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番外編

番外編4「アイドル衣装の正しい?使い方」2話

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「……え? えぇっ!? 篤樹っ! ちょ、ちょっと、何これ!?」
 脱衣室から轟く叫び声――そんなことは想定済みだと言わんばかりに、篤樹はしれっと顔を覗かせた。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ、依里佳」
 全身濡れたまま、タオルだけ身体に巻きつけた状態で、依里佳がパクパクと口を動かしていた。
 部屋着が置いてあるはずのそこに、昼間に着たばかりの衣装が吊るしてあった――東雲エリカの楽曲衣装だ。
「な、な、なんでぇ!?」
 あたふたしている依里佳とは相反して、篤樹はきわめて冷静だ。穏やかな表情のまま、そばにあった新しいタオルで彼女の濡れた髪を拭く。
「咲から貰ったんだよ」
「そうじゃなくて、どうして脱衣室ここにかかってるの!?」
 依里佳の頭の片隅に、ものすごく嫌な予感がフッと湧くが、それを追い払うようにかぶりを振った。
(ううん、まさかまさかそんなこと……ない、はず)
 しかしそんな願いのような思い込みがあっさり覆される言葉が、篤樹から放たれる。
「多分、今、依里佳が頭で思ってることが正解」
「……嘘でしょ」
(これをまた着ろ、って言うわけぇ?)
「嘘や冗談でこんなかさばるもの持って帰らないから」
 衣装だけでなく、ブーツや手袋までがそこにきちんと置かれており、依里佳はめまいがした。
「あ、あの……私にそれを着せて何するつもり……?」
 アイドル衣装を着た依里佳に、一体何をするのか、させるのか……考えたくなくて、想像しかけたことを脳内から強制排除する。何度も同じシチュエーションが浮かんでは追い出す。
 しかしそんな努力などあっさり水の泡になる言葉が、またしても篤樹から放たれた。
「だから、依里佳が今考えてることだけど? ……分かってるくせにとぼけちゃって、可愛い」
 髪の水分をあらかた拭った篤樹は、タオルを洗濯機に放り込み、依里佳の頭を撫でる。
「ごまかさないでよぉ……だ、第一! その衣装って、咲ちゃんが自腹で作ったものなんでしょ? それを、その……汚したりしたら、まずいんじゃないの?」
「大丈夫、これはもう俺のものだから。汚そうが何しようが、俺の自由」
「わ、私、着ないから……そんなことさせるならもう帰る」
 依里佳が心許なげに胸元のタオルの合わせ目をぎゅっと握る。
「依里佳……」
 篤樹が濡れた身体をそっとバスタオルごと抱きしめた。
「……濡れちゃうよ、篤樹」
 言葉ではそう言ってみるも、抗わずにその胸に身体を預ける。
「依里佳……俺のこと、好き?」
「……好き」
「俺も好きだよ……愛してる。だから、愛する依里佳がこれを着てくれた姿が見たいし……抱きたい。……だめ?」
「うぅ……む、り……」
「どうしても……?」
 小さく紡いだ言葉に色気をたっぷりと含ませて、依里佳の耳の中へと送り込む篤樹。その手は肢体に巻かれたタオルの上をつつ、と下へ滑り、縁を摘んで軽く持ち上げて。そして未だ濡れたままの彼女の双丘をそのまま辿った。
 指は雫をまといながら谷間へと行き着き。篤樹は指先を奥の方へと忍ばせた。
「あ、や、だ……」
 反射的にビクリと身体を震わせた依里佳は、無意識に篤樹の胸元にすがるようにしがみついた。
 言葉だけのささやかな抵抗など介意せずに、篤樹は指を押し進めて。慎ましく閉ざされた透き目に水で潤びた指を優しく捩じ込んだ。
「んんっ……」
 温かなそこは、僅かながら湿り気を帯びていて。篤樹が指を動かすごとに感触が滑らかになり、淫らな音が立ち始めた。
「……っ、」
 依里佳は篤樹の肩に顔を押しつけるように埋めて。声を出すまいと必死に堪えていた。
「依里佳……だめ?」
 初めは閉じていた彼女の脚が、細かく震えて少しずつ緩み始める。篤樹の指はますます自由に動き、秘裂を弄び始めた。
「あぁっ、ん、や……ぁっ」
 たまらずに甘い声を上げる依里佳。全身に快感が走り、ぶわりと鳥肌が立つ。
「気持ちよさそうだね。……このまま、ここでしよっか?」
 篤樹がタオルを外そうとすると、依里佳はここでようやく抵抗を見せた。タオルを掴む手に力を入れ、かぶりを振る。
「ぁ、や、だ……っ、こんな、と、こじゃ……っ」
 脱衣室という、ムードもへったくれもない場所である以前に、ここは天井に蛍光灯が設置されており、とても明るい。電気が煌々と灯った下で裸体を晒すのは、依里佳にとっては恥ずかしくてたまらないのだろう。
 寝室であれば、間接照明なので多少恥ずかしさも和らぐ。
 篤樹はもちろん、それを分かっていて言っているのだった。
「……じゃあ、俺のお願い……聞いてくれる?」
 そう尋ねながら、篤樹が依里佳のバスタオルをさらにたくし上げるので、下半身がほぼ空気に晒されつつあった。その間も、もう片方の手で愛撫を施すのを忘れない。濡れた部分をぬめりに任せて擦り上げる。一番感じる部分をわざと外されているのに、そこはもう十分に潤いを湛えていた。
 依里佳は大きく身体をわななかせる。
「あぁんっ、あっ、ぁ、わ、分かった、からぁ……っ、んっ」
 依里佳の陥落の言葉を聞いた篤樹は、不意に彼女の秘裂から指を抜いた。潮が引くように快楽の供給が遠のき、身体の奥には中途半端な甘気が残り燻っている。
「ぁ……も……篤樹のバカ……」
 鼻から抜けるような色づいた声で責め句を紡ぎながら、依里佳が篤樹の胸元を叩く。
「後でちゃんとイカせてあげるからね」
 依里佳のくちびるにキスをひとつして、篤樹はバスルームから出て行った。
「もう……」
 散々甘い音吐や快感を与えておきながら、あっさりとすべて引き上げて去って行く篤樹に、悔しくなるやら呆れるやらで。
 水科家の兄妹には振り回される運命なのかも知れない――諦めの境地に達した依里佳はため息をつき、タオルで身体を拭き始める。
 脱衣室の扉を後ろ手に閉じた瞬間、篤樹がこぶしを固く握ってガッツポーズを決めていたなどと、彼女には知る由もなかった。
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