とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
550 / 564

第549話 独断で行った事

しおりを挟む
 暫くの間、担当試験官も試合状況に驚き固まっていたが、すぐさま結界外へと吹き飛んで行ったルークへと他の教員を向かわせる。
 芝生の傾斜に埋まる形でルークは何とか意識を保っていたが、動ける状態ではなかった。
 外の教員から担当試験官がルークの安否状況を確認した直後、アリスの方へと視線を向けるとその場で両膝をつき座り込んでいた。

「勝者――」

 と、担当試験官が結果を口にした直後アリスがその場で倒れてしまう。
 すぐに担当試験官はアリスの方へ走りながらタツミの名を呼ぶ。

「呼ばれずとも、もう来ている。たっく無茶し過ぎたお前らは」

 タツミは最後のアリスの一撃を見てから既に動き出しており、すぐに結界内へと入りアリスの状態を確認した後安静な場所に寝かせる様に指示を出す。
 既に一緒にいたトウマに応援を呼びに行ってもらっているので、最低限の状態把握と治療だけを行っていた。
 その後ルークの元へと向かい始めた時だった。
 突然タツミの足が止まる。

「っ――」

 立ち尽くしていたタツミに、ルークの様子を見ていた教員から大きく声を掛けられ、再び止めていた足を動かしルークの元に向かう。
 教員の手によりルークを斜面から出し芝生の斜面に寄りかかる様に安静にさせた状態で、ルークが状態を確認し始める。

「っ……タツミ」
「意識があるなら、黙ってそのままでいろ。自分の攻撃がどれほどの威力は分かってるだろ」
「まさか、あれを倍にして返して来るとは思わないだろ」
「常識的に考えればな。だが、常識は完璧でも正しい訳でもない。今回はお前の負けだよ、ルーク」

 タツミの言葉を聞きルークは瞳を閉じると「やられたな」と小さく呟くと、微かに笑うのだった。
 それから数分後、トウマが診察所にいた教員を数名連れて来てタツミの指示の下更なる応急処置がされ、二人は運ばれて行くのだった。
 次にアリスが目を覚ました場所は、ベッドの上であった。

「ここは……」

 寝たまま周囲を見回すと、そこは競技場地下の治療室であった。

「そっか、あの後倒れちゃったのか私」

 すぐにアリスはルークとの試合後に自分の身に起きた事を察すると、治療室の扉が開きタツミが入って来る。
 タツミはアリスが目を覚ましている事に気付くと、笑顔でアリスの近くにある椅子に腰かける。

「やあ、おはようアリス」
「うっ……お、おはようございます。タツミ先生……」
「俺が何が言いたいか分かっているよね?」
「何となくですけど……すいません」

 謝るアリスに小さくため息をつき、手に持っていた診断書をめくり今の状態を説明し始める。
 重症ではないが、急激に魔力消費した結果による軽い欠乏症だと伝え、体力面も試合で低下していたことにより意識を失っていたと知る。

「全く無茶をするな。大変なのは自分だけじゃないんだ、それをしっかりと覚えろ。いいな」
「はい。ご迷惑をお掛けしました」
「ルークの奴も素直にそれくらい言えればいいんだが。まぁ、あいつはそれどころじゃないかもだが」

 アリスがその訳を訊こうとした時、治療室の扉がノックされ二人が扉の方へと視線を向けると、そこにはオービンが立っていた。

「オービン先輩!?」
「オービン、お前なんでここにいる? あれやったの、お前だろ」
「あれ、バレちゃいました?」

 オービンは軽く頬をかきながら部屋に入って来る。
 アリスは何の事だか分からず軽く首を傾げる。

「やぁアリス、凄い試合をしたね。でもルークに勝ったことに変わりない」
「勝ったといっても一度だけですよ。これまで三回勝負してギリギリでの一勝です」
「謙虚だね」
「のんびり話しているがオービン、お前こんな所に居ていいのか? 学院長の所とか他の奴らに説明を求められているんじゃないのか?」

 タツミの言葉にオービンは目を泳がせる。
 そんな態度をとるオービンを見てアリスは何をしたのかをタツミに訊ねる。

「あの、何したんですかオービン先輩は?」
「それはな、お前とルークの試合を独断で校内に中継したんだよ。それだけじゃなくて、他の学院長らが見ている方にも流したんだよコイツは」
「え、えぇ~!?」


 ――遡ることアリスとルークの試合開始前。
 ――王都メルト魔法学院の地下、ダンジョンの一室にて。


「何だ急に映像が乱れ始めたぞ」

 各学院長らが見つめる先の映像乱れに、後方で見ていたリーベストが反応する。
 ミカロスたちも同様に何が起きたのかと驚く。
 暫くすると映像が直ると、そこに映し出されたのはアリスとルークの対戦場であった。
 映るはずのない場所の映像にマイナは驚き、すぐさまデイビッドに視線を向ける。
 だがデイビッドも驚いた表情をしており、マイナの視線に気付き首を横に振る。

「(どうなっているの? 彼女の場所は映像で映らないはずだし、そもそも誰が映像を中継させているの?)」

 マイナが少し険しい顔をしている一方で、先程から注目の試合をしているルークが映されたことで他の学院長らが盛り上がる。

「おい見ろ、ルークだ! またいい試合が見れそうだな~相手は――って、女子? どうしてルークの相手が女子なんだ? おいミカロス、どういうことなんだ?」
「あの顔何処かで……」

 映像に映ったアリスにマーガレットが呟く。
 他の皆もルークの対戦相手に見覚えがあり、誰だったか思い出し始める。

「ミカ、どういうこと? 何でアリスとの対戦が映っているの?」
「俺が聞きたいくらいだよ」

 エリスとミカロスが問いかけているリーベストを無視して小声でやり取りしていると、後ろの扉から聞き慣れた声にその場に居た全員が振り返る。

「こっちもバッチリ映ってますね」
「オービン!? あれお前来られないんじゃなかったのか?」
「オービン、さっきの言葉どういう事だ?」

 再びリーベストの問いかけをかき消すように奥からマイナが声を掛ける。
 オービンは部屋に入ると、マイナたちの方へと向かって行く。

「ぜひ皆さんにも、見て欲しい試合だったので独断ですが繋げさせてもらいました」
「どうしてそんな勝手な事を」
「そんなに責めないであげてください、マイナ学院長」

 そう口を挟んだのは、クレイス魔法学院長のフレイであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

処理中です...