樹は首を傾げた。
「さぁ? 咲にどうしても、って言われたから?」
彼の答えに、咲が補足する。
「せっかくだから、アイドルとマネージャーっていう体で何枚か撮りたいなぁ、って思って。あっくんは敏腕マネージャーの役だよ?」
「そんなことはどうでもいいよ。いいか咲、依里佳の写真を撮っていいのは、カメラマンと陽子さんと咲と俺だけだからな?」
「やだぁ~あっくんったら、もしかしてお父さんとかお兄ちゃんにヤキモチ妬いちゃうとかなの?」
からかうような目を篤樹に向ける咲。それを受けた彼は照れるでもなく依里佳を振り返りつつ、
「当たり前だろ? こんな可愛い依里佳を家族と言えど他の男に見せてたまるか。……あ、陽子さんも俊輔さん以外には見せないでくださいね? お願いします」
と断言し、さらには陽子にも念を押した。それを聞いて依里佳が頬を染めたのは言うまでもない。
「はいはい、了解です」
「あっくんがそうやってやきもち妬くとこ、初めて見たぁ。貴重~。……あ、おじ様、入ってください」
ニヤニヤと笑いながら、咲が開いた扉に向かって手招きをした。
「はいよ、お邪魔しますよ」
その一言とともに、還暦をゆうに過ぎているであろう男性が姿を現した。
「――依里佳お姉様、この人はうちの御用達写真館のご主人の小鳥遊さんです。毎年家族写真や記念写真を撮ってもらってるんです。四人のお孫さんのおじい様だけど、腕は確かですよ」
「咲、小鳥遊さんに撮ってもらうなら、ここまで厳しくすることないだろ? この人にまでこんなユニフォーム着せて、何考えてるんだよ」
篤樹がこの家に来た時にはすでに、小鳥遊は水科家のほぼすべての写真撮影を請け負っていた。嘉紀と百合子の結婚式の写真を撮影したのも彼で、篤樹と幸希が初めてこの家に越してきた日の記念写真も小鳥遊が撮ってくれた。
ある意味では、篤樹の水科家での歴史の証人とも言えた。
そんな彼は水科家にとっては全面的に信頼のおける相手であり、今回のような措置を取る必要のない人物なわけで。
依里佳を守るためとはいえ、これは少々やりすぎではないかと、篤樹は呆れ返っているようだった。
「はははは、篤樹くん、なかなか楽しい趣向じゃないか。今日の撮影にご指名いただいて感謝してるよ」
ブルーのつなぎの作業着に身を包んだ小鳥遊が、声を上げて笑う。
「カメラとレンズはうちの私物、その他の撮影機材は全部ミズシナの広報部から借りてきました。これで大丈夫ですか? 小鳥遊のおじ様」
「うちのより高価なやつじゃないか。いやぁ、まいったな」
カメラケースを覗き込んだ小鳥遊が目を見張った。
「じゃあ、撮影始めます。お姉様、まずいいですか?」
「何? 咲ちゃん」
「東雲エリカ様は、基本的にはステージ上では笑わないキャラなんです。だから最初は笑わないお姉様を撮らせてください。そうですね……嫌なことを想像するなり、嫌いな人を思い出すなりして無表情を通していてください。……おじ様、この間もお見せしましたけど、こんな感じでお願いします」
と、咲はプリントした東雲エリカの画像を何枚か、小鳥遊に渡した。
「はい、了解。篤樹くん、すまないが部屋のカーテンはすべて閉めてもらえるかな?」
「分かりました」
篤樹がカーテンを閉めるのを確認し、小鳥遊がカメラを手にする。
「――それじゃあ……依里佳さん、だったかな。よろしくお願いしますよ」
「あ、はい! よろしくお願いします」
依里佳は深々と頭を下げた。
(嫌なこと……なら、何度も遭ったことあるけど、も)
そんなことを思い出すまでもなく、依里佳は緊張して笑うことなど出来そうになかった。固い表情で、出された指示の通り動いたりポーズを取る。
小鳥遊の後ろでは、篤樹と陽子がスマートフォンを手にして依里佳を撮影していた。翔はその傍らで「えりかがんばれ~」と、目を輝かせて見学している。
篤樹から釘を刺されたのか、自ら気を遣ったのか、百合子と幸希はスタジオに顔を見せることはなかった。
「あっくん、この後は一緒に写ってもらうからね? お姉様のことお願いね?」
「ったく、咲は人使いが荒いな……」
【レプタイルズ】の中務が聞いたら「君がそれを言うかね」と、突っ込まれそうな一言を残し、篤樹は自身のネクタイを締め直した。
陽子がニヤニヤしながら翔の後に続いた。
「からかわないでよ、陽子ちゃん」
「咲ちゃん、私のスマホで何枚か撮っていい? 主人に頼まれたの」
陽子がバッグからスマートフォンを取り出した。どうやら今日の計画は陽子のみならず、俊輔もすでに把握済みのようだ。
(お兄ちゃんも陽子ちゃんも、知ってて私に内緒にしてるんだからもう……っ)
依里佳が陽子にそう目で訴えると、陽子は目の前に手を掲げ「ごめん」と、口を動かした。
「いいですよぉ。蓮見家と水科家の人たちには撮影制限かけませんから」
「――ちょっと待て咲、水科家の人間には制限かけろよ」
篤樹が慌てて飛び込んで来た。ここに来た時はカジュアルな服装だったのに、何故か今はスーツを身に着けている。
「篤樹……どうしてスーツなんて着てるの?」
依里佳が尋ねると、篤樹は首を傾げた。
「さぁ? 咲にどうしても、って言われたから?」
彼の答えに、咲が補足する。
「せっかくだから、アイドルとマネージャーっていう体で何枚か撮りたいなぁ、って思って。あっくんは敏腕マネージャーの役だよ?」
「そんなことはどうでもいいよ。いいか咲、依里佳の写真を撮っていいのは、カメラマンと陽子さんと咲と俺だけだからな?」
「やだぁ~あっくんったら、もしかしてお父さんとかお兄ちゃんにヤキモチ妬いちゃうとかなの?」
からかうような目を篤樹に向ける咲。それを受けた彼は照れるでもなく依里佳を振り返りつつ、
「当たり前だろ? こんな可愛い依里佳を家族と言えど他の男に見せてたまるか。……あ、陽子さんも俊輔さん以外には見せないでくださいね? お願いします」
と断言し、さらには陽子にも念を押した。それを聞いて依里佳が頬を染めたのは言うまでもない。
「はいはい、了解です」
「あっくんがそうやってやきもち妬くとこ、初めて見たぁ。貴重~。……あ、おじ様、入ってください」
ニヤニヤと笑いながら、咲が開いた扉に向かって手招きをした。
「はいよ、お邪魔しますよ」
その一言とともに、還暦をゆうに過ぎているであろう男性が姿を現した。
「――依里佳お姉様、この人はうちの御用達写真館のご主人の小鳥遊さんです。毎年家族写真や記念写真を撮ってもらってるんです。四人のお孫さんのおじい様だけど、腕は確かですよ」
「咲、小鳥遊さんに撮ってもらうなら、ここまで厳しくすることないだろ? この人にまでこんなユニフォーム着せて、何考えてるんだよ」
篤樹がこの家に来た時にはすでに、小鳥遊は水科家のほぼすべての写真撮影を請け負っていた。嘉紀と百合子の結婚式の写真を撮影したのも彼で、篤樹と幸希が初めてこの家に越してきた日の記念写真も小鳥遊が撮ってくれた。
ある意味では、篤樹の水科家での歴史の証人とも言えた。
そんな彼は水科家にとっては全面的に信頼のおける相手であり、今回のような措置を取る必要のない人物なわけで。
依里佳を守るためとはいえ、これは少々やりすぎではないかと、篤樹は呆れ返っているようだった。
「はははは、篤樹くん、なかなか楽しい趣向じゃないか。今日の撮影にご指名いただいて感謝してるよ」
ブルーのつなぎの作業着に身を包んだ小鳥遊が、声を上げて笑う。
「カメラとレンズはうちの私物、その他の撮影機材は全部ミズシナの広報部から借りてきました。これで大丈夫ですか? 小鳥遊のおじ様」
「うちのより高価なやつじゃないか。いやぁ、まいったな」
カメラケースを覗き込んだ小鳥遊が目を見張った。
「じゃあ、撮影始めます。お姉様、まずいいですか?」
「何? 咲ちゃん」
「東雲エリカ様は、基本的にはステージ上では笑わないキャラなんです。だから最初は笑わないお姉様を撮らせてください。そうですね……嫌なことを想像するなり、嫌いな人を思い出すなりして無表情を通していてください。……おじ様、この間もお見せしましたけど、こんな感じでお願いします」
と、咲はプリントした東雲エリカの画像を何枚か、小鳥遊に渡した。
「はい、了解。篤樹くん、すまないが部屋のカーテンはすべて閉めてもらえるかな?」
「分かりました」
篤樹がカーテンを閉めるのを確認し、小鳥遊がカメラを手にする。
「――それじゃあ……依里佳さん、だったかな。よろしくお願いしますよ」
「あ、はい! よろしくお願いします」
依里佳は深々と頭を下げた。
(嫌なこと……なら、何度も遭ったことあるけど、も)
そんなことを思い出すまでもなく、依里佳は緊張して笑うことなど出来そうになかった。固い表情で、出された指示の通り動いたりポーズを取る。
小鳥遊の後ろでは、篤樹と陽子がスマートフォンを手にして依里佳を撮影していた。翔はその傍らで「えりかがんばれ~」と、目を輝かせて見学している。
篤樹から釘を刺されたのか、自ら気を遣ったのか、百合子と幸希はスタジオに顔を見せることはなかった。
「あっくん、この後は一緒に写ってもらうからね? お姉様のことお願いね?」
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