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018 できなかった
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やはり先輩は存在していた。
存在していたけれど……タイムリープも、現実が物語と融合してしまったのも、あの奇妙な原稿も全て先輩によるものだという事実は、昨日の寝つきを悪くした。
寝不足気味の朝。
目覚まし時計が鳴るよりも少し早く目が覚めて、すぐに先輩の事をまた思い出していた。
俺は先輩の事を何も知っちゃあいなかった。知ったつもりでいただけだ、何も、力になれていなかった。
思えば自分の物語の事ばかり話して、先輩の話はあまりしなかった。
……何か、変えられたのだろうか。
あの頃――といっても今がまさにそのあの頃なのだが、まったく別の過去だここは。折角タイムリープしたのに、変えたいものを変えられないのは本当に残念だ。
先輩は世界を容易く変える力を持つようになり、俺を理想の主人公にして、満足のいく結末を目指している。
簡単にまとめると、こういうわけなのだが……さて、俺はどうするべきなのだろう。
……すぐには自分の中で答えは出せない。
ただ、俺はタイムリープした件に関しては満足している。戻りたかったあの頃に戻れたからね。
問題は、それ以外だよなあ――
「おはようー! あっ! 起きてる!」
「おはよう灯花」
そうして、今日もまた一日が始まる。
騒がしい朝にも、幼馴染が迎えに来てくれて肩を並べる登校も、にこやかに話しかけてきてくれるクラスメイトにも少しずつ慣れてはきている。
一週間もすればきっとぎこちなさなどすっかり消えて学校生活を満喫している自分がいるだろう。
居心地がいいと適応力も高くなるものだね。
ただ、慣れているのとうまくいっているのとは別だ。
治世との学校生活はというと――。
「昨日、新たな異能者が現れたそうよ」
「そ、そうなんだ……」
教室でそんな話をするわけにもいかないので、廊下の端のほうでこそこそとそんな話をしている。ほんわかな学校生活はいずこへ。
委員長への警戒も緩めちゃあいけないし、どうしたものか。
「街で暴れてて、何かを追っていたようなんだけど」
「何を追ってたんだろうね……?」
「美弥子さんが取り逃がすほどの異能者となるとまた協力な異能者に違いないわね。警戒を怠らないで」
「あ、はい……」
学校生活でする会話ではない。
もっと楽しい会話がしたいよ俺は。
学校ではいつも俺の傍にいてくれるけどこれも警戒のためであって、けどまあ頼もしいには頼もしい。
クラスメイトにはこいつら付き合ってるんじゃないのか? なんていう目で見られているのもしばしばだがところがどっこい、彼女との進展はこれといって特にない。
ツンデレ属性の――デレがない状態がずっと続いているみたいなものだ、このままツン属性で過ごされるのは辛い。
治世さーん、今後の事を考えてもう少し仲良くしませんかねえ。
そうして次の時間へ。
体育の時間は高校時代はだるい時間ではあったが今では体を動かせるというのがどれほど喜ばしいのかを実感している。
楽しい、楽しいけれど――
「――あでっ」
「おいおい佐久間ー、お前ってそんなにバスケできなかったっけ?」
……スポーツが得意というわけではなかった。
今までこれといったスポーツはしてこなかったんだよな、バスケットボールを持つ手も覚束ない上に、味方からのパスは大体頭で受けてしまっている。
若さを取り戻して動けるようになったからといって、スポーツができるとは限らない。それに尽きる。
「い、いやあ……俺の運動神経、最近調子が悪くて」
「運動神経に調子ってあるのか?」
「調子以前に、先週と全然動きが違うくね? なんかいきなり素人みたいになったような」
「そ、そうかな? 気のせいでは?」
主人公・公人と比べて劣ってしまう部分はできる限りは埋め合わせていきたいのだが、スポーツに関しては一朝一夕にはいかない。
頑張れ俺、ゴールに向けてボールを投げ込むだけだ。バスケットくらいなら少年誌でよく見て学んだじゃないか。
「佐久間ー、ボールが全然違う方向にいってんぞー」
「こんなはずでは……」
「どういうのを想像してたんだ?」
「こう……スパッ! っていう音が鳴って綺麗にボールがリングをくぐり抜けるのをだね……」
「せめてリングに当たるくらいはしようぜ」
「めんぼくない……。ちょっと、交代」
そんなに激しくは動いていないのだが、もう肩で息をするほどに呼吸が荒い。
自分の運動不足さを思い知らされる。
迫る戦いに向けて少しでも運動して俊敏に動ける程度にはなっておきたい、体育は鍛えるつもりで臨もう。
奥では女子達が試合をしている。
その中でも動くがよく、黄色い声援を受けて一際活躍を見せている女子が一人。
綺麗なフォームに、綺麗に弧を描くボール、そして綺麗な容姿に綺麗な横顔。綺麗って言葉をつけておけば、治世の魅力は何でも表現できてしまう。
「能美崎って何でもできるよな」
「本当はああいうキャラじゃあないんだけどね」
「キャラ?」
「ああいやっ――治世ってすごいよねえ」
変更前の治世だったら一生懸命動き回るもちょいちょいドジったりと抜けたところもあって、それがまた可愛い! なキャラで笑顔も明るく皆に元気を与えてくれる――今とはまた違った魅力を発揮してたんだよ。
しかしだからといって今が駄目というわけではない、あんなクールでなんでもそつなくこなす治世も、いい……!
男女共に人気も高い。そんな彼女の隣によく俺がいるもんだから男女共に俺を邪魔だと思っている生徒も多いのではないだろうか。
お隣の田中君はどうだろう。
見るからに温厚な彼は人畜無害っぽいし、治世に対してもこうして軽く話す程度で特別な感情を抱いている風には見えない。
モブから生まれたかのような人物だが、俺の考えた物語の登場人物ではない。
クラスに元からいて、元からモブっぽい感じだったけど、今や完全にモブキャラの立ち位置になってしまっている。
「お、目が合った」
「仲いいなお前ら」
「そう見えるだろ? 実はそうでもないんだぜ」
遠くからでも分かる。
治世は舌打ちをして深い溜息をついているのだ。
あんまりジロジロ見るなと言いたげに睨んでいる、ちょっと手を振ってみよう。
「すごいな、お前が手を振ったら顔つきが変わったぞ。気合入ったのかな?」
「そうじゃないと思う」
どす黒いオーラが出ているような。
なんか俺ってラトタタの時以外はあんまりいいとこ見せられてないし、治世には体育の時だけでも頑張っていいとこ見せておきたいな。
「次の試合、出るよ!」
「そうでなくっちゃな! やろうやろう!」
田中君と協力していい試合運びをして、何点も稼いで治世に自慢してやるんだ。
きっと俺ならできる!
「いたーい……」
「お前、馬鹿なんじゃないの?」
あれから十五分が経過し、俺は保健室にいた。
気合を入れていざ試合だと参加したのは良いのだか、田中君からいいパスを受け取ってゴールに向かって華麗に跳躍――したもののその際に足を引っ掛けて思い切り床へタッチダウンする形になってしまった。
倒れる瞬間には追い討ちの如く手からこぼれたボールが俺の目の前にあり、床と顔面でのサンドイッチをして鼻血を垂らすという、早々ない不運を作り出した。
「……お前、馬鹿なんじゃないの?」
「悲しくなるから二回も言わないで!」
「ふんっ」
「ふがっ」
治世は躊躇無く鼻に丸めたガーゼを突っ込んでくる。
治療してもらって何だけど、もう少し優しさが欲しいな。
「別の言葉を捜そうとしたけどやっぱり馬鹿なんじゃないかなって思ったから」
「なんだよもう……いてて……」
「ほら、動かないで」
「ここは君の異能でぱぱっと治すっていうのはどうかな?」
「いきなり完治して戻ったら不気味すぎるでしょ」
「それもそうだね」
「少しは考えなさいよ」
治世は呆れたように溜息をつく。
なんだか彼女には溜息ばかりつかれてる気がするなあ。
「それとお前、異能を軽くみてない?」
「えっ、軽く? というと?」
「ぱぱっとだなんて言ってもらいたくないわね。異能は使い放題じゃあないのよ。使いすぎれば鼻血が出たり疲労感も相当なものになるの、限界を超えると最悪死ぬわ」
「そ、そうなんだ……」
うんうん、異能ってそういう感じだったね。
こうして会話から細かい部分の設定を復習できているのは正直助かる。
作者なら設定はちゃんと憶えてろよって話にはなるけど、十年の歳月があったんだから仕方ないだろという言い訳くらいはさせてくれ。
「乱用は控えたほうがいいんだね」
「ええ、少なくともお前のように馬鹿みたいな事で怪我をして簡単に異能を使うなんて事はしないの」
「傷つくわぁ」
「私は傷つかないわ」
「むしろ治るもんね」
異能的な意味で。
「はいはいそうね……お前、膝も怪我してるじゃない」
「これくらい大丈夫だよ」
「いいから」
治世は消毒液をだくだくにつけたガーゼを頬に当ててくれた。
べしべしっ! っとやや乱暴だが。
「先生はいないけどベッドは誰か使ってるようね。この保健室、管理はどうなってるのかしら」
「保健室の先生も忙しいんだよ」
「ここが仕事場だと思うけど、いないとなると何をしてるのか謎だわ」
確かに。
サボってたりして。いや、うん、多分サボってるな。そういう先生が就いている設定にしていたと思う。
今頃どこかに隠れて一服でもしてるんじゃないだろうか。
「けどよかったわね、先生にお前のその怪我の原因を説明しなくて。どうせいいとこ見せようとして失敗したんでしょう?」
「んぐっ……!」
図星である。
やっぱり無茶な背伸びはよくないね、地道にこつこつやっていくとするよ。
「それで転んで鼻血まで垂らす始末……と。よかったわね、クラスに笑いのネタを提供できたわよ」
「よくないんだよなあ」
「この前までバスケくらい普通にこなせてたのにどうしていきなりこうも劣化するのかしら、退化はお前の特技なの?」
「いいのかい治世、あまり強く言うと泣いちゃうよ?」
「泣いたらすぐ撮ってSNSに拡散するわ」
「やめようね?」
もしもバズりでもしてしまったら世界中に俺の泣き顔が広まっちゃうじゃないか。
存在していたけれど……タイムリープも、現実が物語と融合してしまったのも、あの奇妙な原稿も全て先輩によるものだという事実は、昨日の寝つきを悪くした。
寝不足気味の朝。
目覚まし時計が鳴るよりも少し早く目が覚めて、すぐに先輩の事をまた思い出していた。
俺は先輩の事を何も知っちゃあいなかった。知ったつもりでいただけだ、何も、力になれていなかった。
思えば自分の物語の事ばかり話して、先輩の話はあまりしなかった。
……何か、変えられたのだろうか。
あの頃――といっても今がまさにそのあの頃なのだが、まったく別の過去だここは。折角タイムリープしたのに、変えたいものを変えられないのは本当に残念だ。
先輩は世界を容易く変える力を持つようになり、俺を理想の主人公にして、満足のいく結末を目指している。
簡単にまとめると、こういうわけなのだが……さて、俺はどうするべきなのだろう。
……すぐには自分の中で答えは出せない。
ただ、俺はタイムリープした件に関しては満足している。戻りたかったあの頃に戻れたからね。
問題は、それ以外だよなあ――
「おはようー! あっ! 起きてる!」
「おはよう灯花」
そうして、今日もまた一日が始まる。
騒がしい朝にも、幼馴染が迎えに来てくれて肩を並べる登校も、にこやかに話しかけてきてくれるクラスメイトにも少しずつ慣れてはきている。
一週間もすればきっとぎこちなさなどすっかり消えて学校生活を満喫している自分がいるだろう。
居心地がいいと適応力も高くなるものだね。
ただ、慣れているのとうまくいっているのとは別だ。
治世との学校生活はというと――。
「昨日、新たな異能者が現れたそうよ」
「そ、そうなんだ……」
教室でそんな話をするわけにもいかないので、廊下の端のほうでこそこそとそんな話をしている。ほんわかな学校生活はいずこへ。
委員長への警戒も緩めちゃあいけないし、どうしたものか。
「街で暴れてて、何かを追っていたようなんだけど」
「何を追ってたんだろうね……?」
「美弥子さんが取り逃がすほどの異能者となるとまた協力な異能者に違いないわね。警戒を怠らないで」
「あ、はい……」
学校生活でする会話ではない。
もっと楽しい会話がしたいよ俺は。
学校ではいつも俺の傍にいてくれるけどこれも警戒のためであって、けどまあ頼もしいには頼もしい。
クラスメイトにはこいつら付き合ってるんじゃないのか? なんていう目で見られているのもしばしばだがところがどっこい、彼女との進展はこれといって特にない。
ツンデレ属性の――デレがない状態がずっと続いているみたいなものだ、このままツン属性で過ごされるのは辛い。
治世さーん、今後の事を考えてもう少し仲良くしませんかねえ。
そうして次の時間へ。
体育の時間は高校時代はだるい時間ではあったが今では体を動かせるというのがどれほど喜ばしいのかを実感している。
楽しい、楽しいけれど――
「――あでっ」
「おいおい佐久間ー、お前ってそんなにバスケできなかったっけ?」
……スポーツが得意というわけではなかった。
今までこれといったスポーツはしてこなかったんだよな、バスケットボールを持つ手も覚束ない上に、味方からのパスは大体頭で受けてしまっている。
若さを取り戻して動けるようになったからといって、スポーツができるとは限らない。それに尽きる。
「い、いやあ……俺の運動神経、最近調子が悪くて」
「運動神経に調子ってあるのか?」
「調子以前に、先週と全然動きが違うくね? なんかいきなり素人みたいになったような」
「そ、そうかな? 気のせいでは?」
主人公・公人と比べて劣ってしまう部分はできる限りは埋め合わせていきたいのだが、スポーツに関しては一朝一夕にはいかない。
頑張れ俺、ゴールに向けてボールを投げ込むだけだ。バスケットくらいなら少年誌でよく見て学んだじゃないか。
「佐久間ー、ボールが全然違う方向にいってんぞー」
「こんなはずでは……」
「どういうのを想像してたんだ?」
「こう……スパッ! っていう音が鳴って綺麗にボールがリングをくぐり抜けるのをだね……」
「せめてリングに当たるくらいはしようぜ」
「めんぼくない……。ちょっと、交代」
そんなに激しくは動いていないのだが、もう肩で息をするほどに呼吸が荒い。
自分の運動不足さを思い知らされる。
迫る戦いに向けて少しでも運動して俊敏に動ける程度にはなっておきたい、体育は鍛えるつもりで臨もう。
奥では女子達が試合をしている。
その中でも動くがよく、黄色い声援を受けて一際活躍を見せている女子が一人。
綺麗なフォームに、綺麗に弧を描くボール、そして綺麗な容姿に綺麗な横顔。綺麗って言葉をつけておけば、治世の魅力は何でも表現できてしまう。
「能美崎って何でもできるよな」
「本当はああいうキャラじゃあないんだけどね」
「キャラ?」
「ああいやっ――治世ってすごいよねえ」
変更前の治世だったら一生懸命動き回るもちょいちょいドジったりと抜けたところもあって、それがまた可愛い! なキャラで笑顔も明るく皆に元気を与えてくれる――今とはまた違った魅力を発揮してたんだよ。
しかしだからといって今が駄目というわけではない、あんなクールでなんでもそつなくこなす治世も、いい……!
男女共に人気も高い。そんな彼女の隣によく俺がいるもんだから男女共に俺を邪魔だと思っている生徒も多いのではないだろうか。
お隣の田中君はどうだろう。
見るからに温厚な彼は人畜無害っぽいし、治世に対してもこうして軽く話す程度で特別な感情を抱いている風には見えない。
モブから生まれたかのような人物だが、俺の考えた物語の登場人物ではない。
クラスに元からいて、元からモブっぽい感じだったけど、今や完全にモブキャラの立ち位置になってしまっている。
「お、目が合った」
「仲いいなお前ら」
「そう見えるだろ? 実はそうでもないんだぜ」
遠くからでも分かる。
治世は舌打ちをして深い溜息をついているのだ。
あんまりジロジロ見るなと言いたげに睨んでいる、ちょっと手を振ってみよう。
「すごいな、お前が手を振ったら顔つきが変わったぞ。気合入ったのかな?」
「そうじゃないと思う」
どす黒いオーラが出ているような。
なんか俺ってラトタタの時以外はあんまりいいとこ見せられてないし、治世には体育の時だけでも頑張っていいとこ見せておきたいな。
「次の試合、出るよ!」
「そうでなくっちゃな! やろうやろう!」
田中君と協力していい試合運びをして、何点も稼いで治世に自慢してやるんだ。
きっと俺ならできる!
「いたーい……」
「お前、馬鹿なんじゃないの?」
あれから十五分が経過し、俺は保健室にいた。
気合を入れていざ試合だと参加したのは良いのだか、田中君からいいパスを受け取ってゴールに向かって華麗に跳躍――したもののその際に足を引っ掛けて思い切り床へタッチダウンする形になってしまった。
倒れる瞬間には追い討ちの如く手からこぼれたボールが俺の目の前にあり、床と顔面でのサンドイッチをして鼻血を垂らすという、早々ない不運を作り出した。
「……お前、馬鹿なんじゃないの?」
「悲しくなるから二回も言わないで!」
「ふんっ」
「ふがっ」
治世は躊躇無く鼻に丸めたガーゼを突っ込んでくる。
治療してもらって何だけど、もう少し優しさが欲しいな。
「別の言葉を捜そうとしたけどやっぱり馬鹿なんじゃないかなって思ったから」
「なんだよもう……いてて……」
「ほら、動かないで」
「ここは君の異能でぱぱっと治すっていうのはどうかな?」
「いきなり完治して戻ったら不気味すぎるでしょ」
「それもそうだね」
「少しは考えなさいよ」
治世は呆れたように溜息をつく。
なんだか彼女には溜息ばかりつかれてる気がするなあ。
「それとお前、異能を軽くみてない?」
「えっ、軽く? というと?」
「ぱぱっとだなんて言ってもらいたくないわね。異能は使い放題じゃあないのよ。使いすぎれば鼻血が出たり疲労感も相当なものになるの、限界を超えると最悪死ぬわ」
「そ、そうなんだ……」
うんうん、異能ってそういう感じだったね。
こうして会話から細かい部分の設定を復習できているのは正直助かる。
作者なら設定はちゃんと憶えてろよって話にはなるけど、十年の歳月があったんだから仕方ないだろという言い訳くらいはさせてくれ。
「乱用は控えたほうがいいんだね」
「ええ、少なくともお前のように馬鹿みたいな事で怪我をして簡単に異能を使うなんて事はしないの」
「傷つくわぁ」
「私は傷つかないわ」
「むしろ治るもんね」
異能的な意味で。
「はいはいそうね……お前、膝も怪我してるじゃない」
「これくらい大丈夫だよ」
「いいから」
治世は消毒液をだくだくにつけたガーゼを頬に当ててくれた。
べしべしっ! っとやや乱暴だが。
「先生はいないけどベッドは誰か使ってるようね。この保健室、管理はどうなってるのかしら」
「保健室の先生も忙しいんだよ」
「ここが仕事場だと思うけど、いないとなると何をしてるのか謎だわ」
確かに。
サボってたりして。いや、うん、多分サボってるな。そういう先生が就いている設定にしていたと思う。
今頃どこかに隠れて一服でもしてるんじゃないだろうか。
「けどよかったわね、先生にお前のその怪我の原因を説明しなくて。どうせいいとこ見せようとして失敗したんでしょう?」
「んぐっ……!」
図星である。
やっぱり無茶な背伸びはよくないね、地道にこつこつやっていくとするよ。
「それで転んで鼻血まで垂らす始末……と。よかったわね、クラスに笑いのネタを提供できたわよ」
「よくないんだよなあ」
「この前までバスケくらい普通にこなせてたのにどうしていきなりこうも劣化するのかしら、退化はお前の特技なの?」
「いいのかい治世、あまり強く言うと泣いちゃうよ?」
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