とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
432 / 564

第431話 疑念

しおりを挟む
「まずは生徒の安全第一だ! 学院の結界展開急げ!」
「教員は副学院長の指示に従い、順次行動を!」

 王都メルト魔法学院内では、冷静に教員たちが各自対応に急いでいた。
 更に学院にも逃げるように人々が流れ始めており、その対応も行っていた。
 学院長のマイナは、数名の教員共に逃げ込んで来た人々を順次学院へと入れ競技場へと案内していた。
 一方で副学院長のデイビッドを中心に生徒の安全や外に外出している生徒を確認していた。

「デイビッド副学院長、今日の外出者リストです」

 デイビッドは教員が持ってきたリストを受け取り、目を通す。

「……今日に限って外出者が多いな。幸い第2学年が修学旅行中なのは良かったか。第1、第3学年の確認はどうなっている?」
「現在学院にやって来ている第3学年は確認中です」
「第1学年につきましても、確認中です」
「なるべく急いで確認しろ。生徒に何かあってからでは遅いからな」

 デイビッドの指示に教員が力強く返事をすると、その場から立ち去る。
 残ったデイビッドは外出者リストに再び目を通し現状把握に努めるのだった。
 その頃、オービン寮に向かう道をオービンが一人で歩いていると、ある人物が後ろから声を掛けた。

「偶然だなオービン」

 そう声を掛けられオービンは足を止めて振り返る。
 そこに居たのは、本を片手に持ったエメルであった。

「……何だエメルか。急に声を掛けられて驚くだろ」
「それは悪かったよ。で、お前は何してるんだオービン」
「寮に帰る所だよ。お前こそこんな所で何してるんだ、エメル」

 オービンはエメル寮から離れたこの場所にいるエメルに対して、当然の疑問を問いかけた。
 するとエメルは片手に持っていた本を軽く上げた。

「たまには、違う場所で本を読もうと思ってな。この辺は木陰でベンチもあって、前から一度ここで本を読もうと思っていたんだよ」
「そうか……それより、今王都が襲撃を受けているの知っているか?」
「異変が起きているのは何となく分かるが、そんな事になっているのか? だから学院中で教員たちが慌ただしくしているのか」
「慌てないのか、エメルは?」
「慌てても仕方ないだろ。知った所で、僕には何も出来ないしな。それに学院にいればひとまず安全だろうし、慌てる事はないだろ? その襲撃している奴が学院に入って来ない限りはだけど、な」

 そう言ってエメルは、横目でオービンの方を見る。
 エメルの言葉にオービンは「確かにな」と答える。

「それでもう一度訊くが、どうしてお前はここにいるんだ?」
「? 外出中にその襲撃に巻き込まれて、皆が心配で戻って来たんだよ」
「なるほどね。心配で戻って来たにしては、あまり息が荒くないな」
「……何だエメル? 何が言いたいんだ?」
「いや別に、ちょっと気になっただけさオービン」

 そう告げるとエメルは身体をオービンの方へと向けて、少し鋭い目で見つめる。

「言いたい事があるならそんな態度取らないで早く言えよ、エメル」

 オービンもエメルの態度が気になり少し態度を変える。
 するとエメルは少し驚いた顔で「あ、そう。じゃ」と呟き思っていた事を口にした。

「お前、本当にオービンなのか?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――王都内西地区。

「うわぁー! 魔物だ! 逃げろー!」
「早く何とかしてよ、王国軍!」
「何で王都に魔物がこんなにいるんだよー!」

 人々は迫り来る魔物に対し怯え、逃げていた。
 そして人々を避難誘導しつつ、王国軍兵が迫る魔物に向かい足止めをしていた。
 だが、一人また一人と魔物に倒れて行き徐々に兵士の数が減っていく。

「くっ! 何とか持ちこたえろ! ザべッシュ隊長が必ず来る! それまで持ちこたえろ!」

 唯一小隊長である兵士がそう鼓舞し、兵士の士気を上げ少し押し返すも、魔物は何処からともなく増える一方であった。

「(何なんだ、これは……)」
「やっと追い付いたわ」
「!?」

 その女性の声に兵士たちが上を見上げると、そこには空飛ぶ魔物に座り見下すウェントの姿があった。
 ウェントは苦しむ兵士や人々を見下し、息を荒くする。

「いい……いいわ! 最高よ! もっと! もっとその姿を私に見せて!」

 その声に反応するかの様に、魔物たちは大きく雄叫びを上げ兵士や逃げる人々に襲い掛かる。
 周囲には攻撃音や悲鳴が響き渡り、そこは地獄と化していた。

「あははは! もっと、もっとよ! 私を満たして!」

 ウェントが興奮を抑えきれず、高揚した直後だった。
 周囲の魔物たちが、地面から突然生成された槍に貫かれる。

「っ!?」

 直ぐにウェントは背後を振り返り、そこにアバンとザべッシュに数名の兵士たちの姿が目に入り舌打ちをする。

「(あいつ等! 生きていたのね)」

 ウェントは立ち上がり、両腕を勢いよく横に伸ばすと向かって来るアバンたちの周囲に複数の黒い空間を生成する。
 アバンたちはそれを見るなり足を止め、警戒し始める。
 その姿を見てウェントはうっすらと笑い、生成した空間から魔物たちを放出した。

「どれだけ頑張っても無駄よ! 私の可愛い魔物ちゃんたちは、まだまだいるのだからね!」

 しかし次の瞬間には、周囲の建物から魔力創造で槍を無数に生成し、新たに出現した魔物のほとんどを貫き仕留める。
 そして生き残った魔物は、中隊長や小隊長が主導となり魔法で仕留め、アバンは建物に登ると一気にウェント目掛けて距離を詰め始める。

「っ! 無駄って言っているでしょ!」

 ウェントは空中に黒い空間を生成し、アバン目掛けて魔物を放つのと同時残ったザべッシュたちの周囲にも再び魔物を放つ。
 アバンは振り返る事無く、迫る魔物を魔法で次々に仕留め、足を止めずに走り続ける。
 ザべッシュたちも持てる力を全て使い、迫る魔物を狩り続ける。

「ぐっ! 何なのよ、あんた!」
「王都を護る王国軍として、ウェントお前を拘束する」

 そう告げてアバンはウェントが乗っている魔物目掛けて飛び掛かる。
 ウェントは追加で魔物を出し、乗っていた魔物から降りながらアバンへと攻撃する指示を出す。
 宙にいるアバンの周囲に空を飛ぶ魔物が追加で出現するが、アバンは動揺する事無く周囲の魔物を真下からの『ガスト』で打ち上げた。
 そのまま『フローズンストーム』で魔物を一気に仕留め、ウェントを追い地面へと降りて行く。

「うっ……」
「一度言ったろ、いくら魔物を出そうと無駄だ、ウェント。観念しろ」

 苦しい顔をするウェントだったが、次の瞬間には薄笑いを浮かべる。

「……それはお前にだろ? だったら、お前を無視して後ろにいる奴らから襲わせればいい!」
「っ!」

 すると未だ逃げ惑う人々の周囲に黒い空間が生成され、魔物を放とうとする。
 アバンは咄嗟にウェントを取り押さえようと魔法を放つが、真横から魔物が盾になる様に飛び込んで来て防がれ、再びウェントは飛ぶ魔物を呼び出し空へと逃げる。

「あははは! あんたは傷つく人を放って置けないのでしょ! だったら、私なんかよりも助ける人がいるんじゃないの? それに一緒に来た老人もヤバいんじゃないの?」

 その言葉にアバンが振り返ると、ザべッシュが魔力の連続使用で動けなくなっており、兵士たちも追い込まれ始めているのが目に入る。

「ザべッシュさん!」

 アバンが助けに行こうとするが、一方で逃げる人々の悲鳴も聞こえ足が止まる。

「さぁーどうするの? どっちをあんたは助けて、どっちを見捨てるのかしら? 何だか面白い展開じゃない?」
「(ぐっ……今はザべッシュさんよりも人々の助けに行かないと被害が大きくなる……けど、ザべッシュさんたちの方もそんなにもたない……どうする)」

 決断しかね苦悶しているアバンを見て、ウェントは空中から嘲笑う。

「早くしないとどっちも助けれないわよ~ほら、それにどんどん魔物ちゃんも出続けてピンチだよ~助けて王国軍さ~ん。ぷっ! あははは!」

 するとアバンは苦渋の決断で、先に襲われている人々を助けるとし地面を強く蹴るが、その前を新たな魔物たちが壁の様になり塞ぐ。

「っ! この!」

 魔法で一掃し道を開くも、再び魔物が道を塞ぎ足止めをくらうアバン。

「残~念~。私が、そう簡単に行かせる訳ないじゃん。さてと、今頃あっちは真っ赤に染まってる頃かな?」

 と、ウェントが逃げ惑う人々の方へと視線を向けた時だった。
 何故か数体の魔物が宙へと浮かんでいたのだ。
 いや、正確には吹き飛ばされていたのだった。

「何? 何が起こってるの? あそこにはもう戦える奴はいないはずなのに」

 ウェントは直ぐに移動し、現場を確認すると確かにそこには疲弊した王国軍がいたが、そんな中で一般人二名が魔物を次々に撃退している姿があった。
 一人は変な目隠しを首に下げており、蛇の耳飾りを右耳にしている男で、もう一人は目元を鷲の仮面で隠している男であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

処理中です...