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第236話 使い魔とエルフと精霊様と

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「くそ…なんで俺がこんな目に…」

『ギギー・まあどうしようもないでしょ。族長を語る偽称罪とか色々問題起こしているんだし。ほら、いつまでもそんな腑抜けた顔してないでシャキッとする!警備兵のお二人さん、問題は…まああるわけないよね。裏手の荷物運んでくれる?』

「「はっ!すぐにやります!」」

 西のエルフの国。この国でのミチナガ商会は現在常駐3人とパート数名で運営している。そして常駐している3人とは現族長の孫、トェークォトェーリとその取り巻き2人だ。この3人はミチナガに対し不敬を働いたということで罰として数十年間タダ働きが決められている。

 さすが長命種のエルフということあって期間がバカに長い。ミチナガ商会としてはさすがにそこまでタダ働きさせるのはかわいそうなので多少の給料と食事を提供している。警備兵の二人は心を入れ替えたように毎日きびきび働くのだが、トェークォトェーリだけは未だにブスッとしている。

 しかしそんなトェークォトェーリの表情がガラリと変わる時がある。それは毎日この店を見回りに来るシェリクが来た時だ。シェリクは族長達が復活したことによって溜まった雑務をこなしており、暇はないはずなのだがトェークォトェーリの見張りだけは毎日欠かさない。

「お邪魔します。あ!トェーク!またそんな顔して!店番なんだからもっと愛想よくしなさい!警備兵の二人はどうしたの!」

「また今日も来たのか。あいつらなら裏で別の仕事している。お前もいつもながらご苦労なこった。」

『ギギー・あ、シェリク。今日もいらっしゃい。毎日見張りご苦労様。あ、これ差し入れに持って行って。』

「ギギー様、いつもすみません。こちらとしてはそのろくでなしを押し付けてしまった形ですので、こちらの方が申し訳なく…あ、これ美味しいですよね。……ちゃんと買うのでもう一ついただけますか?」

『ギギー・いいよいいよ、そんな気にしなくて。あ、でもトェークの練習に付き合ってもらおうかな?サービスで半額にしてあげる。ほら、会計ちゃんとやってよ。』

「なんで俺がそんなことしなくちゃ…」

「ほら、ちゃんとやってよ。」

 トェークォトェーリは品物を受け取り、会計を行いお釣りを手渡す。なんとも不満そうなその表情だが、ギギーはもう随分慣れて来たのでその真意が手に取るようにわかる。今も商品を受け取り嬉しそうにしているシェリクの表情から目を離していない。

「それじゃあ私は仕事があるのでこれで……シェリク!ちゃんと仕事しなよ。」

「うるせーな。とっとと仕事に行け。」

 今も帰っていくシェリクのその後ろ姿を横目でずっと見ている。そして姿が見えなくなった頃にむすっとした表情で鼻息をもらす。しかしその鼻息はどこか満足げだ。そして裏で働いていた警備兵の二人が戻って来るとギギーはすぐに二人の元へ行く。

「裏の荷物運んできました。あれ?若様の表情がどこか満足げですね。あ、もしかしてシェリク様来ていました?」

『ギギー・当たり当たり。今日も熱のこもった視線でずっと追っていたよ。やぁ~ねぇ~そんな目で見るならもっと優しくすればいいのに。』

「若様は素直に慣れないんですよ。子供の頃に一目惚れしたのにあの頃から一個も進展ないんですから。本当に不器用なんですよ。」

「だ!誰がだ!お、お前らそんな話を外でするな!う、嘘だとしても信じる奴が出て来たらどうするんだ!」

 明る様に動揺するトェークォトェーリ。実は子供の頃に初めてシェリクと出会い、その時に一目惚れしてそれから数十年間、片思いを続けている。もっと素直に慣ればよいというのに未だにちゃんと会話することができずにいる。

 こんな分かりやすそうなトェークォトェーリの恋心だが、意外にもこの事実を知るものはここにいる警備兵の二人しかいなかった。族長やシェリク自身もそうだが、恋に鈍い人しか周りにいなかったようだ。

 しかし最近では街で働くようになってこのトェークの恋心を知るものが増えて来た。今もエルフのおばあちゃんがやって来た。ミチナガ商会の常連客の一人で買い物ついでにおしゃべりして行く。

「ギギーちゃん。今日も元気ねぇ。あら、トェークの坊ちゃん、今日は嬉しそうじゃない。もうシェリクちゃんが来てくれたのねぇ。」

「く、くだらないことを言うなババア!ほら!お前の欲しいものはこれとこれだろ!さっさと買ってさっさと帰れ!」

「はいはい。いつもちゃんと覚えてくれてありがとうねぇ。今では少なくなったけどエルフにはトェークの坊ちゃんのように恋に不器用な人は多かったのよ。うちの人もそんな人でいつもぶっきらぼうでねぇ…だけど結婚記念日にはいつも私が好きな花が飾られているの。優しい人なのよぉ。」

「その話は何回も聞いた!いっつもその話をしてから帰るんだからもう聞き飽きたわ!」

「このお菓子もあの人が好きでねぇ。食べると結婚した頃のことを話し出すの。それで最後には照れて顔を赤くして…本当に可愛いのよぉ。」

「俺の話を…!!」

 その後もおばあちゃんのラブラブトークを1時間ほど聞かされた後に、おじいさんが寂しがるといけないからといって帰っていく。そしてその後、また別のおばあちゃんがやって来て似たような話をする。

 トェークォトェーリのように恋に不器用なエルフはその昔は多くいた。今ではその頃を客観的に見て反省した若いエルフ達が多いのでそんな人はほとんどいない。そのため、逆に昔の男っぽいトェークォトェーリは老人達に人気がある。

 そんな話をしていると外が次第に騒がしくなって来た。時間を確認したギギーはもうそんな時間なのかとトェークォトェーリに準備をさせる。そして数分待っているとその騒ぎの主はやって来た。

「ギギー・やっほーギーちゃん。今日もいつもので良いよね?」

『キュララララララララ!』

 西のエルフの国の守り神、精霊ギギラカール。使い魔達からは通称ギーちゃんで親しまれている。元々はミミズの形態をとっていた精霊で今はその形態が龍になった。その影響で自由に空を飛び回り、今では3日に1回ミチナガ商会にやって来てプリンやゼリーといった柔らかいものを食べていく。

 龍なのだから肉などが好きなのではと思ったのだが、元々がミミズなので消化器系が弱いらしい。固形物などは好まず柔らかいものを好む。ゼリーなどを一度にバケツ数配分しか食べないので食費には困らない。そしてギギラカールはゆっくりと食べながら使い魔のギギーとお喋りしていく。

『ギギー・それで今日も結局冷たく当たっちゃってさ。その分視線に熱を込めているの。男なんだからもっと強く行けばいいのにね。』

『キュララ…キュララララ。』

『ギギー・そうだよねぇ。それができたら苦労はしないよねぇ。ほら、トェークこっちおいで。』

「う、うぐ…そ、それは…ギギラカール様が…俺に力をくれなくて…俺が跡取りに認められないから…」

 トェークォトェーリがこじらせてしまった大きな原因。それは精霊ギギラカールに認められなかったと言う点だ。この西のエルフの国では自身が精霊から力を与えられ半精霊にならなければこの国の重鎮にはなれない。つまりトェークォトェーリは族長の孫でありながら時期族長には確実になれない。

 そしてシェリクは次の族長の妻となる予定だ。だから族長になれないトェークォトェーリではシェリクと結婚することはできない。叶いそうで叶わない悲恋、トェークォトェーリが抱く恋心というのはそういうものなのだ。しかし…

『キュララ…キュラ、キュラララララ。』

『ギギー・それはギーちゃんも悪かったって言っているじゃん。そもそもトェークの魔力の質的に大地系の精霊は合わないんだから。今トェークに合った水系の精霊探しているからもう少し待ってって。ギーちゃんだって知り合いに当たっているんだから。ただ魔力の質的に川や湖の精霊じゃなくて海の精霊しか合わない、魔力までこじらせた魔力なんだからそっちが悪いんだよ。』

「そ、それは俺に言われても……だ、だがな!俺ができなかったのになんで使い魔のお前がギギラカール様に弟子入りしてんだよ!ずるいだろ!」

『ギギー・そんなこと言われても仕方ないじゃん。食事代の代わりに弟子入りさせてもらっているんだから。それに僕だってまだ半精霊になれてないしまだまだなんだよ。ねぇギーちゃん。』

『キュラ!』

 さりげなく使い魔のギギーは精霊ギギラカールに弟子入りし、ギギラカールの精霊魔法を多少使えるようになっている。トェークォトェーリは自分にできないことを使い魔のギギーにさらりとやられたことを少し根に持っている。

『ギギー・まあ少し待ちなって。うちには精霊に弟子入りしている使い魔が他にも色々いるから。ドルイドさんに至っては精霊になっているし。その人たちが情報集めてくれているから。』

「…本当にお前らは使い魔か?精霊になる使い魔なんて聞いたことも見たこともないぞ。」

『ギギー・今聞いているし見ているじゃん。ねぇギーちゃん。』

『キュラ?』

『ギギー・え~~ギーちゃんまでそんなこと言うの?僕たちほど使い魔らしい使い魔はいないって。れっきとした使い魔だよ。』

 今日も精霊ギギラカールと仲良く話をする。そして十分に話し終えたところでギギラカールは再び球樹の元へ帰っていく。そしてギギラカールのいなくなった後にエルフ達はご利益を求めて大勢押し寄せてミチナガ商会で買い物をしていく。

 そんなのが3日に1回はあるのでミチナガ商会、西のエルフの国支店は今日も大儲けだ。

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