異世界の治療士達

智恵 理陀

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第二章

Karte.016 兆し

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 モブさんの処置を見届けて、俺達はギルド本部へと向かった。
 レイコが職員達と話をしている間はどうやって時間を潰そうか。ギルド本部にはこれといった暇潰しの要素など皆無だ。
 しかしロビーにいると定期的に「次元病を治した治療士ですよね?」と何人もやってきては次元病について聞いてくる始末で疲れてしまう。

「あんたは話をしてればいいけど、あたしは暇だわ」
「別にルォウはここでレイコを待つ必要もないだろ」
「それもそうだけど、行くとこもないさね」

 だったら依頼の掲示板を見るなり自分で時間の使い方を考えてほしいものだ。
 さっきから俺の隣で後ろの腕六本使って俺の髪形を変えてきたり襟などを整えてきたりといらん世話をしてきて気が散る。

「ねえルヴィン、君の師匠――リンさんが亡くなってもう何年だったかしら」
「三年くらいかな」
「三年、ねぇ。時間が経つのは早いものさね、今や君が師匠かあ」
「弟子を取った覚えはない」
「またまた~」

 そもそも弟子を取るほど俺は治療士としての名声も築けていないし階級も低い。

「しかし今でも信じられないわ、あの人が治療ミスで命を落とすなんて」
「平原に侵食した病魔くらい師匠なら難なくこなせるはずだったんだがな。あたり一帯を消失させるほどの、原因不明の大爆発ってのは……何が起きたんだか……」

 どんなに熟練の治療士でさえ、時には治療ミスを起こしてしまう事がある。
 モブさんのように無事で済むならいいが、命を落とすという結果になってしまうのも度々ある。

「病魔も何か変化が起きてるんじゃないかしら」
「変化?」
「リンさんが処置に関わった病魔も、もしかしたら治療ミスじゃなくて変化――いえ、変異だったかもしれないさね」
「……あの人は急速な魔物化を起こすような処置は絶対にしない、というか、あの人がミスなんてするはずがないし……でも変異っていうのも……」
「最近治療ミスが増えてるらしいわ、何より今日モブスが処置した病魔……転移が早かったさね」

 神妙な面持ちと同時に、彼女の雰囲気が一変する。

「もしも病魔が変異しているとすればただの小さい病魔やこれといった害のない病まであれ警戒すべきよ」
「だとしたら、ギルドに変異の話を言っておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうしようと思ったんだけど、ほら、次元病で昨日からギルドはお祭り状態だし、調査に入るかどうか微妙なとこさね。一応報告はしておくけど」

 彼女は深い溜息をついて腕の一本を使って飲み物を口へと運んだ。
 ここの飲み物は美味いと評判なのだが、味わって飲んでいる様子はない。
 ……しかし、変異か。
 師匠が治療ミスで亡くなったのも変異によるものだとしたら……。変異について俺も調べてみるか。

「もし変異を起こす病魔が今後増えるとなれば、処置には予想外な場面に出くわすかもしれないさね。気をつけないと、簡単な病魔でも足元をすくわれるかもしれないわよー」
「そうだな、どんな病魔であれ慎重に処置するよ」

 いつも心がけているが、今以上に気を引き締めてかからんといけないかもしれない。

「そういえばあの子は、えっと名前なんだったかしら、あのちっこい子」
「エルスか?」
「そうそう、あの子は弟子なのかい? いつの間にかあんたのチームにいたけど」
「いや、あいつは金が無くて飛び込みで俺んとこにやってきたんだよ。将来治療士になるかどうかも分からん、一応技術は教えてやってるけどな」

 人手も欲しいのもあったし、何より空腹状態で片足をがしっと掴まれて懇願されちゃあ雇うしかなかった。
 数ヶ月前のあの頃を思い返すと苦笑いしか浮かんでこないな。
 治療士補佐なら治療士登録をしなくても、安くて更新料も無い補佐登録で済む。技術を磨いて治療士になるかならないかはエルス次第だ。
 本来ならばレイコもこういった形を取るべきだったんだが、お隣さんのおかげで面倒な事になってしまった。

「ライザックみたいに治療士補佐専門もいいかもしれないわねぇ。腕を上げると引っ張りだこで稼げるわよぉ、まあ彼は君以外には就かないと思うけどねぇ」
「俺もずっとライザックさんが補佐してくれると助かるよ」
「リンさんに就いていた治療士補佐だ、リンさんの弟子に就くのは義理さね」

 子供の頃から師匠と共に一緒にいてくれたし、これからもお互いにその関係を維持していく――そんな気はする。
 俺にとって師匠が母親で、ライザックさんは父親か兄さん的存在だ。

「さて、まだまだ時間が掛かりそうだしあたしはちょいと外に出てくるよ。夕方はレイコちゃんと是非夕食をしたいものさね」
「話しておくよ」

 おそらく断りはせんだろう。
 ルォウは鼻歌を歌いながらその場を去っていく、これからどこに行くのやら。
 彼女を見送ってるとやはり周囲の治療士達が道を開けている光景から、一目置かれているのが分かる。
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