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第285話 使い魔と英雄の国と

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『ユウ・売~れ~な~い~~……』

『ヒロ・まあまあ…売れないって言っても黒字程度には売れていますし…ここはね?』

『ユウ・黒字って言ってもこのままじゃ初期投資分が取り返せるのは10年以上先になるよ。』

 英雄の国のミチナガ商会。そこでは今日も頭を抱えながら使い魔たちが必死に商売を続けていた。今、この英雄の国のミチナガ商会の売り上げはそこそこある。はっきり言って英雄の国の商会の中では中堅規模の商会まで成長している。

 しかしそれでは満足しない。満足できないのだ。この英雄の国で一山当てようと使い魔たちは初期投資として英雄の国の中でもかなり立地の良い場所の物件を購入した。今、この英雄の国で中堅商会まで成長できているのはこの場所どりのおかげでもあるだろう。

 しかしそのせいで初期投資に莫大な金銭を消耗した。さらに人件費も惜しまずにつぎ込んでいる。そのせいもあってなかなか大きな黒字を出せずに、初期投資の赤字を取り返すのに躍起になっているのだ。

 他の国のミチナガ商会はかなりの売り上げを出しているのにこの英雄の国ではそこそこ止まり。なぜ、英雄の国の店舗のみ売り上げが伸び悩んでいるのか。それはミチナガ商会の弱点のせいであった。

 ミチナガ商会はスマホを用いることでどの店舗でも輸送コストゼロで品質の良い多種多様なものを供給することができた。しかしここは英雄の国。交通網もしっかりとしており、多種多様なものがいくらでも供給される。

 つまりスマホを用いることで得られた多種多様な商品の取り扱いという強みがそこまで活かせないのだ。

 現状、英雄の国のミチナガ商会が存続しているのはオリジナルブランドの売り上げによるものだ。この売り上げが全体の7割から8割を占めている。つまり今後も売り上げを伸ばすのなら新たなる独自ブランドを生み出して売り出す他ないのだ。

『ユウ・今うちにあるのは服飾に化粧品ブランドくらい?』

『ヒロ・それからコーヒーですね。セキヤ国産のコーヒーとして少しずつ知られています。コーヒーの認知度が高まれば売り上げも伸びると…』

『ユウ・だけどその売り上げの大半はセキヤ国の発展のために使われるでしょ。うちに入る売り上げとしては微々たるものだよ。ブランド関係も結局売り上げは研究費として持って行かれるし。』

 使い魔たちの中では、セキヤ国で産出したものの売上金の6割はセキヤ国に渡すという取り決めがされている。ブランド品に関しても研究費に充てるため売上金の5割を渡す取り決めがされた。つまり意外と店舗の儲けは少ないのだ。

 なんとも面倒な取り決めをしたものだが、そんな取り決めがあってもミチナガ商会の他の店舗は十分な売り上げを誇っている。この英雄の国の店舗だけがうまくいっていないのだ。

 正直この英雄の国の世界貴族であり、セキヤ国の国王でもあるミチナガの店舗が英雄の国では中堅の店舗というのは正直いただけない。せめて10本の指に入る大商会になるくらいで行かないと今後他の商人に舐められる。

『ヒロ・そうなったら…新しいブランドの立ち上げします?けど今残っているのって食品系?もしくは武器系?』

『ユウ・食品系はシェフさんに頼らないとなぁ…武器系は難しいね。この英雄の国には良い武器が多すぎる。埋もれるだけだよ。こう…新しい何かを生み出さないと。』

『ヒロ・でも正直…僕らこの国に人脈ないから僕たちだけで新しいブランド作るの難しくない?良い人材いるわけでもないし…』

 現状では使い魔たちはこの国で何か新しい発想を秘めている、何かに情熱を持っているような人材を発見できてはいない。さらにこの英雄の国では土地も限られているため工場のようなものを作るのも難しい。正直この英雄の国の店舗では委託された商品を売ることしかできない。

 再びため息をついていると他の使い魔から連絡が入った。連絡をよこした主はヴァルドールの元に居るヨウだ。ヒロは何用かとスマホの中に戻る。

ヒロ『“どうしたの?連絡よこすなんて珍しい。”』

ヨウ『“実はね………ジャジャーン!ついに完成しました!ヴァルくんオリジナルキャラクターによる絵本とアニメとぬいぐるみ!アニメの方は今後映画館で上映していくつもりだけどこの絵本とかぬいぐるみはこっちで売って欲しいなって。”』

ヒロ『“ああ!ようやく完成したんだ。出荷できるくらいの数は揃っているの?”』

ヨウ『“多少はね。だけど全店舗っていうのは難しいからとりあえず英雄の国の1店舗だけで売り出してもらおうかなって。ヴァルくんも大きなところで売ってもらった方が喜ぶし。どっか1区画使って売ってもらえないかな?”』

ヒロ『“売れ行きの悪いところを削ればなんとでもなるけど…どうせならもっと色々グッズ作れば?ノートとかキーホルダーとか。そしたら大々的に売り出せるよ?”』

ヨウ『“う~~ん……こっちも人手が足りないんだよね。なんならそっちで作ってくれない?売り上げの7割持っていって良いからさ。”』

ヒロ『“やる!!!”』

 報酬の良さに釣られたヒロはすぐにグッズの作成に取り掛かる。なんせ作れば作った分だけこちらの儲けが増える。しかも作るものは比較的簡単だ。元々あるものに使い魔のコピーの能力を使ってデザインをペイントするだけ。キーホルダーもコピーの能力を駆使すればなんとでもなる。

 そして1ヶ月かけて完成したグッズの数々は店舗の1階の半分を埋め尽くすまで増えた。やりすぎな感じも否めないが、売り上げを少しでも伸ばそうと必死に頑張った使い魔たちを見ると何も言えない。

 そして売り出した当日のこと。常連客となった親が金持ちの冒険者の少女4人組が来店するや否や、ヒロはすぐに彼女たちをヴァルくんのオリジナルキャラグッズの場所へと案内した。

『ヒロ・ようやく販売まで至ったうちオリジナルのキャラクターグッズなんだけど是非とも見ていって欲しくて…』

「い、いや…私たちも、もう良い大人だし……今更ぬいぐるみや絵本で喜ぶのは……ねぇ?」

「え!いや…そ、そうだな!うん!私たちはもう大人だ!」

『ヒロ・……まあそう言わずに…子供から大人まで楽しめる絵本になっているからさ。是非とも読んでいってよ。読むだけで良いからさ。』

 どことなく勝機を感じたヒロは押しに押し捲る。そして紅茶とお菓子を提供することを条件になんとか試しに読んでくれるというところまでいくことに成功した。

「リッキーくんの冒険…あ、しかもこのリッキーくんシリーズものなんだ。ふ~~ん…ってうわ!書き込みすご!!この木の感じとかすごい…確かに子供向けよりかは大人向けかも。値段もそうだけど。」

「…リッキーくん可愛い……」

「…意外とこういうの好きよね。剣術道場の娘としてはどうなの?」

「か、可愛いものは可愛いでも良いじゃないか!」

 その後も読んでいくとそのままの流れで次の本、次の本と進んでいく。そして気がつけば今ある全ての絵本を読み終えてしまった。その読み終えた表情を見たヒロは勝利を確信した。

『ヒロ・そちらの絵本はそのまま購入も可能ですよ。それからリッキーくんのぬいぐるみもあそこに。そのお友達のぬいぐるみも隣にあります。』

「…じゃあちょっとだけ…」

「リ、リッキーくん…」

 そのまま絵本と数点のグッズを買い漁り、満足した表情で帰っていた。その後、彼女たちのグッズを見た女性や、たまたま訪れた女性客が買っていき、ちょっとした売り上げになった。しかし元々がそこまで高いものではないので、大きな売り上げには繋がらない。

 そんな売り上げが大きく変わったのは売り始めてから1ヶ月ほど経った頃にやってきた一人の客からだ。その客は男性で、なぜか息を切らしながら大急ぎでヴァルくんオリジナルキャラクターコーナーにある絵本を手に店員に詰め寄っていた。

 店員も何事かと慌てふためき、急いでヒロを呼んだ。店員では対処しきれないと即座に判断したのだろう。

『ヒロ・この店舗の店長代理です。どうかしましたか?』

「どうもこうもない!この絵柄はなんだ!」

『ヒロ・それは作家が書いたものですので私たちではどうにも…』

「ここの絵柄!これは200年前のバリスティア王国で用いられていたというものだ!ここは150年前のリスティリン王国に用いられていたもの!こことここは私にはわからんがおそらく古い技法だろう。ここに使われている絵の色は今では失われている特殊鉱物を混ぜ合わせた発色だ!この作者は!一体何者なのだ!!」

『ヒロ・えっと……極秘事項です………』

「ック!やはり話してはもらえんか。仕方ない……とりあえず今ある絵本全てくれ!いや待て……このぬいぐるみ……布の加工の仕方…それに縫い方も古い民族が使っていたものに似ているような……ええい!ここにある関連商品全て買っていくぞ!」

『ヒロ・毎度あり!』

 男は全ての商品を魔動車に乗せ、すぐに走り去る。男の向かった先は英雄の国の王城だ。男は全てのグッズを英雄の国の考古学研究所に運ぶとすぐに絵本を読み始める。絵本の隅から隅まで目を通していくと、あるページで動きが止まった。そして何度も狂ったように見返すとその場で暴れ始めた。

「なんでだ!なんでこんな子供向けの絵本で!私が研究している古代文字を解読しているんだ!私この古代文字の研究の第一人者なのに!クソォォ!!」

「しょ、所長…どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもあるか!見ろ、ここのページ!私が解読に躍起になっている文字を絵本の中で解読しているぞ!!こんなキャラが!!」

「え!……うわ…本当だ…あ、あれ?所長…これ次のページ……今発掘している現場に似ていませんか?あの古代遺跡の…」

「何?…た、確かに……遺跡についても詳しいのか?本当に…本当に何者なんだ?……」

「出版元に聞いてみては?」

「もう聞いた。だが極秘事項ということで……もしや元々はどこかの国の研究者で…何かをきっかけに追放されたとか……世間から離れても研究成果を知らせたくてこのように……」

「もしかしたらもっと売れれば似たようなものをどんどん世に出してくれるのでは?」

「……知り合い全員にこの本を普及しろ。グッズも全てだ。売り上げをどんどん伸ばして世に広めれば、もしかしたら再び考古学の世界に戻ってきてくれるかもしれない。大きく広めるのだ!大至急!」

「わ、わかりました!!」

 その翌週からヴァルくんの作ったキャラクターグッズの売れ行きはものすごい勢いで上がっていく。その売り上げの陰には幾人もの考古学者たちがいたという……




「ヨウ殿!新しい絵本が完成しました。」

『ヨウ・お疲れ様!最近売れ行きが絶好調だよ。もう絵本の売れ行きなんて累計1万部突破したからね。増刷が間に合わないくらいだよ。』

「我が子らが多くの人に認められるというのはなんとも感慨深いものが……おっと、つい感動で涙が……」

『ヨウ・これだけ売れるのは嬉しいよね。そういえば読んだ人からの感想で背景の書き込みがすごいとか、リッキーくんが発見した遺跡が綺麗とかって声が上がっているけど…』

「おお!そこも喜んでいただけましたか。そこは昔の記憶から使えそうな遺跡を似たような感じに描いているのです。ヨウ殿が以前実際に見たものを参考にすると良いと言っていたので。リッキーくんが解読した暗号文も昔使われていた言語をそのまま使っただけなので楽です。」

『ヨウ・実体験かぁ。それは強みになるね。オリジナリティにもなっているし、人気が出た理由もわかる気がする。今後もよろしくね、ヴァルくん。』

「お任せください。ヨウ殿。」
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