スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

文字の大きさ
350 / 572

第337話 二人の食事会

しおりを挟む
 空には星々が輝く。しかしいつも見る星よりも随分少なく感じる。だがそれは悪天候だからということではない。目下に広がる神々しいパレードの明かりによって星の光を肉眼で捉えきれないからだろう。

 なんとも美しく輝くパレードを多くの人々が見物している。このパレードは毎日行われているが、毎回趣向が凝らされており、何度見ても飽きないようになっている。そんなパレードの様子をミチナガはVMTランドの中心にそびえる城の上から眺めている。

 ここは限られたものしか入れない。つまりこの光景はごく少数しか見たことがない価値ある光景だ。ミチナガはそんな光景を酒を片手に眺めている。最高の贅沢と言えるだろう。ミチナガはしばらく眺めたのちに満足したのか部屋の中へ戻っていった。

 部屋に戻ったミチナガは服を着替える。そしてゆっくりとした足取りで部屋を移動していく。たどり着いた場所はダイニングルームだ。すでに食事の準備が整えられている。しかしそこには数人の給仕係以外に人はいない。

 ミチナガは案内されるがまま席に着き、軽く伸びをする。そしてフッとため息をつくと、突如扉が開き大量のコウモリが入って来た。そのコウモリたちは規則正しい動きをしながら一つにまとまっていく。そのまとまりはやがて人型になり、ヴァルドールとなった。

「我が王よ、申し訳ありません。お待たせいたしました。」

「こっちもちょうど来たとこだよ。上からパレードの様子を見ていたから。あの中に混ざって眺めていても良かったけど、今日ははしゃぎすぎて疲れた。次回からは夜のパレードを見る体力は残しておかないとな。」

「満喫していただけたようで何よりです。それでは早速食事にいたしましょう。」

「それが良い。今日は動いたからお腹が空いちゃってね。」

 早速ミチナガとヴァルドールの食事会が始まる。食事会とは言ってもそこまで堅苦しいものではない。友人同士の楽しい食事会だ。ただヴァルドールの食事の所作というのは実に美しい。吸血鬼の王として長く君臨し続けているだけあって王としての嗜みがしっかりしている。

 そんな姿を見たミチナガは思わず肩に力が入ってしまう。ミチナガも王としてふさわしい所作を身につける必要があるとしっかりと思わされた。

 そんなミチナガとヴァルドールの話はお互いの近況報告だ。ミチナガは主に苦労話ばかりだが、ヴァルドールは本当に楽しいようで毎日どれだけ幸せかという話ばかりする。そんな報告を聞けたミチナガは思わず笑みが出る。

「それから今度また新しいアニメ映画を作ろうと考えておりまして…それから実写映画も考えているんです。」

「楽しみだ。完成したらたまには映画館で観ようかな。それにしてもヴァルくん。本当に変わったな。初めて出会った時とは考えられないくらい。」

「すべて我が王よ、あなたのおかげです。私は今が一番人生の中で楽しい時間です。楽しいと1日が短く感じると言いますが、あれは本当なのですね。1年があっという間に過ぎ去る……」

 ヴァルドールは瞳を閉じてミチナガに出会ってからのことを思い返した。あまりにも楽しい日々を思い返したせいで思わず声が漏れた。そんな声にミチナガもつられて笑ってしまう。そして二人して大笑いしてしまう。楽しくて楽しくてしょうがないのだ。

「そういえば我が王よ。これより数日のうちに英雄の国に向かわれるとか?」

「ん?まあアレクリアル様待たせているからな。明日…明後日くらいには出発しようかなって思っているんだ。アレクリアル様のとこに挨拶したらまたとんぼ返り…の前に白獣の村にも行かないとな。行ったら行ったでまた忙しそうだ。今度いつここに来られるか…」

「互いに多忙ですな。ところで我が王よ…実はですな……せっかくなのでちょっとした集まりと、パレードをしたいと思っておりまして…」

「パレード?それに集まり?」

 どういうことなのかと尋ねると使い魔達から説明が入った。実はミチナガに内緒で現在英雄の国にミチナガ商会の幾人かの者達が集まっているということだ。そしてせっかくミチナガがここまで出世して英雄の国に戻るのだからパレードでも開いて大々的にミチナガの名を売りたいということなのだ。

「え~~…パッと会って、パッと終わらせるつもりだったのに。」

『ポチ・どうせそう言うと思ったよ。まあミチナガ商会の紹介みたいな感じで広告にもなるからさ。みんなだって準備始めてんだから。』

「みんなって誰よ?」

『ポチ・まずはヴァルくんでしょ。それからナイト。それにアンドリュー子爵も来てくれるって。あとはメリア。他にも従業員達が何人か集まってくれているよ。メリアなんてボスあったことないでしょ?』

「まあ2、3度テレビ電話くらいしか……ヴァルくんに至っては俺とナイトしか知らないか。そう言う意味では初の顔合わせにもなるんだな。う~~ん…準備しちゃったの?…じゃあパレードやるか……」

 初めからミチナガに知らせていてはきっとめんどくさがってパレードなんてやらなかっただろう。これは使い魔達の作戦勝ちだ。ヴァルドールのそれを聞いてホッとした様子だ。実はそのパレードに向けて色々と新しく作っていたとのことだ。

「あ!そうだヴァルくん。この話もしないとな。実は絵の才能がある子供を見つけてさ。この才能は埋もれちゃダメだと思ったから連れて来たんだよ。会ってくれるか?それで…気に入ったらでいいから絵を教えてやってほしい。」

「我が王がそこまで言うのであればその者は本当に才能溢れる者なのでしょう。そう言うことでしたら喜んで受けましょう。…ちなみに今その子供はどこに?」

「旅の疲れとこの街の人の多さにやられたみたいでな、少し熱があるから休ませている。まだ熱が下がっていないみたいだから明後日くらいには会えるかな?」

 エリーは昨晩から熱が出たので姉のエーラと共に宿で休ませている。ミチナガは慣れたが、やはり子供の長旅というのはそれなりに疲労が溜まるようだ。ヴァルドールからしてみれば長旅で疲れて熱を出すなど考えられない。そう思ったのだが、そう言うことならばと解熱剤などが必要ないか聞いて来た。

「結構詳しいな。…なんと言うか意外だな。もっと人間の子は大変だな、とか言うかと思った。」

「ハハハ。少し前はそうでしたが、このランドを開いてからと言うもの、子供達が十分に楽しめるように子供の表情一つで具合が悪いかどうかを見分けねばなりませんから。子供達が楽しむために我々は努力を怠りません。」

「さすがはプロ。俺よりも経験豊富か。」

 それから話し合いを行い、ミチナガの英雄の国への出発は3日後、エリーとヴァルドールの対面はエリーの熱が下がった翌日ということで決まった。最悪エリーの熱が下がらなかったら、英雄の国で一仕事終えてから挨拶ということになる。

「それにしてもみんなとちゃんと会えるのか…連絡は取れるけど、アンドリュー子爵に関しては会うのはすごい久しぶりだよ。なんだか楽しみだな。」

「私も我が王のご友人に会えるのが楽しみです。」

 そんなことで再び話に花が咲くのだが、日をまたぐ前に食事会はお開きになった。互いに多忙な身だ。明日はミチナガもこの国でのミチナガ商会の業務確認をするし、ヴァルドールもリッキーくんに仮装したり、新しい映画の脚本や作画を手がけなければならない。

 話の続きはまた明日の夜の食事会の時にでも、そう言って互いに床についた。寝床についたヴァルドールは笑みを浮かべたまま、また明日というその言葉を眠る直前まで何度もなんども思い返した。

「また明日…また明日か…この私が明日を心待ちにするとはな…ふふふ……」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...