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005 フラグ
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
というわけで、プロローグと繋がったところでだ。
「一体何を言ってるの?」
「ほら、やっぱり兄ちゃん変なの!」
「頭のネジが外れたのかしら。病院に行かせるべきか……それとも工具店でドライバーを買うべきか……」
確認のために質問してみたものの、酷い反応を示された。
治世に関してはまるで路傍の汚い石でも見るかのような視線を向けてきやがる。
「そ、そのぉ……冗談!」
ともあれほんの少し精神的ダメージは負ったが、一つ確認はできた。
彼女達は自分達が物語の登場人物だとは自覚をしていない。
ならばこれから普通に彼女達と過ごしていく? いや、正確には物語を進めていく、か?
どうしよう、どうするべき?
とりあえずは……流れのままに、いこう。
「あ、そう」
そっけない態度で彼女は歩き出した。
うーむ、それにしても。
幼馴染であり、物語のヒロインである能美崎治世は、優しくて笑顔が素敵な温かみのある子――のはずなんだが……そんな気配が微塵も無い。
妹も然り、ヒロインまで性格が変わってしまっているのは何故だ?
能美崎治世という登場人物をこうも精悍な顔立ちにして書いた覚えはないのだが。
「何考え込んでるのよ、遅刻したいの? 足を動かしなさい」
「ご、ごめんっ」
「……物語の登場人物」
ふと治世は顎に手を当てて考え込んだ。
引き込まれるほどの、神妙な面持ち。綺麗だ、本当に、この子は俺が考えたヒロインなのかと、疑ってしまう。
「何か、気になる事でもあったりする……?」
「人生を物語と例えるならば、私達も登場人物には変わりないかもしれないわね」
「なるほどー! 治世姉深いー!」
「そんなに深いかな?」
その意味も無く満面の笑みを作っている時点でこの子、特に何も考えて喋ってないな。
「私が主人公だとすれば、そうね……灯花は主要人物の一人よ」
「うぉー! とっても嬉しい! 主要人物ってあれだよね! キャラ紹介ページに載る感じのやつだよね!」
「ええ、そうよ」
「俺は?」
「モブね」
「モブ!?」
じっくり考えるものだから嬉しい回答をいただけるかと思ったが甘かった。
「ホラー映画では最初に死ぬわ。もちろん、私の物語でも」
「俺そのうち死ぬのかな!?」
「安心して、すぐには殺さないわ」
「その台詞は大体悪役が言うやつ!」
「私が悪役だとでも言うの?」
「あ、いえ……」
……どこか俺への好感度が低いな。
刺々しい対応に早くも心が折れそうだ。
ずっとこんな対応をされると泣いてしまうかもしれない。
彼女達の性格が、俺の考えたものと違ってしまっているのは何か原因があるのだろうか。
まあいい、俺の考えた登場人物には変わりはないのだから攻略の道はあるはず……好感度アップを目指して頑張ってみよう。
「治世姉、モブって何ー?」
「モブというのはね、本来は群衆や群れなどの意味があるのだけど、近年のアニメや漫画業界ではモブキャラという主人公以外の、同じ枠の中に映りこんでいるキャラを指すようになったわ。今はそういう表現をしたの」
すんなりとモブについての情報が出てくる博識さ。
そういえば、この子は博識多才な子という設定だったかな。そもそもこの物語は高校時代に考えたものだ、所々がうろ覚えだ……しっかり思い出していかなくては。
「ふーん、なるほど! 兄ちゃんには似合うかも!」
「嬉しくない」
「悪い奴ではなかったわ」
「過去形になってない? 俺死んでない?」
「死んでないわ、私の心の中でいつまでも生きているもの」
「それ、死んでるよね?」
「しくしく」
「死を悼んでるよね?」
嘘泣きをしやがる、それも無表情で。
少しは演技というものをしたらどうなんだ。
好感度が低いどころか嫌われているかもしれないがどうか気のせいであってほしい。
「兄ちゃんと治世姉は相変わらず息がぴったりだね!」
「そうかなぁ?」
「それはそれで――」
嬉しかったりする?
彼女は俺に一瞥をくれるや、
「ショックだわ」
「ショックなの!?」
会話から少しずつこの能美崎治世の性格が掴めてきている。
辛辣・毒舌キャラってとこかな。どうしてこうなった。
「あ、ショックといえば、ショッキングなニュースがあったんだよ!」
「ショッキングなニュース?」
「すっごくショッキング! 大量の虫に街の人が襲われたんだってー! 虫だよ虫! いろーんな種類の虫だったって! 超常現象だよ!」
「い、嫌なニュースだねえ……」
これは……確か最初のフラグだったかな? 書いたのが十年前とあって中々スムーズに記憶が出てこないが、合っているはず。
この会話が出てきたという事は、敵の一人であるラトタタ・ナタタがこの街に来ているのが確定だ。
敵……そういったものが、これまでの人生では程遠い存在だったが、これから対峙するとなると……わくわくよりも不安のほうが強い。
どうにか回避できないものか。
「虫には慣れてるけど、大量となると想像するだけで身の毛もよだつわね。それも人を襲うだなんて恐ろしいわ」
「寝る前に見たニュースだったから、昨日はスムーズに寝付けなくてびえびえ……」
「気をつけなさい。特に文弥」
「は、はい……」
「この中で誰が最初に死ぬかといったら、やっぱり貴方なのだから」
「やっぱり俺なのか……」
そこはどうか誰も死なないよう配慮してくれるとありがたいのだが。
「兄ちゃん死なないでね! んじゃ、私はこっちだからー! じゃあまたねー!」
勢いよく手を振り、丁字路を左へと行く灯花。
彼女に手を振り返してやり、少し見送った後に俺達は再び歩き出した。
……改めて。
意識してしまうのは、女の子と二人きりでの登校。
……俺からすれば、女子高生なんてただの子供にしか見えないはずなのに……彼女は大人びた雰囲気もあって、
何を話せばいいんだ? お隣さんは、と――横目で見るや彼女も同じく横目でこちらを見ており、目が合った。
「何?」
「あ、いや……」
「気になるわね。なんだかよそよそしいし、何か隠してる?」
「べ、別に何も……」
ゆっくりと、横目から、顔をこちらに向けてくる。
威圧感があるな、反射的に目を逸らしてしまった。けれどこれは失敗だったかも。何か隠してますと言っているようなものではないか。
「嘘が下手ね」
「嘘なんかついてないよ?」
「あ、そう。それなら、いいけど」
少し足早になる治世。
これは不機嫌の表れか、朝から抱く違和感がもやもやさせているのかもしれない。
「きょ、今日はいい天気だねえ」
こういう時は会話だ。
天気の話から入るのが無難かな、どうだろう? 若い子との会話なんてどうすればいいのか知らんがな。って今は俺も若いのか。昔はどういう会話をしたもんかなぁ。女の子との会話といえば先輩と小説について語り合ったくらいしかないな。どうしよう。
「そうね」
「……」
通りかかった書店、まだ閉まっているが開けてくれないだろうか。
女の子と楽しく会話する方法なんていう題名の本を買いたいのだが。
ただでさえ最近じゃあ異性との会話すらする機会がなかったってのに、いきなり女子高生と会話だなんてハードルが高すぎるぜ。
しかも幼馴染として彼女は接してくる、話をうまく合わせやっていかなければ不審に思われるだろう。
「えーっと……」
「――最近、物騒な事件が増えてるらしいわ」
「そう、なんだ」
君から話を振ってくれるのは助かる。
「お前も気をつけなさい」
「了解です」
……お前て。
そんな呼ばれ方は距離を感じるなあ。
「お前はクソ雑魚なんだから何かあったら私を頼るのよ」
「クソ雑魚!?」
もう少し言い方は柔らかくできないかな?
……クソ雑魚か。
思えば今の俺は主人公の立ち位置なんだよな? となれば……だ。
思い出せ、俺の書いた物語の設定を……。
この世界には、異能を持つ人間――異能者がいる。
ヒロインももちろん異能者、ちなみに肉体再生系、ほぼ不死身。
当然主人公も異能を持っている。特別な異能――特異だ、能力は……異能者の力を自在に操る事が出来る。実際、チート。
俺が主人公の立ち位置である以上、この異能を所持していると考えるのが妥当だろうが実感が湧かない。
設定ではまだ能力は覚醒していない封印状態ではあるのだが。本当に持っているのだろうか。
道中、彼女との世間話には苦戦したけれど、何とか会話は途絶えずに無事に学校へ到着した。
「あー……懐かしい」
卒業してからは数か月後に通りかかったくらいで、それ以降は一度も見る機会すらなかった我が母校。
壁には亀裂がいくつも入って、やや老朽化が見られる昔ながらの長方形をどんっと置いたようななんの面白みもない校舎だ。
「懐かしい?」
「あ、いや、なんでもないよっ!」
古川高校の看板を見て思い出にふけりそうになるも、校門前では人通りも激しいのでゆっくりしていられる場所ではない。
人波を妨害してしまわないよう、そのまま流れの一部となり校舎へと入っていった。
というわけで、プロローグと繋がったところでだ。
「一体何を言ってるの?」
「ほら、やっぱり兄ちゃん変なの!」
「頭のネジが外れたのかしら。病院に行かせるべきか……それとも工具店でドライバーを買うべきか……」
確認のために質問してみたものの、酷い反応を示された。
治世に関してはまるで路傍の汚い石でも見るかのような視線を向けてきやがる。
「そ、そのぉ……冗談!」
ともあれほんの少し精神的ダメージは負ったが、一つ確認はできた。
彼女達は自分達が物語の登場人物だとは自覚をしていない。
ならばこれから普通に彼女達と過ごしていく? いや、正確には物語を進めていく、か?
どうしよう、どうするべき?
とりあえずは……流れのままに、いこう。
「あ、そう」
そっけない態度で彼女は歩き出した。
うーむ、それにしても。
幼馴染であり、物語のヒロインである能美崎治世は、優しくて笑顔が素敵な温かみのある子――のはずなんだが……そんな気配が微塵も無い。
妹も然り、ヒロインまで性格が変わってしまっているのは何故だ?
能美崎治世という登場人物をこうも精悍な顔立ちにして書いた覚えはないのだが。
「何考え込んでるのよ、遅刻したいの? 足を動かしなさい」
「ご、ごめんっ」
「……物語の登場人物」
ふと治世は顎に手を当てて考え込んだ。
引き込まれるほどの、神妙な面持ち。綺麗だ、本当に、この子は俺が考えたヒロインなのかと、疑ってしまう。
「何か、気になる事でもあったりする……?」
「人生を物語と例えるならば、私達も登場人物には変わりないかもしれないわね」
「なるほどー! 治世姉深いー!」
「そんなに深いかな?」
その意味も無く満面の笑みを作っている時点でこの子、特に何も考えて喋ってないな。
「私が主人公だとすれば、そうね……灯花は主要人物の一人よ」
「うぉー! とっても嬉しい! 主要人物ってあれだよね! キャラ紹介ページに載る感じのやつだよね!」
「ええ、そうよ」
「俺は?」
「モブね」
「モブ!?」
じっくり考えるものだから嬉しい回答をいただけるかと思ったが甘かった。
「ホラー映画では最初に死ぬわ。もちろん、私の物語でも」
「俺そのうち死ぬのかな!?」
「安心して、すぐには殺さないわ」
「その台詞は大体悪役が言うやつ!」
「私が悪役だとでも言うの?」
「あ、いえ……」
……どこか俺への好感度が低いな。
刺々しい対応に早くも心が折れそうだ。
ずっとこんな対応をされると泣いてしまうかもしれない。
彼女達の性格が、俺の考えたものと違ってしまっているのは何か原因があるのだろうか。
まあいい、俺の考えた登場人物には変わりはないのだから攻略の道はあるはず……好感度アップを目指して頑張ってみよう。
「治世姉、モブって何ー?」
「モブというのはね、本来は群衆や群れなどの意味があるのだけど、近年のアニメや漫画業界ではモブキャラという主人公以外の、同じ枠の中に映りこんでいるキャラを指すようになったわ。今はそういう表現をしたの」
すんなりとモブについての情報が出てくる博識さ。
そういえば、この子は博識多才な子という設定だったかな。そもそもこの物語は高校時代に考えたものだ、所々がうろ覚えだ……しっかり思い出していかなくては。
「ふーん、なるほど! 兄ちゃんには似合うかも!」
「嬉しくない」
「悪い奴ではなかったわ」
「過去形になってない? 俺死んでない?」
「死んでないわ、私の心の中でいつまでも生きているもの」
「それ、死んでるよね?」
「しくしく」
「死を悼んでるよね?」
嘘泣きをしやがる、それも無表情で。
少しは演技というものをしたらどうなんだ。
好感度が低いどころか嫌われているかもしれないがどうか気のせいであってほしい。
「兄ちゃんと治世姉は相変わらず息がぴったりだね!」
「そうかなぁ?」
「それはそれで――」
嬉しかったりする?
彼女は俺に一瞥をくれるや、
「ショックだわ」
「ショックなの!?」
会話から少しずつこの能美崎治世の性格が掴めてきている。
辛辣・毒舌キャラってとこかな。どうしてこうなった。
「あ、ショックといえば、ショッキングなニュースがあったんだよ!」
「ショッキングなニュース?」
「すっごくショッキング! 大量の虫に街の人が襲われたんだってー! 虫だよ虫! いろーんな種類の虫だったって! 超常現象だよ!」
「い、嫌なニュースだねえ……」
これは……確か最初のフラグだったかな? 書いたのが十年前とあって中々スムーズに記憶が出てこないが、合っているはず。
この会話が出てきたという事は、敵の一人であるラトタタ・ナタタがこの街に来ているのが確定だ。
敵……そういったものが、これまでの人生では程遠い存在だったが、これから対峙するとなると……わくわくよりも不安のほうが強い。
どうにか回避できないものか。
「虫には慣れてるけど、大量となると想像するだけで身の毛もよだつわね。それも人を襲うだなんて恐ろしいわ」
「寝る前に見たニュースだったから、昨日はスムーズに寝付けなくてびえびえ……」
「気をつけなさい。特に文弥」
「は、はい……」
「この中で誰が最初に死ぬかといったら、やっぱり貴方なのだから」
「やっぱり俺なのか……」
そこはどうか誰も死なないよう配慮してくれるとありがたいのだが。
「兄ちゃん死なないでね! んじゃ、私はこっちだからー! じゃあまたねー!」
勢いよく手を振り、丁字路を左へと行く灯花。
彼女に手を振り返してやり、少し見送った後に俺達は再び歩き出した。
……改めて。
意識してしまうのは、女の子と二人きりでの登校。
……俺からすれば、女子高生なんてただの子供にしか見えないはずなのに……彼女は大人びた雰囲気もあって、
何を話せばいいんだ? お隣さんは、と――横目で見るや彼女も同じく横目でこちらを見ており、目が合った。
「何?」
「あ、いや……」
「気になるわね。なんだかよそよそしいし、何か隠してる?」
「べ、別に何も……」
ゆっくりと、横目から、顔をこちらに向けてくる。
威圧感があるな、反射的に目を逸らしてしまった。けれどこれは失敗だったかも。何か隠してますと言っているようなものではないか。
「嘘が下手ね」
「嘘なんかついてないよ?」
「あ、そう。それなら、いいけど」
少し足早になる治世。
これは不機嫌の表れか、朝から抱く違和感がもやもやさせているのかもしれない。
「きょ、今日はいい天気だねえ」
こういう時は会話だ。
天気の話から入るのが無難かな、どうだろう? 若い子との会話なんてどうすればいいのか知らんがな。って今は俺も若いのか。昔はどういう会話をしたもんかなぁ。女の子との会話といえば先輩と小説について語り合ったくらいしかないな。どうしよう。
「そうね」
「……」
通りかかった書店、まだ閉まっているが開けてくれないだろうか。
女の子と楽しく会話する方法なんていう題名の本を買いたいのだが。
ただでさえ最近じゃあ異性との会話すらする機会がなかったってのに、いきなり女子高生と会話だなんてハードルが高すぎるぜ。
しかも幼馴染として彼女は接してくる、話をうまく合わせやっていかなければ不審に思われるだろう。
「えーっと……」
「――最近、物騒な事件が増えてるらしいわ」
「そう、なんだ」
君から話を振ってくれるのは助かる。
「お前も気をつけなさい」
「了解です」
……お前て。
そんな呼ばれ方は距離を感じるなあ。
「お前はクソ雑魚なんだから何かあったら私を頼るのよ」
「クソ雑魚!?」
もう少し言い方は柔らかくできないかな?
……クソ雑魚か。
思えば今の俺は主人公の立ち位置なんだよな? となれば……だ。
思い出せ、俺の書いた物語の設定を……。
この世界には、異能を持つ人間――異能者がいる。
ヒロインももちろん異能者、ちなみに肉体再生系、ほぼ不死身。
当然主人公も異能を持っている。特別な異能――特異だ、能力は……異能者の力を自在に操る事が出来る。実際、チート。
俺が主人公の立ち位置である以上、この異能を所持していると考えるのが妥当だろうが実感が湧かない。
設定ではまだ能力は覚醒していない封印状態ではあるのだが。本当に持っているのだろうか。
道中、彼女との世間話には苦戦したけれど、何とか会話は途絶えずに無事に学校へ到着した。
「あー……懐かしい」
卒業してからは数か月後に通りかかったくらいで、それ以降は一度も見る機会すらなかった我が母校。
壁には亀裂がいくつも入って、やや老朽化が見られる昔ながらの長方形をどんっと置いたようななんの面白みもない校舎だ。
「懐かしい?」
「あ、いや、なんでもないよっ!」
古川高校の看板を見て思い出にふけりそうになるも、校門前では人通りも激しいのでゆっくりしていられる場所ではない。
人波を妨害してしまわないよう、そのまま流れの一部となり校舎へと入っていった。
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