とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第422話 激情

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「お前がバベッチだと?」

 ハンスが疑いの目で目の前に立っている兵士を見つめると、ティアも疑いの目を向けていた。
 既に二人はバベッチが存在している事に驚いてはいなかった。
 以前リーリアに接触した事件があった事から、捜索を続けていたのだ。
 未だにどうして生きているのか、本当に自分たちが知っていたバベッチなのかという疑問は残りつつも、あまり動揺を顔に出さずにいた。

「そうさ。顔も体も声も何もかも違うが、俺はバベッチだ。そうだな~……信じられないというのなら、昔話でもしようか。直近だと、リーリアに会う為にこの城に来たな。結局は残念な結果だったが。他には、学院生時代の話しでもしようか。ハンスは男子の中でも人気者だったが、初めの頃はあがり症な一面もあって、それを直そうと夜な夜な話したりしたよな」
「……」
「ティアは最初の頃は、浮いてたよな。誰も近づけない感じで、正しく孤高の女王って感じだったな。それがリーリアとぶつかり初めて変わり始めたのは、驚いたな~」
「……確かにその記憶自体は間違いけど、それだけで信じようとは思わないわ」

 バベッチを名乗る兵士は、ティアの返しに軽く肩をすくめる。

「まあそうだよな。でも、信じようが信じまいが今の俺はバベッチだ」

 するとそこへ廊下から護衛の兵士たちがやって来て、バベッチを名乗る兵士に声を掛ける。
 直後、バベッチを名乗る兵士が指を鳴らすと護衛の兵士たち全員の足元が地面に拘束され身動きが取れなくなる。

「おいおい、せっかくの同窓会に水を差すなよ」

 そのまま護衛の兵士たちの体全体を地面を変化させ、口も塞ぐ。

「やめろ!」
「大丈夫だよハンス。殺しはしない。ただ黙って見ててもらうだけだ」

 ティアが手を突き出し拘束された兵士たちを助けようとすると、バベッチを名乗る兵士が一気にティアとの距離を詰め、突き出した手を掴み上げる。

「っ!?」
「大丈夫って言ってるだろ、ティア」
「(速い。ティアが反応出来ないなんて)」
「(いつの間に目の前に……)」

 手を掴んだバベッチは二人の様子を見て、直ぐにティアの手を離しそこから数歩離れる。

「俺は別にお前らを殺しに来たとか、襲いに来たわけじゃなんだよ。それをまずは分かってくれよ、な」
「……それじゃ、ここへ来た目的はなんだ?」
「それは――」

 と、バベッチが言いかけると、音もたてずに突然黒い衣服を纏った者が四名現れ、瞬時にバベッチの各所に刃物や魔法発動直前状態を展開する。
 バベッチはその状況に驚く事なくハンスの方を見つめる。

「なるほど、さすがは国王直属暗部組織だな。全く気配を感じなかったぞ」

 黒い衣服を纏った者は、その言葉に何も反応せずに一度たりともバベッチから目を離さずにいた。
 そして黒い衣服を纏った者はハンスの命令を待っており、ハンスも口を開こうとした時だった。
 黒い衣服を纏った者の更に背後に、同じ様に黒い衣服を纏った者が更に四名現れると、バベッチに刃物などを向けてた相手の首元などに刃物を突き付けるのだった。

「どうなっているのハンス?」
「分からない。何故瓜二つの人物がいるんだ」

 目の前に現れた黒い衣服を纏った者は、既に先に現れた黒い衣服を纏った者と瓜二つの姿をしていたのだ。
 刃物を背後から突きつけられた黒い衣服を纏った者たちも、自分と全く同じ姿の相手に少し動揺が顔に出る。

「ハンス、お前もこの場で誰か死ぬ姿なんて見たくないだろ? 俺も殺させたくはない。だから、な」
「……さがれ」
「! ですが、国王!」
「命令だ! さがれ!」
「っ……御意……」

 ハンスの命令を聞き、黒い衣服を纏った者たちはバベッチに向けた刃物を下ろし魔法展開を中断する。
 そしてその場から黒い衣服を纏った者が一度撤退すると、後から現れた瓜二つの黒い衣服を纏った者たちも同じく撤退するのだった。

「今のはお前の部下か?」
「部下、うんまあそんな所かな。何で似てる人物かってのは、まだ教えられないな。いや~何度か脱線して何話してたか忘れたよ~」
「貴方の目的についてよ」
「そうだった、そうだった。そんなきつい目で俺の事を見るなよ、ティア。悲しくなる」
「よく言うわ。そんな事思ってない癖に」

 ティアの返しにバベッチは、笑って返す。

「で、俺が来た目的だけど……国王の座を俺に譲ってくれ、ハンス。俺には国王の座が必要なんだ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――王都内東側地区、グーゲンベル隊担当地区にて。

「おいおい、王国軍ってのはこんなにも貧弱な奴しかいないのか? 全然楽しめねぇじゃんかよ」

 全身鎧姿の男が、一人の兵士の胸ぐらを掴み上げながらため息をつく。

「ジーニン! 俺の部下から手を離せ!」
「ん? あーグーゲンベルって言ったけか、お前」

 ジーニンの前に立ち塞がったのは、隊長であるグーゲンベルであった。
 掴み上げられた兵士はグーゲンベルの姿を見て「た、隊長……」と口にする。

「そんなに返して欲しいなら、返してやるよ。別に俺はいらねぇしよ!」

 そう言ってジーニンは、掴んでいた兵士をグーゲンベル目掛けて投げ飛ばす。
 グーゲンベルは、投げ飛ばされた兵士を受けとめると、その背後からジーニンが突進して来るのが目に入る。

「お前も吹き飛んじまえよ!」

 しかし、ジーニンは次の瞬間何故か壁へと突っ込んでいた。

「!?」
「舐めるなよジーニン。お前が『サンショウ』の一人だか知らないが、俺は王国軍8部隊の隊長だ」

 ジーニンは壁から抜け出し、グーゲンベルの方へと視線を向ける。

「そう言えば、そんな事言ってたな。ただの一般兵だと思ってたわ」

 グーゲンベルは負傷した兵士に下がり治療してもらう様に伝え、後方に控えていた兵士たちの方へと行くように伝える。
 一方ジーニンは、ゆっくりとグーゲンベルへと近付き始めるが、途中から一気に踏み込み殴り掛かる。
 が、ジーニンの拳はグーゲンベルに届かず何故かグーゲンベルの目の前の地面へと叩き込んで来た。
 そこで顔を上げると、グーゲンベルが顔目掛けて『バースト』を放たれ吹き飛ばされるが、鎧を着ているからダメージを受けている様子は見られなかった。
 直後ジーニンは怯むことなく再びグーゲンベルへと突撃するが、グーゲンベルは次々に魔法を放ち攻撃をする。
 しかし、ジーニンはその全てを受け吹き飛ぶことも止まる事もなく、グーゲンベルへと辿り着き拳を振り抜くが、またしてもその拳はグーゲンベルへは届かず何かに流される様に空を切る。

「なるほど、なるほど。分かって来たぞ、お前の魔法」
「分かった所で無駄だ」

 グーゲンベルは、ジーニンの腹部目掛け『ウォーターガン』と『ガスト』を同時に放ち、鎧の破壊を目的にしかつジーニンを再び壁へと吹き飛ばす。
 そのまま魔法の威力で壁を突き抜けて行くのだった。

「(あの鎧、異様に硬すぎる。あれだけの魔法を受けているのに、ほぼ傷がない。それに奴のパワーも高いのが、厄介だ。まずはあの鎧を剥がす事に専念だな。幸い周辺の人々の避難誘導は出来ているし、部下たちも近くに控えている。これは勝負ではない、防衛だ。どんな手段だろうと王都を脅かす敵は捕まえる!)」

 すると吹き飛んでいたジーニンが壁の奥から戻って来ると、何か手にしているのが目に入る。
 その時ジーニンが手にしていたのは、武器などではなく逃げ遅れた一人の女性であった。

「!?」
「おーおー、ビックリしたぞ。吹き飛ばされた先に人がいてよ」
「離してよ! 離しなさい!」

 捕まれた女性は反抗する様にもがくも、ジーニンは全く離す気はなくグーゲンベルへと視線を向ける。

「グーゲンベルよ。これなら俺に対して攻撃出来ないだろ?」
「っ! 人質をとるきか?」
「ああ。お前の魔法厄介だしな。お前を殴り飛ばして、戦闘不能にしたら解放してやるよ」

 そう口にすると、ジーニンは人質の女性をグーゲンベルに向けて歩き始める。
 グーゲンベルは卑怯と思いつつも、こんな事にならない様にと先に人々の避難誘導を優先としていたが、さすがに細かい所や家の中までは手が回っていなかった。
 これは真剣勝負ではない、目的に為に手段を選ばない戦いだ。
 グーゲンベルはすぐさまどうすれば人質の女性を助け出せるかを考え始めるが、直ぐにそんな作戦が思いつかないグーゲンベルは、近付くジーニンに対し少しずつ後退し時間を稼ぐ。
 その間にもジーニンはゆっくりとグーゲンベルへと近付き、人質の女性がもがきその声だけが周囲に響く。
 その時だった、ジーニンが吹き飛ばされた壁の奥から一人の男が出て来て声を上げる。

「てめぇ! その汚い手でメイナさんに触るんじゃねぇよ!」

 周囲のその声が広がり、この場にいた者の全員の視線が一気に集まる。
 この時全員の視線の先に居た人物は、白髪に赤い瞳が特徴であるヒビキ・スノークであった。
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