スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第82話 偽王カイ

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 目の前に城が見える。本当に目の前だ。城門ですら目の前にある。門の前にはいつものように群がる美女たち。そしてそれを遮る門兵。俺はその美女たちをかき分け、門兵のところまで行く。

「何者だ。ここは国王カイ様の城だぞ。」

「き、緊急の用件があり、参上しました。これを拝見してください。」

 俺は胸ポケットから手紙を…手紙がない。あれ?手紙はどこ?手紙、手紙は…内ポケットだ。やばい、超緊張して汗が止まらない。またお腹が痛くなって来た。

「具合が悪そうだな。む?その手紙は!とりあえずこっちに来い。」

 そう言われて無理やり腕を引かれながら城内へ入る。すぐに手紙の真偽を調べているのだろう。しかしそれは本物だ。すぐに封を解かれ内容を確認する。

「だいたいは理解した。細かいことは国王様へ直接申し立てるように書かれている。すぐに来い。今の時間ならちょうど空いておられるはずだ。」

 あの村長グッジョブ。手紙の内容確認していなかったけど、ちゃんと国王に会えるように書いておいたんだな。これで第1段階完了だ。

 兵士に案内され、城内を案内されるがまま進む。内部の作りはしっかりしたものだ。それに警備体制も至る所に兵士が配置されており完璧だ。これでは侵入は難しいだろう。どうやら日頃から暗殺に対する警戒は強いようだ。

 作戦を考えている時に案としてやはり暗殺しようと考えた時がある。しかしこれを見る限りでは暗殺を決行しようとせずに良かった。きっと城に侵入しただけであっさりと捕まってしまうだろう。なんせその暗殺役は洗脳が効かない俺だからな。こっそり行くのなんて無理!

 俺は兵士に案内されながら頭を低くし、へこへこと頭を下げながら進んで行く。揉み手もしながらだと余計媚びへつらっているように見えるだろう。

 しかしこれも作戦の一つでちゃんと意味がある。まあ媚びへつらう演技も含まれているのだが、最も大事なのは手だ。ルシュール辺境伯から買ったこの洗脳から身を守る抗魔の指輪を何度も細かく着け外しをしているのだ。

 もしもの時のことを考え、この指輪が外れても俺自身が耐えられるように短い間に訓練をしておく。正直、指輪を外しても嫌な感じがするだけで特にこれといって洗脳されそうになる感じはしない。外しっぱなしでもよいが、気がつかないうちに洗脳されるかもしれないので念のためだ。

 この道を進めば進むほど洗脳の効果は強くなり嫌な感じは増していく。ここまでくるとこの洗脳を防ぐ抗魔の指輪つけて来てよかったかもしれないな。つけてこなかったらこの嫌な感じで気分が悪くなり、その感情が顔にでるかもしれない。

 あくまで今俺は国民みんなに愛されている国王カイに出会えると言うことで喜ばなければいけない。本来はそういう風に洗脳されているのだから。だから表情は明るくにこやかに、そして嬉しそうにしなければならない。うん、いろんな意味で吐き気がこみ上げて来た。お腹も痛い…トイレ行きたい…

 そして案内されたのは巨大な扉の前。この先に国王が鎮座する玉座の間がある。今も抗魔の指輪を試しに外してみるが、嫌な感じがさらに強まっただけで洗脳されるような気配はない。これならきっと大丈夫だ。中で多少のやりとりが行われたのち、兵士の声とともに扉が開く。

 そこは玉座の間というだけあって豪華絢爛だ。兵士に美女たちが並んでいる。その誰もが洗脳により無理やり作らされた笑顔で立っている。真実を知っていればなんとも不気味な場所だ。

 兵士に連れられて歩いていく。俺の先には国王カイが鎮座していた。年はまだ若い。中学生やそこらだろう。一目でよくわかるほど調子に乗っているガキだ。嫌にニヤついた笑みがこちらの神経を逆なでする。しかし俺は決してこの笑顔を崩してはならない。決して俺の、俺たちの思惑を察しされてはいけないのだ。

 俺は案内された先で跪いて頭をさげる。緊張感がマックスだ。腹の痛みも吐き気も最高潮だ。しかしこれからが本番だ。なんとか頭をリセットさせて、これからの会話の内容を思い出す。大丈夫、ミミアンたちとのリハーサル通りやればきっとうまくいく。

「よく来たな。面をあげよ。俺がこの国の国王のカイ様だ。」

 ゆっくりと顔を上げる。もう何から何まで腹立たしい。そこで足を組むんじゃねぇ。威厳も何もあったもんじゃねぇな。今すぐにぶん殴りたい。このクソガキが。しかしそんなことを思っても決して表情は変えずに笑顔、歓喜の表情のままだ。

 カイの隣には二人の女性がいる。これもすでに情報を確認済みだ。彼女たちはこの国が保有する魔王クラスの騎士だ。護衛としては最高だろう。この国には5人の魔王クラスがおり、そのうちの3人は男ということだったが、ここにはいないようだ。

 これも考察済みで、魔王クラスの洗脳は魔力の保有量が桁違いなのでとても難しい。だから彼女たち二人はじっくりと時間をかけて徹底的に洗脳されたのだろう。そして魔王クラスの男の方は興味がないのでおそらく牢獄に閉じ込めてある。

「それで…確か俺様が保護した村人以外にも他に村があるという話だったか?そしてそこがまずい状況だということだったな。……ああ、発言を許可する。ったくめんどくさいな。これ言わなくても勝手に喋っていいぞ。なんせ俺様は偉大で寛大だからな。」

「まあカイ様はお優しい。このようなものにも自由を与えるとは。」

「本当にカイ様は素敵なお方です。」

 両隣に控えている魔王クラスの女性二人がうっとりとした表情でカイに話しかける。その表情は他の洗脳を受けているものたちとは違うように思えた。おそらく洗脳のかかっているレベルの桁が違うのだろう。それこそ元の精神がおかしくなるほどに。

「私のようなものの発言を許可していただき、ありがとうございます。実は森奥の村の周辺に盗賊が現れたのです。その盗賊は人攫いを専門としているようで何人もの女性が囚われているのです。」

「森奥の村ね、俺はそんなのは知らないぞ。それに人攫いの盗賊?なんか胡散臭いな。」

「森奥の村は魔虫の大量発生からこの国を守る役割の村です。すでに魔虫の大量発生が起き、その討伐も完了しましたが、食料が底をつき何人もの餓死者が出ています。」

 まるで何も知らなかったようで、宰相を呼んで事実確認をしている。宰相と呼ばれている男はすらりとしたイケメンだ。そのたたずまいはこっちが国王と言われてもなんら違和感のないほど威厳あるものだった。

「なるほどな。確かに事実らしい。じゃあその村人を助けて、盗賊を退治すればいいんだろ。じゃあ誰かにやらせよう。それで村には一体どれだけの人間がいるんだ?それによっても兵士の数と馬の数は変わるからな。」

「20人ほどです。全員若い女性です。私の方から食料を多少分けましたが、微量ですので急がないとまずいでしょう。」

「全員若い女?なんだかお前の話には女ばかり出てくるな。なんか怪しいぞ?だけど俺の魔法は効いているはずだしな……そうなっている理由を説明しろ。」

「はい、村の生き残りが若い女性だけというのは、まず老人たちは若い者を生きながらえさせようと自ら食事を絶ちました。そして男たちはこの国へ救援を呼ぼうとした際に盗賊に襲われ、死んでしまいました。盗賊たちにとって女は良い商品です。だから女は殺さずに村で管理して買い手がつき次第拐って売ってしまうのです。」

 これも台本通りだ。カイは無類の女好きだ。年寄りが生き残っているなんて言われても助ける気が起きない可能性がある。しかし女ならば率先して助けに行くだろう。

「まあ、なんて酷いことを。カイ様、ぜひお助けになられて。」

「ああ、そうだな。今の話は嘘がなさそうだ。ぜひ助けに行こう。村の若い女に盗賊に捕まった女、奴隷女か…いいねぇ。」

 カイは舌なめずりをする。その表情は人間をただの道具、おもちゃのようにしか思っていない下卑たものがあった。流石の俺も気持ち悪さで鳥肌が立ち、表情が崩れかけたがなんとか必死にこらえた。

「じゃあ兵士を1000人送ってその盗賊どもを討伐して、女たちを助けるか。じゃあ早速準備を…」

「お待ちになってください、カイ国王陛下。1000人もの人数を送っては盗賊たちに感づかれ逃げられてしまいます。ここは少数精鋭でお願いします。」

「あ?この俺に意見を言うだと?何様のつもりだお前。……だけどまあお前の言うことは一理ある。仕方ないからこの件が終わったら牢屋に1週間で済ませてやる。じゃあ精鋭を50人送る。それでいいな。」

 よかった、まさか1000人も兵士を送られたらたまったもんじゃない。まあこの可能性も考えて盗賊という下手に大勢で行けば逃げられるという結論に至るようにしたんだけどな。というか今のだけで1週間の牢屋行きって…こいつマジで頭おかしい。

「じゃあこれで話は終わりだな。お前には兵士たちの道案内をしてもらう。いいな。ではこれで終わ…」

「陛下は出られないのですか?」

「何?なんで俺がわざわざ行かないといけない。そんな面倒なことをする気は無い。」

「しかし精鋭といえば陛下のそばに使えるお二人のようなこと。つまり陛下の身の回りを警護する人間こそが精鋭です。その精鋭を出動させるためには陛下にもお出になっていただかねば…」

「なん度も言わせるな!俺はそんな面倒なことをする気は無い。精鋭といっても城から出ても問題ないレベルの精鋭だ。この俺様になん度も意見してんじゃねぇ!」

 かなりイラついている。しかしカイに城から出てもらわないと困るのだ。そうでなければ計画の前段階が完了しない。ここからはおだて作戦だ。

「申し訳ありません陛下。しかし私は陛下の現状では物足りないと思うのです。ここから遥か先にある英雄の国、その国の国王は勇者王と呼ばれる英雄の王です。しかし私は思うのです!陛下こそが英雄の王、英雄王たる器であると!」

「俺が…英雄の王……英雄王…それはいいな。話を聞かせろ。」

「はい。すでに陛下はその素晴らしきお知恵を持ってこの国を素晴らしい方向へ変えております。しかし英雄と呼ばれるにはその武力を示す必要もあるのです。武力は己の力だけではなく、兵の力、そしてその兵を束ね導く力が必要なのです!陛下にはすでにその力が備わっておられると思います。あとはそれを民に示せば良いだけ。此度の盗賊はそれなりに名うての盗賊のようです。陛下の覇道の足がかりにはちょうど良いかと思います。」

「なるほど…それはいいな。すごくいいぞ。やっとらしくなってきたじゃないか。内政チートはもう済んだ頃だし、そろそろ俺つええの時間だろ。兵を動かして戦う…武力チートか。俺ならできるぞ。強い奴らをみんな洗脳して兵力を高めて…きたぞ…これはきたぞ!」

 カイはその場で勢いよく立ち上がる。その顔は無駄な自信に満ち溢れ、血気盛んといったところだ。どうやらうまく乗ってくれたらしい。やりやすいバカでよかった。

「2日後!2日後に俺は自ら兵を出して盗賊を打ち倒し!村人たちを助けるぞ!ついてこい!」

「「「おおおお!」」」

 歓声が上がる。しかしその歓声も洗脳によるもののため、俺にはどこか機械的に聞こえた。しかしそんなことよりもこれで俺の任務は完了だ。無事に済んで何よりだ。その時宰相がどこからか現れ、カイに耳打ちをする。すると宰相は俺の元へやってきた。

「珍しい指輪をつけていますね。カイ国王陛下がそれを見てみたいとのことです。渡してくれますね?」

「え、ええ……」

 俺は震えそうになる声を必死にこらえ、指輪を外して手渡す。宰相が指輪を受け取った。その瞬間突如カイから溢れ出た何かが俺の中に駆け巡り、俺は指一本うごかせなくなった。

 どうやら俺は洗脳されたようだ。

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