異世界の治療士達

智恵 理陀

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第二章

Karte.015 モブは二度飛ぶ。

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 暫し揺られて、モブさんの依頼場所へと到着した。
 今回の依頼は岩に罹った病魔のようだ、岩の何点かが少しずつではあるが黒くなっている。
 街の外ではあるも比較的目に付く場所であったために発見されたのだろう。

「治療士の処置を見るのも一つの勉強さね、ようく見ておくんだよぅ」
「了解、観察する」
「おいおいなんだぁ? 俺の治療技術がそんなに見たいのか?」

 ルォウにとっては見る必要もないだろうが、今回はレイコにどのような処置をしているのかの説明役を買って出てくれるのはありがたい。俺がやらなくて済む。
 こっちはこっちでじっくり見たいからな。
 自分の頭の中にない別の処置を見出せる可能性があるし、他人の処置ほど勉強になるものはない。

「あ、猫耳がいる」
「彼女はモブスの治療士補佐ね。獣人族の……名前なんだったかね?」
「ロキアン」
「そうそうロキアン、頑張ってロキア~ン」

 あんた、知らなかったろ。
 リーダー以外あんまり興味ないだろうし。

「獣人族はこの辺りじゃ少なくてねぇ、モブスはよく引き入れたものねぇ」
「是非うちにも猫耳っ子が欲しい」 
「人手には今のところ困ってないんでな」
「えぇ~……」

 何人も引き入れてどうするってんだ。
 俺達のチームは少人数でこなせる依頼ばかりだ、人手が多くなってもこっちの負担が大きくなるだけだ。

「そもそも治療士、魔物討伐者、治療士補佐がいればチームは成り立つからな」

 うちはエルスがまだ経験不足なために魔物討伐者兼治療士補佐としてベテランのライザックさんがいるからなんとかやっていけてはいる。
 昔は師匠がいたから俺がライザックさんの立ち位置にいたのもまた、少し懐かしい。

「でも次元病治療の影響で助手として受け入れて欲しいって子は出てくると思うわよ~?」
「つまり……その中に猫耳っ子もいる、と」
「そうさねぇ」
「これ以上は増やさんよ。ただでさえ治療経験のない奴を引き入れちまったんだからな」

 レイコ、お前の事だぞ。

「私か?」
「お前以外誰がいる」
「ウケる」
「ウケんな」

 とりあえずど突きたい。

「それよりちゃんとモブさんの処置を見てろよ。視診と触診が終わったぞ」
「空気への侵食もないわね、嗅診も良し、後は相手が岩だから聴診してみないと……あら、モブスは聴診してないわね。大丈夫かしら」
「聴診は大事?」
「進行の早いものに関してはちゃんと聴診しとかないとねぇ。こっそり動いてるかもしれないから、岩は聞き取りやすいし聴診して損はないさね」

 それを怠った上に進行が早ければ、ううむ……嫌な予感がする。

「あの岩も進行が進めば魔物になる?」
「そりゃ勿論、その前に中に巣食ってるであろう病巣を見つけて切除しなきゃね。病巣見えるまでが大変よぅ」

 モブさんは削孔具と麻酔針を用意していた。
 彼自身表情に不安はない、ただ補佐達は不安そうに見つめていた。
 やはり何より、モブさんが自信満々で処置をする時は決まって悪い事が起こると皆が理解していたからであろう。

「あの針は?」
「麻酔針といってね、物体を和らげる効果があるのだけれど、一番はやっぱりあれを打たずに処置すると処置中も進行が早くなるさね。これが大事。たとえ岩や大地であってもそのまま切られたり削られたりすると弱るのよぅ」
「この世界ではこういうのも皆生き物みたいなのね」
「そうねえ、みんな生きてるさね」

 彼女は小石を持ってそう呟く。
 小石程度ならば病巣が巣食う心配はないが、概ね彼女の言うとおりだ。

「削孔に入る!」

 モブさんは病巣の位置を触診で把握し、削孔具を手に取ったが、黒ずんできている岩は少しずつ赤へと変色し始めていた。
 ……麻酔針をしているのに、思ったよりも進行が早い。
 赤へと変わったとなれば魔物化が近い証拠だ、何かしら攻撃してくる可能性がある。

「ちょいとやばいさねぇ」
「手を貸さなくて、大丈夫?」
「それは彼から申請がないとねぇ、迂闊に手を出しちゃいけないの」

 俺ならまだしもルォウが手出しをしたら彼女のほうが上位の治療士であるためにこの依頼の評価が正当には受けられなくなってしまう可能性がある。
 手を出した時に魔物化等で治療ミスへと繋がれば治療妨害として訴えられても仕方がなくなってしまうため、無闇に手を出す事はタブーとされている。

「あの赤みからして、単純な魔法くらいは練れそうな魔物になりそうさねぇ」
「魔力が蓄積してるとしたら、大きな打撃を与えれば……」
「与えれば?」
「多分爆発するさね」
「なんてこった」

 モブさんは右手を大きく振り上げていた、手に持っているのはハンマー。
 声を掛けるくらいならば問題ない、一応言うだけ言ってみるか。

「モブさ――」

 振り上げ具合から相当な力を入れている様子、注意しようとしたが彼は既にハンマーを振り下ろしていた。

「ん?」

 削孔具の先に火花が生じ――爆発を引き起こした。

「モブさぁぁぁぁぁぁあん!」

 レイコは叫び、モブさんは宙を舞い、ルォウは大爆笑し、俺は深い溜息をついた。
 まあモブさんの事だ、大丈夫だろう。

「……びっくりしたぁ」

 あの爆発の見た目の激しさとは違い軽傷、頑丈さなら彼の右に出る者はいないのではなかろうか。
 不死身のモブス、北ギルドではそれなりに有名だ。

「ロキアンちゃん、今の俺どうなったの?」
「処置にミスがあり、爆発を引き起こして宙に吹き飛ばされておりました。ちなみに私はこんな事もあろうかと避難してました」
「ちゃっかりしてる~」

 獣人族ならではの俊敏さでハンマーが振り下ろされると同時に安全圏まで一瞬で移動していたな。

「病巣は?」
「先ほどの爆発で消失した可能性があります、となれば処置は失敗と報告するしかないでしょう。報酬はもらえるかどうか」

「諦めるな! 岩の損傷具合と病巣の有無、空気が汚染されていないかの確認! あと岩と同じ性能の液の入った噴射器をくれ!」
「かしこまりました」

 モブさんは後処理なら任せられるんだが、どうも本題のほうとなると毎回何かしでかす人だ。
 繰り返した結果があの頑丈さなのかもしれんが。

「モブさん、無事だった」
「いつも無事だから心配するだけ損だぞ」
「ん、んー……なんで処置中に症状が複雑になって扱いが厄介な病巣にばかり出くわすのかねぇ彼は」

 運が悪いとしか言いようがないがしかし不幸中の幸い――彼の頑丈さがあるからこそ大怪我には至っていない。

「あら、病巣のほうは残ってるようね。これなら病巣切除してギルドに出せば報酬ももらえるわ」
「モブさんの吹き飛びが報われた」
「そうだな」

 定期的に吹き飛んで病巣も消失させてしまうモブさんだが、

「どう? 初めて治療士の処置を見た感想は」
「……すごい」

 それはもう目を輝かせて。
 一つ一つの動作に集中して。
 好奇心が彼女の背を押してるかのように、ついでにその道へ押し込むかのような、そんな光景を俺は間近で目の当たりにして、察する。

「治療士、とても気に入った」

 どれほど引き止めたところで彼女の意思は動かないと、その双眸を覗き見る事で十分に理解できる。

「午後まで時間はまだあるな、もう少し見ていくか?」
「見ていく」

 レイコは後処置をじっくりと観察。
 駆け出しの治療士よりもやる気が見られるな。

「ん、んー……ねえルヴィン」
「なんだ?」
「あの子、きっといい治療士になるわよう」
「好奇心、意欲、治療士として大切なものは持ってるな」
「意外と上り詰めるかもしれないわねえ。あたしの勘は当たるさね」

 その勘を信用してあいつを育てていいものかどうか。

「やりたい事やらせないのは駄目よん、まだ若いんだし」
「ん……そうだな」

 やらせまいとしようにも、あいつなら強引にでもやろうとしてしまうだろう。
 まだ一日しか付き合いはないが、それだけでレイコという人物がどういったものなのか十分に把握できたから分かる。

「あら?」

 モブさんが後処置をしている最中、彼の足元が赤くなったような。

「あっ、転移してる」

 間違いない、赤くなっている。
 しかしほんのりと、注視しなければ分からない程度だ。

「というと?」
「さっきと同じ症状が――」

 言い終える前に、モブさんの足元で爆発が起こり、彼は吹き飛んだ。

「モブさぁぁぁぁぁぁぁぁあん!」

 それはまた見事に吹き飛んだ。
 先ほどと同様、派手な光景ではあるも彼が無事だという事は確かなので安心していい。

「時々あるんだ、近くの大地や木々とかに転移する事がな。進行が早い病巣だったから転移も早かったんだ」

「それよりモブさんは……」
「あの人なら大丈夫だ」

 体のあちこち焦げてるけど、多分軽傷。

「……びっくりしたぁ」
「ほらな」
「モブさん不死身すぎてウケる」

 あの人は上級魔法で吹っ飛ばされない限り重症には至らないんじゃないだろうか。

「病巣が無事なら一度で二個の病巣処置できるな」
「モブスは疫病神にでも憑かれてるのかしらねぇ」

 疫病神でさえモブさんの頑丈さには敵わないだろう。

「病巣は無事です、よかったですね」
「うーん……それは嬉しいんだけど、手を貸してくれないかい?」

 流石に二度も宙を舞うのは彼も堪えたか。

「病巣は壊れちゃったら駄目なの?」
「病巣に含まれる魔力を魔力石に抽入しなくちゃならないからな。それに魔物化していない病巣が破壊された時に菌が拡散される」

 こういう時は嗅診してみる。
 病巣が傷ついていたりすれば空気に異常があるのだが、今のところ異常はない。
 ちょいと派手な処置となったがモブさんは無事に依頼をやり遂げられた。
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