518 / 572
第499話 右腕と左腕
しおりを挟む
薄暗い道。そこをミチナガとエヴォルヴ、そして十本指のドクが歩く。会話はなく足音とエヴォルヴの機械音だけが響く。あまりに不気味な時間だが、ミチナガは一切油断していない。
この十本指のドクにずっと案内され、その後ろをついて行っているがこの先が罠になっている可能性は非常に高い。一瞬でも油断すれば死ぬ可能性がある。
だがあまりにも淡々とした移動に耐えきれなくなったミチナガは口を開いた。
「ドク…と言ったな。名前からして毒使いか?」
「いえ、ドクターのドクです。医者の卵だったんですよ。まあこの世界では医者なんて必要ないですけどね。魔法の力で一発ですから。」
「そうか…まあ腕がなくなっても魔力で生えてくる世界だからな。…俺の知り合いでこの世界に来た歯医者もいるぞ。」
「歯医者ですか…その人も大変でしょうね。」
「まあ大変は大変だが、忙しいって意味の大変だな。冒険者ギルド専属の歯医者になって今じゃ毎日予約でいっぱいだ。儲かっているけど、使う暇がないほどでな。」
「そう…ですか……私は外科医志望だったんですが…歯医者ならこの世界でも受け入れられたのか…盲点でした……」
会話が途切れ再び沈黙が訪れる。しかしミチナガには今の会話で不可解な点があった。このドクという男は外科医志望だという。しかしそれなのに今では十本指という殺人集団に入っている。医者になりたいのなら人を助けたいという気持ちがあるはずなのにその逆のことをしている。
そしてその時、ミチナガは違和感を覚えた。そしてその違和感はどこか確信めいた。そしてミチナガはそれを口にした。
「お前…蘇った人間だな?」
「……気づきましたか。そうです、私はこの世界に数十年前に来たんです。そして…医者にもなれず、冒険者にもなれず、何もできずに死にました。」
「……医者志望ってことは頭も良いし優秀なんだろ?だったら…」
「うちは貧乏で…医学部に通うためのお金は全て自分で稼ぎました。バイトに勉強…体が持ちません。その時に…つい魔が差して……医薬品の一部を……それが結局バレまして退学になりました。考えてみれば医者の卵っていうのも嘘ですね。何にもなれなかった私がこの世界に来たところで…何者にもなれない。だから…十本指に誘われた時は嬉しかったんですよ。…私を必要としてくれたから。」
以前クラウンが言っていた。能力を与えられた異世界人の多くは無念の元にこの世界に来ていると。ドクもそのパターンなのだ。ミチナガはそんなドクにかける言葉がなかった。
再び沈黙が訪れる。だがその沈黙を次はドクが破った。
「ねぇミチナガさん。我々十本指は…一体何人の集団ですか?」
「ん?2人…じゃなかったか?お前とクラウンの二人組だろ?」
「…そうですね。だけどそれなら十本指っていう名前はおかしくないですか?手の指の数は十本。その指の一本一本に我々はいるんです。我々は10人の集団なんですよ。」
「へぇ~…そうなのか。じゃあ残りの奴らはどうしたんだ?」
「さぁ…どうしたんでしょうね。」
「仲間なんだろ?」
「ええ、仲間です。かけがえのない…仲間たちです……」
悲しげな表情を浮かべるドク。その気持ちは今のミチナガにはまるでわからなかった。そして再び沈黙のままミチナガはドクに案内され、龍の国の王城へとたどり着いた。龍の国の王城は激しい戦闘があったのか半壊している。
そんな半壊した王城をガレキをかき分けながら突き進む。一体どこを目指しているのか、もしやこのガレキの王城の玉座に座っているのかとも思った。しかしミチナガのその考えを否定するようにドクは玉座の間から離れ去っていく。
「どこに…いくんだ?」
「もう少しです。…ここですね。」
「ここ?ただの行き止まりだぞ?」
ドクが案内した先は行き止まりの通路だ。もしや罠かと周囲を警戒するが、何かしてくる様子もない。するとドクは壁に触れると何かのスイッチを押した。すると地響きとともに地下へと続く通路が開く。
「これは…」
「龍の国の秘密の実験場です。ついて来てください。」
ドクは何の迷いもなく進んでいく。ミチナガもそこについていくが不安で胸が締め付けられる気持ちだ。地下の実験場は英雄の国の研究所とは比べ物にならないほど金のかけられた設備が揃っている。
その設備が何に使われているのかわからないミチナガであったが、その答えはすぐに出て来た。大量の培養液の中に浮かぶ人体やモンスターの一部、さらには胎児の姿も見られる。ここは法国にもあった人体実験場だ。
「酷いな……」
「自国民を用いて大規模な実験を日夜繰り返していたようです。竜人は普通の獣人や人間と比べても適応力や強度が違うそうですから。同様の実験をしていた法国よりも研究成果は進んでいたようですよ。ああ、今はすべての栄養供給をストップさせたので死んでいます。ただのホルマリン漬け…のようなものですね。」
「自国民を……ああ、前にいたな。アレルモレド…だったかな。龍の国の重鎮だったらしいが誰彼構わずやったようだな。女子供…老人に兵士……貴族階級まで…」
「そうですか……目的地はこの先です。ついて来てください。」
再び歩を進めるドク。一体この先に何が待ち受けているのか。ミチナガはそれを知りたくもあったが、それと同じくらい知りたくもないと思っている。しかしそれでも歩を進めていくとやがてそこにたどり着いた。
巨大な培養液。そこに一人の少女が浮かんでいた。そしてその培養液の傍らには、培養液内部の少女を見続ける一人の男の姿も。ミチナガには何が起きているのかわからなかった。しかしドクは少し待つようにいうと培養液の少女を見つめる男に近づき、何か能力を使っている。
すると能力の講師を終えたドクは急に憔悴したのかその場で膝をついた。肩で息をするほど疲れ果てている。そして培養液の少女を見つめる男は口を開いた。
「やあ…初めましてだね。セキヤミチナガ。」
「初めまして……あんたは?」
「僕は…この十本指の…2人いる…トップの一人だよ…みんなからは右腕…観測者って呼ばれている…」
「観測者…2人のトップの一人か。それじゃあそこの子が…」
「ああ…僕たちのリーダー…左腕…ミサトアンリだ…」
観測者は確かにそう言った。ついにミチナガは十本指のトップにしてこの騒動の中心人物、死神ミサトアンリに会うことができたのだ。ただしそれはミチナガの予想とは大きく異なっていたが。
この十本指のドクにずっと案内され、その後ろをついて行っているがこの先が罠になっている可能性は非常に高い。一瞬でも油断すれば死ぬ可能性がある。
だがあまりにも淡々とした移動に耐えきれなくなったミチナガは口を開いた。
「ドク…と言ったな。名前からして毒使いか?」
「いえ、ドクターのドクです。医者の卵だったんですよ。まあこの世界では医者なんて必要ないですけどね。魔法の力で一発ですから。」
「そうか…まあ腕がなくなっても魔力で生えてくる世界だからな。…俺の知り合いでこの世界に来た歯医者もいるぞ。」
「歯医者ですか…その人も大変でしょうね。」
「まあ大変は大変だが、忙しいって意味の大変だな。冒険者ギルド専属の歯医者になって今じゃ毎日予約でいっぱいだ。儲かっているけど、使う暇がないほどでな。」
「そう…ですか……私は外科医志望だったんですが…歯医者ならこの世界でも受け入れられたのか…盲点でした……」
会話が途切れ再び沈黙が訪れる。しかしミチナガには今の会話で不可解な点があった。このドクという男は外科医志望だという。しかしそれなのに今では十本指という殺人集団に入っている。医者になりたいのなら人を助けたいという気持ちがあるはずなのにその逆のことをしている。
そしてその時、ミチナガは違和感を覚えた。そしてその違和感はどこか確信めいた。そしてミチナガはそれを口にした。
「お前…蘇った人間だな?」
「……気づきましたか。そうです、私はこの世界に数十年前に来たんです。そして…医者にもなれず、冒険者にもなれず、何もできずに死にました。」
「……医者志望ってことは頭も良いし優秀なんだろ?だったら…」
「うちは貧乏で…医学部に通うためのお金は全て自分で稼ぎました。バイトに勉強…体が持ちません。その時に…つい魔が差して……医薬品の一部を……それが結局バレまして退学になりました。考えてみれば医者の卵っていうのも嘘ですね。何にもなれなかった私がこの世界に来たところで…何者にもなれない。だから…十本指に誘われた時は嬉しかったんですよ。…私を必要としてくれたから。」
以前クラウンが言っていた。能力を与えられた異世界人の多くは無念の元にこの世界に来ていると。ドクもそのパターンなのだ。ミチナガはそんなドクにかける言葉がなかった。
再び沈黙が訪れる。だがその沈黙を次はドクが破った。
「ねぇミチナガさん。我々十本指は…一体何人の集団ですか?」
「ん?2人…じゃなかったか?お前とクラウンの二人組だろ?」
「…そうですね。だけどそれなら十本指っていう名前はおかしくないですか?手の指の数は十本。その指の一本一本に我々はいるんです。我々は10人の集団なんですよ。」
「へぇ~…そうなのか。じゃあ残りの奴らはどうしたんだ?」
「さぁ…どうしたんでしょうね。」
「仲間なんだろ?」
「ええ、仲間です。かけがえのない…仲間たちです……」
悲しげな表情を浮かべるドク。その気持ちは今のミチナガにはまるでわからなかった。そして再び沈黙のままミチナガはドクに案内され、龍の国の王城へとたどり着いた。龍の国の王城は激しい戦闘があったのか半壊している。
そんな半壊した王城をガレキをかき分けながら突き進む。一体どこを目指しているのか、もしやこのガレキの王城の玉座に座っているのかとも思った。しかしミチナガのその考えを否定するようにドクは玉座の間から離れ去っていく。
「どこに…いくんだ?」
「もう少しです。…ここですね。」
「ここ?ただの行き止まりだぞ?」
ドクが案内した先は行き止まりの通路だ。もしや罠かと周囲を警戒するが、何かしてくる様子もない。するとドクは壁に触れると何かのスイッチを押した。すると地響きとともに地下へと続く通路が開く。
「これは…」
「龍の国の秘密の実験場です。ついて来てください。」
ドクは何の迷いもなく進んでいく。ミチナガもそこについていくが不安で胸が締め付けられる気持ちだ。地下の実験場は英雄の国の研究所とは比べ物にならないほど金のかけられた設備が揃っている。
その設備が何に使われているのかわからないミチナガであったが、その答えはすぐに出て来た。大量の培養液の中に浮かぶ人体やモンスターの一部、さらには胎児の姿も見られる。ここは法国にもあった人体実験場だ。
「酷いな……」
「自国民を用いて大規模な実験を日夜繰り返していたようです。竜人は普通の獣人や人間と比べても適応力や強度が違うそうですから。同様の実験をしていた法国よりも研究成果は進んでいたようですよ。ああ、今はすべての栄養供給をストップさせたので死んでいます。ただのホルマリン漬け…のようなものですね。」
「自国民を……ああ、前にいたな。アレルモレド…だったかな。龍の国の重鎮だったらしいが誰彼構わずやったようだな。女子供…老人に兵士……貴族階級まで…」
「そうですか……目的地はこの先です。ついて来てください。」
再び歩を進めるドク。一体この先に何が待ち受けているのか。ミチナガはそれを知りたくもあったが、それと同じくらい知りたくもないと思っている。しかしそれでも歩を進めていくとやがてそこにたどり着いた。
巨大な培養液。そこに一人の少女が浮かんでいた。そしてその培養液の傍らには、培養液内部の少女を見続ける一人の男の姿も。ミチナガには何が起きているのかわからなかった。しかしドクは少し待つようにいうと培養液の少女を見つめる男に近づき、何か能力を使っている。
すると能力の講師を終えたドクは急に憔悴したのかその場で膝をついた。肩で息をするほど疲れ果てている。そして培養液の少女を見つめる男は口を開いた。
「やあ…初めましてだね。セキヤミチナガ。」
「初めまして……あんたは?」
「僕は…この十本指の…2人いる…トップの一人だよ…みんなからは右腕…観測者って呼ばれている…」
「観測者…2人のトップの一人か。それじゃあそこの子が…」
「ああ…僕たちのリーダー…左腕…ミサトアンリだ…」
観測者は確かにそう言った。ついにミチナガは十本指のトップにしてこの騒動の中心人物、死神ミサトアンリに会うことができたのだ。ただしそれはミチナガの予想とは大きく異なっていたが。
5
あなたにおすすめの小説
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる