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第357話 順調すぎた進軍
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「完了しました。」
「こちらも完了です。」
鬱蒼とした森の中、多くのものたちが散らばり足元に倒れるモンスターにとどめを刺していく。その様子をミチナガはただ眺めており、ヴァルドールはそんなものには目もくれず、ただ目の前にある巨大な花をスケッチしている。
今襲いかかってきたのはトロールの群れだ。この巨大のヨトゥンヘイム周辺にしかいない巨大種のトロールで再生能力と破壊力が特徴的だ。心臓をえぐられ、首をはねても瞬時に新しい頭と心臓を作り出す。
こんな殺すことが困難な怪物でも瞬時に討伐して見せるところが、やはり英雄の国で魔帝クラスとして活躍するものたちの実力なのだろう。だが、それでもさすがに進軍速度は大きく下がっている。もどかしい気持ちはあるが、ここからは安全第一でいかなければならない。
「時間的にあと1時間ってところだな。野営地を探しながら進軍するぞ。」
「「「はっ!」」」
すでに陽も傾き始めた。野営地を求め再び進軍を開始する。ヴァルドールは少し遅れながらもスケッチを行いながらついてくる。ミチナガはヴァルドールのスケッチを見ているのだが、やはり本職は違う。これだけ細かいスケッチをこの短時間で行なっていけるのはすごいことだ。
しかしミチナガは気がついた。ヴァルドールはもう半分飽きかけている。正直ヴァルドールにとって今こうしてついてきているのはVMT作品のためだ。しかしここでは得られるものが少ない。ミチナガはこのままではまずいと感じて自身も周辺の観察を行う。
すると地鳴りがし始めた。その地鳴りは徐々に大きくなってくる。ミチナガはその地鳴りにどこか既視感を覚えたがそれが何かいまいち思い出せない。しかしすぐにそれが何かわかった。遠くから転がってくるそれはミチナガのトラウマの一つだ。
「よ、鎧転蟲だぁぁぁぁ!!!」
「ふむ、それの巨大版、大鎧転蟲というやつでしょう。危険度は単体でもS級上位。群れならSSS級といったところでしょうか」
ヴァルドールはさらりと答える。しかしミチナガにとってそれは大きなトラウマだ。かつて魔動装甲車をかじられ、命の危機に瀕したほどの怪物。それの強化版となれば恐ろしさはさらに増す。しかしアレクリアルたちは案外気楽そうだ。
「奴らの強みはその強度と突撃力だ。それさえ潰せば大したことはない。とっとと終わらせるぞ。」
そんなアレクリアルの言葉に従い瞬時に対応する。あるものはその突撃を逆手に取り大鎧転蟲を串刺しにしたり、突撃を受け止めてそれから叩き切ったり、破砕したりする者もいる。しかもこの程度の敵とわざわざ戦う必要がないと言わんばかりに12英雄たちとアレクリアルは指示だけを出している。
やがて数百にも上る大鎧転蟲を討伐し終えると大きな広場が完成した。戦闘による余波で周囲の木々が全てなぎ倒されたのだ。そしてこれは好都合ということでその日はここで野営することが決まった。
「いいぞぉ!もっとやれぇ!!」
「よ~し!次は俺だぁ!!」
なんとも陽気に飲んで歌って騒いでいる。ここが世界有数の危険地帯だということがまるで嘘のようだ。ミチナガはその光景をただただ離れた場所から眺めている。こんな状態で大丈夫なかと心配になるがこれも考えてのことだという。
「まったく騒がしいですな。」
「ああ、ヴァ…リーくん。わざわざ騒いでモンスターをおびき寄せる必要なんてないと思うんだけどね。ただこうすることで明日は少し楽になるってさ。」
わざと騒いで周囲のモンスターを引き寄せて討伐するという作戦らしい。なんとも脳筋な作戦だが、これだけの強者が揃っているのならば何一つ問題なく決行できる作戦だろう。しかしアレクリアルと12英雄たちは神妙な面持ちでテントの中で作戦会議を開いている。
「本当なら私はもう帰ろうかと思ったのですが…王が心配なのでもう少しここに残ることに決めました。」
「やっぱり?ナイトも少しその辺を探索しているらしいけど、不気味だって言っていた。俺にはよくわからないけどね。ただ予想が正しいとまずい気がする。」
ミチナガだって何か不気味さは感じている。ただミチナガには戦闘経験が少ないのでその不気味さが皆とは違って感じにくい。ただアレクリアルの話を聞く限りはかなりまずいことが起きている。
「アレクリアル様はモンスターの数を減らすのに1週間かけると言っていた。12英雄6人に多くの魔帝クラスを揃えた状態でだ。だけど実際はナイトとザクラムの2人で1~2日で十分にモンスターを減らせた。モンスターの絶対数が少なかった。そして今もモンスターの襲撃数が少ない。本当ならこの森を抜けるのに1週間はかかるって予想していた。だけどそれが明日には抜けられそうだなんて絶対におかしい。1週間を1日半なんて…」
この原始の森は多くのモンスターが跋扈している危険地帯だ。最後にこの原始の森でモンスターの間引きをした時は森に入って一度モンスターが襲撃してきたら丸2日モンスターが途切れることがなかった。
それだけモンスターが多いというのに今これだけ騒いでもちょろちょろとしかモンスターがやってこない。皆も楽しげに騒いでいるように見えるが内心は恐怖している。だからその恐怖を紛らわすために酒まで出している。
「…今ムーンから連絡が入った。やっぱり中心部が怪しいらしい。ナイトの予想だからまず間違いなく正しいだろうね。」
「ええ、私もそう思います。この9大ダンジョン、巨大のヨトゥンヘイムで圧倒的な捕食者が出現していると見てまず間違いないでしょう。これだけ魔力溢れる地で大量の捕食。…危険度は世界最高レベルでしょう。」
圧倒的捕食者の出現。しかも中心部でだ。中心部はSSS級以上のモンスターたちが跋扈している。それを捕食することができるなんてよほどの強者だ。それこそあの原初ゴブリンにも匹敵する、いや上回るほどの怪物がいるかもしれない。
「ナイトはしばらく罠を設置したら戻るってさ。今日のうちにやれることはやっておいてくれるって。…正直早いうちに気がつけてよかったよ。もしもそんな怪物が食糧不足とか言ってこの地から離れたら…もっとやばかったでしょ。…ちなみにどう?人為的だと思う?」
「さすがに不可能…と言いたいところですが、法国ならわかりません。その地の魔力を弄って出現するモンスターを自由にできるなど人の手に余る行いです。だが奴らは…すでに原初ゴブリンのように似たようなことをしているという話もありますから。可能なのかもしれません。」
ヴァルドールはそう答えた。しかし正直ミチナガの中ではすでに人為的であるという結論がつけられている。モンスターを強化する方法もミチナガは知っている。そして対処するのにはミチナガの尽力も必要だということを。
苦しい戦いになることが予想される。ここまで順調すぎた分がまとめて跳ね返ってくるのだ。下手をすればアレクリアルがいる状態でも撤退する必要があるかもしれない。だがもしもそんなことになればアレクリアルの評価にも大きく関わる。ミチナガは覚悟を決めた。
「ヴァルくん。その怪物と戦闘になったら…俺のために動いて欲しい。戦うのは嫌だって言っていたけど、ヴァルくんの力が俺には必要だ。」
「ええ、我が王よ。私はあなたに救われた。あなたのためにこの身を使うつもりです。あなたの命令に従います。存分に私をお使いください。それから…今はヴァリーくんです。」
「おっと、そうだったねヴァリーくん。とりあえず早めに休んでおこうか。明日は…決戦になりそうだ。」
「こちらも完了です。」
鬱蒼とした森の中、多くのものたちが散らばり足元に倒れるモンスターにとどめを刺していく。その様子をミチナガはただ眺めており、ヴァルドールはそんなものには目もくれず、ただ目の前にある巨大な花をスケッチしている。
今襲いかかってきたのはトロールの群れだ。この巨大のヨトゥンヘイム周辺にしかいない巨大種のトロールで再生能力と破壊力が特徴的だ。心臓をえぐられ、首をはねても瞬時に新しい頭と心臓を作り出す。
こんな殺すことが困難な怪物でも瞬時に討伐して見せるところが、やはり英雄の国で魔帝クラスとして活躍するものたちの実力なのだろう。だが、それでもさすがに進軍速度は大きく下がっている。もどかしい気持ちはあるが、ここからは安全第一でいかなければならない。
「時間的にあと1時間ってところだな。野営地を探しながら進軍するぞ。」
「「「はっ!」」」
すでに陽も傾き始めた。野営地を求め再び進軍を開始する。ヴァルドールは少し遅れながらもスケッチを行いながらついてくる。ミチナガはヴァルドールのスケッチを見ているのだが、やはり本職は違う。これだけ細かいスケッチをこの短時間で行なっていけるのはすごいことだ。
しかしミチナガは気がついた。ヴァルドールはもう半分飽きかけている。正直ヴァルドールにとって今こうしてついてきているのはVMT作品のためだ。しかしここでは得られるものが少ない。ミチナガはこのままではまずいと感じて自身も周辺の観察を行う。
すると地鳴りがし始めた。その地鳴りは徐々に大きくなってくる。ミチナガはその地鳴りにどこか既視感を覚えたがそれが何かいまいち思い出せない。しかしすぐにそれが何かわかった。遠くから転がってくるそれはミチナガのトラウマの一つだ。
「よ、鎧転蟲だぁぁぁぁ!!!」
「ふむ、それの巨大版、大鎧転蟲というやつでしょう。危険度は単体でもS級上位。群れならSSS級といったところでしょうか」
ヴァルドールはさらりと答える。しかしミチナガにとってそれは大きなトラウマだ。かつて魔動装甲車をかじられ、命の危機に瀕したほどの怪物。それの強化版となれば恐ろしさはさらに増す。しかしアレクリアルたちは案外気楽そうだ。
「奴らの強みはその強度と突撃力だ。それさえ潰せば大したことはない。とっとと終わらせるぞ。」
そんなアレクリアルの言葉に従い瞬時に対応する。あるものはその突撃を逆手に取り大鎧転蟲を串刺しにしたり、突撃を受け止めてそれから叩き切ったり、破砕したりする者もいる。しかもこの程度の敵とわざわざ戦う必要がないと言わんばかりに12英雄たちとアレクリアルは指示だけを出している。
やがて数百にも上る大鎧転蟲を討伐し終えると大きな広場が完成した。戦闘による余波で周囲の木々が全てなぎ倒されたのだ。そしてこれは好都合ということでその日はここで野営することが決まった。
「いいぞぉ!もっとやれぇ!!」
「よ~し!次は俺だぁ!!」
なんとも陽気に飲んで歌って騒いでいる。ここが世界有数の危険地帯だということがまるで嘘のようだ。ミチナガはその光景をただただ離れた場所から眺めている。こんな状態で大丈夫なかと心配になるがこれも考えてのことだという。
「まったく騒がしいですな。」
「ああ、ヴァ…リーくん。わざわざ騒いでモンスターをおびき寄せる必要なんてないと思うんだけどね。ただこうすることで明日は少し楽になるってさ。」
わざと騒いで周囲のモンスターを引き寄せて討伐するという作戦らしい。なんとも脳筋な作戦だが、これだけの強者が揃っているのならば何一つ問題なく決行できる作戦だろう。しかしアレクリアルと12英雄たちは神妙な面持ちでテントの中で作戦会議を開いている。
「本当なら私はもう帰ろうかと思ったのですが…王が心配なのでもう少しここに残ることに決めました。」
「やっぱり?ナイトも少しその辺を探索しているらしいけど、不気味だって言っていた。俺にはよくわからないけどね。ただ予想が正しいとまずい気がする。」
ミチナガだって何か不気味さは感じている。ただミチナガには戦闘経験が少ないのでその不気味さが皆とは違って感じにくい。ただアレクリアルの話を聞く限りはかなりまずいことが起きている。
「アレクリアル様はモンスターの数を減らすのに1週間かけると言っていた。12英雄6人に多くの魔帝クラスを揃えた状態でだ。だけど実際はナイトとザクラムの2人で1~2日で十分にモンスターを減らせた。モンスターの絶対数が少なかった。そして今もモンスターの襲撃数が少ない。本当ならこの森を抜けるのに1週間はかかるって予想していた。だけどそれが明日には抜けられそうだなんて絶対におかしい。1週間を1日半なんて…」
この原始の森は多くのモンスターが跋扈している危険地帯だ。最後にこの原始の森でモンスターの間引きをした時は森に入って一度モンスターが襲撃してきたら丸2日モンスターが途切れることがなかった。
それだけモンスターが多いというのに今これだけ騒いでもちょろちょろとしかモンスターがやってこない。皆も楽しげに騒いでいるように見えるが内心は恐怖している。だからその恐怖を紛らわすために酒まで出している。
「…今ムーンから連絡が入った。やっぱり中心部が怪しいらしい。ナイトの予想だからまず間違いなく正しいだろうね。」
「ええ、私もそう思います。この9大ダンジョン、巨大のヨトゥンヘイムで圧倒的な捕食者が出現していると見てまず間違いないでしょう。これだけ魔力溢れる地で大量の捕食。…危険度は世界最高レベルでしょう。」
圧倒的捕食者の出現。しかも中心部でだ。中心部はSSS級以上のモンスターたちが跋扈している。それを捕食することができるなんてよほどの強者だ。それこそあの原初ゴブリンにも匹敵する、いや上回るほどの怪物がいるかもしれない。
「ナイトはしばらく罠を設置したら戻るってさ。今日のうちにやれることはやっておいてくれるって。…正直早いうちに気がつけてよかったよ。もしもそんな怪物が食糧不足とか言ってこの地から離れたら…もっとやばかったでしょ。…ちなみにどう?人為的だと思う?」
「さすがに不可能…と言いたいところですが、法国ならわかりません。その地の魔力を弄って出現するモンスターを自由にできるなど人の手に余る行いです。だが奴らは…すでに原初ゴブリンのように似たようなことをしているという話もありますから。可能なのかもしれません。」
ヴァルドールはそう答えた。しかし正直ミチナガの中ではすでに人為的であるという結論がつけられている。モンスターを強化する方法もミチナガは知っている。そして対処するのにはミチナガの尽力も必要だということを。
苦しい戦いになることが予想される。ここまで順調すぎた分がまとめて跳ね返ってくるのだ。下手をすればアレクリアルがいる状態でも撤退する必要があるかもしれない。だがもしもそんなことになればアレクリアルの評価にも大きく関わる。ミチナガは覚悟を決めた。
「ヴァルくん。その怪物と戦闘になったら…俺のために動いて欲しい。戦うのは嫌だって言っていたけど、ヴァルくんの力が俺には必要だ。」
「ええ、我が王よ。私はあなたに救われた。あなたのためにこの身を使うつもりです。あなたの命令に従います。存分に私をお使いください。それから…今はヴァリーくんです。」
「おっと、そうだったねヴァリーくん。とりあえず早めに休んでおこうか。明日は…決戦になりそうだ。」
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