29 / 37
第三章
karte.029 予感
しおりを挟む
レイコはルォウの紹介した治療士達に話を聞いて回りに行ったのだが正直羨ましい……叶うならば俺も一緒に回りたい。
けれどそれはどう足掻いても叶わないようだ。
さっきから何十といった派閥の勧誘と次元病について聞きたいという治療士が後を絶たず、間に入ってきた北ギルドの治療士は助けてくれたのではなく、次元病については教壇に立って話をと――
「はあ……」
「どうしました?」
「いえ、すみません、なんでもないです」
目の前には二十、いや三十はいるな――多くの治療士達が俺の話を真剣に聞いている。
溜息は出したくないが、一つくらいは許してほしいね。
十中八九こうなるとは思ってたが、慣れない講義は思った以上に疲れる。
講義が終わるや、チームや派閥の勧誘やら質問やらでまた時間を取らされて解放されたのは一時間後。
話し疲れて喉もカラカラだ。
「お疲れ様さねえ」
「ったく、半ば俺の講義を楽しんでただろ」
講義の途中からちゃっかり二人で聞きにきやがって。
ルォウ……途中からお前ずっとにやけ面だったからな。
「あらん、ばれた?」
「そりゃばれるわ。つかレイコは?」
すぐどっか行きやがるなあいつは。
「ほらそこ。ジアフと飲んでるさね」
ジアフのほうも講義は終わったようだ。
取り巻きと一緒にレイコを食事に誘ったという事は、レイコに南区の魅力やら治療士やら紹介して取り込もうって魂胆もあるかもしれない。
……少しは好きにさせてやるか。
「ルォウ、俺の講義はどうだった?」
「ううん……ちょいと分かりづらかったけど、次元病の処置には何が必要かが分かったからあたしとしては聞いててよかったさね。あたしも縫合の基礎は一から鍛えなおすわ」
「そ、そうか……」
褒められる事にはあんまり慣れてない。
「あらん? 照れてる?」
「照れてない」
近くにあった骨付き肉を頬張る。
誤魔化してる? そうだよ、誤魔化してるよ。
「そうそう、変異の話になるのだけど、本部にも報告したさね」
「どうだった?」
「反応は薄いわ、予想通りさね。たまたまそうなったとか、転移が重なったとか、そんなつまらない回答で深くは調べないさねあれじゃあ。変異が疑わしい過去の診療録も残してないでしょうね」
これまで変異についての報告もおそらくは無かったのだろう。
今からでも変異の認知と警戒はすべきだが、肝心のギルド本部の動きも期待できないとなれば……。
しくじったな、今日の講義は変異の話もしておくべきだった。
「これから受ける依頼の中で変異と思われるものがあったら逐一本部に報告しておくさね」
「俺もそうするよ」
そろそろ依頼も受けたいが、その前にレイコにはいくつか魔法を習得してもらってからにしよう。
「さ、ここで話すのもなんださね、レイコちゃんのとこに行きましょ」
少し放置しておくだけでレイコの周りは人が磁石のように集まっていっている。
回収が面倒になる前に確保しておかなくちゃな。
「レイコ、楽しんでるか?」
「とっても」
「ははっ、私も楽しませてもらっているよ。なあレイコ君」
陽気に乾杯する二人。
ジアフが指を鳴らすや俺達の前にもグラスが差し出された。
こいつらはジアフ派の派閥以前に召使か何かか?
「ルヴィン君、講義お疲れ様。私も講義をしていたので見にいけず残念だったが彼らにメモを取ってもらっていたので後でじっくりと読むとするよ。初めての講義はどうだったかね? 私が初めての――」
「ジアフ様、その話は長くなりそうなのでルヴィン様のお話を聞いたほうがよろしいと思います」
「ううむそれもそうだな!」
こんな大人数に囲まれて感想言うのもとてもやりづらい。
喋っていいよと言わんばかりに皆が口を閉ざしてこちらを見てくる。
何なんだこの状況は。
「…………緊張したよ」
「おおぉ~!」
おおぉ~! じゃないから君達。
「今後また教壇に上がるかもしれないのだ、今のうちに慣れておかなくてはいけないよルヴィン君」
「今後はない気がするけどなあ」
「ルヴィンならきっと今後も教壇に立つ、私が保証する」
「なんて薄っぺらい保証なんだ」
もしゃもしゃと肉を頬張りながら言っていやがるし。
「さて、ルヴィン君がここに来たのはレイコ君を連れて行こうという事かね、ううむおあつい! 邪魔せぬよう我々は引き下がろう」
「久しぶりに空気を読みましたねジアフ様」
「それは私がいつも空気を読んでいないというのかいセイル」
「その通りでございます、ではあちらへ移動しましょう。貴方も一応白金特級なので話を聞きたいという治療士は多いのですよ」
「君、今日はまた一段と言うねえ」
「ありがとうございます」
「ううむ、褒めてはいないのだよ」
そうしてジアフ御一行はその場を後にした。
ころあいを見てそろそろここから抜け出したいのだが、レイコの事を考えるとそうもいくまい。
治療士として様々な技術と知識を得られる場――存分に吸収させてやりたい。
ジアフと話しただけでもきっとためになるものはあったはずだ。
「南区から提供された料理、とても美味しかった」
……多分。
できれば食べ物以外の話を聞きたいな。
「何か他に話は聞けたか?」
「治療士になったのならば何から学ぶか――ルヴィン、私はいくつか魔法を覚えてみる、そしたら今度縫合教えて」
レイコには今後何から学ばせていくか、縫合にするべきか術後処置にすべきか迷ってはいたが、縫合といこう。
そこはかとなくレイコのやる気も一段と増した気もする。
「あと、帝国の話も聞いた」
「帝国……か」
「最近は大人しいさねあそこ」
「どうせまた領土拡大のためにどっかと争うに決まってる」
「どうして領土拡大を?」
「病巣から魔力を抽出して魔力石に収めるってのは話したか」
「したと思う」
してない気がするがまあいい。
うんうん、となんか知ったか振りしてるのが少しムカつくがね。
ルォウが耳元で囁いてるのはきっと補足であろう。
「単純な話、領土を拡大すれば治療できる範囲も広がるだろう?」
「そうね」
「そうすれば魔力石を手に入れられる機会も増える。魔力石は属性加工すれば炎や電力、水の浄化にも使えるし兵器としても利用できる。治療士が魔力石をたくさん手に入れれば手に入れるほど国の発展と軍事力強化につながるわけだ」
「つまり、腕の立つ治療士がいても領土が狭いとそんなに仕事できない?」
「ああ――逆に領土が広くても腕の立つ治療士がいなけりゃ国の発展にも繋がらない。例外としては……帝国みたいに腕の立つ治療士が少なくても、治療士自体が多けりゃ数で勝負はできるがな」
強引に領土を広げて他国に治療範囲への侵略はさせず魔力石を独り占め――それが帝国のやり方だ、正直好きじゃない。
「帝国は治療士の数が多すぎて管理しきれてないさね。他国へ潜入して魔力石を取りにくる輩や金目的のためだけに治療士を襲って魔力石を襲う奴もいるわ」
あえて管理せず帝国の利益のために見て見ぬふりをしているかもしれんがね。
帝国ならやりかねない。
「この都市にも帝国の治療士が潜入してたりする?」
「かもな。身分を偽って治療士として活動してるか、山や森に隠れて魔力石を略奪しようとしてるかもしれん」
「不安」
「セルヴェハルは帝国への警戒は怠らないわ。帝国が何かしようとするならば必ず未然に防ぐさね」
「それにだ。特殊魔法士ドウト・バテウス、獣人王バルトル・シュルド、炎術士ジアフ・バルト、あとこの場にはいないが拳雷アンデミス・ミシェリナ――圧倒的な戦闘力を持ってるあの人達がいれば心配ないさ」
昔は――師匠の名も並べられた。
少しだけそれは、切なくなった。
「ささ、堅苦しい話は止めにして飲みましょ食べましょ」
「そうしよう」
「飲みすぎるなよ」
「気をつける」
じゃあその手に持ってるジョッキはなんだジョッキはぁ。
飲みすぎと思ったらすぐにでもジョッキは取り上げよう。
それからは各区の治療士達の話を聞きに行ったり、今ある依頼の中でも美味しい依頼があるなどの良い情報も聞けて今日の交流会は中々に収穫はあった。
ルォウも後半には何人もの治療士達が魔力式機工治療具について話を聞きにきたために俺達に構えなくなり、やや残念そうに遠目から視線を送っていた。
俺の苦労をお前も味わっておくんだな。
「治療士じゃない人も混じってる?」
「ああ、武器職人や魔法具の商人も来てるぞ。ほら見てみろよ、あのいかにも職人って感じの奴」
指差す先にいるのは額に布を巻いて腕を組んでいる筋肉質の男。
「いかにもね」
「だろう? 武器の注文とか調整依頼の仕事を取るためにもここに足を運びに来ててな、他にも回っていれば色んな業界の奴らと会えるぜ」
「交流会って、面白いわね」
「最初はな。じっくり見ていけばまた違うものが見えるもんなんだぜ。何人かで一人に声を掛けてる奴もいるだろう? ああいった勧誘とか、引き抜き合戦もあるんだ」
上を目指すチームや派閥は必死だ。
そのためには武器職人や商人との交流も必要でめまぐるしく動いている奴もちらほらと見る。
「ルヴィンも今日はよく声を掛けられてたね」
「疲れたよほんと」
「人気者」
「人気者かどうかはさておき、これも一時的だ。そのうち収まるさ」
得意属性の魔法はないなんてのを知られたらぴたっと勧誘は止むだろう。
手っ取り早く自分のダメな点を教えるのも一つだが、面倒だからといってあえてそんな説明をするのも抵抗がある。
「レイコはどうだ、勧誘されたか?」
「たっぷりと。西区からの勧誘は多かった、魔力がなんたらと」
ドウトさんの派閥に所属する治療士であろうか。
西区は特に魔法面では高度な知識も持っているし、ドウトさんと俺達の今日のやり取りを見ていたとなればとりあえず勧誘をと動く奴もいるであろう。
「お前も一人の治療士として見られ始めたんだな」
「そうかも。これから頑張る」
「ああ。改めて言おう」
師匠がいつだか、俺に言ってくれたように。
「ようこそ、治療士の世界へ」
レイコは俺の言葉を聞いて、微笑を浮かべた。
「今日は楽しかった」
馬車に揺られる中、レイコは余韻に浸っているのか足をばたつかせて陽気さが見られていた。
「次も行きたい」
「別に俺は構わんけど」
「今度は皆で」
「どうだろうなあ……話はしてみるよ」
あの二人は行きたがらないだろうが。
交流会には俺が一人で行くくらいで皆で行く機会は少なかった。
レイコも俺のチームに入ったんだ、次からはチーム全員で交流会に参加して俺達のチームというものを皆に強調していきたいのも一つある。
二人には次は一緒に交流会にと誘ってみるとしよう。
「ゴホッ」
「どうした?」
口元を押さえるレイコ。
その掠れたような具合は風邪のような咳にも見受けられるが。
「風邪かもしれませんし、今日はもうお休めになられたほうがよろしいですね。急がせましょう」
馬車の動きも早まり、レイコの体調も同じように悪くなっていった。
なんだか、少しだけ胸騒ぎがした。
けれどそれはどう足掻いても叶わないようだ。
さっきから何十といった派閥の勧誘と次元病について聞きたいという治療士が後を絶たず、間に入ってきた北ギルドの治療士は助けてくれたのではなく、次元病については教壇に立って話をと――
「はあ……」
「どうしました?」
「いえ、すみません、なんでもないです」
目の前には二十、いや三十はいるな――多くの治療士達が俺の話を真剣に聞いている。
溜息は出したくないが、一つくらいは許してほしいね。
十中八九こうなるとは思ってたが、慣れない講義は思った以上に疲れる。
講義が終わるや、チームや派閥の勧誘やら質問やらでまた時間を取らされて解放されたのは一時間後。
話し疲れて喉もカラカラだ。
「お疲れ様さねえ」
「ったく、半ば俺の講義を楽しんでただろ」
講義の途中からちゃっかり二人で聞きにきやがって。
ルォウ……途中からお前ずっとにやけ面だったからな。
「あらん、ばれた?」
「そりゃばれるわ。つかレイコは?」
すぐどっか行きやがるなあいつは。
「ほらそこ。ジアフと飲んでるさね」
ジアフのほうも講義は終わったようだ。
取り巻きと一緒にレイコを食事に誘ったという事は、レイコに南区の魅力やら治療士やら紹介して取り込もうって魂胆もあるかもしれない。
……少しは好きにさせてやるか。
「ルォウ、俺の講義はどうだった?」
「ううん……ちょいと分かりづらかったけど、次元病の処置には何が必要かが分かったからあたしとしては聞いててよかったさね。あたしも縫合の基礎は一から鍛えなおすわ」
「そ、そうか……」
褒められる事にはあんまり慣れてない。
「あらん? 照れてる?」
「照れてない」
近くにあった骨付き肉を頬張る。
誤魔化してる? そうだよ、誤魔化してるよ。
「そうそう、変異の話になるのだけど、本部にも報告したさね」
「どうだった?」
「反応は薄いわ、予想通りさね。たまたまそうなったとか、転移が重なったとか、そんなつまらない回答で深くは調べないさねあれじゃあ。変異が疑わしい過去の診療録も残してないでしょうね」
これまで変異についての報告もおそらくは無かったのだろう。
今からでも変異の認知と警戒はすべきだが、肝心のギルド本部の動きも期待できないとなれば……。
しくじったな、今日の講義は変異の話もしておくべきだった。
「これから受ける依頼の中で変異と思われるものがあったら逐一本部に報告しておくさね」
「俺もそうするよ」
そろそろ依頼も受けたいが、その前にレイコにはいくつか魔法を習得してもらってからにしよう。
「さ、ここで話すのもなんださね、レイコちゃんのとこに行きましょ」
少し放置しておくだけでレイコの周りは人が磁石のように集まっていっている。
回収が面倒になる前に確保しておかなくちゃな。
「レイコ、楽しんでるか?」
「とっても」
「ははっ、私も楽しませてもらっているよ。なあレイコ君」
陽気に乾杯する二人。
ジアフが指を鳴らすや俺達の前にもグラスが差し出された。
こいつらはジアフ派の派閥以前に召使か何かか?
「ルヴィン君、講義お疲れ様。私も講義をしていたので見にいけず残念だったが彼らにメモを取ってもらっていたので後でじっくりと読むとするよ。初めての講義はどうだったかね? 私が初めての――」
「ジアフ様、その話は長くなりそうなのでルヴィン様のお話を聞いたほうがよろしいと思います」
「ううむそれもそうだな!」
こんな大人数に囲まれて感想言うのもとてもやりづらい。
喋っていいよと言わんばかりに皆が口を閉ざしてこちらを見てくる。
何なんだこの状況は。
「…………緊張したよ」
「おおぉ~!」
おおぉ~! じゃないから君達。
「今後また教壇に上がるかもしれないのだ、今のうちに慣れておかなくてはいけないよルヴィン君」
「今後はない気がするけどなあ」
「ルヴィンならきっと今後も教壇に立つ、私が保証する」
「なんて薄っぺらい保証なんだ」
もしゃもしゃと肉を頬張りながら言っていやがるし。
「さて、ルヴィン君がここに来たのはレイコ君を連れて行こうという事かね、ううむおあつい! 邪魔せぬよう我々は引き下がろう」
「久しぶりに空気を読みましたねジアフ様」
「それは私がいつも空気を読んでいないというのかいセイル」
「その通りでございます、ではあちらへ移動しましょう。貴方も一応白金特級なので話を聞きたいという治療士は多いのですよ」
「君、今日はまた一段と言うねえ」
「ありがとうございます」
「ううむ、褒めてはいないのだよ」
そうしてジアフ御一行はその場を後にした。
ころあいを見てそろそろここから抜け出したいのだが、レイコの事を考えるとそうもいくまい。
治療士として様々な技術と知識を得られる場――存分に吸収させてやりたい。
ジアフと話しただけでもきっとためになるものはあったはずだ。
「南区から提供された料理、とても美味しかった」
……多分。
できれば食べ物以外の話を聞きたいな。
「何か他に話は聞けたか?」
「治療士になったのならば何から学ぶか――ルヴィン、私はいくつか魔法を覚えてみる、そしたら今度縫合教えて」
レイコには今後何から学ばせていくか、縫合にするべきか術後処置にすべきか迷ってはいたが、縫合といこう。
そこはかとなくレイコのやる気も一段と増した気もする。
「あと、帝国の話も聞いた」
「帝国……か」
「最近は大人しいさねあそこ」
「どうせまた領土拡大のためにどっかと争うに決まってる」
「どうして領土拡大を?」
「病巣から魔力を抽出して魔力石に収めるってのは話したか」
「したと思う」
してない気がするがまあいい。
うんうん、となんか知ったか振りしてるのが少しムカつくがね。
ルォウが耳元で囁いてるのはきっと補足であろう。
「単純な話、領土を拡大すれば治療できる範囲も広がるだろう?」
「そうね」
「そうすれば魔力石を手に入れられる機会も増える。魔力石は属性加工すれば炎や電力、水の浄化にも使えるし兵器としても利用できる。治療士が魔力石をたくさん手に入れれば手に入れるほど国の発展と軍事力強化につながるわけだ」
「つまり、腕の立つ治療士がいても領土が狭いとそんなに仕事できない?」
「ああ――逆に領土が広くても腕の立つ治療士がいなけりゃ国の発展にも繋がらない。例外としては……帝国みたいに腕の立つ治療士が少なくても、治療士自体が多けりゃ数で勝負はできるがな」
強引に領土を広げて他国に治療範囲への侵略はさせず魔力石を独り占め――それが帝国のやり方だ、正直好きじゃない。
「帝国は治療士の数が多すぎて管理しきれてないさね。他国へ潜入して魔力石を取りにくる輩や金目的のためだけに治療士を襲って魔力石を襲う奴もいるわ」
あえて管理せず帝国の利益のために見て見ぬふりをしているかもしれんがね。
帝国ならやりかねない。
「この都市にも帝国の治療士が潜入してたりする?」
「かもな。身分を偽って治療士として活動してるか、山や森に隠れて魔力石を略奪しようとしてるかもしれん」
「不安」
「セルヴェハルは帝国への警戒は怠らないわ。帝国が何かしようとするならば必ず未然に防ぐさね」
「それにだ。特殊魔法士ドウト・バテウス、獣人王バルトル・シュルド、炎術士ジアフ・バルト、あとこの場にはいないが拳雷アンデミス・ミシェリナ――圧倒的な戦闘力を持ってるあの人達がいれば心配ないさ」
昔は――師匠の名も並べられた。
少しだけそれは、切なくなった。
「ささ、堅苦しい話は止めにして飲みましょ食べましょ」
「そうしよう」
「飲みすぎるなよ」
「気をつける」
じゃあその手に持ってるジョッキはなんだジョッキはぁ。
飲みすぎと思ったらすぐにでもジョッキは取り上げよう。
それからは各区の治療士達の話を聞きに行ったり、今ある依頼の中でも美味しい依頼があるなどの良い情報も聞けて今日の交流会は中々に収穫はあった。
ルォウも後半には何人もの治療士達が魔力式機工治療具について話を聞きにきたために俺達に構えなくなり、やや残念そうに遠目から視線を送っていた。
俺の苦労をお前も味わっておくんだな。
「治療士じゃない人も混じってる?」
「ああ、武器職人や魔法具の商人も来てるぞ。ほら見てみろよ、あのいかにも職人って感じの奴」
指差す先にいるのは額に布を巻いて腕を組んでいる筋肉質の男。
「いかにもね」
「だろう? 武器の注文とか調整依頼の仕事を取るためにもここに足を運びに来ててな、他にも回っていれば色んな業界の奴らと会えるぜ」
「交流会って、面白いわね」
「最初はな。じっくり見ていけばまた違うものが見えるもんなんだぜ。何人かで一人に声を掛けてる奴もいるだろう? ああいった勧誘とか、引き抜き合戦もあるんだ」
上を目指すチームや派閥は必死だ。
そのためには武器職人や商人との交流も必要でめまぐるしく動いている奴もちらほらと見る。
「ルヴィンも今日はよく声を掛けられてたね」
「疲れたよほんと」
「人気者」
「人気者かどうかはさておき、これも一時的だ。そのうち収まるさ」
得意属性の魔法はないなんてのを知られたらぴたっと勧誘は止むだろう。
手っ取り早く自分のダメな点を教えるのも一つだが、面倒だからといってあえてそんな説明をするのも抵抗がある。
「レイコはどうだ、勧誘されたか?」
「たっぷりと。西区からの勧誘は多かった、魔力がなんたらと」
ドウトさんの派閥に所属する治療士であろうか。
西区は特に魔法面では高度な知識も持っているし、ドウトさんと俺達の今日のやり取りを見ていたとなればとりあえず勧誘をと動く奴もいるであろう。
「お前も一人の治療士として見られ始めたんだな」
「そうかも。これから頑張る」
「ああ。改めて言おう」
師匠がいつだか、俺に言ってくれたように。
「ようこそ、治療士の世界へ」
レイコは俺の言葉を聞いて、微笑を浮かべた。
「今日は楽しかった」
馬車に揺られる中、レイコは余韻に浸っているのか足をばたつかせて陽気さが見られていた。
「次も行きたい」
「別に俺は構わんけど」
「今度は皆で」
「どうだろうなあ……話はしてみるよ」
あの二人は行きたがらないだろうが。
交流会には俺が一人で行くくらいで皆で行く機会は少なかった。
レイコも俺のチームに入ったんだ、次からはチーム全員で交流会に参加して俺達のチームというものを皆に強調していきたいのも一つある。
二人には次は一緒に交流会にと誘ってみるとしよう。
「ゴホッ」
「どうした?」
口元を押さえるレイコ。
その掠れたような具合は風邪のような咳にも見受けられるが。
「風邪かもしれませんし、今日はもうお休めになられたほうがよろしいですね。急がせましょう」
馬車の動きも早まり、レイコの体調も同じように悪くなっていった。
なんだか、少しだけ胸騒ぎがした。
0
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる