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第45話 旅立ち

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「本当に長い間、お世話になりました。」

 別れの日、早朝から出発ということなので本当にまだ日も昇ったばかりだ。なのに多くの馬車が屋敷の前に並んでいた。今日で集まっていた全ての貴族たちがそれぞれの領地に帰る。アンドリュー子爵も自身の領地に帰るので、準備をしている。

 ただ他の貴族たちと比べると護衛が心もとないので数人の冒険者を雇っている。ここにいる貴族の中で、アンドリュー子爵だけが戦うことのできる貴族ではないのだ。というか他の貴族の人たちが強すぎるだけな気がするけどな。

「うぅ…先生と道中を共にしたいところですが、ルシュール領と私の領地は真逆の方向。残念ですがここでお別れです。」

「よかったなミチナガ。ルシュールと一緒なら大抵のことでは心配はないぞ。またいつか会おう。」

「はい。それにしてもファルードン伯爵。本当に良かったのですか?こんなにもらってしまって。」

「いちいち気にするな。理由はできたし、うちの倉庫が少し空いて助かるくらいだ。」

 実は昨夜のパーティの時に、ファルードン伯爵が全員にお土産として俺が預かっていた妖精喰いを渡してほしいと言われたのだ。

 もちろん俺が釣ったものもあるが、自分たちで釣ったものもあるので問題はない。というか俺が預かっていただけだしな。しかしファルードン伯爵はなぜか妖精喰いを買い取るといったのだ。

 別に金など必要なかったのだが、俺の今までの報酬も合わせた分だと言って、なんと流通制限金貨40万枚も払ってくれたのだ。さすがに悪い気がして断ったのだが、どうせあっても邪魔なので受け取れと決して譲らなかった。

 まあ俺としても一度は断ったが、本当は喉から手が出るほど欲しいのも確かだ。流通制限金貨を使うことによる国への報告も、妖精喰いを買った代金だと言えば十分に通るらしい。しかし妖精喰いが、そんなに高価なものだとは全く思えない。だってポチたちに針を持たせれば楽に釣れる。

 まあ、もしも本当に高価なものなら何か良い取引の時にでも使おう。あ、冒険者の人にタダであげたけど失敗だったかな。まあいいか。いくらでもまだあるし。

「それではファルードン、久しぶりにあなたたちと会えて楽しかったですよ。それではミチナガくん行きましょうか。」

「わかりました。それではまたいつの日か会いましょう。」

「ええ、先生。さようなら。」

「そうだ。ボランティさん、今まで守ってくれてありがとうございました。次は守られないように頑張ってみます。」

「はい、だけど無理はしないでください。あなたは私の恩人なのですから。また必ず会いましょう。」

 このままいるといつまでも別れを惜しんでしまうので、無理やり気味に出発した。この街に来た時とは真逆の方向だ。危険な道のりになりそうな気はするが、ルシュール辺境伯がいれば全く問題ないだろう。

 最後に中央の城の写真を撮っておく。城なんて俺には縁のあるものでは全くないのだが、あの城の写真を見返せばこの街のことを思い出すだろう。そういえば城もあって、ルシュール辺境伯が国王にも合うとか言っていた。つまりここはこの周辺の領土の中央国とでもいうのだろうか。

 そういえば全くこの国のこと調べてなかったな。全く興味もなかったので調べようとも思わなかった。つい気になってこの国のことをルシュール辺境伯に聞いてみると、唖然としていた。まさか自分がいた国がどういう国か全く知らなかったとは思いもしなかったのだろう。

「ま、まあ異世界人の中にはそういう人もいたような…。まあ気にしないでおきましょう。この国は周辺を取りまとめる8大国の一つです。私の領地とは逆の方向、つまりアンドリューの領地の奥にリューン王国があります。そのリューン王国を取り囲むように8つの国が存在するのです。」

「それってつまり…物凄い大国の一つに俺はいるってことですか?」

「…そうですよ。魔帝の数も20以上はいる国家です。小さな生国では魔王クラスが一人いるくらいですから。まあ魔神を保有する国家と比べるとまだまだ弱小国ですけどね。」

 魔帝が20人以上…つまりルシュール辺境伯クラスが20人もいるのか。それって最強に思えるけど、魔神がいる国と比べると弱小国になるのか。魔神ってどんだけ強いんだよ。

「魔神は基本的に100人以上の魔帝を保有しています。それが国家に帰属しているのですから戦争すら起こす気になれませんよ。かの神龍の国は魔帝が500人はいます。魔王クラスに至っては1万以上です。無敵の軍隊ですよ。」

「それってもう世界征服できるんじゃ…じゃあ前に言っていた神魔と神剣もすごいんですか?」

「前にも言いましたがあれは別格です。基本的にあの二人には配下がいません。しかし一度暴れ出せば魔帝クラスなど塵芥も同然。同じ魔神でも10分以上持つものが何人いることやら…」

 化け物の中の化け物ってことか。そいつらが悪人じゃなくて良かったとだけ思っておこう。そんなのが暴れ出したら本当に世界が終わるな。

「しかしそんなに強い魔神って今までもずっといたんですよね?世界を滅ぼそう…みたいな危険な奴っていなかったんですか?」

「いましたよ。しかしそういう奴は他の魔神が手を組んで潰しました。さすがに一人の魔神が数人の魔神にはかないませんから。」

 そこらへんは協定がしっかり持たれているのか。強い奴らには強い奴らのルールがあるってことだな。まあそうでもなくちゃこの世界はひどいことになっている。

「だけど別格の魔神が暴れたことはないんですか?別格の魔神が暴れれば他の魔神でもそうそう手出しできないような。」

「そんなホイホイ別格の魔神はいませんよ。歴史上でも数えられるほどです。例えば初代神魔ですかね。初代神魔はこの世の魔法体系を作り出したと言われています。彼の生み出した魔法は数万にも及びますからね。そういったある種の到達点にいる者は、その道をさらに極めようとするので世界征服なんてものには興味すら抱かないんですよ。」

 そういうものか。まあ所詮世界征服なんて凡人の抱く夢なのかもしれないな。本当の天才はもっと違う視点を持っているのかもしれない。

「さて、そんな話よりも私の領地に来てからのことを考えましょう。すぐに英雄の国に向かうのも良いですが、少しは私の領地で観光していくでしょう?うちの領地は私がエルフということもあって、作物には力を入れているんですよ。他の貴族がわざわざ食べに来るくらい美味しいんですよ。」

「それは気になりますね。私も商人としてそういった食材はすべて見て行きたいです。多少長居することになってもよろしいですか?」

「構いませんよ。しかしいいですか?私の領地は食に関してはうるさいです。商売の心配をしたほうがいいかもしれませんよ。」
 確かにそうかもしれない。そこまでの作物があるのならば、ルシュール領では俺の作物はすべて売れないと考えてもいい。残るは魚か肉だが、作物に力を入れているのにそこは抜けているなんてことはそうそうないだろう。これは何か策を考えなくてはいけないな。

 何か製品を売るか?今の俺には鍛治と木工がある。それを使って何かいいものを作る…。いや、材料が足りなくなる。今の俺の鉄や木の資源は女神ちゃんガチャで出た分だけだ。それも今後、新しく入った使い魔達に使うことになるかもしれない。

 手持ちの金貨はほとんどが流通制限金貨なので、まともに買い物もできない。やばい、結構積みかもしれない。

「な、何かありませんかね?いや、むしろ何かないものはないですか?人々が欲しがっているものなんかは…」

「ん~…ないですね。うちの領地は食料も十分にありますし、何か敵が来ても私と配下の兵がいますからね。よく言われるんです。うちの領地は新規の商人泣かせだって。むしろうちの領地で買い付けをして他の領地に売りにいくことはよくありますよ。」

「…それって俺、もうダメじゃないですか?」

「…頑張ってください。」

 やばい、新しい領地に行くワクワク感よりも自身の今後の方が心配で不安になって来た。どうしよう、何か手立てはないか?

 何か金になる仕事…やばい。ルシュール領…行きたくなくなって来た…

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