上 下
6 / 17

魔女っ娘、盗賊のアジトを潰す

しおりを挟む





「それで?どういうことなの?」

「はい。どうやらあなたのことが支部長に伝わったらしく、そんな有能な人物を野に放っておいたままにするのは組合の損失だと。それで面識のある私が直接うかがうことになりました」

「冒険者にはならないよ」

  改めてはっきり言っておく。お姉さんも心得たもので静かに頷く。

「承知しております。あくまで組合が勧誘したという建前が必要だったので」

「……お姉さんも大変だね」

「……まぁ仕事ですから。とはいえ、めんどくさいですね。わかりきってる答えを聞きに行かねばならないのですから」

「支部長にそう言えばよかったのに」

「言ったところであの人は聞きませんよ。そもそもこの勧誘だって本音は組合員よりも実力のある一般人がいられると冒険者の面目が立たないというくだらないプライドですからね」

  なにそれ、私には関係ないじゃん。そんな感情が表情に出ていたのか、お姉さんが微笑む。

「無理に勧誘しようなんて思っていませんから大丈夫ですよ。あなたとはいいお付き合いをしていきたいですしね」

「ん?どういう意味?」

「言葉の通りですよ。あ、そう言えばまだお互いに名乗っていませんでしたね。私はレミィと申します」

「ロゼだよ」

「よろしくお願いします。ロゼさん」

「ロゼでいいよ。私の方が年下だよね?」

「そうですか?ではロゼと。私のこともレミィでいいですよ」

  レミィはあまりそういう上下関係は気にしないようだ。私もその方が楽だからいいけど。

「さて、ロゼの勧誘もしたことですし、これで私の仕事はおしまいですね。とはいえきちんと説得したという言い訳がほしいのでもう少しお付き合いいただけますか?」

  レミィは敬語が標準らしい。ちょっと固い感じもするけど彼女に合っている気もする。

「特にすることもないしいいよ」

「ありがとうございます。ロゼはいつこの町に?」

「ん?3日前かな」

「冒険者になりに来たわけでもなく、商人になりに来たわけでもなく、何か目的があったんですか?」

「特に目的はないよ。この町に来たのはただ近かったから」

  本当にそれしか理由はない。長居するつもりもないしね。アンナちゃんが可愛いからもう少しいようかなぁとは思ってるけど。

「そうなんですか。また魔物を狩りに行ったりしないんですか?」

「気が向いたらね。そんなにお金に困ってないし。レミィはなんで組合で働いてるの?」

  見た感じ、レミィは強い。前に会った新人なんか相手にもならないし、ゴリラも簡単に倒せると思う。受付にいるより冒険者をやってる方が稼げる気がするんだよね。

「前は冒険者をしていたんですが、元々、父親の借金を返すためにやっていたので。決まった仕事を決まった時間して決まった給金をもらう方が楽かなと思ったんです。実際はどっちもどっちでしたが」

「お父さんの借金は返し終わったの?」

「えぇ。返済が終わったので冒険者を止めようと思っていたらまた父親が借金してどこかに消えてしまったんですけどね」

「え!?じゃあまだ返済終わってないの?」

「いいえ。新たにした借金は私が返済する義務もないので、きちんとお話しして父に直接取り立てるようにお願いしました」

  多分、借金取りを脅したんだろうな。レミィの笑顔がとっても黒いもん。

「ではそろそろ失礼しますね。また機会があれば一緒にお茶しましょう」

  しばらく話してレミィが席を立つ。そのまま入り口まで歩き、振り返る。

「そうそう。最近、街道側で盗賊が出ているようです。3日前に数人が捕縛されたんですが、どうやらまだいるらしく、街に来る商人が襲われています。一応、気をつけて下さい」

「うん。わかったよ」

  私の返事に頷いてレミィは帰っていった。





  さて、レミィに注意されていたにもかかわらず、私は現在、盗賊に囲まれています。
  ポーションを作るのに薬草を採取しに来たんだけど、気づいたら盗賊のアジトの近くに来ていたらしい。

「へへ。いい女だぜ。大人しくしてりゃ痛くはしねぇからよ」

  盗賊のリーダーみたいなおっさんが言ってくる。私の身体を舐め回すように見てくる。気持ち悪いな。

「…………」

「どうした?怖くて声も出ねぇか?」

「へへ。ほらこっち来いよ」

  私の近くにいた盗賊が手を伸ばしてくる。私は“魔女の水銀”を棍にして横に振る。吹き飛ぶ盗賊。あ、首の骨折れちゃったかな。汚い手で触られそうだったから思わずやっちゃったよ。

「てめぇ!やりやがったな!」

  武器を手に叫ぶリーダー。あーあ。なんでこう絡まれるんだろう。私、何もしてないのにな。思わずため息を吐く。そんな姿がカンに触ったようで3人ほど向かってくる。
  棍の先で地面を軽く突く。地面が揺れる。魔法で小さな地震が起きる。自分の魔法だから私は平気だけどね。

「なんだ!?」

「うお!?」

  突然の揺れにふらつく盗賊たち。更に魔法を発動。地面から出た茨が盗賊たちを一斉に縛りつける。

「ぐお!?なんだこりゃ!?」

「いてぇ!」

  茨の棘が身体に食い込んで顔を歪める盗賊たち。さて捕まえたはいいけど、どうしようかな?やっぱり町に連れて行った方がいいんだよね。と、その前に。
  私は盗賊たちが出て来た洞窟に入って行く。後ろで何か叫んでるけど無視する。
  中に入って行くとアリの巣のように枝分かれしている。これは昨日今日で作った物じゃないね。
  中に残ってた盗賊を茨で拘束してさらに奥に進むと人の気配がした。行ってみると牢屋に女性が5人捕らえられていた。

「あなたは……?」

「助けにきてくれたの?」

「お願いします。ここから出して下さい!」

「……ちょっと待ってて」

  見て見ぬふりもできないので助けることにする。
  土で出来ている壁を魔法で操作して人が通れる穴をあける。繋がれていた鎖は火の魔法で溶かした。

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

  出てきた女性たちにお礼を言われる。なんか照れちゃうね。

「とりあえず、盗賊たちは捕まえて地面に転がってるから気にしないでね。他に捕まってる人はいる?」

「私たちの他にも何人か捕まっています。場所はわからないんですけど……」

「わかった。その人たちも助けてくるから外で待ってて」

  頷いて外に向かう女性たち。さて、他の人も助けに行こうか。たまには人助けもいいよね。
  探知魔法で捕まっている人を探す。人がいるのはあと一ヶ所。でも盗賊はまだいるみたい。
結構大所帯だったんだね。外にいたのは10人、洞窟内にいるのは20人くらいかな。一応各部屋を確認しながら進む。途中、盗賊を茨で拘束しながら牢屋のまでやってくる。
  中を見ると…酷い。明らかに暴力を受けた痕がある。顔は痣だらけ。
服で見えないけど身体にもあるみたい。1人はもう虫の息だ。

「あなたは……」

  比較的軽傷の女性が私を見て言う。

「助けに来たの。すぐ出してあげる。その前に……」

  状態の悪い人から順に回復魔法をかける。紫色の痣が消え、生気が戻ってくる。これで大丈夫。
  さっきと同じように壁に穴をあけ、鎖を溶かす。

「ありがとうございます。このまま死ぬだけなんだと思っていたのに……」

「たまたま通りかかっただけだから。それより歩ける?」

「大丈夫です。魔法で治していただきましたから」

  虫の息だった女性も大丈夫そうだね。

「私はもうちょっと洞窟内を見てくるから、外に出てて。同じように捕まってた人がいるはずだから」

「はい。本当にありがとうございます」

  女性たちと別れ、奥に進む。しばらく進むと鍵のかかった部屋を見つける。
  棍で壊し、中に入る。中には今まで人から奪った物が無造作に積まれていた。

「宝物庫ってところかな?とりあえず全部回収っと」

  中の物を全て指輪に収納して次の部屋へ。
  その後は盗賊たちの居住スペースって感じだったので無視。臭かったしね。
  最後の部屋。中に入ると正面に椅子、そこに大柄な男が座っていた。

「随分と騒がしいと思っていたらこんな小娘だったとはな」

「あんたが親玉?」

「まぁそうだな。で?おめぇは何もんだ?」

「たまたま通りかかった小娘よ」

「はっ!ただの小娘がこんなとこまで来れるかよ。衛兵じゃねぇだろうから冒険者か?」

  どっちもハズレ。私は衛兵でも冒険者でもない。まぁ教える必要もないから答えないけど。
  それを肯定ととったのか盗賊の親玉は笑いながら立ち上がる。

「まぁいい。色々とやってくれたんだからケジメをつけねぇと……な!」

  いきなり私に手を向けて火の玉を飛ばしてくる。魔法使えるんだ。まぁ、大したことないけど。
  火の玉は私に当たる直前、霧散する。驚く親玉。もう一度火の玉を飛ばすが、また霧散する。

「なんだ!?どうなっていやがる!?」

  言いながら連続で火の玉を飛ばす。が、全部私には届かない。そのうち魔力が切れたのか荒い息を吐きながら地面に手をつく親玉。
  魔力が切れるとああなる。個人差はあるけどね。そのまま気絶する人もいるし。

「てめぇ……本当に……何もんだ……」

  私は答えることなく親玉へと歩く。
そして棍で殴る。もちろん、死なない程度に手加減して。

「ぶっ!」

  また殴る。殴る殴る殴る。顔、身体、目につくところ全て殴る。骨が折れる音が聞こえるがやめない。
  親玉は途中、気絶するが骨が折れた痛みで目を覚ます。ひたすら殴って虫の息になったところでやめる。

「少しはあの人たちの痛みがわかったか」

  そう。親玉をここまでボコボコにしたのは捕まってた女性たちと同じ痛みを味わわせるため。きっと彼女たちは怖かったはずだ。痛かったはずだ。そんな痛みを少しでも味わわせたかった。
私は怒っていた。同じ女性として。
  親玉を茨で拘束して、私は外に出ることにした。




しおりを挟む

処理中です...