308 / 572
第295話 食事会
しおりを挟む
「つまりここの街道沿いをずずずいっと進めば隣国にたどり着くという事ね。」
「ええ、その通りです。それで今度うちの商会で食料の買い付けに向かう予定なのですが、その際に同行されてはと思いまして。」
「それは助かるな。よろしく頼むよ。」
ハルマーデイムとカレールウ作成の話し合いの際にミチナガの英雄の国までの道のりの話になった。その際にハルマーデイムから内陸の国の話を聞き、次なる目的地がその国に決定した。
ミチナガ自身あまりゆっくりはしていられない。遅くなればなるだけアレクリアルを怒らせることになる。だからこの街での仕事を終わらせたら早々に移動する必要がある。
ミチナガはハルマーデイムと話し合いを行い、出発は1週間後に決定した。それまでの間にやらなければならないことを片付けないといけないため、ミチナガは大慌てで次の行動に移る。
「いやぁ…なかなか良いところをどうもありがとうございます。メイリヤンヌさんにもお礼を言っておいてください。」
「いやいや、こんなところしか用意できずお恥ずかしい。昔はうちでも店舗として使っていたのですが最近は倉庫にしか使っておらず……うちの荷物の運び出しももうすぐ終わるので少々お待ちを。ああ、マッテイさん。その荷物はこっちですよ。」
「ああ、はいはい。…っあ!み、ミチナガ様。こ、これはこれは…その…へ、へへ……」
「やあマッテイさん。お久しぶりです。最近めっきり会わなかったものですからどうしたのかと思いましたよ。元気にしていましたか?」
マッテイは埃をかぶりながらミチナガにへこへこと頭を下げている。その表情を見る限り実に居心地が悪そうだ。それもそうだろう。ミチナガとまともに会話をしたのはミチナガのことを下男だと勘違いしていたあの時以来だ。あれからマッテイはずっとミチナガを避けて来た。
「ああ、そうそう。今日の夜は空いてますか?以前食事を奢ってもらったのでそのお礼をと思いまして。」
「い、いえそんな!あれは忘れてください。俺がバカだったばっかりに……」
「いいんですよ。そんなこと気にしないで。思い返すと結構面白かったんで。それで今夜は空いていますか?どこかお店へ…と思いましたけどこの街で良い店を知らないのでこの店舗の2階でやりましょう。うちの料理をご馳走しますよ。」
ミチナガにグイグイ押され、逃げられないと観念したのか食事の予定を取り付けることになったマッテイはうなだれながら荷物を持ってどこかへ行った。少し強引すぎたかと思ったミチナガであったが、一度ちゃんと話しておくべきだろうと考えていた。
「さて!そうと決まれば改装しますか。商品棚をこことそこ…レジはそこにして……日当たりが良いからその辺も考えて……装飾が寂しいよな。まあその辺はお願いするか。それじゃあみんな、頼んだよ。」
『『使い魔たち・はーい。』』
使い魔たちによる店舗の改装が始まった。長年倉庫として使われていた際に傷ついた床板は剥がして新しいものへ。今使われている無骨な照明は外して、おしゃれで清潔感のある可愛らしい装飾のものに。ただの柱には彫刻を施し、美しい芸術作品に。
急ピッチで行われていく改装作業にメランコド商会の従業員らは大口を開けて眺めている。それから壁の塗装も少し汚れているのを見つけたミチナガは自身も左官職人として壁塗りに混ざる。これにはトップもそんなことをするのかと驚愕よりも呆れ顔をされた。
その日の夜。ミチナガの食事に誘われたマッテイはメイリヤンヌから失礼があってはいけないと言われ、スーツを借りて正装でやってきた。正直マッテイにとってこんな綺麗な服を着たのは初めてのことだ。そのせいでこの服を汚したら大変だと緊張し、それだけで胃に穴が開きそうだ。
さらにこれから会うのはミチナガである。それを考えただけで禿げそうなほどのストレスを感じる。やはり無理矢理にでも断ればよかったかと思ったが、それはそれで失礼にあたるのでそんなことはできない。結局ミチナガを下男だと勘違いしていたマッテイが悪いのだ。
「うぅ…胃が痛い。はあ…もうだよな。昼間の荷物運び出したところだろ?もう諦めて食うだけ食って帰ろう。…あれ?通り過ぎたか?ここの手前だったよな?」
住み慣れた街だというのに注意が散漫になっていてしまったせいで目的地を通り過ぎてしまったマッテイ。しかし戻ってみても目的地とされていたメランコド商会の元倉庫は見当たらない。そこにあるのはこの暗い町並みの中、光り輝いている美しい商館であった。
「ま、まさか…1日で……」
「お、マッテイ来たか。下から入ってきてくれるか?まだごちゃごちゃしているけど勘弁な。」
マッテイが上を向くとミチナガが2階の窓から顔を出して手を振っていた。すぐに頭を下げ、あたふたしながら店の中に入る。すると中では陳列棚の取り付けや細々とした装飾品の取り付けを使い魔たちが行っている。
そんな中、マッテイの到着を知ったメイドが2階のミチナガの元へ案内する。案内された部屋は装飾が施された完美な部屋だ。大きな取引や交渉を行うための部屋だが、今は夕食を食べるために改装されている。そこではミチナガがすでに食事の席に座って待っていた。
「やあマッテイ。よくきたね。さあそこに座って。今飲み物でも出そう。ワインで良いだろ?あの時何杯も飲んでいたし。」
「み、ミチナガ様。この度はお誘いしていただき…じゃ、じゃなくてその前に以前の無礼をここで謝らせてください。」
「気にするな気にするな。俺もわざと身分言わずにいたからな。まあお互い様ってことにしよう。それよりも座って座って。早速食事を用意しよう。ただコース料理みたいなのは堅苦しいから、適当に料理運んでそこから摘もう。気軽に食べよう。堅苦しい事は無しだ。」
運ばれてきたワインを受け取るとミチナガとマッテイは乾杯をし、そのまま食べ始める。軽く談笑しながらの食事はマッテイの緊張をほぐしていった。やがて緊張がほぐれたマッテイは、まるでミチナガが親しい友人であるかのように気軽に食事は続けられた。
マッテイは不思議に思った。目の前にいるのは自分よりはるかに格上の、それも自分が働いている商会よりもはるかに格上の商会を経営する男だ。しかもその男は国王でもある。だというのにリラックスして自然に話せている。
そうなるとこの男は大したことがなく、緊張するほどの相手でもないのかというとそうではない。先ほどからマッテイはミチナガから目が離せない。ミチナガには人を惹きつける資質がある。ごく自然にこの人のことを敬っているとマッテイはわかった。何がすごいとかそういう理屈じゃない。理屈じゃない何かがあるのだ。
そして気がつくとすでに食事を始めてから3時間は経過していることがわかった。行きたくなくて、ストレスで胃に穴が開きそうなほどであったのに、いざ来てみればなんとも楽しい時間であった。そして楽しい時間はあっという間に終わる。
「っと、もうこんな時間か。もうすぐ日をまたぐな。お互いに明日も仕事があるのだからこの辺にしておくか。今日は無理に誘って悪かったな。帰りは送らせるよ。」
「そんなお気遣いは……それに今日はとても楽しかったです。食事は美味しいし、お酒は美味しいし…話せてよかった。」
「楽しんでもらえたなら何よりだよ。…マッテイ、君は良いやつだ。誰かを気にかけることのできるやつだ。始めはそんなことわからなかったけどね。これからも後輩を気にかけてやってくれ。そして君が困った時はいつでもミチナガ商会が、俺が助けになろう。」
マッテイは頭を下げ、ミチナガと固い握手を交わすとそのまま外へ出た。外では帰りの馬車を用意しておいたのだが、マッテイが歩いて帰りたいと言ったため、せめてもと騎士を護衛につけた。
夜道をマッテイは鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いて行く。その後ろではカシャリ、カシャリ、と金属のぶつかり合う音をたてながら騎士がついて行く。すると不意にマッテイが騎士の方へ横顔を向けた。
「騎士様よ……あんたのところの王様は…良い王様だなぁ~……俺みたいな口減らしのために村を追い出されたバカな男とも、あんなに楽しく話してくれるんだからよ~…い~い王様だぁ…」
「我らが忠義を捧げるに値する素晴らしい王様です。こんなに良い王様は他にはおりませんよ。」
「じゃああんたは幸せもんだなぁ~~…よかったなぁ…」
「ええ、素晴らしい人生です。」
暗い夜道。暗く、他に人もいない、ただ寂しい夜道を男2人は歩いて行く。しかし今日だけはそんな夜道でも寂しさはなく、なんとも賑やかで、楽しい夜道になっているようだ。
「ええ、その通りです。それで今度うちの商会で食料の買い付けに向かう予定なのですが、その際に同行されてはと思いまして。」
「それは助かるな。よろしく頼むよ。」
ハルマーデイムとカレールウ作成の話し合いの際にミチナガの英雄の国までの道のりの話になった。その際にハルマーデイムから内陸の国の話を聞き、次なる目的地がその国に決定した。
ミチナガ自身あまりゆっくりはしていられない。遅くなればなるだけアレクリアルを怒らせることになる。だからこの街での仕事を終わらせたら早々に移動する必要がある。
ミチナガはハルマーデイムと話し合いを行い、出発は1週間後に決定した。それまでの間にやらなければならないことを片付けないといけないため、ミチナガは大慌てで次の行動に移る。
「いやぁ…なかなか良いところをどうもありがとうございます。メイリヤンヌさんにもお礼を言っておいてください。」
「いやいや、こんなところしか用意できずお恥ずかしい。昔はうちでも店舗として使っていたのですが最近は倉庫にしか使っておらず……うちの荷物の運び出しももうすぐ終わるので少々お待ちを。ああ、マッテイさん。その荷物はこっちですよ。」
「ああ、はいはい。…っあ!み、ミチナガ様。こ、これはこれは…その…へ、へへ……」
「やあマッテイさん。お久しぶりです。最近めっきり会わなかったものですからどうしたのかと思いましたよ。元気にしていましたか?」
マッテイは埃をかぶりながらミチナガにへこへこと頭を下げている。その表情を見る限り実に居心地が悪そうだ。それもそうだろう。ミチナガとまともに会話をしたのはミチナガのことを下男だと勘違いしていたあの時以来だ。あれからマッテイはずっとミチナガを避けて来た。
「ああ、そうそう。今日の夜は空いてますか?以前食事を奢ってもらったのでそのお礼をと思いまして。」
「い、いえそんな!あれは忘れてください。俺がバカだったばっかりに……」
「いいんですよ。そんなこと気にしないで。思い返すと結構面白かったんで。それで今夜は空いていますか?どこかお店へ…と思いましたけどこの街で良い店を知らないのでこの店舗の2階でやりましょう。うちの料理をご馳走しますよ。」
ミチナガにグイグイ押され、逃げられないと観念したのか食事の予定を取り付けることになったマッテイはうなだれながら荷物を持ってどこかへ行った。少し強引すぎたかと思ったミチナガであったが、一度ちゃんと話しておくべきだろうと考えていた。
「さて!そうと決まれば改装しますか。商品棚をこことそこ…レジはそこにして……日当たりが良いからその辺も考えて……装飾が寂しいよな。まあその辺はお願いするか。それじゃあみんな、頼んだよ。」
『『使い魔たち・はーい。』』
使い魔たちによる店舗の改装が始まった。長年倉庫として使われていた際に傷ついた床板は剥がして新しいものへ。今使われている無骨な照明は外して、おしゃれで清潔感のある可愛らしい装飾のものに。ただの柱には彫刻を施し、美しい芸術作品に。
急ピッチで行われていく改装作業にメランコド商会の従業員らは大口を開けて眺めている。それから壁の塗装も少し汚れているのを見つけたミチナガは自身も左官職人として壁塗りに混ざる。これにはトップもそんなことをするのかと驚愕よりも呆れ顔をされた。
その日の夜。ミチナガの食事に誘われたマッテイはメイリヤンヌから失礼があってはいけないと言われ、スーツを借りて正装でやってきた。正直マッテイにとってこんな綺麗な服を着たのは初めてのことだ。そのせいでこの服を汚したら大変だと緊張し、それだけで胃に穴が開きそうだ。
さらにこれから会うのはミチナガである。それを考えただけで禿げそうなほどのストレスを感じる。やはり無理矢理にでも断ればよかったかと思ったが、それはそれで失礼にあたるのでそんなことはできない。結局ミチナガを下男だと勘違いしていたマッテイが悪いのだ。
「うぅ…胃が痛い。はあ…もうだよな。昼間の荷物運び出したところだろ?もう諦めて食うだけ食って帰ろう。…あれ?通り過ぎたか?ここの手前だったよな?」
住み慣れた街だというのに注意が散漫になっていてしまったせいで目的地を通り過ぎてしまったマッテイ。しかし戻ってみても目的地とされていたメランコド商会の元倉庫は見当たらない。そこにあるのはこの暗い町並みの中、光り輝いている美しい商館であった。
「ま、まさか…1日で……」
「お、マッテイ来たか。下から入ってきてくれるか?まだごちゃごちゃしているけど勘弁な。」
マッテイが上を向くとミチナガが2階の窓から顔を出して手を振っていた。すぐに頭を下げ、あたふたしながら店の中に入る。すると中では陳列棚の取り付けや細々とした装飾品の取り付けを使い魔たちが行っている。
そんな中、マッテイの到着を知ったメイドが2階のミチナガの元へ案内する。案内された部屋は装飾が施された完美な部屋だ。大きな取引や交渉を行うための部屋だが、今は夕食を食べるために改装されている。そこではミチナガがすでに食事の席に座って待っていた。
「やあマッテイ。よくきたね。さあそこに座って。今飲み物でも出そう。ワインで良いだろ?あの時何杯も飲んでいたし。」
「み、ミチナガ様。この度はお誘いしていただき…じゃ、じゃなくてその前に以前の無礼をここで謝らせてください。」
「気にするな気にするな。俺もわざと身分言わずにいたからな。まあお互い様ってことにしよう。それよりも座って座って。早速食事を用意しよう。ただコース料理みたいなのは堅苦しいから、適当に料理運んでそこから摘もう。気軽に食べよう。堅苦しい事は無しだ。」
運ばれてきたワインを受け取るとミチナガとマッテイは乾杯をし、そのまま食べ始める。軽く談笑しながらの食事はマッテイの緊張をほぐしていった。やがて緊張がほぐれたマッテイは、まるでミチナガが親しい友人であるかのように気軽に食事は続けられた。
マッテイは不思議に思った。目の前にいるのは自分よりはるかに格上の、それも自分が働いている商会よりもはるかに格上の商会を経営する男だ。しかもその男は国王でもある。だというのにリラックスして自然に話せている。
そうなるとこの男は大したことがなく、緊張するほどの相手でもないのかというとそうではない。先ほどからマッテイはミチナガから目が離せない。ミチナガには人を惹きつける資質がある。ごく自然にこの人のことを敬っているとマッテイはわかった。何がすごいとかそういう理屈じゃない。理屈じゃない何かがあるのだ。
そして気がつくとすでに食事を始めてから3時間は経過していることがわかった。行きたくなくて、ストレスで胃に穴が開きそうなほどであったのに、いざ来てみればなんとも楽しい時間であった。そして楽しい時間はあっという間に終わる。
「っと、もうこんな時間か。もうすぐ日をまたぐな。お互いに明日も仕事があるのだからこの辺にしておくか。今日は無理に誘って悪かったな。帰りは送らせるよ。」
「そんなお気遣いは……それに今日はとても楽しかったです。食事は美味しいし、お酒は美味しいし…話せてよかった。」
「楽しんでもらえたなら何よりだよ。…マッテイ、君は良いやつだ。誰かを気にかけることのできるやつだ。始めはそんなことわからなかったけどね。これからも後輩を気にかけてやってくれ。そして君が困った時はいつでもミチナガ商会が、俺が助けになろう。」
マッテイは頭を下げ、ミチナガと固い握手を交わすとそのまま外へ出た。外では帰りの馬車を用意しておいたのだが、マッテイが歩いて帰りたいと言ったため、せめてもと騎士を護衛につけた。
夜道をマッテイは鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いて行く。その後ろではカシャリ、カシャリ、と金属のぶつかり合う音をたてながら騎士がついて行く。すると不意にマッテイが騎士の方へ横顔を向けた。
「騎士様よ……あんたのところの王様は…良い王様だなぁ~……俺みたいな口減らしのために村を追い出されたバカな男とも、あんなに楽しく話してくれるんだからよ~…い~い王様だぁ…」
「我らが忠義を捧げるに値する素晴らしい王様です。こんなに良い王様は他にはおりませんよ。」
「じゃああんたは幸せもんだなぁ~~…よかったなぁ…」
「ええ、素晴らしい人生です。」
暗い夜道。暗く、他に人もいない、ただ寂しい夜道を男2人は歩いて行く。しかし今日だけはそんな夜道でも寂しさはなく、なんとも賑やかで、楽しい夜道になっているようだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
534
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる