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第33話 異世界人
しおりを挟む地球人。そんな言葉をこの世界の住人から聞くとは思いもしなかった。確かに異世界の人間の話は有名みたいだが、そんなすぐに俺が異世界人だとバレるものなのか?
「それは…」
「私はこれでも500年以上生きていますからね。今までも何回か君たち地球の住人にあったことがあるんですよ。君も地球人だと初めて見た時から薄々気が付いていました。」
500年。確かにエルフは長生きみたいな話はよくあるが、本当にそうだとは思いもしなかった。しかしこれはまずい。異世界人の話は何度か聞いたが、どれも悪い話ばかりだ。今のうちに悪の目を潰しておこうとか考えられたら…
「そんなに怯える必要はありませんよ。あなたに危害を加えるつもりはありません。それよりも作業に集中しないと、出発してしまいますよ。」
危害を加えるつもりはないと言った。しかしそれがどこまで信用できるか怪しいものだ。とりあえず、今は作業に集中して隙を見て逃げるしかない。あ、今危険地帯にいるから逃げられないじゃん。詰んだわこれ。
「異世界からの住人は主に3種類に分かれます。一つは金貨王のようにこの世界に害をなすもの。もう一つはその知識と力を持ってこの世界をよりよくするもの。もう一つは何もせず、ただのんびりと生きるもの。ミチナガくんはどちらかというと2つ目にあたりますかね。だから危害を加えることはありません。それに君の力はこの世界の問題を少しは解決してくれそうですしね。」
「そう思ってくださり感謝します。ルシュール様は今までどのくらいの異世界人を見てこられたのですか?」
「30人くらいですかね。確証を得られていないものも含めるともっと増えますが。」
500年生きてきてそんなに多くの異世界人を見てきたのか。だとすると、今も俺以外の異世界人が何人かいるかもしれないな。しかし、今まで出会った異世界人に対してどうしていたのだろう。
「金貨王のように俺が悪事を働いた場合はどうするんですか?」
「もちろん適切に対処しますよ。今までも何人もの異世界人を殺してきましたから。しかしそれは異世界人に限ったことではありません。悪事を働いた人間にはそれ相応の罰が必要でしょ。」
「それは…そうですね。」
「まあ正直に言えば異世界人の犯罪の確率はかなり高いです。なんというか…子供に力を与えてしまった感じですかね。力を持ったことによる全能感から、なんでもできると悪事を働いてしまうのです。それにこの世界の法とそちらの世界の法は違うというのに、それを受け入れずに処刑されるケースも数が多いです。こういった言い方は失礼ですが…愚かものが多いです。」
まあ、確かにごもっともだ。だけどそんなに全能感を得られているのだろうか。俺のこのスマホだって課金要素多すぎるし、生産系はいいけど武力の面ではカスだ。他の異世界人に会ったことはないが、そんなにいい能力を与えられているのだろうか。
「異世界人というのは強いのですか?」
「そこそこ強いですよ。強さで行けば魔王クラスは当たり前でした。魔帝にまで食い込んできたものもいますが…大体が思い上がって魔神に挑み、殺されています。チート、と言うんでしたっけ?強大な力を持つことを。まあそれで言うならこの世界の10人の魔神こそがチートですね。あれは格が違う。たった一人で大国と同じ、いやそれ以上の力を持ち合わせていますから。特に魔神の中でも神剣、神魔、神龍の3人は世界を滅ぼすことすら可能です。」
「そ、そんなにすごい人たちがいるんですか…」
「ミチナガくんは武闘派の能力ではないですからね。時折いるんですよ。そういった人間とは私も仲良くしています。武闘派でない人間の場合、謙虚で心優しい人間が多いのですよ。異世界人はもともとそんなに悪人ではないと思っています。」
ちゃんと理解はあるみたいだ。異世界人イコール悪とか思われていたら、もうどうしようもなかったが、これなら安心できそうだ。
「そう言えば、異世界人の末裔とかはいないんですか?私の知っている文明といいますか、技術が今まで見当たらないのですが。」
「かつては存在しましたよ。超大国オリンポス。異世界からの技術を使用して極度の発展を遂げた街です。他の街とは数千年の技術の差があるとまで言われました。」
「そんな国があるのですか。しかしかつてとは?」
「ある一人の異世界からの転生者によって一夜にして滅びました。その転生者は自らが太陽になりたいと願い、その力を持って太陽となりました。しかしそんなものが人間に扱いきれるはずもなく国を巻き込み消滅しました。」
た、太陽になりたいって…それってつまり核融合…規模はわからないけど自分が核爆弾になったってことか。そりゃ国も滅ぶわ。
「その事件以降は各地で異世界者の話があまり聞かれなくなりましたが、時折はいましたよ。ああ、子孫なら有名な人がいますよ。魔神第3位、勇者王ヒーロー。名前は代々受け継がれていくものらしいですが、確か優しい正義の味方のことを表しているらしいですね。」
「それは…すごい名前ですね。それにしても魔神ですか?先ほどは異世界人は魔帝止まりだと…」
「ええ。この場合は少し特殊なんです。初代勇者王は大層な剣を持っただけの非力な男でした。剣を持っていても力がなく、振るうことすらできませんでした。しかしその子孫はこの世界の人間の血を引いていたため、力があり、その剣を振るうことができたのです。その剣は強大な力を持っていて数多くの巨悪を倒すことができたのですよ。詳しく知りたければ本も出ていますし、劇もやっています。なかなか人気があるんですよ。」
なんと言うか俺に似ている気がする。持っているものは強力な力を持っているが、本人には何もない。俺らみたいなのには宝の持ち腐れだが、その勇者王は後世にその力を託したのか。
「一度機会がありましたらその国に行ってみたいですね。」
「お勧めしますよ。勇者王は人類の至宝とまで言われています。名のある魔帝も彼に惚れ込み士官するものが後をたたないくらいですから。軍としての戦力なら魔神第1位の神龍にも引けを取りませんから。」
そんなにすごいのか。だけど俺がその初代勇者王だったら悔しいな。後世になってようやくその力が発揮されるなんて。だけどもしかしたらそれも幸せなのかもしれない。結婚して子供ができたらわかる感情なのかもな。
「落ち着いたようで何よりです。先ほどまでは拾った猫のようにビクビクしていましたから。」
「すみません…だけど本当にいい話を聞けました。あ、もうすぐ出発するみたいですね。」
「そのようです。ああ、モンスターの回収が間に合いませんね。私のおしゃべりのせいもありますのでお手伝いしますよ。」
「お願いします。それとあとでもう少しお話良いですか?神剣と神魔についても聞いてみたくて。」
「ああ、あれは本当に別格です。魔神2人がかりでも勝てない相手ですよ。その能力はですね…」
それからもルシュール辺境伯の話は止まらなかった。ただ、魔法でモンスターの死骸を回収してくれたのでなんとか全部集めきることができた。少し遅れたようだが、再び馬車は出発し、目的地へと向かう。
その馬車の中で、ルシュール辺境伯の話は止まらなかった。結構なおしゃべり好きらしい。だけどかなり有益な情報が手に入っている。その情報を持ってこの世界での俺の立ち位置を確立していこう。
応援ありがとうございます!
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