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第161話 魔導装甲車の実力

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「なあ、この調子なら何日くらいで着きそうだ?」

「この速度なら…馬車の5倍…後5日もあれば着くかもな。」

 ウィッシは得た情報から簡単に日数を算出した。まあ馬車を時速10キロくらいで考えればそのくらいなのかもな。現在魔導装甲車の速度は平均60キロだ。本当は100キロくらい出したいのだが、路面の状態が良くない。

 それにまだこの魔導装甲車の連続使用を実験していないので、もしかしたら100キロ巡行ではエンジンがダメになるかもしれない。だから60キロ制限で2時間ごとに簡単な点検を行なっている。現状では特に問題がないので明日にはもう少し速度を上げるかもしれない。

 そしてマック達はこんな魔導装甲車によって守られているのでダラけた状態だ。まあこんな移動する要塞のような魔導装甲車に乗っているのに危険はないか張り詰めているのはおかしい。一応ケックが魔導装甲車の上部から顔を覗かせて周囲の偵察をしている。あそこは風が気持ちよくていいんだよな。

 もう出発して3日経つが今の所なんの問題もない。実に安全で快適な旅だ。ユグドラシル国のミチナガ商会の情報も上がっているが、かなり順調らしい。毎日客足が伸びているので、商品の補充が大変だと言うことだ。

『ポチ・そろそろ休憩するよ~マック達はよろしくね~。』

「お、もう2時間経ったか。じゃあ一度降りて身体伸ばすぞ。マック達は周辺警戒よろしく、俺はお茶の準備しておく。」

「おう、しっかし…楽な仕事だな。おい、坊主。起きな。」

 マックに揺さぶられマクベスは起きた。マクベスはこの魔導装甲車になれていないのか車酔いしてしまい、かなり疲れた様子だ。まあ初日から比べれば大分調子は良さそうにも見える。その調子で慣れてもらわないと今後も大変だ。

 ちょうど良い空き地に魔導装甲車を止めるとそこからの行動は早い。マック達が勢いよく飛び出して周辺の安全確認をする。とりあえず5分ほど安全確認が終わるまで俺とマクベスは車内で待機だ。問題ないことが判明すると俺たちも降りて思いっきり背伸びをする。

 すでにメンテとアルケはメンテナンスを開始している。まあ毎回駆動部分の確認だけで済んでいるので休憩時間は20分ほどだ。俺はテーブルとお茶を準備する。椅子に座ってゆっくりしても良いのだが、車内で座りっぱなしなので降りたときくらいは立っていたい。

「周辺の安全確認終了だ。しっかし…雪解け後なのにモンスターが少ないな……」

「普通は多いのか?」

「ああ、食料を求めてモンスター達が周辺を動き回る。冬眠から覚めたモンスターも多いからな。」

 冬眠後のモンスターは腹も減っていて気性が荒いとのことだ。もちろん冬眠しないモンスターもいる。そういったモンスターは今の時期は割とおとなしいらしい。なんでも冬眠後のモンスターと鉢合わせないためだとか言われている。

 それから魔導装甲車の点検も終わり、なんの問題もないことが判明すると再び出発する。そして再び出発してから1時間ほど経った頃だろうか。周辺を警戒していたケックから停止指示が出た。

「この先にゴブリンの群れっす。10~15体くらいっすかね。道路上にいるっすからやり過ごすっすか?」

『ポチ・そのくらいなら大丈夫。任せといて。あ、ウィッシ、そこの持ち手を持って魔力込めて。』

「これか?」

「おい、ポチ何をする気だ?」

 まあ観ておいてと言うことなのでポチに任せる。するとポチは再び出発し、ゴブリン達を視認できる距離まで来るとさらに速度をあげた。俺はこの状況にもしかして、と思うとさらにポチは何やら操作している。

『ポチ・敵はゴブリンだけだね。じゃあスイッチオン!』

 ポチがスイッチを押すと魔導装甲車の前面から巨大な刃物が飛び出した。その刃物はこの車両の横幅よりも広い。ゴブリン達はさすがに危険を察知して逃げようとするが遅い。ポチの操縦する魔導装甲車はゴブリンの群れに突っ込んだ。

 巨大な刃物はゴブリンを切りとばし、重量のある魔導装甲車はゴブリン達を弾き飛ばす。ほんの一瞬でゴブリン達は壊滅してしまった。そして何事もなかったようにそのまま走り去って行く。

『ポチ・討伐完了!どうだった?あ、運転席は見ないほうがいいよ。すごいから。』

「エグいわ!」

 絶対に運転席は見ない。一応今、急いで水を放出して移動しながら車体を綺麗にしている。時折ボトボトと聞こえて来るのは気のせいだと信じよう。しかし俺の知らないそんな特殊兵装があったとは。まだ多分何か隠しているぞ、きっとな。

 しかしなるほど、さっきウィッシに魔力を込めさせたのは武器に魔力を供給させるためだな?ウィッシの魔力を使って武器の切れ味をアップさせたんだ。それに車両自体を強化したな。本格的にマック達のやることがなくなったかもしれない。

 そんなことを思いながら移動していると再び警戒していたケックから停車命令が出た。ポチがまた突っ込むかと思ったが、今度はダメらしい。

「B級のファングボアっす。あれにぶつかったらやばいっすよ。倒せないこともないっすけどここはやり過ごすのが無難っす。」

「B級じゃしょうがないな。じゃあ停車して待機しよう。ウィッシ、移動したら教えてくれ。」

 臨時の車内休憩ということになったのだが、いくら待ってもファングボアは動きもしないらしい。ちょっとここはケックとマックが降りて確認するとのことだ。一応俺の使い魔も連れて行かせた。どんなモンスターなのか気になるしな。



「…あれ……本当に寝てるっすか?」

「…寝て……なさそうだな。」

『名無し・ちょっと確認して来る!』

 ファングボアが道のど真ん中で寝ていると思っていたマックとケックだったが近づいてみるとなんだか様子がおかしいことに気がついた。しかし下手に近づいて起きてしまっては面倒だと思い手をこまねいていた。だから使い魔がここぞとばかりに活躍しようとファングボアに近づいていった。

『名無し・起きていますかー!…あれ?これおかしいよ。』

 ファングボアに近づいた使い魔であったが、様子のおかしいことに気がついた。外傷は見られないが全く動いていないのだ。それこそ心臓も。巨体ゆえにわからないだけかと思い、さらに調べていると何かが近づいてきたのを感じた使い魔は急いでファングボアの口の中に隠れた。

「お、おい…あれ…ゴブリンか?」

「ゴブリンにしてはでかくないっすか?ホブゴブとか…もっと別種?どちらにしてもわからないっす。」

 ファングボアの近くの茂みから現れたゴブリンはマック達の知らないタイプのゴブリンであった。さらにもう一体ゴブリンが現れるのを確認したマック達はファングボアを奇襲しにきたのかと思った。しかしゴブリンは片方がファングボアを担いで運んでいってしまった。

「嘘だろ…ファングボアの巨体をゴブリンが一体で運ぶ?もしかしてファングボアをやったのも…」

「い、いやいや…ファングボアっすよ?ゴブリンジェネラルでようやく倒せるくらいっすよ。それに外傷もないっす。…って使い魔!」

「とりあえず戻ろう。ミチナガは離れていても使い魔と連絡が取れたはずだ。」



「は?B級のモンスターをゴブリンが抱えていった?それにそのモンスターの口の中に使い魔が隠れていてって…」

「お前なら連絡取れるだろ。ちょっと確認してくれ。」

 マック達が言っていることが半信半疑であるのだが、まあ使い魔が帰ってこないのは本当なので連絡を取る。しかしなかなか連絡がつかない。もしかしたら死んでいるのではないかと思ったが、通知も来ていないし、復活中の使い魔はいない。

 とりあえずこのままここで待っていても仕方ない。再び魔導装甲車を出発させる。さらにマック達の情報から得たゴブリンの見た目を元に使い魔経由で冒険者ギルドなどを利用して調べる。しかし有力な情報は得られない。やはりまだ情報が少なすぎるのだ。

 そんなことでモヤモヤしたまま3日が経った。その頃、ようやく行方不明になっていた使い魔から連絡と数本の映像が届いた。急いで全員で映像を確認する。するとそこには運び去られた後の使い魔による映像が記録されていた。

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