スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第358話 ダンジョンを喰らいし怪物

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 その日は1日これと言った目立つモンスターの襲撃はなかった。時折ポロポロとやってくるモンスターを排除するだけだ。昨日までよりもさらに順調な進軍。そんなアレクリアル一行は予想よりも早く、夕方前には原始の森を抜けた。森の抜けた先には巨大な遺跡があった。

 初めは荒野、次に原始の森、そして最後は遺跡群。この遺跡群はかつて9大ダンジョンとして、この巨大のヨトゥンヘイムが賑わっていた頃に作られたとされるダンジョン国だ。9大ダンジョンからもたらされる恩恵は凄まじく、かつては10人の魔神が9大ダンジョンを求め争ったという。

 今では風化し、モンスターの跋扈によりかつての賑わいは見る影もない。この光景はヴァルドールもそうそう見たことのある光景ではないようで、いつもよりスケッチをする手が早く動いていた。だがアレクリアルたちは表情を険しくした。

「以前報告を受けた時とは比べ物にならないほど朽ち果てている。…いや破壊されているといったほうが正しいか。」

「もっと…原型があったんですか?」

「ああ、モンスターによっては遺跡の建物内部を住処にしていた。そういった場所がいくつも破壊されている。だが敵の姿は見えないな。今日はここで野営だ。暗くなってから戦ってはこちらが不利だからな。」

 今日が決戦の日だと心構えしていたミチナガは張り詰めていた気持ちをふと和らげた。ひとまず食事を用意しながら疲弊していた精神を落ち着かせ、身体と精神を休ませる。だがその気持ちはすぐに引き締まった。ヴァルドールとナイトが明らかに警戒していたのだ。

 よく見れば他にも警戒しているものが多い。むしろリラックスしようとしていたのはミチナガくらいなものだ。ミチナガは気持ちを引き締め直し、二人の元へ食事を運ぶ。すると二人の顔色が和らいだ。しかも気がつけば周囲を見回して見ると他の12英雄たちや魔帝クラスのものたちもミチナガを見て気持ちを和らげていた。

「申し訳ありません我が王よ。少し…気にしすぎたようです。」

「すまない。」

「い、いや別に謝らなくても…というかなんで?」

 ミチナガがあたふたするとどこからか小さな笑い声が聞こえた。ここにいるのはミチナガ以外一流の戦士たちだ。だから一人が警戒し始めると全員の気持ちが張り詰め始める。一流だからこそ警戒しすぎてわずかな疲労を生む。だがミチナガという戦闘の素人がいたおかげで気持ちが緩んだのだ。

 彼らは人々を不安させないため、国を守るために戦う。だというのに彼らが警戒するせいで人々を不安にさせてはならない。ミチナガがいることでそのことに気がつけたのだ。

「どこからか見張られている。そのせいで全員の気持ちが張り詰めていたんだ。だがこの調子なら襲いかかってくることはないだろう。人間を見たことがないからこそ観察しているのだろうな。それがまあ不気味で嫌な敵だ。知能も高いということだからな。」

「見張られ…ど、どこからですか?」

「おおよそはわかるが細かいところは難しいな。厄介な魔法まで使える。」

 アレクリアルも緊張は和らいでいるようだが、少し険しい表情をしている。ミチナガは横目でチラチラとどこから見張られているのか確認しようとするがまるでわからない。そんなミチナガを見かねてナイトが答えてくれた。

「異空間からこちらを覗いている。だが観る事しかできない。手出しするならばその異空間から出てくる必要がある。」

「い、異空間って…そんなの反則じゃね?最強じゃん。」

「王都などでは異空間魔法対策もちゃんとされているが、こういったところだと難しいな。だが異空間くらいならばいくらでも対処できる。それに異空間から出てくる瞬間は弱点になる。高度な魔法ゆえに他の魔法を行使できないからな。だがどんな異空間を使用しているかわからないと逃げられる可能性がある。今のうちに対策しておくか…」

「その辺りはやっておく。手を出されるとかえって邪魔になる。」

 ナイトはすでに両目に魔力を集中させている。どうやら敵の異空間というやつを見つけ出そうとしているのだろう。そしてその日は不気味すぎるほど皆静かに休むことになった。



「出発するぞ。」

 翌朝、皆しっかりと休みを取ってから出発した。その足取りは重い。周囲を警戒しながら常に移動しているのだがモンスターが一匹も現れない。視界にもモンスターが入らないのだ。本当に一匹残らず綺麗に平らげてしまったのだろう。

 そして日が高くなってきたところで一行は移動速度を上げた。警戒してもモンスターが現れないのだからわざわざゆっくり行く必要はないと考えたのだ。ミチナガもナイトに背負われながら移動する。

 そしてついにこの地にある9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムがその目に入った。巨大な山、そしてそこには子供が砂山に掘ったトンネルのようにぽっかりと開いた大きな穴がある。その穴はかつて巨大のヨトゥンヘイム内部へと繋がっていた門だったのだろう。しかし今ではビッチリと銀貨や銅貨で埋まっている。

「あれが巨大のヨトゥンヘイムへの入り口ですか。金貨は全然見えませんね。」

「上層では銅貨や銀貨しか出土しない。金貨が出るのは下の階層からだ。そんなことより…大気中の魔力濃度が低い。この辺り一帯の魔力を全て吸収しているようだな。」

 本来9大ダンジョンから発生する魔力でモンスターは自然生成される。だがその漏れ出している魔力を吸い取られているためモンスターすら発生できないのだ。なんという暴食ぶりだろうか。そしてもうしばらく近づいたところで全員立ち止まった。

 ミチナガもその気配に気がついた。恐怖だ。恐ろしき何かがこちらに威嚇している。その正体は未だ見えない。威嚇する理由はこんな人間では食ったところで腹の足しにはならないからという理由なのか、それとも…

「威嚇できるあたり自分のことをわきまえているらしいな。我々の実力をちゃんと理解している。我々と戦えばどうなるか理解できるのだろう?」

「全員動くな。初撃は俺がやる。」

 ナイトは腕に刻まれている圧縮封印魔法を解き放つ。だがいつものようにすぐに罠魔法を展開させるのではなく、そこにさらにいくつもの魔法陣を付け加えて行く。そんなナイトと同時に突如空にヒビが入った。

 そのひび割れは徐々に大きくなる。そして突如ひびの中から巨大な指が現れた。その指を見た瞬間、ミチナガでも瞬時に感じ取った。敵の強大さを。ミチナガが出会ったことのないレベルのモンスターだ。恐怖で呼吸が短く早くなる。そんな怪物が無理やり空間を広げ、頭を出してきた。

「展開せよ、集約せよ、整列せよ。一体となれ、そして発現せよ。」

 怪物が無防備に空間から出てきた瞬間を狙いナイトが魔法陣を発動させる。それは罠魔法ではない。大規模な多数の魔法陣を掛け合わせた大魔法だ。複数の魔法陣は一つにまとまり、高度で強大な魔法を繰り出す。

「核撃魔導…星の創世。」

 ナイトにより魔法陣の起動言語が発せられた。魔法陣は一つの小さな塊になり神々しく発光する。その光は周囲を眩く照らし、そして爆発した。周囲を飲み込む破壊の渦はすでに異空間から現れようとした怪物を飲み込んでいる。その威力はこちらまで及びそうだ。

 だがそこはナイトが効果範囲をきちんと定めている。こちらが爆発に飲み込まれることはない。だがそれでも爆風は襲ってくる。ミチナガは吹き飛ばされると覚悟したがそこは12英雄のマレリアが爆風からこの一帯を守ってくれた。

 あまりの眩さにミチナガは目が眩んだままだが、かすかに爆発による破壊の音も聞こえてきた。これなら確実にやれたのではないかと思うミチナガが、ふと横を見ると真っ直ぐに立っているヴァルドールの姿があった。

 ヴァルドールはお面をしているがお面の隙間から見える顔の筋肉がわずかに動いている。そしてヴァルドールが手を挙げるとそこには漆黒の球体があった。まるで全てを飲み込んでしまいそうなその球体にヴァルドールはいくつもの魔法を組み込む。

 やがてナイトの魔法が落ち着きを見せた頃、ヴァルドールの掌からその漆黒の球体が飛び出した。それは真っ直ぐにあの怪物へと向かって行く。そして先ほどまで怪物が見えていたあたりに到着するとヴァルドールから魔力が溢れ出す。

「顕現せよ。闇の訪れ。生も死をも喰らい全てを無に帰せ。闇魔導、暴食の闇」

 ヴァルドールにより魔法の起動言語が発せられた。あの漆黒の球体はナイトの魔法をも飲み込み、光すら捻じ曲げて吸収する。そこには漆黒の闇のみがあった。全てを飲み込む漆黒の闇は1分ほど周囲のありとあらゆるものを飲み込み、そして小さく収縮した。

「…あれやばい気がするんだけど……」

「む…申し訳ありません我が王よ。範囲を固定することを失念しておりました。」

「全員防御魔法展開!!」

 ヴァルドールの言葉に反応しアレクリアルが瞬時に全員に防御魔法を発動させる。幾重にも重ねられた防御魔法が完成した瞬間、小さく収縮した漆黒の球体は爆発した。

 爆発、というよりも正確には解放という言葉が正しいだろう。あの漆黒の球体はブラックホールだ。光も何もかもを吸い込む。そしてその吸い込まれたものは圧縮され、圧縮され、さらに圧縮される。そしてやがて圧縮にも限界が来た時、解放される。

 圧縮されすぎたものが解放され、光も物質も飛び出す。それがまるで爆発と同じ現象を起こすのだ。ただ、解放などという可愛らしい言葉ではない破壊の嵐が巻き起こる。幾重にも重ねられた防御魔法は次々に壊れて行く。

 やがて破壊の嵐が終わった時、そこには一枚の防御魔法による壁が残っていた。ギリギリのところであった。ただこの防御魔法はそう簡単に破壊できるものではない。なんせこれはアレクリアルが発動させた防御魔法だ。さすがにこの爆発の余波だけでは破壊されない。

 そして爆発の衝撃で尻餅をついていたミチナガが立ち上がるとその目の前には巨大なクレーターがあった。先ほどまであった遺跡群は見る影もない。ただこの破壊の後でも巨大のヨトゥンヘイムの入り口だけはそのまま残っていた。クレーターの中心に綺麗に山だけが残っている。

 そしてその傍らには周囲に瘴気を撒き散らす巨大な禍々しい塊があった。ミチナガはそれを見てやはりかと自身の予想の正しさを確信した。それは以前使い魔達から報告を受けた、冒険家たちが猫神の元へ命をかけて運んできたものと同じだ。

「やっぱりな。瘴気の塊、世界の生み出したエラー物質だ。」
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