とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第350話 ベックスの決意

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「え、俺に最終競技に出て欲しい?」
「あぁ、頼めるかベックス」

 それは『三番勝負』が決まった翌日の事であった。
 ルークがその頃はまだ中立派であった俺に、突然自分の派閥として最終競技に出て欲しいと頼み込んでいたのだった。
 俺は部屋の前でそんな事を言われたので、とりあえずルームメイトのシンリが居ないので部屋に入ってもらってひとまず話す事にした。

「いや、そもそも俺どっちの派閥にも入るつもりなんだが」
「そこを頼む、ベックス」

 そう言ってルークは頭まで下げて来た。
 まさかルークがそこまでして頼み込んで来る事に驚き、俺は直ぐにルークに頭を上げさせた。

「何でそこまでするんだよ。最終競技ならルークが出ればいいだろ? 俺である必要がないじゃないか」
「いや、俺じゃダメなんだよ」
「どうしてだよ? 何か制約でもあるのか?」
「……今の俺じゃ最終競技に出たら、真剣にやり合えない気がするんだよ」

 俺はルークの返事の意味が分からず首を傾げた。
 するとルークはその意味を教えてくれた。

「俺は、次期寮長候補として名乗り出たが、まだ心の何処かで寮長には相応しくないと思っているんだ」
「……」
「それでも立候補したのは、俺よりも相応しい奴がいると皆に認めてもらう為だ」

 そこで俺はルークがトウマを次期寮長として今も推している事を理解する。
 ルークが自分が次期寮長として相応しくないという理由は聞いてないが、何となくこれまでの振る舞いや世間かの声など色々も含め、自分の中でそう判断しているのだろうと俺は思った。
 俺としてはルークもトウマも、どちらも寮長して問題はないと思ってはいる。
 だが、どちらかと言われると判断が出来ない。
 何と言うか、どちらも一人で今のオービン先輩の様な振る舞いが出来る訳でもないと考えており、二人は誰かを助け助けてもらう様な関係性を築きやって行くような人だと思っていたからである。

 ルークに関しては実力という面では凄い才能があるし、影で努力もしているのだろうと思う。
 が、人付き合いが少し苦手という感じがするのだ。
 見知った相手なら問題はないだろうが、初対面だと世間の印象が強くあまり良くない印象なので、そこからの関係性という事で本人も苦手なんではないかと思っている。
 一方でトウマは、ルークとは逆に人を引き付ける様な魅力があり、何だかんだで皆の中心にもなるし、皆の事も知っている。
 実力という面ではルークには届かないが、親身になってくれたりとそういう面ではクラスでは一番だと感じている。
 だから俺が考えている事としては、二人で寮長と副寮長をやればいいんじゃないかと思っている訳である。
 しかし、結局は俺の主観や推測にしか過ぎない為それは口にはしていない。
 最終的には本人たちが決める事であり、偶然このような状況になったのなら俺は中立派として見守ろうと考えていたのだ。

「……最終競技までもつれるかも分からないし、もし最終競技になったとしてもお前がわざと負ければいいだろ。いい事じゃないが、別に真剣にやれないからと言って俺に頼む必要はないだろ」
「確かに最終競技まで行くかはまだ分からない。だが、何となくやりそうな気がしているんだ。その時必ず皆は俺を代表者として選ぶはずだ」
「なら、別の奴に託せばいいだろ。トウマだって別に弱い奴じゃないし、いい戦いはするだろ?」
「それじゃダメなんだ。あいつの行く道に立ち塞がる様な相手じゃないと」
「はぁ~何か面倒な事言ってるの分かっているのか、ルーク」

 俺の言葉にルークも自覚しているのか、軽く頷く。

「悪いベックス、俺も上手く整理がつききれてないんだ。トウマを推す気持ちはまだあるし、立候補したのも俺の意思でもある。やるからなには、正々堂々と決着を付けたいと考えてもいるんだ」
「どっちつかずってやつか。お前の中じゃどういう割合なんだよ、次期寮長は」
「7、いや6くらいかな。将来的な事を考えて寮長をやって視野など経験をするのも悪くはないと思ったのと、ニックの話から候補を決めたんだ。だが、どうしてもそっちに全部向ききれないんだ。こんな状態で最終競技を仮に出たとしたら、俺はたぶんわざと負ける気がするんだ」
「何となくだが、次期寮長が決まる最終競技は望まれている対決やそれ以上の対決をすべきだと思っているって事か? それで次期寮長が決まるから」
「まぁ、そんな所だ。ベックスに声を掛けたのは、俺並みの力を持つ相手だからだ」
「それならニックでも」

 するとルークは首を横に振り「あいつは絶対に最終競技には出ない」と口にした。
 そもそもの提案者でもあり、実力で次期寮長を決めようと考えていた張本人でもある為と思い出し納得した。

「『超人』と呼ばれ、ダイモン寮長との特訓で更に力に磨きがかかっているのは知っている。だからこそ、お前にお願いをしたいんだ」
「……仮に、仮に俺が競技で出てわざと負けたらどうする? それもあり得るだろ」
「それはそれで、俺がそう指示したと口にする。俺自身の評価が下がるのは問題ない、結果的にトウマが寮長になるのだし。不満は残るだろうが、俺はその時点で寮長として相応しくはなくなるしな」
「なんだよそれ。じゃ、俺が勝ったら黙って寮長やるのか?」
「あぁ、もちろんだ」
「……さすがにそれは、人任せ過ぎるんじゃないのか? お前を信じている奴らの信頼を裏切るって事だろ」
「確かに酷い事をするな。だから、お前が引き受けてくれたら、皆に説明をする」
「はぁ!? 今のを全部か?」

 ルークは頷く。

「そもそも、今のは俺が受ける前提だったが、受けないぞ」
「いや、もうここまで来たら引き受けてくれるまで引き下がらないぞ。話していて決めよ。悪いがベックス、俺のわがままに付き合ってもらうぞ! なんてったて俺は、自己中心的で気まぐれで頼りない無能な第二王子だからな」
「そこで自分の事をそこまで卑下して言うか、普通?」
「世間じゃまだそういう風に思っている奴もいるらしいな。間違ってはないだろ」
「変に開き直りやがって、たちが悪いぞ」
「さぁ、引き受けてくれるまで話をしようか、ベックス」

 その後俺は散々つき合わされた結果、押し負けてルークからの頼みを受けたのだった。
 だが、引き受けたのは最終競技に出るという事であり、どうするかは俺に決めさせてもらう事にした。
 既にルークが引き下がらないと分かった時点で、その事を考えてそういう風にしてもらったのだ。
 そして俺は、ある決意をして最終競技へと出場したのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「トウマ、次はシールドを張っても防げないぞ」
「マジで反則的な強さだろ、それ」

 その直後、ベックスはトウマへ向かって一気に距離を詰めるが、トウマは三重にも魔力創造で壁を創り出し、更にはシールドを展開させた。
 ベックスの魔力を纏った拳は、一瞬で壁を突き破り直ぐにトウマのシールドへと直撃する。
 そして、徐々にシールドにヒビが入り始める。
 トウマは完全に押される展開だったが、想像していた以上の戦いに周囲の皆は盛り上がる。

「(ぐっ……やばい! マジで受けとめきれない!)」

 と、トウマはかすめてでも回避行動をすべきかなどを考え始めた時だった。
 突然拳を叩き込んで来ているベックスが、口を開きトウマに話し掛けた。
 その言葉を聞き、トウマは軽く俯く。
 が、一気にトウマがシールドへ多くの魔力を流し、ベックスを押し返すのだった。

「ぐっ……」
「挑発とは、ベックスらしくないな。だけど、おかげで弱音が消えて気持ちが上がったぞ!」
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