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魔女っ娘、ポーションを作って売りに行く

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  衛兵のオジさんと町に戻ってから私は宿に戻ってご飯を食べてすぐ寝た。
  次の日、私は部屋でポーションを作るために薬草をすり潰しているところ。

「…………」

  コリコリと薬草を潰す音だけが部屋に響く。ポーションを作る手順はすり潰して水に浸けて温める。あとは濾過して瓶に詰める。これだけ。
でも結構、気を使うことが多いんだ。
  まず薬草を潰す作業。強く潰し過ぎてもダメ、でも弱過ぎてもダメ。ちょうどいい力加減をしないとポーションの質が落ちる。
感覚的な事だから教えられてできる事じゃない。実際にポーションを作って失敗しながら覚えていくんだよね。私もよく薬草をダメにしたよ。ママはニコニコしながら見守ってくれてたけど。
  次に火にかけて温める作業。これも結構、気を使う。温め過ぎると薬草の成分が全部飛んじゃうんだよね。
  緑の色がだんだん黄緑に変わっていくギリギリのところを見極めるのが大変。

「…………」

  火にかけている薬草の色を無言で見つめる私。窓を開けてるから煙がこもることはないけど、それでもちょっと煙い。あ、そろそろかな。火を止めて薬草を鍋から出す。
  次は濾過の作業。これはあんまり前の二つの作業ほど難しくない。慣れれば誰でもできる。
あ、薬液がすっごい熱いからそこは注意だけど。漏斗を使いながら濾過して綺麗な黄緑色になったらおしまい。
  あとは瓶に詰めるだけ。指輪から瓶を取り出す。口の部分が少し細くて下の部分はちょっと丸っこい形の瓶。ポーションと言えばこれ、らしいよ。
  濾過したポーションを瓶に詰めて、ほんの少し魔力を込める。こうすると回復量が上がるんだよね。私はポーションを作るときいつもこうしてる。
  そのときバタバタと廊下を走る音が聞こえる。騒がしいなと思っていると私の部屋のドアが勢いよく開く。

「ロゼお姉ちゃん!」

  誰かと思ったらアンナちゃんだった。息を切らしてるけどどうしたんだろう。

「どうしたの?アンナちゃん。そんなに息を切らして」

「はぁ……はぁ……どうしたじゃないよ!!外から来たお客さんが窓から煙が出てるって言うから……しかもロゼお姉ちゃんの部屋だって言うし。火事でも起きたんじゃないかと……」

  窓から煙が出てたからそう勘違いされちゃったのか。悪いことしちゃったなぁ。

「ごめんね。ポーション作ってたから。勘違いさせちゃったね」

「ポーション?……よかったぁ~。火事じゃなくて……」

  ホッとした顔をして安堵するアンナちゃん。可愛いので頭を撫でておく。

「大丈夫だから。心配しないでね」

「うん。それより、ロゼお姉ちゃんポーション作れたんだね」

  私が作ったポーションの瓶をマジマジと見つめるアンナちゃん。

「まぁね」

  アンナちゃんと話しながらポーションを瓶に詰めていく。30本ほど詰めて鍋の中が空になった。とりあえずこんなところかな。
  薬草はまだあるけど、ひとまずこれだけにしておく。

「アンナちゃん、ポーション売れるような店知ってる?」

「うん。うちの裏の通りにあるお薬屋さんで売れるはずだよ。よく傷薬とか買いに行くの」

  ほうほう。宿の近くにそんなところがあったのか。私が行くのは主に大通りとか食べ物屋だったから見落としてたのかも。
せっかくだからそこに行って今作ったポーションを売ろうかな。どの位の値段で売れるか知りたいし。

「じゃあ、ちょっとそこに行ってみるよ」

「うん。薬草の絵が描いてある看板があるからすぐわかると思うよ」

  アンナちゃんの頭を撫でてお礼を言い、道具をしまって薬屋へ向かうことにした。




  宿を出て裏の通りに入る。見回すと薬草の絵が描いてある看板を見つける。あそこかな。店の正面に立つ。看板を見るとタバサの薬剤店と書いてある。
アンナちゃんが言っていたのはここで間違いないみたい。ドアを開けて中に入る。

「いらっしゃい」

  中に入ると正面のカウンターにおばぁちゃんが座っているのが見える。見た感じ優しそうな雰囲気のおばぁちゃん。
ニコニコしているおばぁちゃんのところまで行く。

「こんにちは」

「はい、こんにちは。おつかいかい?」

「ううん。おばぁちゃん、ここってポーションの買い取りしてる?」

「ポーションかい?しとるよ。物はあるかい?」

  私は指輪からさっき作ったポーションの瓶を一本取り出しておばぁちゃんに見せる。
  ポーションを見た瞬間、おばぁちゃんの目つきが鋭くなる。私のポーションを手に取り、穴があきそうな程見つめるおばぁちゃん。しばらくして鋭い目のままこちらを見る。

「これはお嬢ちゃんが作ったのかい?」

「そう。町の外で薬草を採って来て作ったの」

「そうかい……」

  それだけ言ってまたポーションを見つめるおばぁちゃん。何か問題あったかな?ポーション自体はいつも通り作ったから失敗してないはずだけど。

「何かマズかった?」

「……あっちの棚にあるポーションを見てごらん」

  おばぁちゃんが指差す棚にはポーションが並んでいる。でも私が作ったのより色が濁っている。あまり質は良くなさそう。一本80シエルか。でもだからなんなんだろう?首を傾げる私にため息を吐くおばぁちゃん。

「あそこにあるのが一般に普及しているポーションさ。あれでもかなり品質が良い部類に入るんだよ」

  そこまで言われてやっとおばぁちゃんの言いたいことがわかった。つまり私のポーションの質が高すぎるってこと。

「悪いことは言わないからこのポーションを作れることは誰にも言わない方がいいよ。余計な厄介事に巻き込まれるからね」

「うん。わかったよ。でも、それならこれ買い取ってもらえないね」

「確かにとんでもない物だけど買い取りはしてあげるよ」

「え!?でも……」

  私が持ち込んだポーションでおばぁちゃんに迷惑がかかるのはやだな。ちゃんとポーションのこと注意してくれたし、良い人なんだと思うから。嫌な感じもしないしね。
  友好的に接してくれる人には私も友好的に接する。逆に敵対するなら容赦しないけど。まぁ、他人と関わるのがめんどくさいのはあるけど別に私人嫌いじゃないからね。

「せっかく、品質の良いポーションを仕入れるチャンスだからね。気にしなくていいよ。市場に流す数を調整すればそこまで問題ないからね」

「あの……それ含めて30本くらいあるんだけど……」

  申し訳なく思いながら言うと、驚いて固まるおばぁちゃん。

「……そうかい。わかった。ちゃんと全部買い取ってあげるから出してごらん」

  優しくそう言われて私はカウンターの上に作ったポーションを全部出す。

「そうだね……一本300シエルでどうだい?」

「え!?」

  店に置いてあるポーションの4倍近い値段を提示するおばぁちゃん。いいの?そんなに。

「いいの?そんなに……」

「この品質を考えれば当然の値段だよ。どうする?」

「うん。じゃあそれでいいよ」

  相場を知らないからおばぁちゃんの店が高いのか安いのかはわからないけど、いいや。世間ではすごいポーションでも私は普通に作れるものだしね。

「じゃあちょっと待ってな」

  そう言って店の奥に行ってすぐに袋を手に戻ってくる。

「はいよ」

  おばぁちゃんが渡してきた袋を覗いてお金を数える。小銀貨が9枚と銅貨が5枚。あれ?

「おばぁちゃん、ちょっと多いよ?」

「少し色をつけたのさ。これから贔屓にしとくれ」

  商売人だねおばぁちゃん。お金が入った袋をポケットに入れながら指輪に収納する。

「じゃあ、また来るよ」

  おばぁちゃんと別れて通りに出る。まさか私の作ったポーションがあんなに高く売れるとは……。思ったより高収入だったな。
  さて、ポーションも売り終わったしこれからどうしよう。
特にすることもないし……そうだレミィのところにでも行こうかな。盗賊のことも話しておいた方がいいだろうし。
ということで冒険者組合に向かって歩き出す。

「誰かその男を捕まえてー!」

  組合に向かって歩いていると女性の叫び声が聞こえた。前から男が走って来る。手に何かを持っているところを見るとひったくりかな?
  男が私の横を通り抜けようとしたところで足を引っ掛ける。男は前のめりに倒れて手に持っていたものを落とす。

「てめぇ……ぐふっ」

  振り返って何かを言おうとした男の背中を踏みつける。
そこで衛兵が追いつき、その後ろから被害者と思われる女性がやって来る。衛兵が男を捕まえたのを確認して男が落とした袋を拾う。

「はい。気をつけないとダメだよ」

「ありがとうございます。何かお礼を……」

「いいよ。たまたま居合わせただけだから」

  女性にお金の入った袋を手渡して組合に向かおうとする。

「お嬢ちゃん?」

  声のした方を向くといつも門のところにいるオジさんがいた。

「オジさん、何してるの?門は?」

「当番で見回りしているところさ。で、ひったくりが出たって聞いて飛んできたのさ」

「間に合ってないけどね」

「そう言うなって。お嬢ちゃんがいてくれて助かったよ。協力感謝します」

  私のツッコミに苦笑いするオジさん。そのあと戯けたように敬礼する。

「じゃあ後は任せるよ」

  ひらひらとオジさんに手を振って冒険者組合に向かった。
  あ、そういえばあのオジさんの名前も聞いてないや……まぁいいか。





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