とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第292話 最後の挨拶と帰省

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「もう一戦だ! ルーク! 次こそ負けねぇ。さぁ、来い!」
「はぁ~もうこれで終わりにしろよ。二回もやって、もう腕が疲れて来た」
「お、何だ? 負けた時の言い訳か? これは勝てそうだな~」
「はぁ? んな訳ねぇだろ」

 ダンデの挑発にルークはムキになり、三度目の腕相撲勝負をする為に机の上で手を組む。
 そして2人は審判役である私の方を見る。

「はいはい~準備いいですか~」
「おい、ダンデ三連敗だけは勘弁してくれよ~」
「ルークやっちまえ! 三タテだ!」
「ダンデ~そろそろ本気でやれ~」
「うちの凄さ見せてやれ、ルーク!」

 と周囲の野次馬たちも腕相撲勝負を楽しんでおり、寮関係なく皆が楽しそうにして注目していた。
 そんな中私は、2人の勝負開始の合図を告げて、直ぐにその場を離れ、近くの机に再び戻り少し冷えた飲み物を流し込む。

「はぁ~何なのあれ……」
「お疲れ。巻き込まれて大変だな、クリス」
「マックス~~そもそも、お前が逃げなければ俺が巻き込まれなくて済んだんだぞ~~!」
「悪かったて。だからこうやって、飲み物も食べ物も持ってきて上げてるんだろ?」
「そんなんするくらいなら、代わってくれよ」

 私はそう愚痴りながらも、マックスが持って来てくれた食べ物を手取り、かぶりつく。

「そうだぞマックス。最初に頼まれたのはお前だろ」
「何だよケビン。お前まで俺を責めるのか? だったら、もしお前が頼まれてたら引き受けるのか?」
「っ……そ、それはだな……何と言うか、僕には早いと言うか……」

 ケビンはマックスに言い返され、眼鏡を触りながら口をもごもごさせた。

「確かに、あれを見る分にはいいが、巻き込まれる側は面倒そうだ」
「アルジュ!?」

 そこに急に現れたのは、アルジュであった。
 私たちは急にやって来た事に驚き、理由を訊ねるとアルジュは軽くため息をついた。

「この状況で、もう僕の仕事は意味がないからさ。司会なんて野暮だろ? だから、もう自由にしているんだよ」
「な、なるほど。確かにもう各々で楽しんでるもんな」
「でも、どうしてここに?」
「ルークの姿が見えたから、ここなら誰かしらクラスの知り合いがいると思ってね」

 そう言えば、ノルマもアルジュのアシスタントとしていたよね? アルジュがそう言う風に言うって事は、一緒には居ないって事なのなか?
 私はそう思って、周囲を軽く見回すと舞台上にトウマたちに絡まれる様にノルマが困った顔をしている所を目撃する。
 あ~……あれはダメね。
 そのままそっと私は視線を戻し、アルジュの言葉に納得した。
 すると同時にダンデとルークの腕相撲勝負に決着が着き、ルークの勝利で盛り上がっていた。

「あ、終わったみたいだね。クリス、行かなくていいのかい?」
「もう行かん。付き合ってられるか、めんどい」

 私はそっぽを向いて、新しい食べ物に手をつける。
 するとそこへ何故か言い合いをしている、スニークとスバンが現れる。

「だから、どうしてスニーク先輩はそう頭が固いのですか? 私、呆れますわ」
「貴様こそ、その態度どうにかした方がいいぞ? 寮長の傍に近付けられないな」
「そんな事を言いますのなら、スニーク先輩こそエメル寮長にべたべたとくっ付き過ぎではなくて? あれこそ、エメル寮長も迷惑してますわよ?」
「スバン。貴様、一度当方に勝ったことがあるからと、調子に乗っているんじゃないのか? 当方は副寮長だぞ? その口の利き方はどうなんだ?」
「おやおや、副寮長が脅しでしか? これはどうなのでしょうね~」
「貴様とは、本ッッ当にそりが合わん」
「それは私もですわ」

 そして2人は先程までダンデとルークが腕相撲していた場所を見つけ、割り込む様に2人がそこへ立ち、急に手を出し合い握り合う。

「これで決めるのはどうだ? 勝った方が、負けた方の発言を撤回する」
「いいですわね。乗りましたわ」
「逃げるなら今だぞ、スバン」
「スニーク先輩こそ」

 すると2人は近くにいたダンデの方を睨み「審判早くしろ!」と声を出し、ダンデは突然の事にそのまま審判役をやり始め、開始の合図を出すのだった。
 そして会場は新たな対戦に更に盛り上がり、また新しい見物人たちがやって来て盛り上がる。
 私はダンデの姿を見て心の底から行かなくて良かったと思い、安堵していた。

「おうおう。何だ、この人混みは? 俺様を省いて何楽しそうな事してるんだ?」

 更に、そこにやって来たのはダイモンであった。

「ダイモン寮長!?」
「お~ダンデ。何やってるんだって、何だ何だスニーク、お前面白い事してるな。次は俺と勝負しようぜ」
「うるさい。黙ってろ、ダイモン」
「すいませんダイモン寮長、今大事な所なので少しだけ話し掛けないでもらえますか?」
「お、おお。何だか熱いことやってるな。ダンデ、どう言う状況か教えてくれ」
「はい。何て言いますか」

 その後、腕相撲勝負場所は更に盛り上がって行くのだった。
 私はそれを少し離れた所で見つつ、他の皆と楽しくパーティーを過ごした。
 そして、そんな楽しかったパーティーもあっという間に終わりの時間がやって来て、舞台上に全寮長たちが上がり締めの言葉を話す。
 皆はそれを静かに聞き、拍手で返した。
 全寮長が話を終えると、オービンにマイクが渡り今日この場を作った立役者から全寮長たちが最後に一言求めた。
 するとオービンは笑顔で「皆でやれた最初で最後のパーティー、俺は最高に楽しかった! 君たちは?」と問いかける皆から大きな拍手と歓声が起こるのだった。
 そうして、3年生お疲れ様会から全寮生大集合パーティーに名目が変わった催しは無事に終了したのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 全寮生大集合パーティーから次の日、多くの人が帰省する為に荷物を持って寮から出て行く。
 例年オービン寮は、3年生お疲れ様会を終えてから帰省する人が多くいるらしく、私のルームメイトであるシンも帰省する為に荷物の確認をしていた。

「忘れ物はないのか、シン?」
「うん、大丈夫。大きな物は先に送ってあるし、後で背負って行くだけだから」
「そうか」
「クリスは、本当に帰省しないの?」
「う~ん、まぁそうなるかな。転入してくる前の時もそうだったし。あ~帰りたくない訳じゃないからな」
「分かってる。何かやりたい事でもあるんでしょ? そんな顔している」
「え、顔に出てるか俺?」
「ううん。何となくそう感じただけ」

 するとシンは、荷物の確認を終えバッグを背負う。
 そして扉へと近付いて、私の方を振り向く。

「クリスも色々と考えてるんだろうけど、たまには家に帰った方がいいんじゃない? 僕が言うのはお節介かもしれないけどさ」
「いや、そんな事ないよ。他の人からも言われてるし、やっぱりちょっとは考えてみるよ。ありがとう」
「そう。あ~もしいるなら僕の机とか本とか使っていいからね。あと」
「あ~分かった、分かった。ありがたく使わせてもらうから。ほら、学院の魔道車に乗るんだろ? 遅れたら大変だ」

 私はシンの背中を押し、扉を開けさせた。
 シンは戸惑いながらも扉を出てから立ち止まった。

「それじゃクリス。また来年」
「あぁ、また来年だ」
「よいお年を」

 シンからの言葉に、私も同じ様に返しシンを見送った後扉を閉める。
 そして背伸びをしながら冬休みの計画でも立てようかと机を向うと、部屋の扉がノックされる。
 私はシンが忘れ物でもしたのかと思い、直ぐに扉を開けるとそこに居たのはルークであった。
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