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第83話 洗脳
しおりを挟む「それが俺の洗脳から身を守る指輪か。宰相、お前がいうからせっかく盛り上がっていたのにわざわざ洗脳したんだぞ。まあ俺様も若干怪しいとは思っていたけどな。」
動けない。直立姿勢を無理やり取らされているが、全く抵抗できる気配がない。必死にもがいているが、何一つできることがない。本当に完全に洗脳されたようだ。意識ははっきりしているが、まるで夢でもみているような気分になる。視覚も聴覚も問題ないというのが気持ち悪い。
「さて、お前に聞こう。お前の仕事はなんだ?答えろ。」
「…商店を経営しています。ミチナガ商店と言います。」
やばい、俺の意思とは関係なく話し出した。これほど不気味なことはない。意識はあるのに体の自由はきかないというのはこれほどに気持ちの悪いものなのか。この国中の人間はこんな気持ちを味わっているのか。なんとか少しでも動けないか。
「お前はなぜここにきた。答えろ。」
「旅の途中で食糧不足に陥っている村を見つけました。本来国から来るはずの食料が届かなくて困っていたので食料を渡し、なぜ食料が届かないか王へと直訴するために来ました。」
「どうやら嘘はついていなかったようだな。」
まずい、本当にまずいぞ。このままじゃあ計画のことも話してしまう。体を必死に動かしていると足の指先が動くようになってきた。どうやら少しずつだが洗脳の効果も薄れているようだ。
この洗脳能力についてもある程度考察してある。カイの洗脳はカイの魔力を相手の体内に潜入させて発動するもの。一般人なら自身の魔力とカイの魔力が混ざり合ってしまい、一度洗脳されるとなかなか抜け出せないのだ。
しかし俺の場合、もともと魔力がないため魔力を体内に保持すること自体が難しく、仮に強い洗脳にかかっても時間とともに魔力が抜けて洗脳が解かれると考察された。どうやらその考察は正しく、こうして少しずつ動けるようになって来た。
しかし動けるようになるまでまだまだ時間がかかりそうだ。その間にまずいことを話さなければ良いのだが…
「では盗賊が多くの女を攫ったという話は本当か。答えろ。」
「いいえ、嘘です。」
明らかにカイの表情が変化した。まずい。俺が嘘をついていたことがバレた。カイはその場で表情を変え、大声で笑い始める。洗脳が効いていなかったことに対するイラつきからだろうか、それともいいようにしてやられたことに対する怒りだろうか。その表情は険しくなっている。
「よくこの俺様を騙してくれたな。この俺を騙せて嬉しかっただろうな。お前は死刑にしてやる。だがその前になぜ嘘をついたか理由を答えてもらおうか。さあ!答えろ!」
「………」
終わった。確実にそう思ったのだが、予想外なことに俺は何も話さない。俺が必死に話さないようにこらえようとしているのはおそらく関係ないはずだ。しかしなぜ話さないのだろう。
「ッチ…話さないか。この能力の悪い点は大雑把にやったり、相手の答えが多い場合は話さないことだな。もっと具体的にするか。」
カイはブツブツ言いながら何を聞くか考えている。洗脳が解けるはずがないという自信からだろう。時間をかけながらゆっくりと考えている。実に好都合だ。
今の質問に答えなかったのは今の質問の答えがカイを城からおびき出すため、仲間たちと決めたことだから、カイを殺すためなどの理由がある。しかしこんなものはまとめてしまえば一つだろう。一番の要因は作戦時にカイに嘘を見抜かれた時に嘘ではない建前を用意しておいたことだ。
それは人々を助ける。その人々は食料が送られない村の人々と洗脳を受けている人々がいる。その人々を助けるためにカイをこの国から出すというのはどちらも嘘ではない。カイがこの国から消えればこの国の洗脳されている人々は助かるし、救助に向かった村も助かる。
とってつけたような理由だが事実であるし、下手に喋っても人々を助けるためだと言えば村の方だと勘違いしてくれるだろう。一応考えてきた案が、こんな形で役立ってくれるとは思いもしなかった。
さらにこの時間の間に手の指先、膝から下の部分が動くようになって来た。もう少し頑張れば意識も元どおりになりそうだ。しかし洗脳は脳に作用する能力。頭から離れた場所の洗脳は解けやすい。まだ手足などの末端が元に戻っただけだ。意識が戻るためにはもう少し時間がかかる。
「よし、じゃあ質問だ。盗賊はいるのか。」
「はい、います。」
これはサービス問題だ。盗賊はいる。俺自身がメリリドさんたち冒険者を雇って盗賊として配置しているからだ。よかった。この時間の間に下半身までは動くようになって来た。あともう2~3問こんな調子の質問が続けば洗脳は解ける。そうすれば洗脳されているフリをしながらうまくごまかせば良いだけだ。
カイは再び頭をひねりながら俺への質問を考える。そして次の質問を考えついたようだ。
「盗賊が多くの女を攫ったという話は嘘だったな。なぜそんな嘘をついた。」
あ、これはまずい。この答えは複数存在しない。その答えはお前が女好きでそう言えばホイホイ城から出てくると思ったからだ。しかしそんなことを言ったらなぜ城から連れ出そうとしたと聞かれて、計画のすべてが露呈する。
「さあ、答えろ。」
まずい、本当にまずい。まだ洗脳が解けているのは下半身くらいだ。このまま走って逃げる?だめだ、逃げ切れるはずがない。仮に逃げられたとしてもカイはもう城から出てこないだろう。どうする、どうする!
「それは…」
どうする、あと少しで洗脳が解けそうな気はするんだ。しかしそのあと少しが足りない。例えば殴られるような衝撃があれば解けそうな気がする。気が動転するような出来事さえあれば。気持ち悪かったから無理やり吐く?無理だ、上半身の自由はまだ効かない。
何か、何か方法がきっとある。思い出せ、何かミミアン達と話し合った中で何かなかったか。ああもう、腹が痛くなって来た。もうこの腹痛は緊張じゃなくてストレスのせいだよ。ストレスで腹が痛いわ!腹…腹かぁ…そうかぁ……
「それはなんだ?早く答えろ。」
俺は覚悟を決め、勢いよくリキんでから答える。
「それは拐われたのが私の妻だからです。拐われたのは私の妻一人だけです。しかしそんな私用のために陛下に頼むのは間違っています。しかしなぜかこの国の冒険者ギルドでは断られました。だからなんとしてでも陛下に頼もうと思ったのです。」
「なるほどな。そんな指輪一つで俺様の洗脳に争った理由はそれか。これが愛の力ってやつか。バカみたいな話だが本当にこんなことがあるなんてな。」
「お願いします。どうか妻を救ってください。奴らは私の妻をさらいましたが、きっとそれだけではありません。きっと他にも拐われた方がいるはずです。お願いします。」
俺は目から涙を流しながら必死に訴える。その涙は嘘泣きではない。本当の涙だ。さすがのカイもこれには驚いたようで困惑している。
「わ、わかった。必ず助けてやる。……まさか感情一つでここまで俺の洗脳に異常をもたらすなんて……それではお前はそこまでの道案内を頼むぞ。出発は2日後だ。それまで城の一室に泊めてやる。それでは下がれ。」
これにて謁見は終わった。俺は特別待遇ということで城のそれなりに良い部屋に案内された。俺のことを部屋まで案内して来た兵士はしかめっ面で戻っていく。
「ふう……なんとか乗り切ったな。さてと。」
ここはまだ城の中だ。監視されている可能性もあるため、下手な動きを見せれば怪しまれるかもしれない。なのでスマホを使うのは基本的に誰の目にもつかないようにこっそりとやる。割とそういうのは得意なのでそれなりにゆっくりできそうだな。
とりあえず風呂場に行こう。まず最初にやることがあるからな。この疲れを一気に洗い流そう。服の洗濯は使い魔達に任せれば良いだろう。服を丸々箱の中にスマホと一緒にしまって洗濯させておけば見られないはずだ。そう思いこっそりとポケットの中でスマホを操作する。
ミチナガ『“服の洗濯を頼んだぞ。着替えは怪しまれないようにこの部屋に備え付けのを使う。”』
ポチ『“わかったよ。だけどズボンとパンツは自分で洗ってね。結構臭っているみたいだから。”』
ミチナガ『“……わかった。”』
まさか自分で洗うことになるとは。それにしてもいい年こいて大勢の前で漏らすことになるとは思いもよらなかった……。まあそのおかげで洗脳も解けたんだけど。だけどあまりに情けなくて本気で涙が出てくるとは思いもしなかった…
今回の成功の代償がまさか一人、風呂場でパンツとズボンを洗うことになるなんて……絶対にあのカイの野郎許さねぇからな。
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