スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

文字の大きさ
295 / 572

新年特別編 セキヤ国のお正月

しおりを挟む
『ポチ・それじゃあみんな。いくよ?せーのっ!』

『『『使い魔一同・新年明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』』』

「……あけましておめでとう。」

 まだミチナガがセキヤ国にいた頃のこと。朝起きたミチナガは昨日の大晦日の際に飲まされた酒が、少し残ったままの状態で鏡餅の飾られている広間に連れてこられた。そしてまだ軽く寝ぼけている中、一同に会している使い魔達が一斉に新年の挨拶をしたのだ。

『いやぁ…とうとう新年明けたね。セキヤ国の晴れやかな新年だよ!そうと決まったらさ…』

「お年玉は無いぞ。」

『使い魔一同・………………』

「……………………」

『ポチ・………………』

 完全にお年玉を期待していたのだろう。使い魔たちの表情はいつにも増して悲壮感が漂っている。そんな使い魔たちをミチナガは無表情でただただ見つめる。そして使い魔たちから溜息が漏れた。

『使い魔一同・新年早々シラけるわぁ……』

「うるせぇ!だいたい予想してたわ!お前ら数増やしすぎなんだよ!5000以上にお年玉渡していたら日も暮れるし金も無くなるわ!それよりも飯にしようぜ。飯飯!」

『シェフ・お年玉をくれないやつにやる飯はねぇ!』

「こ、こいつらまじかよ……」

 そう言われるとミチナガは追い出された。新年の早朝、まだ道を行く人は少ない。この世界には、というより火の国の人々には初詣などの概念はない。だから外に出る人は少ないのだ。それでも行く当てもなくただ歩いていると数人の集団を見つけ、ミチナガは駆け寄った。

「いよっ!あけましておめでとう!」

「うわっ!ミチナガ様!あ、あけましておめでとうございます…ど、どうしたんですか?新年早々……」

「使い魔達に追い出された。お年玉くれないから外で飯食えってさ。お前らのとこ少し厄介になってもいいか?」

「構いませんよ。家族も皆喜びます。」

 そういうとミチナガは声をかけた衛兵と共に歩いて行った。ちょうど今朝まで街を見回りしていたらしい。すでに家族は家で正月の用意をしてくれているとのことだ。

「火の国の正月料理なんて初めてだけど、地域によっても結構変わるのか?」

「ちょっとよくわからないです。他の地域の正月料理は食べたことがないですし……正直子供の頃から正月料理なんて食べたことなくて…」

 戦争が絶えなかった火の国では食べ物が食べられるだけ良かった。そのため正月だからと特別な料理が出ることはほとんどないのだという。だから正月料理というものを知らないものがほとんどだ。

「一応伝承の形で伝えられていたものもあったみたいですけど…聞いただけですから再現などは難しいと思います。」

「そうなのか。じゃあ…普通の食事?」

「いえ、何か女衆で会を開いてやっていたらしいですよ。正月のための料理講座らしいです。」

「へぇ…面白そうだな。」

 そうこうしているうちに家にたどり着いた。中では今も慌ただしく調理が執り行われている。そんな中ミチナガたちが帰ると家族総出で出迎えに来てくれた。もちろん突如来たミチナガにひどく驚いていたが、実に喜んで歓待してくれた。

「ミチナガ様、新年あけましておめでとうございます。」

「あけましておめでとう。今年もよろしく頼むな。それにしても急にきて悪かったな。ああ、みんなでこれでも飲んでくれ。」

 ミチナガが手土産で酒を手渡すと目を丸く見開いて驚く。それもそうだろう。なんせミチナガが取り出した酒は一本で金貨30枚はするソーマ謹製の最高級酒だ。そんなものを2本も渡された家族は大喜びで再び調理に戻った。

 それから10分後、続々と料理が運ばれてくる。運ばれてきたものは肉が中心だ。メインには豚の丸焼きがある。なんとも豪勢な料理に全員から歓声が上がる。

「お待たせしました。それじゃあミチナガ様、何か一言いただけませんか?」

「ん?ここは家主が言うべきだろ。今日の俺はただの友人として……わ、わかったわかった。それじゃあ……セキヤ国が建国してまだ間もないけど…こうしてみんなが楽しいお正月を迎えることができたことを心から嬉しく思う。また今年も多くの避難民がこの国に来ることになると思うけど…これからも誰一人見捨てずに救っていきたいと思う。そのためにも今日は楽しんで心と体を休めてくれ。それじゃあ乾杯くらいはお前が言えよ。ほら。」

「そ、それじゃあ…家族みんな…それに友達も集まっての正月を祝して…乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 乾杯の合図を皮切りに皆が一斉にご馳走にかぶりつく。ミチナガはその勢いに飲まれてしまったが、気を利かせた奥様方に料理をいくつか取り分けてもらい食事にありつく。香辛料を効かせたなかなかに手のかかっている良い肉だ。ミチナガはつい気になってこの正月料理のことを聞いた。

「この正月料理は女性たちが集まって考えたって聞いたけど、何かこの料理にした選定理由とかあるのか?」

「はじめは色々と郷土料理のようなものも考えました。しかし日頃から食べているせいであまり特別感もなくどうしようかと考え、みんながひもじかった頃に憧れた料理を食べることにしたんです。あの当時の頃を忘れず、それでいてかつての夢を叶えるような料理にしようと。」

「そっか。まあ正月から豪勢に食べて元気つけないとな。じゃあそれぞれの家庭で憧れの料理を出しているのか。」

「はい。うちは肉が中心ですけどダークエルフの方々は野菜が多いですね。ドワーフの方々は酒が中心で…」

「よし、ドワーフたちのところは近づかないようにしよう。しばらく厄介になったら他のところも回らせてもらうよ。」

「ぜひそうなさってください。皆喜びます。」

 それから1時間ほど楽しんだ後に他の家にも厄介になる。ダークエルフのダリアの家には多くのダークエルフたちが押し寄せており、新鮮な野菜を使った様々な料理が振る舞われていた。中にはシェフ監修の料理もいくつかあり、様々な料理に舌鼓を打った。

 陸魚人のクァクァトゥラの家では果物が多く提供されていた。普段は野菜を食べたり肉や魚を食べているのだが、果物というのはめったに食べられない高級品だったらしい。だから思う存分果物を頬張っていた。

 皆思い思いの正月を過ごしている。中には今でもこの境遇が信じられないと、夢のようだと言って泣くものもいる。このセキヤ国は火の国の避難民にとってそれだけの国なのだ。ミチナガは嬉しく思いながら夕焼けの町並みを帰路に着いた。

 町並みを楽しみながらブラブラと歩いていく。すると家の前にはポチが待っていた。その表情は嬉しそうだ。

『ポチ・どうだった?みんなのお正月は。』

「よかったよ。良い国になったと思った。だけどさ、みんながこうして正月を迎える料理を食べているとさ……なんというか…やっぱりね。」

『ポチ・そういうと思っておせちとお雑煮用意しておいたよ。お腹はいっぱいだろうからお餅は一個ね。』

「ありがと。毎年おせち食べていると飽きるんだけどな、だけどやっぱり食べないと新年って感じはしないし……っと、それからこれ。お年玉な。全員手渡しするのは時間かかるから勘弁したいけど、こういうのは気持ちだからな。」

『ポチ・わーい、ありがと!う~~ん…じゃあさ、配るんじゃなくて……』

 家に入り使い魔たちとおせちを楽しむ。昔ながらの日本の味はやはり落ち着く。そして腹が膨れたところで使い魔たちを集め出した。

「では正月恒例!とは言っても初の試み!餅撒きならぬ金撒きじゃぁぁい!!獲った分がお前らのお年玉だぞぉぉ!!!」

『『『使い魔一同・イェェェェェェイ!!!』』』

 ミチナガによる銀貨のばら撒き。それは国民に見せるにはあまりにも恥ずべき行為。だから決して誰にも見られぬように行われ、そこで上がったテンションは翌日まで冷めることがなかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...