スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第499話 右腕と左腕

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 薄暗い道。そこをミチナガとエヴォルヴ、そして十本指のドクが歩く。会話はなく足音とエヴォルヴの機械音だけが響く。あまりに不気味な時間だが、ミチナガは一切油断していない。

 この十本指のドクにずっと案内され、その後ろをついて行っているがこの先が罠になっている可能性は非常に高い。一瞬でも油断すれば死ぬ可能性がある。

 だがあまりにも淡々とした移動に耐えきれなくなったミチナガは口を開いた。

「ドク…と言ったな。名前からして毒使いか?」

「いえ、ドクターのドクです。医者の卵だったんですよ。まあこの世界では医者なんて必要ないですけどね。魔法の力で一発ですから。」

「そうか…まあ腕がなくなっても魔力で生えてくる世界だからな。…俺の知り合いでこの世界に来た歯医者もいるぞ。」

「歯医者ですか…その人も大変でしょうね。」

「まあ大変は大変だが、忙しいって意味の大変だな。冒険者ギルド専属の歯医者になって今じゃ毎日予約でいっぱいだ。儲かっているけど、使う暇がないほどでな。」

「そう…ですか……私は外科医志望だったんですが…歯医者ならこの世界でも受け入れられたのか…盲点でした……」

 会話が途切れ再び沈黙が訪れる。しかしミチナガには今の会話で不可解な点があった。このドクという男は外科医志望だという。しかしそれなのに今では十本指という殺人集団に入っている。医者になりたいのなら人を助けたいという気持ちがあるはずなのにその逆のことをしている。

 そしてその時、ミチナガは違和感を覚えた。そしてその違和感はどこか確信めいた。そしてミチナガはそれを口にした。

「お前…蘇った人間だな?」

「……気づきましたか。そうです、私はこの世界に数十年前に来たんです。そして…医者にもなれず、冒険者にもなれず、何もできずに死にました。」

「……医者志望ってことは頭も良いし優秀なんだろ?だったら…」

「うちは貧乏で…医学部に通うためのお金は全て自分で稼ぎました。バイトに勉強…体が持ちません。その時に…つい魔が差して……医薬品の一部を……それが結局バレまして退学になりました。考えてみれば医者の卵っていうのも嘘ですね。何にもなれなかった私がこの世界に来たところで…何者にもなれない。だから…十本指に誘われた時は嬉しかったんですよ。…私を必要としてくれたから。」

 以前クラウンが言っていた。能力を与えられた異世界人の多くは無念の元にこの世界に来ていると。ドクもそのパターンなのだ。ミチナガはそんなドクにかける言葉がなかった。

 再び沈黙が訪れる。だがその沈黙を次はドクが破った。

「ねぇミチナガさん。我々十本指は…一体何人の集団ですか?」

「ん?2人…じゃなかったか?お前とクラウンの二人組だろ?」

「…そうですね。だけどそれなら十本指っていう名前はおかしくないですか?手の指の数は十本。その指の一本一本に我々はいるんです。我々は10人の集団なんですよ。」

「へぇ~…そうなのか。じゃあ残りの奴らはどうしたんだ?」

「さぁ…どうしたんでしょうね。」

「仲間なんだろ?」

「ええ、仲間です。かけがえのない…仲間たちです……」

 悲しげな表情を浮かべるドク。その気持ちは今のミチナガにはまるでわからなかった。そして再び沈黙のままミチナガはドクに案内され、龍の国の王城へとたどり着いた。龍の国の王城は激しい戦闘があったのか半壊している。

 そんな半壊した王城をガレキをかき分けながら突き進む。一体どこを目指しているのか、もしやこのガレキの王城の玉座に座っているのかとも思った。しかしミチナガのその考えを否定するようにドクは玉座の間から離れ去っていく。

「どこに…いくんだ?」

「もう少しです。…ここですね。」

「ここ?ただの行き止まりだぞ?」

 ドクが案内した先は行き止まりの通路だ。もしや罠かと周囲を警戒するが、何かしてくる様子もない。するとドクは壁に触れると何かのスイッチを押した。すると地響きとともに地下へと続く通路が開く。

「これは…」

「龍の国の秘密の実験場です。ついて来てください。」

 ドクは何の迷いもなく進んでいく。ミチナガもそこについていくが不安で胸が締め付けられる気持ちだ。地下の実験場は英雄の国の研究所とは比べ物にならないほど金のかけられた設備が揃っている。

 その設備が何に使われているのかわからないミチナガであったが、その答えはすぐに出て来た。大量の培養液の中に浮かぶ人体やモンスターの一部、さらには胎児の姿も見られる。ここは法国にもあった人体実験場だ。

「酷いな……」

「自国民を用いて大規模な実験を日夜繰り返していたようです。竜人は普通の獣人や人間と比べても適応力や強度が違うそうですから。同様の実験をしていた法国よりも研究成果は進んでいたようですよ。ああ、今はすべての栄養供給をストップさせたので死んでいます。ただのホルマリン漬け…のようなものですね。」

「自国民を……ああ、前にいたな。アレルモレド…だったかな。龍の国の重鎮だったらしいが誰彼構わずやったようだな。女子供…老人に兵士……貴族階級まで…」

「そうですか……目的地はこの先です。ついて来てください。」

 再び歩を進めるドク。一体この先に何が待ち受けているのか。ミチナガはそれを知りたくもあったが、それと同じくらい知りたくもないと思っている。しかしそれでも歩を進めていくとやがてそこにたどり着いた。

 巨大な培養液。そこに一人の少女が浮かんでいた。そしてその培養液の傍らには、培養液内部の少女を見続ける一人の男の姿も。ミチナガには何が起きているのかわからなかった。しかしドクは少し待つようにいうと培養液の少女を見つめる男に近づき、何か能力を使っている。

 すると能力の講師を終えたドクは急に憔悴したのかその場で膝をついた。肩で息をするほど疲れ果てている。そして培養液の少女を見つめる男は口を開いた。

「やあ…初めましてだね。セキヤミチナガ。」

「初めまして……あんたは?」

「僕は…この十本指の…2人いる…トップの一人だよ…みんなからは右腕…観測者って呼ばれている…」

「観測者…2人のトップの一人か。それじゃあそこの子が…」

「ああ…僕たちのリーダー…左腕…ミサトアンリだ…」

 観測者は確かにそう言った。ついにミチナガは十本指のトップにしてこの騒動の中心人物、死神ミサトアンリに会うことができたのだ。ただしそれはミチナガの予想とは大きく異なっていたが。
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